大好きなシンジ

優しくて少し強い彼には、親友が二人
人は良いけど趣味に少し難がある眼鏡と、硬派を気取る黒ジャージ

二人とも、アタシに負けず劣らずアイツのことを気遣ってくれる本当の親友で
アタシの良き友人達でもある

だけど・・・

どこか変わってるのよね、あいつら





恋人たち ver.4
つまらないものですが after


作者:でらさん


「ほう・・・
タキシードが決め手やったんか」


「そうじゃないよ。
そんな形式なんか関係なくて、僕の気持ちをストレートに」


「やめろよ、シンジ。
トウジは聞いてないぜ」


いつもと変わらない第壱中3−Aの朝。
その喧噪の中で、三人の少年達も窓際に立ち雑談に興じている。

前夜、自分達が帰った後の首尾をシンジに根掘り葉掘り問いつめる親友二人。
特にトウジが熱心で、何やらメモまで・・
シンジには訳が分からないが、ケンスケには何か分かった様子。
トウジを見るその目は、呆れたような憐れむような・・複雑な顔だが。


「どうしたんだよ、トウジは」


「クリスマスのパーティで、お前のやった演出をトウジがやろうとしてるんだよ。
今年は、洞木の家族と合同でパーティ開くらしいからな」


「は?洞木さんとは、もう付き合ってるじゃないか」


「お前達と同じさ。
本番が終わった後、二人でしっぽりと・・って、やつだろ?」


「しっぽりなんて・・
言い方が嫌らしいよ、ケンスケ」


「否定出来るのか?」


メモに向かって何やら唸るトウジを蚊帳の外に置くケンスケは、ヒカリやその他数名の女子を交えて談笑
しているアスカの方へ視線を向けると、今度はシンジに向かい片方の頬だけを微妙に歪ませた。
まるで、父のようだ。

そんなケンスケを前に、シンジは平静を保とうとする。
・・が、うまくいかない。何か後ろめたいことでもあるように、ケンスケから視線を逸らしてしまう。

そして視線を逸らせた先が、偶然にもアスカの座る席の方向。
偶然とは恐ろしい物で、アスカの顔も丁度こちらを向いた時だった。
交錯する視線、絡みつくような空気が二人の間に流れる。
更に次の瞬間・・

ふと、二人は微笑みを交わした。


「あ〜、暑い暑い。
ただでさえ暑いのに、朝から見せつけないで、アスカ」


「へ?い、いや、別にアタシ達は」


その様子は、アスカを取り巻く女子達にもしっかり見られていたようで、ヒカリが手で顔を仰ぐ仕草まで
してアスカをからかう。
他の女の子達も、ニヤニヤ。


「幸せ一杯って感じね。
その様子じゃ、キスくらいしたんでしょ?」


「・・・いいじゃない、キスくらい」


「やっぱりね。それでなきゃ、あの甘い雰囲気は出ないわ!」


「あ、甘い雰囲気って・・ヒカリこそ、鈴原とキスなんかとっくよね!?」


「うっ、・・・ノーコメント」


アスカとヒカリの漫才のようなやり取りを見るシンジの顔から、微笑みが消えない。
それは、先ほどアスカと交わした微笑みとは少々違う。
そんなシンジを見たら、ケンスケはからかう気も無くしてしまった。


「ま、深く追求したいのは山々だけど、野暮な事はやめとくよ」


「はは、そうしてくれると有り難いね。
まだ照れくさくて」


「堂々と手繋いだり、ほとんど公認だったのに今更照れるなんて、おかしな奴らだな」


3−Aでは、もうかなり以前からアスカとシンジの関係は確定したものと受け取られており、付き合いを
公表したからといって驚く人間はまずいない。
手を繋いで歩くのは普通の光景であったし、二人がデートしている姿を目撃されたのは一度や二度ではない。
もっとも、アスカはともかくシンジにその自覚は全くなかったが。

その自覚の無さが、アスカを狙う男子生徒達の希望を繋いでいたのは事実。
しかし、そんな希望も絶たれた。


「色々あったからさ、僕達は。
それより・・トウジ、まだやってるよ」


「放っておけばいいさ。あいつには、あいつの世界があるんだから」


「硬派じゃなかったのかよ・・」


自分で採ったメモを睨み何やら考え込むトウジに、すでに硬派の面影はない。
以前も自称していただけで、実際にはどうかと聞かれれば、多少強面な外見をしているだけとも言える。
これが、本当の彼なのかもしれない。


「タキシードは借りればええんやが、問題は指輪や。
ワイの小遣いで買える範囲となると、ろくなもん買えへんわ。中学生はバイトできんしな・・・
そや!お年玉の前借りや!
こうなりゃ、恥も何もあったもんやないわい!ヒカリのためや!」




一人盛り上がるトウジに、クラスメート達は無関心だった。






クリスマスイブ・・


洞木家は、高校生のコダマを長女とする三人姉妹と父親の四人家族。
家事はもっぱら次女であるヒカリが担当し、年長のコダマは大学受験に向けて勉学に励んでいる・・・
と言えば聞こえはいいが、コダマの勉強している姿など、ヒカリはほとんど見たことがない。
それでも学年上位の成績を常にキープしている姉は、ヒカリにとって謎の人物だ。

友人は多くて、男女関係無しに好かれる人間のようだ。一年以上前、アスカとのデートの仲介を頼んできた男もそんな一人。
面倒見がいいのは、洞木家の血筋らしい。
面倒見が良すぎて、コダマ自身に彼の出来ないのが笑える所でもある。
姉より一歩先に彼ができ、しかも両家家族合同のクリスマスパーティを開くまで関係の深まったヒカリは
一応、そんな姉に気を遣っているつもりだ。

し・か・し・・


「お姉ちゃん、そんなに濃いお化粧して、どっか行くの?」


もう少しで鈴原家一行が訪れるというのに、コダマは準備も手伝わず自室で慣れない化粧にいそしんでいる。
流石にカチンときたヒカリは、イヤミも込めて姉に聞いた。
彼のいないコダマがクリスマスイブに出かけるなど、まずあり得ない。


「今日はクリスマスイブなのよ。
いつ、誰から誘いが来るか分からないじゃない。
だから、誘いの電話が来たら、すぐ出かけられるように準備してるの」


「・・・つまり、誘いはなかったのね。今の今まで」


「し、失礼ね。まだ分からないわ。
直前にふられた奴とか、彼女のいない奴とか・・男は余ってるんだから、一人くらい私を誘うわよ!」


希望に縋る姉の悲しい行為に、ヒカリの怒りはたちたち消えていった。
妹のヒカリから見ても姉はそこそこの美人だし、スタイルもいい線いっている。
その姉に彼がいないのは姉のせいではなく、間が悪いだけなのだと思う。


「虚しい希望は捨てて、今日はパーティを楽しんだら?
お姉ちゃんがいないと、お父さんも機嫌悪くなるしさ」


「お父さんが?」


「そうよ。
娘を一人取られたって・・もう私を嫁に出したような気でいるんだもの。
こんな時にお姉ちゃんまで出かけたら、何言い出すか分からないわ」


「なんだ、結局ヒカリの都合じゃない。
でもいいわ。たまには、家族団らんもいいものだしね。
あんたの彼氏とは、じっくり話した事もないし・・って、
電話だわ!


話の途中だが、コダマは慌ててスカートのポケットから携帯を取り出してディスプレイの表示を確認する。
ディスプレイに浮かんだ番号が誰の物か、ヒカリに分かるわけがない。
しかし、それが姉にとって吉報である事は疑いのない所だった。

なぜなら・・
コダマの顔は、化粧が剥がれ落ちんばかりに破顔していたのだから。


「なんだ、鈴木か♪」


台詞は素っ気ないが、言葉の端に嬉しさが滲み出ている。
ヒカリは、その鈴木なる人物に興味が沸き、背を向けて通話する姉の背後に気配を殺して近づき耳を澄まして
携帯から漏れ聞こえる声を盗み聞きする。


「ど、どうしたのよ、突然電話なんか寄こして」


<おう、コダマか!
彼女のいない野郎ばっか集まって騒いでんだけどよ、お前も来ないか?
どうせ男もいなくて家に籠もってんだろ?
みんなで憂さ晴らそうぜ!>


「・・・それだけ?」


<他に何があんだよ。
まあいいや、俺の家わかるだろ?
食うもん無くなったから、こっち来るときにコンビニ寄って>


コダマが携帯を切ると同時に、ヒカリは姉の背後から身を引く。

聞いてはいけない会話だった。
あまりに不憫な姉・・


「か、可哀想な奴よね、こんな日に勉強だってさ。
分からないところを教えてくれだって」


(可哀想なのは、お姉ちゃん・・あなたよ)
「そ、そう・・
もういいんでしょ?なら、リビングに行こう。
そろそろ、トウジ達が来るわ」


「うん」




振り返った姉の頬に伝う黒い雫。
それは、化粧を溶かしながら流れ落ちる涙・・

それが、あまりに悲しかった。





葛城宅・・


派手な飾り付けもなく、特別な料理もない。
いつもと同じような夕食に、いつもと同じような二人の恰好。

ただ違うことは、二人が今座っている場所。
普段食事するダイニングではなく、灯りの落とされたリビング。

テーブルには、白いテーブルクロス。
その上では、様々な色、様々な形をした蝋燭達が、頼りなくも幻想的な炎を揺らしている。
揺らめく灯りに照らされるお互いの顔は艶を放ち、艶めかしい。


「あの鈴原が、変われば変わるものね。
彼女の顔を窺うなんて」


「トウジも男だったって事じゃない?
僕に言わせて貰えば、不思議でも何でもないよ」


「そんなもん?」


「そんなもんだよ」


今日は、ミサトも帰らない二人きりの夜。
二人きりなど最近は珍しくなくなったが、それでも二人の気分はどこか浮ついている。
クリスマスイブ特有の空気にあてられたかのようだ。


「じゃあ・・シンジは、どうアタシの機嫌を取ってくれるの?」


アスカは蝋燭を脇に押しのけると、テーブルに身を乗り出してシンジに迫る。
シンジには、ノーブラのタンクトップの隙間から豊かに成長しつつある彼女の胸がほとんど見える。
アスカにもそんな事など分かっているが気にしないし、シンジもそれくらいでは反応しない。
それくらいで反応するほど、彼も子供ではないということだ。


「プレゼントは、喜んでくれたじゃないか。
指輪でほとんどお金使っちゃったから、大した物じゃないけど」


「アレはアレで嬉しいわよ。シンジの気持ちだって感じるし。
でも、もう一声欲しいのよね」


「ヒ、ヒントは?」


「な・し。
自分で考えて」


シンジは暫し逡巡した後、身を乗り出したアスカに自分から接近し、その肩に両手を置いた。
そして少し引き寄せると、そっとキスを交わす。


「どうかな?これで」


「・・・もう一声」


「蝋燭、消そうか・・誰かさんが暴れて倒すといけないから」


「暴れさせてみれば?」


「言ったな」




蝋燭の灯りは消え、二人が暗闇に沈んでいく。






「何のつもりだね?君は」


鈴原家一行三人を玄関で出迎えたヒカリの父が発した第一声がこれ。

父親と妹さえ一歩引いているトウジは、タキシードを着用。
しかも、手には花束まで。
ヒカリの父が怪訝な顔をするのも無理はない。
いくらか涼しくなったとはいえ、まだ夏の陽気である。見ているだけで暑苦しい。

トウジとしても、当初はヒカリの家で着替える予定だった。
家族同士でほどほど騒いだ後ヒカリと二人きりになり、そこでムードある時間を過ごそうと思ったのだ。
しかしよく考えてみると、パーティが終わったら自分は父や妹と帰らなくてはならない。自分だけ残るわけにはいかない。
洞木家に泊まるという手段もあるが、当然それは絶対に許されないだろう。
シンジが使ったシチュエーションは、あくまで同居という条件があっての事。

トウジがその問題に気づいたのは、なんと昨日。
それでも、せっかく借りたタキシードが勿体ないと、恥ずかしいからやめてくれという家族の反対も押し切ったのである。


「いえ、その・・
ヒカリはん、いえ、ヒカリさんの父君に正式な挨拶をするために礼儀を尽くそうと考えまして」


「済みません、洞木さん。
この馬鹿、程度ってものを知らなくて」


ヒカリの父が機嫌を悪くしたと見るや、すかさずトウジの父がフォローに廻る。
更には、妹のヒロミまでもが・・


「申し訳ありません。
兄の非常識には、私達も困ってるんです」


「おとんもヒロミも、そこまで言わんでも」


「どうしたの?お父さん。
鈴原さん達、来たんでしょ?早く上がってもらいなさいよ」


真面目なヒカリの父はどう対応いいか分からず、ただ顔をしかめるばかり。
そんな所へコダマが・・。玄関の様子がおかしいので、様子を見に来たのだ。
ヒカリとノゾミは、インターホンが鳴った時点から飲み物の準備に入っている。


「鈴原君、久しぶり。
今日は、おめかししてるのね。意外と似合うじゃない」


「コ、コダマさん、ありがとうございます!
これを!」


「あら、私に?ヒカリに悪いわ」


「ヒカリ・・さんへのプレゼントは、別に用意しておりますので」


コダマが突破口と直感したトウジは、手にした花束をコダマに差し出す。

心ない友人の仕打ちに傷ついていたコダマは、そんな行為に弱くなっていた。
トウジの差し出した花束が無性に嬉しく思える。
コダマは花束を受け取ると、花の香りを楽しむように花へ顔を埋めた。


「こんな気の利く彼がいるなんて、ヒカリが羨ましいわ。
さ、上がって。
お父さんもぼさっとしてないで、鈴原さん達を案内してあげて」


「そ、そうだな。鈴原さん、どうぞこちらへ」


「お邪魔します」


「お邪魔しま〜す!」


とりあえずの危機は乗り切ったトウジ。
しかしこの後、更なる危機が彼を襲った。

それは・・・




「指輪?・・・娘を欲しいと言う事か?
そうなんだな!?」


「へ?これは、単なるプレゼント」


「男が女に指輪を贈るという事は、結婚を申し込むという事だ!違うか!?」


「そないに大袈裟に考えんでも・・」


「大袈裟とは何だ、大袈裟とは!まだ認めんぞ〜〜〜!」


「お父さん!いい加減にして!」


「お前もお前だ、ヒカリ!こんな馬鹿にたぶらかされおって!」


「鈴原君を馬鹿呼ばわりしないで!
お父さんの方がよっぽど馬鹿だわ。指輪贈ったくらいが何よ」


「コ、コダマ、お前まで・・・
貴様、コダマに何をした!」


「お、お父さん、落ち着いて」


「貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはな〜い!!」




思慮の浅さから、しっぽりどころか修羅場を招いたトウジであった。

でらさんからトウジとヒカリのお話をいただきました。

トウジ、そもそも硬派ではなかったのでしょうな。女の写真を売って小遣い稼ぎするようなヤツはとても硬派とは言い得ない気がします。良くて悪餓鬼、悪くするとケンスケの同類(爆)

それはともかくトウジとヒカリの話なのですがコダマ成分も含まれていますね。

でらさんは本編でコダマが級友をアスカに紹介しようとしたことに恨みでもあるのでしょうか(笑)あまり男に恵まれていませんね?
(恵まれないコダマに愛の手を)

相手が悪かったとも言えますが、トウジとヒカリの今後も是非応援してあげたいような終り方がナイスでした(笑)

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