馬鹿な、あのリッちゃんが。
何故だ。何故、私から幸せが逃げていく。私が、何をしたというのか。
・・・いや、そうだ、レイがいるではないか!
セカンドと違って私に優しいし、ユイにそっくりだしな。
よし!レイに賭けるぞ!
「失礼しました、司令。
少々、酔ったようです。私は、これで」
負けるものか。
私は、負けない。これしきのことで人生を諦めるなど、ただの敗北者だ。
とにかくレイを探そう。レイを探して、それから、
「父さん」
「こんにちは、お義父さま」
シンジ・・・
と、セカンドではなくてアスカ君か。
ええい、私は忙しいのだ。話をするなら簡潔に頼むぞ、シンジ。
「ああ、アスカ君、シンジがいつも世話になっている。
これからも、愚息を頼むよ」
「挨拶はいいから、ちょっと聞いて欲しいんだ、父さん。
アスカのご両親が、近々来日するんだけど」
「おお、そうか。
失礼のないようにするんだぞ、シンジ。何事も、最初が肝腎だからな」
「他人事のように言わないでよ。
父さんにも会ってもらうんだから」
もはや父でもない私が会ってどうする。ユイとだけ会えばいいだろう。
今の私には、そんなことよりレイの方が大事だ。こんな機会は、そうそうない。パーティで浮
かれている女の心につけいるのは、容易いのだぞ!男なら、そのくらい理解しろ、シンジ!
「こんな私と会って、アスカ君のご両親に変な誤解を与えてもいかん。
私は、遠慮しておこう」
「そんなこと言わないでさ。
ホントのこと言うと、まだ父さんにわだかまりはあるけど、僕の父さんには違いないわけだし」
「そうですよ。
ドイツじゃ、離婚なんて珍しくもありませんし。パパとママにも事情は話してありますから」
意外に優しい娘だったのだな、アスカ君は。彼女への見方を変えなければならんか。
まあ、会うくらいならいいか。それに、私にはやることがある。適当に返事をしてこの場を去
るとしよう。
「分かった。詳しい日時と場所は、後で連絡してくれ。
じゃ、私は用があるから、これで」
シンジとアスカ君は、実に幸せそうだった。
私とユイにも、あんな時代があったのだと思い起こさせてくれる。
どこから私の人生は狂ってしまったのだろうか。
ナオコ君との浮気か?
もっと前、ユイとの出会いが私を狂わせたのか。
いや、それよりもずっと前、生まれたときから私はどこかが壊れていたと思う。
自分が壊れているから、世界そのものも壊したい。
そんな衝動が、私を突き動かしていたのかもしれない。
ふっ、今となっては、どうでもいいことだ。
レイ。
今の私が真に愛せるのは、君だけだ。
私の愛を、受け容れて欲しい。
おまけ
「!」
「どうしたの?レイ」
「いや、ちょっと、寒気がしたのよね。
身の危険が迫ってるみたいな感じがするの」
「碇君としっぽり過ごしてるアスカが羨ましくて、ブルーになってるだけよ。そんなときは、
歌うに限るわ。
彼のいない女ばかり集まって憂さ晴らしてんだから、パーっと弾けなきゃ」
「それもそうね。
よし!今日は、レイちゃんの独演会よ!
みんな、心して聴きなさい!」
「あ、あのね、レイ」
カラオケボックスでのレイの独演会は夜通し続き、付き合った友人達は疲労困憊したというこ
とだ。
パーティ会場でレイを探し続けたゲンドウは、当然のことながら彼女を見つけることはなく、
失意の内に会場を去っている。
ゲンドウはこの数年後、職場で知り合った女性と再婚。レイへの想いは断ちがたかったようで
はあるが、特に問題を起こすこともなく、再婚した女性と幸せに暮らしている。
ユイとの確執は一生続いたものの晩年には笑い話となり、それは子孫達に引き継がれ、碇家と
六分儀家に後世まで伝わる逸話になったという。
でらさんから素敵なお話をいただきました。
面白いお話ですね。ゲンドウとか‥ぜひ、読後はでらさんへの感想メールをお願いします。