非日常
作者:でらさん

















西暦 2017年 8月・・


神が常夏の暑さに苦しむこの国を憐れんだのかどうかは知らないが、昨年からいきなり地軸が元に戻り
はじめ、季節というものが復活しつつある今日この頃。

春は暖かく、夏は暑く、秋は涼しくて冬は寒い。

そんな言葉で言い表せるほどまだ明確にメリハリがついているわけではないが、それでもセカンドインパクト以前を知る者達にとっては懐かしく、また嬉しいも のだ。

某所にスイカ畑を隠し持っていた無精髭の元スパイが、気温の変動で栽培のバリエーションを増やしたのは
おまけ。
郊外に土地(20年ローン)も買ったという事だし、いずれ特務機関から籍を抜き農業に専念するのは
確実と見られている。
ビール好きの婚約者から再考を促され、式が先延ばしにされているという噂も・・

そんなどうでもいいことは放っておいて、問題は今。

季節が復活しつつあるのはいいが、やっかいな物も復活してしまった。
それは・・

梅雨と台風襲来である。




第三新東京市 葛城宅 リビング・・


『現在台風12号は、並の勢力を保ちつつ北北東に移動。
予想進路では伊豆半島付近に上陸の模様。
周辺地域の警戒を要します』


テレビに映されるリアルな衛星写真は、いかにも厚そうな雲で構成された台風本体を捉えていた。
真ん中付近には、目と思われる黒い点がはっきりと。

その映像をシンジと肩を並べて見入るアスカの顔は、なぜか綻んでいる。
あれやこれや対策を考え、いささか緊張した面持ちのシンジとは対称的。

外はすでに風雨共に強くなってきて、台風の接近を実感できる状態だ。


「ついに来るのね、台風が♪」


「なに喜んでんだよ、子供じゃあるまいし。
台風は災害なんだよ」


「いいじゃん。
アタシは台風初体験だもん。
別の初体験はとっくに済ませたから、刺激が欲しいのよね」


「刺激なら、毎日のようにあるじゃないか。
今朝だって」


「バ、バカ!」


アスカの言う別の初体験が何なのか、何がどう刺激なのか・・
それは読者諸兄のご想像にお任せする。
アスカにとっては、少々恥ずかしい事であるのは確かなようだ。

それはともかく、台風を直に体験するのが初めてのアスカは楽しくて仕方ない様子。
今年から復活した梅雨の鬱陶しさには閉口していた彼女も、台風は別らしい。

加えて、プロポーズされながらも結婚を渋っている保護者が昨晩からネルフに缶詰となっている事実も
アスカがハイな理由の一つ。

中学も終わる頃にめでたく恋人となった同居人の少年。
アスカは、彼との時間を邪魔されるのを極度に嫌う。
出来れば、他にアパートでも借りてシンジと越したいと考えているくらいだ。


「二人きりなんだから、恥ずかしがる事もないじゃないか」


「親しき仲にも礼儀ありって、言うじゃない。
慎みも、日本女性のたしなみだしね」


「慎みね・・」


「何よ、その思いっきり疑問な顔は。
どこに文句があるわけ?」


肝腎なときはシンジが締めるものの、普段の主導権はアスカが握っている。
このような場合などは、引けるだけ引くに限る。
それは、アスカとの付き合いが長いシンジの知恵。


「え〜〜〜と・・・
そ、そうだ!アスカまだ日本人じゃないじゃないか。
だから日本女性の慎みなんて言葉はあてはまらないと・・」


「あと一年もすれば帰化よ、問題ないわ」


「で、でもさ、まだ違うわけだし」


「アタシに慎みがないと言いたいんでしょ?」


「そう、その通り!・・
あっ!!


この辺、シンジはまだまだ甘い。

満足したようなアスカの顔。
普段は女神にも見えるその顔が、今はなぜか魔女に見えるのだった。
それは決して錯覚ではないだろう。


「罰は次の三つから選びなさい。
壱、台風が去るまでアタシにご奉仕。
弐、台風が去るまでアタシを可愛がる。
参、台風が去るまで愛の奴隷。
さあ、どれにする?」


「・・・・・」




無言の圧力により、シンジが全てを選択したのはお約束。





ネルフ本部・・


「災害対策?
何でネルフがそんな事しなくちゃいけないの!?
市とか政府の仕事でしょうが!」


「か、葛城さん、落ち着いてください」


前世紀からの紛争を未だ引きずっている中東で問題が起き、ミサトは昨日から不眠不休で国連と折衝を続けていた。
それもようやく一段落し、やっと帰れると思ったら今度は、台風接近に伴う災害対策に協力してくれと
市から要請があったのだ。

疲れと眠気で機嫌の悪いミサトに用件を伝えた日向がとばっちりを食った感じ。


「も、もちろん、土嚢積みをしろとかそういう話ではありません。
万が一の時は、エヴァに出動して欲しいとの事です」


「ネルフを何だと思ってんのよ、あの市長は。
一度、釘を刺した方がいいわね」


「お怒りはごもっともですが司令も承知したことですし、その・・・」


「はいはい、分かりました。
台風が行き過ぎるまでここで待機してるわよ。
エヴァの出動はまず無いだろうから、アスカやシンジ君達は自宅待機ね。
それでいいでしょ?」


「申し訳ありません」


ミサトとしては日向の苦しい立場も分かるし、いま家に帰ってもどうせ邪魔にされるだけだろうと思う。
ならば、ここで疲れを取るのもいいかもしれない。
風呂はあるし寝るところもある。
物は考えよう。


「日向君が謝ることないわ。
じゃ、私は少し休むから、何かあったら起こして」


「はっ、了解です」


結果として市からエヴァの出動要請はなく、ミサトも日向に起こされる事無く翌朝まで熟睡した。
自宅で寝るより熟睡できたことに、ミサトは感動さえ覚えたという。

なぜ自宅で熟睡できないのか・・・
発情したペットを飼っている方ならお分かりと思う。

ちなみに、葛城家のペットだったペンペンは一年前に洞木家へ譲渡された。


そして、台風に備える男がここにも一人。


第三新東京市郊外 とある菜園・・


「俺の大切な農作物を台風などにやられてたまるか。
風は防ぎようがないが、排水は完璧にしてみせる!」


風雨の中、カッパを着て必死にスコップを振り回す姿に、かつての三重スパイの面影はまるでない加持である。
どうやら、本気で農業を目指すらしい。


「ここがやられてもジオフロントの菜園がある。
俺の勝ちだな!
ふははははははははははは!!




農業に取り憑かれた男、加持 リョウジ。
その執念?が実ったのか、これから約30年後・・
彼は第三新東京市指折りの農家となる。

が、夫人となったミサトは、死ぬまで夫の仕事に手を出さなかったという。





再び葛城宅・・


夜半を過ぎると雨も風も強くなり、窓ガラスに雨粒が叩き付けられる音が凄まじくなってきた。
狙撃用ライフルでも貫通不可能な二重の強化ガラスが割れるはずはないが、気持ちのいいものではない。
マンションをも揺らすような強風と時たま鳴る雷鳴も、普通の子供なら怖がって親に縋るかもしれない。

しかし、アスカは益々興奮してきた様子。

テレビの台風情報と現状を照らし合わせて、はしゃぎまくっている。
付き合わされているシンジは、台風が過ぎ去るまで寝られないだろう。


「ねえねえ、いま台風の中にいるのよ、アタシ達。
何か、興奮しない!?」


「興奮なんかしないよ。
何回か経験はあるしね。
セカンドインパクト前は、この時期になると何個か来るのが普通だったらしいけど」


セカンドインパクト後も台風の襲来はあったのだが、それは年間を通じて数回。
上陸したのは、ほんの僅かでしかない。
12個目となった今年だけで、過去15年間の総数に迫るのだ。


「乗りが悪いわね。
今晩のアンタは、アタシにご奉仕してアタシを可愛がって・・
更に愛の奴隷なんだからね。
一緒に興奮する義務があるのよ!」


「どういう義務だよ・・
それにさ」


「なによ」


「考えてみればそれって、いつもの僕と変わらないじゃないか」


「・・・・・そう言えば、そうね」


アスカも考え直してみたが、表現が適切かどうかは別にして、確かにいつものシンジと変わらない。

ご奉仕=夜の生活、その他色々・・
可愛がる=夜の生活、その他色々・・
愛の奴隷=夜の生活、その他色々・・

まさに普段の生活そのまんま。
罰になどなっていない。


「なら、罰は罰らしくしないとね。
いま興奮してるし、丁度良いわ」


アスカの顔が妖しく歪み、興奮のためか肌も上気している。
その暑さのせいなのか、彼女は着ているパジャマをゆっくりと脱ぎだした。
それにつられたのかどうか知らないが、シンジもパジャマを脱ぎ出す。


「ふっ、それが僕にとって罰になると思う?
返り討ちにしてあげるよ」


「非日常の中で非日常の行為・・
ふふふふふふふふふ・・・燃えるわね」


「ぼ、僕も興奮してきたよ」


「でしょ?
さあ、その証を見せてちょうだい」




暴風雨に刺激された若者達の、文字通り熱い夜は過ぎていく。
これから後、台風や嵐の日は必ず家から追い出されるようになったミサトである。

余程、この夜が刺激的だったらしい。






おまけ


ゴオォォォォ!!


「負けるものか・・
俺は台風なんぞに負けんぞ!!


上陸して勢力は衰えたものの、台風は台風。
体ごと持っていかれそうな風が加持を襲う。
加えて、大粒の横殴りの雨。

が、加持の意気は衰えない。


「加持さん!ちょっとだけ手伝えと言うから来てみれば!
何です、これは!!」



「分からんか相田君!?これは台風というものだ!」


「そんなの分かってます!
どうして俺を呼んだんです!?
この風と雨じゃ、何も出来ませんよ!!」



「いやあ、夜の夜中一人で畑の番をするのも寂しくてなぁ。
なあに、台風なんて一晩でどっか行っちまうさ!
こんな経験は滅多に出来んぞ、ははははははははははは!!」



「一晩だって〜〜〜!?」




暴風雨の中ケンスケが自宅に帰れるはずもなく、ずぶ濡れで一晩を過ごしたのは言うまでもない。

でらさんから台風シーズンなお話をいただきました。タイムリーですね。

それにしても、加持って諜報より農業に向いているのかもしれないですね。農業を馬鹿にするわけではないですが(笑)

ケンスケがかなり災難でしたな。のこのこ出てくるからそういう目にあるので自業自得といえないでもないですが(笑)

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