伝説

こういう場合 外伝

作者:でらさん












西暦2017年 4月初め・・


セカンドインパクトにより激変した社会。
それは教育の場も例外ではなく、かつて名門と謳われた学舎の多くが凋落し、新しい名門校が各地に現れた。

ここ第三新東京市にもそれはある。
第三新東京市立第壱高等学校である。

年一回全国一斉に行われる学力考査での学校別平均点では、常に上位をキープ。
各種サークル活動も活発で、全国大会出場も珍しい事ではない。
近隣はおろか、日本全国から受験生が集まる学校なのだ。

こんなエリート校に、今年は第壱中から十人もの合格者を出した。
この学校始まって以来の快挙に、校長を初めとする教職員達は涙を堪えきれなかったという。
例年は一人か二人がいいとこ・・多くても三人くらい。
それを考えれば、彼らの心情も理解できる。

教職員達が涙したほどの快挙。
その原動力となったのがアスカ。
彼女の存在無くして、今回の快挙はあり得ない。
恋人のシンジは元より、その友人のケンスケやトウジまでもが彼女の世話になっている。

アスカが直接指導したとかではないが、それはおいおい語られるだろう。


何はともあれ、今日は記念すべき入学式。
真新しい制服で身を包んだアスカとシンジも、第壱高校への道を歩く。


「アタシが言った通りじゃない。
アンタはやれば出来るの」


「はは、アスカのおかげだよ」


「アタシはちょっと手助けしただけ・・実力よ、シンジの」


「そうかな」


「そうなの!」


目立ちすぎるほどの美貌のアスカと、凛々しさを増したシンジのツーショットは目立つ。
加えて、アスカには匂い立つような色気がある。
周囲の視線は釘付け状態と言っていいだろう。

中には、こんな行動に出る輩も・・


「ねえ、君って第壱高の新入生だろ?
僕が学校まで送ってくよ」


突然二人の前に割り込んできた長身の青年。
制服は第壱高の物・・在校生のようだ。

彼はシンジを無視して、アスカに話しかけている。


「何よ、いきなり・・この状況が見えないの?アンタ」


「まさか、横の男が君の彼?
ははははははは!今すぐ僕に乗り換えた方がいいな。
おい、君もそう思うだろ?」


言葉は軽いが目つきは鋭い。
彼はシンジを威嚇するように睨みつけてきた。
アスカと別れろと暗に要求しているらしい。

長身で体つきもそこそこ・・腕っ節には自信があるのだろう。
しかし・・


「ぐほ!」


シンジの左拳が青年の脇腹を瞬時に抉る。
周りは何が起こったかさえ分からない・・そんな早業だ。
戦場で培われた剣術と本格的な格闘訓練で日々鍛錬を続けるシンジにしてみれば、こんなど素人など物の数
ではない。


「次は怪我じゃ済みませませんよ」


シンジは腹を押さえて蹲る青年の耳元にそう囁くと、アスカの手を取って再び歩き出した。
何事もなかったように。


「ほどほどにね、シンジ」


「加減はしたよ」


「嘘、気を失う寸前だったじゃない、今の奴」


「こ、今度は気をつけるよ」


「相手は素人なんだから、へたすると死ぬわよ」


「分かってるよ」




後に伝説として語り伝えられる事になる2017年度第壱高校入学式は、こうして始まった。




数時間後・・


「・・・以上、新入生挨拶を終わります。
新入生総代、惣流 アスカ ラングレー」


凛として自信に満ちた態度、そして張りのある声が教師や来賓をも含めたその場にいる全ての人間を
魅了する。
まさに新入生代表に相応しい。

シンジはそんなアスカを恋人に持ったことを誇りに思う。
それは、この場にいるトウジやケンスケやヒカリ・・レイでさえ同じに違いない。


「噂には聞いてたけど、すっげー美人だな」


「でも性格はきついらしいぜ」


「付き合ってるやついるんだよな、確か」


「あの美形なら、男が放っておかないよ」


「そいつが羨ましいよな」


周りの生徒達からひそひそ話が聞こえてくる。
ちらと視線を巡らせると、上級生達の間でもアスカの方を見ては何やら話をしている。

彼女が目立つのは当然としても、その状況は嫌な感じ。

エリート校ということもあっておかしな人間は少ないと思っていたのだが、朝の一件でそれが甘い
認識であると分かった。
この分では、アスカにモーションかける男は後を絶たないだろう。
恋人として看過できる問題ではない。


(アスカはほどほどにって言ったけど、最初が肝心だからな。
弱気を見せたら終わりだ)


過剰とも言える防御本能(独占欲?)をみせるシンジ。
訓練の成果を発揮する時は近い・・




1−A教室・・


「なによ、なによ、なによ!
シンジとヒカリとレイはいいにしても、何でアンタ達まで同じクラスなのよ!
中学ん時と代わり映えしないじゃない」


「ワイらに言われたかて知らんわい!
こっちが驚いとるわ!」


「偶然だろ?気にするなよ惣流」


クラス割りを知ったときは、正直ネルフの介入を疑ったアスカである。
適格者三人が同じクラスになるとは予想・・いや確信さえしていたのだが、後の三人までもが一緒の
クラスになるとは思ってもみなかった。

ここまでくると偶然とは考えにくい。


「気にするなですって?随分余裕ね、相田。
アンタと鈴原がここにいる事自体、奇跡だっていうのにさ」


「アスカ、そこまで言わなくても・・
二人ともすごく努力したじゃない、その結果よ。
大体、二人をしごいたのはアスカ・・あなたよ」


「言い出したのは確かにアタシよ、ヒカリ。
でもアタシが直接手ほどきしたわけじゃない。
マヤを初めとする特別スタッフが二人に勉強を叩き込んだのよ。
それなのにこいつらったら、実力で入った・・なんて、勘違いしてるんじゃない?」


どうせならみんな一緒がいいというシンジの提案の元、トウジとケンスケまでもが第壱高校に
進路を決めさせられた。
決めたのではなく、決めさせられたのだ・・アスカに。

アスカにはヒカリやレイという出来の良い友人がいて進路も一緒だが、シンジはトウジやケンスケの他
に特別親しい男子生徒はいない。
シンジは友人を作るのが苦手・・進学してからしばらくは寂しい思いをするかもしれない。
いくら自分という存在があっても、愛情と友情は別物だとアスカは思う。

そう考えたアスカは、トウジとケンスケを何としても第壱高に合格させるべくプロジェクトチームを
組み、二人に対し猛特訓を課したのである。

チームのメンバーは、マヤをトップとするネルフ技術部スタッフの面々。
平均IQ170を越えるエリート集団。
彼らの指導は苛烈を極め、二人は何度も挫折しそうになった。

だがそれを乗り越えて、二人は見事合格したのだ。


「そんな事ないよ、マヤさん達には感謝してるさ。
お礼だってしたんだからな。
そうだよな?トウジ」


「おう!きちんと、礼は尽くしたわい」


「だからって」


「アスカ」


いつの間にかシンジがアスカの後ろに立ち、彼女の肩に手を置く。
尚もトウジ達をへこませようとするアスカを、シンジがやんわりと押しとどめた格好だ。

それを見たクラスメート達は、二人の関係を瞬時に理解した・・男子も女子も。


「せっかく一緒のクラスになれたんだ。
仲良くやろうよ」


「シンジがそう言うなら・・」


「シンジの言葉には二つ返事か」


「コロコロ忙しいおなごやの・・」


「今更、何を嘆いてるのよ。
アスカの性格なんて知ってるでしょ?アスカはああいう人なの」


ヒカリに言われなくても、トウジとケンスケには分かっている。
ただ、言わずにはいられなかったのだ。

そしてもう一人の第壱中出身美少女はというと・・


「お、おい、一緒に声掛けようって言ったじゃないか。
何、尻込んでんだよ」


「だ、だって、彼女寝てるぜ。
悪いよ」


「寝てるなら好都合だろ?優しく起こしてきっかけつくるんだよ」


「で、でもさ、あのうわごとはちょっと怖いよ」


どうやら気持ちよく熟睡しているようだ。
偏食は直りつつあり、肉も食べるようになって低血圧の体質も改善方向に向かってはいるが
まだ途上であることに違いはない。

そんなレイの睡眠時間は長い。
少しでも時間が空くと寝てしまう。

それに、うわごとにも問題がありそうだ。


「砲兵の動きが鈍い!・・・攻撃のポイントがちが・・う・・・わよ」




指揮官として目覚めつつあるレイは、寝ていても仕事を忘れないらしい。
これは確かに怖いかもしれない。





「では洞木さん、委員長として最初の仕事です。
号令を」


「はい先生・・起立!」


ガタガタガタ・・


一学期目は担任の裁量でヒカリが委員長に指名された。
てっきりアスカが指名されると思っていたヒカリにすれば意外・・一度は辞退もした。

だが担任の教師は自分の意見を曲げなかった。


『成績優秀=リーダーじゃない。
リーダーにはリーダーの資質がある。
君が委員長だ』


有無を言わせないその言質に、ヒカリは不承不承承諾。
こんなヒカリだが、彼女は卒業までの三年全てのシーズンで学級委員長を務める事になる。


「礼!」


そして、いつの頃からか・・
彼女は多くの生徒から、委員長と呼ばれるようになるのだ。




下駄箱・・


「アスカ達はこれからどうするの?やっぱりネルフ?」


「うん、こんな日でも訓練は休みにならないわ」


「そう、残念ね。
帰りにみんなでどこか寄っていこうかって、トウジと話したんだけど・・」


ヒカリは、春休み中アスカとはろくに会うこともできなかった。
会ったのはミサトの結婚式くらいか。

そんなヒカリは久しぶりに彼女とゆっくり話でもしたかったのだが、ネルフでの訓練ならば仕方
ない。
それでも正門までは、簡単な話くらいできそうだ。

丁度シンジ達も履き替えが終わったよう。
三人一緒にこちらへ向かってくる。


「ネルフも落ち着いてきたから、その内時間取れるわよ。
そしたら女同士でゆっくりしようよ」


「そうね、綾波さんも呼んでさ。
あれ?そういえば、綾波さんは?」


「ああ、ネルフから直々に迎えが来たわ。
アイツの待遇、最近いいのよね・・」


「なんかあったの?」


「まあね、色々とさ・・」


愚痴をこぼしながら、アスカ達は正門に向かって歩き始める。
シンジ達も少し後から談笑しながら歩く。

その進路にあたる道筋は、各サークルの勧誘でひしめき合っている状態。
体育系も文化系もかなり熱心に勧誘している。
ある者は自ら進んで勧誘に応じ、ある者は嫌々、とあるサークルに引きづり込まれていく。

アスカとシンジもそういった物に興味が無くはないが、立場が立場故にサークル活動は出来ない。
従って完全無視。

ところが・・


「君!惣流さんだろ?テニス部に入らないか?
いや、是非とも入ってもらいたい!」


「テニスなんかより新体操なんてどう?
あなたなら絶対似合うって!」


「そんなのいいよ。
野球部のマネージャーになってよ!」


こんな連中がアスカにまとわりついて離れない。
あまりの人混みに、ついには正門まで後数メートルのとこで立ち往生してしまった。
ヒカリ共々、一歩も前へ進めない。

後ろを見ると、シンジ達もかなりの人数に囲まれて動けない様子。
あちらはなぜか女子生徒が多い。


「いい加減にして!!
アタシは一切そういったサークルには入りません!!
分かったら、道を開けて!!」



アスカが大声を張り上げると一瞬静まるが、すぐに元に戻る。
もはや収拾がつかない。

そして更に、アスカの腕を取って強引に連れて行こうとする者まで・・


「惣流さん、とにかく俺達の部室で落ち着いて話そうよ。
そうすれば分かってもらえるから」


「離しなさい!!気安く触るんじゃないわよ!!」


アスカは掴まれた手を振りほどこうとするが、男の力は強く離れない。
格闘系サークルのようだ。
男はじりじりとアスカを引きずっていく・・・と、突然。


「アスカに触るな!!」


ドガ!

「わ!」


シンジが現れ、男を突き飛ばしてアスカは難を逃れた。
とたんに場は静まる。

文化系の連中はそそくさとその場を立ち去り始めた。
シンジの怒りの形相に恐れを成したらしい。
しかし体育系・・中でも格闘系サークルがそのくらいで引くはずがない。


「なかなか出来そうだな、坊主。
俺達に喧嘩売ってるのか?
そもそも、惣流さんとはどういう関係なんだ?
関係ないなら引っ込んでろ!」


「ナイトを気取るのもいいが、この人数相手にただで済むと思うなよ。
エリート校だと言っても、ひょろひょろのお坊ちゃんばかりじゃないんだぜ」


いつの間にか仲間を呼んだようだ。
どんどん人数が増えてくる。

シンジの顔がゲンドウのように歪んだのを、アスカは見た。

そして・・


「はっ!」


「うっ!」


最初に倒れたのは空手部の主将。
180を超える巨体が正拳の一撃で沈んだ。
隣に立つ男が何の反応も出来ない。

その男はシンジの姿すら捉える間もなく、二人目の犠牲者となった。
鳩尾に肘を叩き込まれたのだ。

そのシンジの動きを見て、格闘系以外の連中は全てその場から逃げる。

そんな事は気にとめる様子もなく、シンジは動きを一瞬たりとも止めないで次々と犠牲者の山を築い
ていく。
トウジもケンスケもヒカリも・・アスカでさえも、そんなシンジをただ呆然と見ているしかなかった。

無闇に止めに入るとかえって危険だ、シンジは完全に理性を失っている。


「シンジの奴、ネルフでどういう訓練してるんだ?惣流。
ありゃ異常だぞ」


「う〜〜〜ん、格闘訓練はシンジと別メニューだからよく分かんないけど、何だか戦国から伝わる
古武術とか取り入れてるらしいわよ、剣術とかさ。
随分古めかしい恰好した人が出入りしてるわね・・」


「そ、それだけで、あないに強くなるんかい」


「さあ・・」


「さあってアスカ、あなたも知らないの?」


「だから別メニューって言ったじゃない。
ただ、形式を廃した実戦重視の武術って聞いたわよ」


「実戦・・・ね」


遠慮無く脇腹などの急所を狙うシンジを見たケンスケは、ただ訓練だけがシンジを強くしたのでは
ないと確信した。

あれは彼の本性なのだ。
普段は理性で封じ込めているに過ぎない。


「トウジ・・」


「なんや?ケンスケ」


「シンジは絶対怒らせないようにしような」


「・・・肝に命じるわい」







結局この事件では20人あまりが病院送り・・同数が軽傷を負った。
と記録にある。

だが処分者については、一切の記述がない。


でらさんから『こういう場合』の外伝をいただきました。

昔からシンちゃんはキレると恐い子だと思っていましたが、でらさんの描くシンちゃんはますます恐いですな。

結論‥‥触らぬアスカに祟り無しですね(謎)

なかなか時節にかなったバイオレンスLAS(?)でした。みなさんも読後に是非でらさんに感想メールを出してください。

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