Irregular ver.3 後編

作者:でらさん
















ゲンドウから子供達の問題は解決したと連絡を受けたキョウコは年甲斐もなく心を弾ませ、出張先の研究所を後にし、
ネルフに戻った。

四十をとっくに過ぎ、高校生にもなる子供がいても、新婚気分というものは捨てがたい。
前夫を事故で亡くした時、夫に対する想いから、再び結婚するなどとは思いも寄らなかった。
それはゲンドウも同じ・・いや、彼の方がショックは大きかったか。ゲンドウは、ショックのあまり葬儀が終わった直後に
倒れ、入院してしまったから。
あの頃の彼には、ユイの後を追って自殺でもしかねない雰囲気さえあった。
そんなゲンドウを励まし、叱咤したのは、古い馴染みであったナオコとゲンドウの息子シンジ・・そしてキョウコだった。

キョウコは意外なまでの動揺を見せるゲンドウを気遣う事で、夫の死から目を逸らそうとしていたのかもしれない。
その時は、それ以上の感情などなかったと思う。彼は学生時代からの友人で、親友の夫。そして、十年以上も付き合う
隣人。
事実、ゲンドウを見舞った時は、病室にはいつもナオコがいた。ゲンドウが再婚するとしたら相手はナオコに違いないと、
キョウコは確信していた。過去、二人の間には、それなりの関係もあった事だし・・・

が、時間の経過と共に状況も変わり、ゲンドウと結婚したのはキョウコ自身。
ゲンドウに対する想いを自覚した時から、キョウコは周りからの雑音に耳を塞いで突っ走った。娘の抗議さえ無視して。
その結果、結婚という形で幸せを手に入れたキョウコではあるが、アスカとの冷戦という代償を支払うハメになってしま
った。
正式に結婚出来なくても実質的な関係に問題はないのだから、アスカもいずれ折れると楽観した自分は甘かったようだ。
娘の相方、シンジの強硬姿勢も計算外。幼い頃から大人しい少年で、穏やかを絵に描いたようなシンジが、あそこまで
反抗するとは思いも寄らなかった。


「でも、それも解決したのよね。
気兼ねなく新婚生活を愉しめるわ」


だだっ広いネルフの中央廊下を歩くキョウコは、思わず口から出た独り言にはっとし、暫し立ち止まって周りを窺う。
が、自分の他には誰もいない。恥ずかしい独り言を聞かれなかった事に安堵する。
そして安心したキョウコは、再び足を動かす。目的地は所長室・・帰任の挨拶をしなければならない。
とはいえそれは口実で、ゲンドウと一刻も早く顔を合わせたいだけ。
出張から帰った今日は出勤の必要など無く、挨拶など明日でもいいのだから。

と、向かいから事務系らしい若い女性職員が二人、姦しくお喋りしながら歩いてくる。
自分達の世界に入っている彼女達は、キョウコの存在に気づいていないようだ。


「え〜!?それ、本当なの!?」


「嘘じゃないったら。保安部の彼から聞いたんだから間違いないわよ、所長がナオコ博士の家にお泊まりしたって話。
昔も色々あったらしいのよね、所長とナオコ博士の間にはさ」


何かと思えば、埒もないゲンドウとナオコの噂話。事情を知らない人間なら、スキャンダラスな事実に思えるだろう。
しかしゲンドウとナオコ双方から事情説明を受けているキョウコにしてみれば、的外れな噂話でしかない。
もっとも、説明を受けなくても、彼ら二人に対する信用は揺らぎもしないと自負できる。
キョウコは姦しい女性職員達を余裕でやり過ごし、所長室への歩みを早めようとした・・・が、


「でも所長って、惣流博士と再婚されたばかりでしょ?すぐに浮気なんかする?」


「それがさ、所長は無類の女好きなんだって。
秘書とかにも手を付けてるし、美形で有名な、惣流博士の娘さんも狙ってるって噂よ。
惣流博士と結婚したのは、実はその娘さんが目当てだったなんて噂もあるわ」


「あの強面の所長がね・・
ちょっと、信じられないけど」


「人は見かけに寄らないって事よ。
わたしも所長を尊敬してたんだけど、それ聞いて幻滅しちゃった」


遠ざかっていく彼女達の声を余所に、キョウコの心には少々の小波が立ち始めていた。
ゲンドウ担当の秘書は美形で知られていて、ショートにした髪の毛と吊り目気味の目・・そしてグラマラスなボディが男性
職員達の興味を惹きつけている。
歳は20代後半、まだ独身で、今は付き合っている男性もいないと聞いていた。
秘書ならば接触する時間は多いし、ゲンドウも男だ。若く綺麗な女性に興味を持つのは必然。金と権力に物を言わせて
口説くのも、不可能ではない。

更にキョウコを動揺させたのが、アスカに関する話。
娘は親から見ても尋常でないほど美しく、高校生とは思えない官能的な体を持っている。大概の男は、彼女を抱きたいと
考えるだろう。
ましてやゲンドウは、共に暮らしている。何かの拍子で魔が差さないとも限らない。


「・・・バカバカしい」


女性職員達の噂話を頭から否定するキョウコだが、心の隅に、ごく僅かな疑念がこびり付いていた。






時折ミサトから聞くネルフ内部の動きに、アスカは自分の思惑通りの展開を見て、内心喝采を上げていた。
ゲンドウに関する噂話は瞬く間に広がり、今では尾ひれも付いて、ゲンドウが無類の女好きで在ることは既にデフォルトと
なりつつある。

ただ単にナオコとの一件だけなら、キョウコはゲンドウに疑いを持つことはないと思う。
三人は昔からの馴染みだし、ゲンドウとキョウコは常に連絡を取り合っているだろう。ゲンドウはナオコの家に泊まった事情
も説明し、ナオコからもキョウコに電話したかもしれない。
周囲がどう色眼鏡で見ようとも、キョウコのゲンドウに対する信頼は揺るがなかったはずだ。
しかし、そこに変な噂話が挟まれば、さすがのキョウコも平静を保つのは難しいに違いない。特に美形秘書の存在は、キョウ
コの警戒心を煽るに充分だ。
そして、その警戒心が増幅された時期を見計らって罠を仕掛ける。ゲンドウとキョウコの間に楔を打ち込む罠を。


「というわけで、アンタに協力してもらうわ」


中途半端な時間とあって、客もまばらなファミレスの店内・・
アスカの向かいに座る吊り目気味の少女は、暫くキョトンとした後、顔をしかめて言葉を発した。


「・・・わたしに何をしろって言うの?
ま、まさか、叔父さんと」


アスカとは違う制服を着るこの少女は、綾波レイ。
短く、無造作に切ったような薄茶色の髪の毛とスレンダーな体が魅力的な美少女。アスカとも10年来の知己。
そして、シンジの従妹でもあるのだ。
中学までは一緒だったのだが、レイは母の母校である私立の女子校へ進学し、会う機会もとんと少なくなってしまった。
今日はアスカの急な呼び出しで会うことになったが、前もって予想していた通り、ろくな話ではない。こういう勘は、なぜか当たる。
いくら事情が事情とはいえ、策略を持って、再婚したばかりの親を離婚させようなどとは・・・


「本当なら、そうしてもらいたいくらいだけど・・
アンタの恋人にも悪いし、アタシも一緒にいなくちゃいけないから、そういった状況に持ち込むだけにするわ」


「似たようなものじゃない。
昔から苦手なのよね、叔父さんて。お母さんも苦手だって言ってるわ」


「アンタのお母さんて、ユイさんの妹でしょ?」


「姉妹でも、性格は全然違うわ。
叔母様が結婚するときも、最後まで反対したみたいよ。”何であんな人と結婚したのか理解できない”って、いつも言ってたもん。
流石に最近は言わなくなったけど」


「まあ、それはアタシも同意見ね」


愛するシンジの父親といっても、アスカのゲンドウに対する認識というのは、その程度。
ゲンドウの昔の写真も観た事はあるが、シンジとは比べようもない。シンジがあのようになることは無いだろう。
その点は、シンジを産んだユイに感謝したい。


「でもさ、何でわたしまで巻き込むの?
叔父さんを罠にかけるなら、アスカだけで充分だと思うけどな」


「アンタは、ユイさんと生き写しじゃない。それが強力な説得力を持つのよ。
それに、アタシがおじ様に体を触られたとかレイプされたとか言っても、ママは信用しないわ。アタシの嘘なんて、軽く見破るんだ
から。
だけどアンタなら・・」


「姪っ子に亡き妻の面影を重ねた男が、ムラムラして思わず襲ってしまう・・って、筋書き?」


「大当たり。アタシは、その現場を見て、更に証拠を押さえるの。
これなら、ママも愛想尽かすに違いないわ」


「巧くいくと思う?」


「アンタなら、巧くやれるわ。
彼女との間を取り持ってあげた恩、忘れたとは言わさないわよ」


常識外れとも言えるアスカの要望をレイが断れない理由がこれ。
同性を好きになってしまったレイが、その気持ちをどうしようもなくなりアスカに相談したところ、アスカは持ち前の行動力を発揮・・
見事、レイの想いを成就させたのである。
それが、約一年ほど前の事。
以来、レイはアスカに頭が上がらない。


「・・それを言われると辛いわ」


「じゃあ、お願いね。
決行の期日は、後で連絡するから」


「はいはい」


状況の全ては、アスカの手中に在る。
誰にも、それを阻むことは出来ない。








「こ、こんなの着るの?」


あれから数日経った作戦決行日の今日、学校帰りにアスカの家に寄ったレイは、アスカが用意した服を見て愕然とする。
胸もほとんど見えそうな白のタンクトップに、下着は丸見え確実なピンクのミニスカート・・
目的がいくらゲンドウの誘惑でも、これにはレイの腰が引ける。襲って下さいと言っているようなものだ。


「文句言ってないで、シャワーでも浴びて早く着替えて。
今日は、お部屋を与えて下さったお礼にアタシ達がママ達に夕食をご馳走する話になってるから、おじ様の帰りも早いわ」


「で、でも・・」


「でもも何もないの。
アタシは夕飯の用意してるからね。ちゃんと着替えるのよ」


アスカはレイの意見など聞く耳も持たず、さっさと普段着に着替え、台所へ向かってしまった。
残されたレイは、巨大なダブルベッドの上に投げ出された服を見て、溜息をつく。


「・・・やるしかないか」





料理の最中、冷蔵庫に貼り付けてある料理用の時計で時間を確認しながら、アスカは計画の推移を冷静に反芻していた。
食事に誘ったキョウコとゲンドウを共に帰らせないため、シンジにキョウコの相手を頼んである。今頃は、買い物でもしてい
るはずだ。
シンジには甘いキョウコのこと、彼の誘いは断らないだろう。
キョウコには、ゲンドウより後に帰ってきてもらわなければならない。それも、微妙な時間差で。
この辺りは、シンジとの阿吽の呼吸が必要となる。

シンジには計画の全貌を説明し、了解も得た。
基本的に優しく、争い事を好まないシンジだが、今回だけは父のゲンドウに対する憤りは相当な物がある。
そして自分達の幸せをつかみ取るという強烈な意志もあるのだ。


「お邪魔するぞ」


と、ゲンドウがインターホンも鳴らさず玄関に。予定より早い。
レイの着替えが間に合っているかどうか、アスカは気になる・・・が、


「こんばんは〜。お久しぶりです、叔父さん」


「おお、レイ。久し・・ぶ・・・り」


アスカが迎えに出たところで目にしたのは、玄関で硬直したように立ちつくすゲンドウ。
サングラスをかけているのでよく分からないが、目がレイの体に釘付けなのは疑いのないところだ。レイも吹っ切れたように
笑顔を見せているし、作戦は順調と言える。


「どうしたんですか?叔父さん。
わたしの顔に、何か付いてます?」


レイに声をかけられ気を取り直したゲンドウは、落ち着かない様子で靴を脱ぎ始めた。
その動揺ぶりが、アスカには可笑しくてたまらない。亡き妻に似たレイの刺激的な恰好は、余程効いているようだ。


「い、いや、何でもない。
今日は、どうしたのだ?」


「学校の帰りに偶然アスカと会っちゃって、高校生で同棲してる非常識なカップルの家を覗きに来たの」


「その服は何だ?制服はどうした?」


「汗かいて気持ち悪かったから、シャワー浴びたんです。
制服は洗濯してるわ。これは、アスカからの借り物よ」


「そ、そうか。
アスカ君。キョウコさんは、シンジと買い物で少し遅れるそうだ」


「分かりましたわ。
リビングで、テレビでもご覧になっててください。冷たい物でも、お持ちします」


「そうさせてもらう。
レイ、お前は遅くならないうちに帰るんだぞ」


「あ、わたしもリビングに行く。
シンちゃんが帰ってくるまで、ゆっくりするわ」


「な、何だと!」


ゲンドウは思わず声を荒げ、レイに向き直る。
今のレイと二人きりになったら、理性を保てるかどうか自信が無い。アスカもいることだし、ましてや姪っ子に手を出すことは絶対
無いが、彼女の無防備とも言える体に目がいってしまうかもしれない。
いや、確実にそうなるだろう。
自分の子供のような年頃の少女に興味などなかったはずだが、死んだユイと生き写しとも思えるレイは別。
顔ばかりか、体つきもそっくりだ。どうしても目がいってしまう。

キョウコと新しい人生を踏み出したはずなのに・・・
ナオコの事といい、この歳になっても、そういった部分はまるで成長しない自分の不甲斐なさをゲンドウは恥じた。
女性の扱いという点では、息子のシンジの方が余程しっかりしている。


「何を慌ててるんです?おかしいですよ?叔父さん」


「・・・何でもない」


キョトンとしたレイの顔がユイにだぶり、ゲンドウは再度顔を逸らし、用意されたスリッパを履いてリビングへと向かった。




騒動の始まりは、アスカの一言・・


『あら、塩が切れてるわ。買ってこなくちゃ』


まったく自然なこの台詞の裏に隠された意図をゲンドウは読みとることが出来ず、ただレイと二人きりになる状況に慌てるだけだった。

アスカが近くのコンビニに行くと言って部屋を出た後、ゲンドウは理性という理性をフル動員し、アスカの用意した冷えたビールを
飲みながらテレビを観て、渋い中年の男を演じ続ける。
しかし、破局は思わぬ所から・・


「あっ!」


テーブルにあったジュースのグラスを手に取ろうとしたレイが、テレビに夢中になっていたせいか掴み損ね、
グラスを倒してしまったのだ。
運の悪い?事に、グラスに在ったジュースはゲンドウのズボン・・しかも一番微妙な場所を濡らしてしまった。
慌てたレイは、テーブルに置いてあった布巾でズボンを拭こうとする。


「ごめんなさい、叔父さん。すぐ拭きます〜」


「や、やめろ!自分で拭くから、いい」


「でも、わたしが汚したんだから」


レイの手から布巾を取り上げようとするゲンドウと渡すまいとするレイの間で、ちょっとした小競り合いになる。
そして、ゲンドウが布巾を持つレイの腕を掴んだその時・・


「父さん!何をやってるんだ!」


「おじ様!レイに何を」


いつの間にか帰っていたシンジとアスカが冷たい視線で自分を見下ろしていた。
更にその後ろには、新妻のキョウコが・・
やましいところは何一つ無いが、状況としては最悪。動揺したゲンドウは、口もうまく動かない。


「ご、誤解するな、シンジ!
レイがジュースをこぼしてだな」


「いくらレイが死んだ母さんに似てるからって、手を出す事はないじゃないか!
キョウコさんとも結婚したばかりだろ、父さん!」


「あ、あのね、シンちゃん」


「いいのよ、レイ。
恐かったでしょ?ご免なさい。二人きりにさせるなんて、アタシが不用心だったわ」


何か言いたげなレイの腕をアスカが引っ張って、自分の方へ引き寄せる。
アスカとシンジの後ろから状況の全てを見ていたキョウコは、それを見てどこか違和感を感じた。

確かに最初は、ゲンドウの不義を疑った。レイの腕を掴んだゲンドウに怒りを覚えたのは事実。ユイに似たレイをゲンドウが襲っ
たのだと・・瞬間的にそう思った。
最近よく聞く、ゲンドウに関する悪い噂も影響していたと思う。

しかし冷静になって状況を分析してみると、不自然な点が多い。
レイが妙に刺激的な恰好しているし、タイミングもあまりにいい。シンジから買い物に付き合ってくれと誘われなかったら、ゲンドウ
と一緒に帰ってきたはず。
このところアスカやシンジは上機嫌だし、食事にも誘ってきた。
部屋を明け渡した礼とは言う物の、それ以前の不機嫌さから考えると、どうも変だ。
加えて、キョウコの出張からの帰りを見計らったような、妙な噂の流布・・・

全てがリンクしているとしたら・・
そんな事を考え、実行出来る人間は極めて限られる。
自分とゲンドウの間に楔を打ち込み、益を得る人間。ネルフに意図的な噂を流布出来る立場にある人間。そして、レイやシンジを
も抱き込める人間。
更に、これら全てを謀りうる優秀な人間といったら・・


「アスカ、茶番は終わりにしましょう」


キョウコの言葉でその場の空気は凍り付き、ゲンドウの顔から動揺が消え失せた。








とにかく冷静になって話し合おうということになり、アスカは嘗て住んでいた隣の部屋にキョウコと移った。
巻き込まれた形のレイは洗濯の終わった制服に着替えて帰宅の途につき、今頃シンジはゲンドウと話し合っているだろう。
隣から時折、薄い壁を通して怒号が聞こえるので、穏やかな話し合いではないようだが。

こちらの話し合いは女同士ということもあり、まず静かに始まった。


「何で、こんな事したの?
私だけならともかく、ゲンドウさんにまで迷惑かけるなんて・・
しかも悪質よ。こんなタチの悪い」


自分の住んでいた頃とは部屋の様子も変わり、懐かしさもあまり感じないリビングに座るアスカは、母の言葉にカチンときた。
あまりに他人事のようだから。


「そんなの、今更説明することもないでしょ?」


「私達の再婚が、そんなにイヤ?」


神経を逆撫でするような母。
アスカは、初めて母を憎いと思った。
これまで母に憎悪を抱いた事はない。ただ、不満を募らせていただけ。
ゲンドウとの付き合い自体も反対ではない。まだ若い母に、いつまでも一人でいろと言うつもりもなかった。
あくまで二人の結婚に反対していただけだ。
しかし母は、自分が母を想うほどに自分を想ってくれてはいない。想ってくれていたら、結婚という形は取らなかっただろう。


「ママはいいじゃない。ちゃんと式も挙げて、籍だって入れてる。
でもアタシとシンジは、内縁関係より先に進めないのよ。そんなのイヤよ!
普通の幸せが、アタシ達には望めないのよ!ママ達のせいだわ!」


「でも、私とゲンドウさんは愛し合って」


「それが何よ!アタシ達は、ずっと前から愛し合ってたわ!
いずれ結婚して、シンジの赤ちゃんを産んで・・
そんな普通の幸せを 求めて、何が悪いのよ!


アスカの目に光る物を見たキョウコは、ここで初めて自分の責を自覚した。
娘は、あくまで普通の幸せを望んだだけ。
それを台無しにしたのは、自分・・親の自分だ。
年甲斐もなく舞い上がり、ナオコの忠告も無視。後のことなど、何も考えていなかった。
女の前に母親である事を忘れていた自分が恥ずかしい。
キョウコの頭が、自然と床に近づいた。


「ご免なさい、アスカ」


キョウコがアスカに頭を下げたのは、これが最初で最後である。










エピローグ


「・・・というわけで、今の同居は変わらないけど、ママ達は離婚決定よ。
これでアタシとシンジは結婚できるし、アタシ達の未来は薔薇色ってわけ。
アンタにも世話になったわ、レイ」


「あんな恥ずかしい恰好したんだから、巧くいってもらわないと困るわよ。
お酒でも飲まないと、やってられなかったわ」


「お酒飲んでたの!?アンタ!」


「アスカの部屋に飾ってあったウィスキーをキャップ一杯、景気づけにね。
おかげで、今朝は酷い気分だったけど」


「アレを飲んだの!?
パパの形見なのに!」



「少しくらい、いいじゃない。
それより、シンちゃんはどうしたの?朝練?
まさか、夜が激しすぎて衰弱しちゃったとかじゃないわよね?」


「バカなこと言わないで。衰弱するとしたら、アタシの方だわ。
おじ様と殴り合いの喧嘩して顔が腫れ上がっちゃったから、今日は休みよ」


「・・・殴り合い?叔父さんが?」


「レイは知らないの?
おじ様も、若い頃は血の気が多かったらしいじゃない。意外に喧嘩慣れしてたって、シンジも言ってたわ」


「でもシンちゃんと殴り合いなんて、無謀なんじゃないの?
ヤンキー五人相手に完勝したこともあるわよね?シンちゃん」


「無謀もいいとこよ。
シンジは顔が腫れたくらいで済んだけど、おじ様は肋を何本か折って救急車で運ばれていったわ。
一時はマンションに保安部やら警察やら集まって、大変だったんだから」


「はは・・ははははははは」


入院したついでに自分のセミヌードも忘れてくれないかと心中で願う、レイであった。


おわり

でらさんからIrregular三部作最後の作品をいただきました。

なんともめでたしめでたしでした。

途中、レイの貞操がヤバかったり(違)、計画が見破られたりとはらはらものでしたが

なんとかシンジとアスカの未来が開けたようで良かったであります。

素晴らしいお話でした。みなさん是非読後はでらさんに感想メールをお願いします。

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