その日
作者:でらさん
















何もかもが平和に収まった世界。


ゼーレは消滅しネルフは生き残った。
国連は・・・

辛気くさい話はやめておこう。
今日は晴れの結婚式なのだから・・アスカとシンジの。




辛い戦いを乗り切った二人が掴んだ幸せ。

他人を拒絶しあった二人が選んだのは、最も憎んで最も愛した身近な存在。


殺してやりたいと思ったほど憎んで・・

全てを手に入れたいと思うほど愛し・・・人間の最も醜い部分をぶつけあった。


それは、誰にも分からない彼らだけの絆。

それが今日この日・・結実する。





西暦2019年 6月6日 第三新東京市 葛城宅・・・


「や〜っと色惚けのガキ共から解放されると思うと、ほっとするわ」


「羨ましいなら羨ましいって、はっきり言ったらどう?ミサト」


「私は結婚出来ないんじゃなくて、しないの。
一人の男に縛られるんてゴメンだわ」


「加持さんとしか付き合ったことの無い癖に・・」


明らかに強がりと分かるミサトの台詞に呆れるアスカはため息一つ・・
ミサトの顔は痙攣するように引きつっている。

アスカの言ったことは事実。
加持と同様かなりの遊び人と見られているミサトだが、実際付き合った男と言えば加持
しかいない。
それは加持とて大差ない。
彼が真剣に付き合った女はミサト一人だ。

色々、浮き名を流しているのも事実だが・・


ちなみにアスカとシンジは結婚した後、ネルフの士官用マンションへの引っ越しが決まっている。


「せっかく生きて帰ってきたのに・・何で意地張るかな、ミサトは。
素直に喜べばいいのにさ」


全てが終わった後、何事もなかったように姿を現した加持。
日本国内務省に危うい所を救われたらしい。
代わりに知っている事は全て吐かされた。

ゼーレとネルフ・・そしてエヴァ。

だがもう、そんな情報に意味はほとんどない。


「こ、こっちには、こっちの事情があるのよ」


「早く結婚しないと高齢出産になるんだから。
辛いらしいわよ。
何回もプロポーズしてるんでしょ?加持さん」


「余計なお世話よ!
とにかく、私はまだ結婚しないの!」


「ご勝手に」



結婚式当日の朝にしては、あまり和やかな雰囲気ではない。
いつもと何ら変わりない日常。

ダイニングキッチンでの朝食・・
その一時での会話。


同居を始めて約四年・・・

その時間は、アスカが偽善と呼んだ家族を本当の家族へと変えていた。
アスカにとってミサトは姉であり母。
それはシンジも同じ。

お互い肉親は健在。
今日の式にも当然、出席する。
だがその人々は血の繋がった他人とも言うべき人間で、本当の意味での家族とは言えない。

シンジにとってゲンドウはすでに他人以下・・
自分の所属する組織のトップという意識でしかない。
いかなる理由があろうと、自分の受けた仕打ちを許すつもりなどなかった。

アスカにとってのドイツの両親は

煩わしい存在・・

この一言に尽きる。
彼らも含めて、もうドイツに郷愁などない。


「おはよう、アスカ」


「あっ、おはよ・・シンジ」


眠そうな顔で姿を現したシンジに椅子から立ち上がって小走りで駆け寄り、頬に軽くキス。
ミサトの前なので遠慮したようだ。
いつもは唇にする。


「顔洗ってきて。
朝ご飯は用意出来てるから」


「うん、分かった・・」


のろのろと洗面所に向かうシンジの足取りは重そう。
それを心配そうに見送るアスカだが、彼が洗面所に入ったのを確認すると席に戻った。


「結婚前からお熱いこと・・」


「いいじゃない、別に」


「今からそんなんじゃ、長続きしないわよ。
夜だってお盛んみたいだし」


「アタシ達はそんなヤワじゃないし、軽い付き合いでもないわ。
それにシンジのペース・・最初から全然落ちてないわよ」


「そ、それもすごいわね・・」


アスカとシンジが関係を持ったのは付き合いだして間もない頃・・
まだ二人は中学生だった。
そういった倫理に厳しいミサトは激怒したが、周囲の取りなしなどもあって
結局は認めた。

いや、認めざるを得なかった。
彼らの受けた苦しみを考えたら、通常の倫理観を押しつけるのは酷だと分かったから。

が、すぐにそれを後悔したミサトである。
若い故か・・時間と場所を選ばない彼らには閉口したのだ。
事の現場を目撃したのは一度や二度ではない。


「技術の方も相当なようだし・・・
ねえ、一度シンちゃん貸してくれない?」


「貸してもいいけど、シンジが本気になったらミサトなんか体もたないわよ。
一晩中どころじゃないんだから」


「あはは!まさか。
いくらシンちゃんでもそこまで・・」


「言い切れるの?」


「・・・・・・・いえ」


「分かればいいわ」


ミサトには覚えがある。
去年ネルフの慰安旅行でミサトがいない間の連休中、ずっと二人は家に籠もっていたのだ。
何をしていたかは帰ってからの家の様子で分かった。

特に、あの特有の匂いには参った記憶が鮮明に残っている。
暫く帰宅したくなかったほどだ。


「楽しそうだね、何の話?」


かなりやばい話の最中にシンジが顔を出す。
アスカとミサトにしてみれば、あまり聞かれたくない話。
いくら親しい仲とはいえ恥ずかしい。


「シンジがいい男って話よ・・ね?ミサト」


「ま、まあね・・はははは」


愛想笑いを浮かべるミサトに何かを感じたシンジがアスカに視線を移す。

他人が見れば普通のアスカ。
何も変わったところなどない。

しかし・・


「こら!正直に言うんだアスカ」


「な、何するのよ・・本当だったら」


アスカの頭を抱え込みぐりぐりの態勢に入るシンジ。
シンジ得意のお仕置き方法。
これは結構痛い。


「アスカの嘘はすぐに分かるよ。何年付き合ってると思うんだい?
アスカだって、僕の嘘はすぐに見破るじゃないか」


「あ〜ん、もう・・シンジが絶倫て話よ〜」


「始めからそう言えばいいのに。今更そんなことで怒らないよ」


「だってぇ・・シンジ、気にしてたじゃない」


「もう結婚するんだよ、僕達。
結婚すれば毎日のようにそんなこと言われてからかわれるんだ。
一々、気にしてられないさ」


「そうだけどさ・・」


いつの間にか立ち上がり、抱き合うような格好でアスカは甘い会話を楽しむ。
もはやミサトの存在など忘れている。

付き合い始めこそ初々しい雰囲気でミサトを楽しませてくれた二人だが、
体の関係が出来てからは所構わずいちゃいちゃするので、目のやり場に困る事もしばしば。
最近は特に酷い。
結婚式というイベントが余計二人を燃え上がらせているようだ。


「あ、あの二人とも・・そろそろ朝ご飯にしない?
式の準備もあるしさ。早めに済ませないと・・」


「先に食べていわよ、ミサト。
でさ、式の挨拶なんだけど・・・」


「そ、そうね・・そうさせてもらうわ」
(今年こそ結婚してやる・・何としても、絶対する!
見てなさいよアスカ!シンちゃん!



やはり焦っていたミサトである。









身支度も終わり、後は式場へ出かけるばかりの態勢になった三人。

ミサトはこの日のために買った完全オーダーメイドドレス。
金額もはんぱではない。
派手さだけをとれば花嫁以上か・・


「き、気合い入ってんのねミサト・・アタシより目立つんじゃないの?」


「そう?あんた達の結婚式ならこのくらいしないとね。
親代わりとしては無様な姿、見せられないのよ。
出来の悪い親だったけど・・このくらいはさ。ははははは・・」


笑うミサトの顔に涙が光る。
化粧を落としながら落ちるその涙はけっして美しいものではない。

が、アスカとシンジにはとても綺麗に見えた。
情の薄い実の親よりも自分達を愛し育ててくれた人・・

自然とアスカの膝が折れ正座する。
シンジもその横に。


「ちょ、ちょっとアスカ・・何を・」


「長い間、お世話になりました。今までありがとうございます。
今日、私達は結婚します」


「本当にありがとうございました、ミサトさん。
次は自分の幸せを掴んでください」


「バ、バカね二人とも・・・
そんなことされたら、我慢出来なくなっちゃうじゃ・・」


ミサトの台詞はとても最後まで続かない。
あふれる涙と嗚咽がそれを遮ったから・・・

崩れる化粧も乱れるドレスにも構わず、ミサトは泣き続けた。










結婚式場・・・


式は滞りなく進み・・
招待客達は飲み、騒ぎ、二人の門出を祝ってくれる。

中でもミサトのはしゃぎっぷりは突出していて、美しく高いドレスなど気にする風もなく
周囲を巻き込みながら騒ぎ続ける。


「ねえ、アスカ・・葛城さんどうしたの?
アスカの結婚式くらい、しんみりすると思ってたのに。
ちょっと見損なったな」


「いいのよ、ヒカリ・・ミサトはあれでいいの。
ね?シンジ」


「そうだね。あれがミサトさんだよ」


挨拶でテーブルを回ってきた二人に、ミサトについて小言を言ったヒカリは怪訝な顔。
この二人とミサトの間には、他人では入り込めないものがあるらしい・・
ヒカリにはよく分からない。






「おらおら、加持!もっと飲め〜〜〜!」




「ほ、本当にあれでいいの?アスカ・・」


「い、いいのよ・・・多分」


「少しは遠慮してよ、ミサトさん・・」




やはりミサトはミサトだった・・・




 でらさんからシンジ君誕生日記念にいただきました。

 皆様、何もいいません!
 酒抜きでシンジ君の誕生日を祝ってください!(笑)

 ああ、あと、でらさんに是非感想メールを送ってください〜。

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