告白に至る経緯

こういう場合 外伝

作者:でらさん










西暦2015年 12月中旬 夜 葛城宅 シンジの部屋・・


今日も一日が終わり、寝る前の一時・・
碇 シンジは悩んでいた。
それは決して、妙齢で魅力的な保護者や出番がほとんどない温泉ペンギンの事ではない。

相変わらず愛想の無い父親の事でもなくて、ジャージをこよなく愛する友人や盗撮とミリタリーを
趣味とする友人の事でもないのだ。
スイカの栽培に汗を流す無精髭のおっさんの事では当然ない。

それは・・


「いつアスカに告白するかな・・」


同居する少女に、いつどのような場で思いを打ち明けるかを彼は真剣に悩んでいるのだった。

アスカと出会って早数ヶ月。

お互いの気持ちはすでに分かっている。
はっきりと口にしたわけではないが、彼女の自分への接し方などを見れば分かる。
自分の気持ちも、同じようにアスカへは伝わっていると思う。

はっきり言って苦手なタイプだった。
ずけずけと物を言い、強引で人の話を聞かない。
自信に満ちて、人を見下したようなところもある。

でも彼女は、自信と強気で覆った表向きの顔の裏にもう一つの顔を持っていたのだ。
それを知ったとき、シンジは決定的にアスカへ惹かれた。

気が合う事も確か。
しかしそれ以上に、彼女とは本質的に合う物がある。

キザな言葉で言えば運命か。


「この前の誕生日はそれどころじゃなかったし・・
あんな騒ぎになるとは思わなかったよ」


今月の初めに行われたアスカの誕生パーティは、シンジの予想もしないほどの荒れようであった。
ヒカリを始めとする友人達はそうでもなかったのだが、ミサトを筆頭とした大人達が酒を飲み過ぎて
大騒ぎ。
日頃のストレス発散の場と化してしまったのだ。
普段は飲まないリツコなどもかなり酔っていた。

当然、自分のパーティを滅茶苦茶にされたアスカは激怒。

ミサトに自宅での禁酒を言い渡している。
予定されているクリスマスパーティにもアルコールの類は一切無い。

「今度はまともなパーティになるよな。
プレゼントは用意したけど、問題はそんな事じゃない。
どうやって二人きりになるか、どうやって告白するかだ」


その日のために、シンジはシンジなりに情報を集めている。
幸いなことにこの時期はあらゆる媒体でクリスマス特集を垂れ流しているので、情報源には
事欠かない。

しかし・・
各種雑誌やらネットを検索しまくって情報を仕入れてみても、どれも自分の歳には似合わない設定
ばかり。
中学生の身で、一流ホテルのレストランや夜景の綺麗なスポットになど行けるはずがない。


「自分で考えるしかないか・・」


加持に相談してみようかとも思ったがやめた。
やたら説教くさい事を言われるのは目に見えているし、結局自分で考えろと言われるのがオチだ。

それに、これは自分で何とかしなくてはいけない事だと・・そう思う。




同時刻 アスカの部屋・・


「うん、そうなのよ。
今度はまともなパーティにするの。
でさ、今度こそシンジから告白があると思うのよね。
ヒカリも協力してくれるわよね?」


<え?ええ、それは勿論よ。
だけど協力って言ったって・・>


「パーティをさっさと切り上げてくれればいいのよ。
鈴原と相田を連れ出してくれると、言うことないわね。
ミサト達には、アタシから手を回しておくわ」


<そ、そう。そのくらいなら別に・・>


シンジの動きはほとんどアスカに掴まれている。
その様子から、クリスマスパーティの晩に何らかのアクションがあるとアスカは読んでいるのだ。
それを前提にして、今はヒカリと電話で密談中。

まだ親友とまで呼べないが、アスカはヒカリを何かと信頼し大概のことは話している。

ヒカリも、そんなアスカと良い関係を続けたいと思っている。
だがシンジのことを完全に振り切りれてはいない現在、このような相談を持ちかけられるのは辛い。
忘れようと努力しているのだが感情とはままならない物で、なかなかうまくいかないのだ。
何かの拍子でアスカがシンジに愛想でも尽かさないかと、考える自分もどこかにいる。

しかし、先日アスカの誕生パーティで久しぶりにシンジを見た時・・
そんな自分の思惑など絶対にあり得ない事だと理解した。

久しぶりに会った彼は逞しく成長し、初めて会った時の脆弱さなど消え去っていたのだ。
加えて精神的な余裕さえ感じられるようになった。
常に彼の側を離れないアスカは、そんな彼を艶の籠もった視線でいつも見ていた。

聞けば、連日かなり激しい訓練を受けているとのこと。
このまま行けば、シンジは更に成長するだろう。
同年代の少年など及びも付かないくらいに・・


彼女がシンジから離れるなど考えられない。


<でも綾波さんはどうするの?彼女も呼ぶんでしょ?>


「レイなら大丈夫。
最近、シンジにちょっかいかけてこなくなったから。
はっきり聞いたわけじゃないけど、諦めたみたい。
リツコかマヤに言えば、一緒に連れてってくれるわよ」


<そうなんだ・・なら、後は本当に碇君の告白を待つだけなのね>


「そう言うこと。
後々のこと考えれば、シンジから告白してくれるのがベストだもん。
クリスマスに動きがなきゃ、強引に言わせるまでよ」


<後々って?>


「よく聞い てくれたわ!
アタシの”偉大な計画”をこれから講義してあげる!



<い、偉大なって・・>




アスカの講義が終わり、ヒカリが床についたのは明け方も近い午前三時・・
聞きたくもない惚気を延々と聞かされたヒカリは、精神的な疲労も重なってこの日の学校を休んだ。

不用意な自分の一言を恨んだヒカリであった。





翌日 ネルフ本部 ミサト執務室・・


S2機関の完成で意気上がる本部内。
国連も掌握し、ゼーレとの闘争も先が見えてきた。
だがミサトはまだ気を抜いてはいない。
今ミサトの前に座るアスカにもそれは分かる。


「それで・・どうしたの?いきなり訪ねて来て。
シンジ君と何かあった?」


「クリスマスパーティの事なんだけど・・」


「わ、分かってるわよ、今度はお酒飲まないから。
リツコや加持にももう言ってあるし。
この前のことは謝ったじゃない」


アスカが念を押しに来たと思ったミサトは、とにかく下手に出る。
誕生パーティの事は本当に悪いことをしたと思っているのだ。
ゼーレとの抗争や内部での諍いでストレスが溜まっていたとはいえ、羽目を外しすぎた。

仲間内の飲み会ならまだ良かったのだが、場はアスカの誕生パーティ。
来日してから初めてのホームパーティとあって、アスカも楽しみにしていたし。


「なら、いいけどさ・・でも本題は別なの」


「本題?」


「そうよ。
パーティの後、多分・・いえ、絶対シンジから告白してくるの。
ついては、ミサトにも協力してもらうわ」


「・・・・・はい?」


同居する二人の関係についてはミサトも分かっているつもり。
今の所はゼーレとの抗争に勝利する事を優先し、シンジについても静観している状態。
特に邪魔したいとも思わない。
それどころか、アスカの精神安定を考えればシンジとうまくいく方が好ましいとも言える。
体を使えば、シンジを落とすのはいつでも可能という思惑もあるし。

しかし、絶対シンジからの告白があるというアスカの自信には驚いた。


「今更何驚いてんのよ。
アタシ達の事は大体知ってるでしょ?
知らないとは言わせないわよ」


「ま、まあ、そうだけど・・
シンジ君からの告白って、根拠でもあるの?」


「アンタに説明する義務も時間もないわ。
とにかくそういう事なのよ。
協力するの?しないの?」


「するわよ、させていただきます。
で、私は何をすればいいわけ?」


「ごく簡単な事よ。
早めにパーティを切り上げて、加持さん達を連れだして欲しいの。
飲みに行こうって言えば簡単でしょ?」


要はシンジと二人きりになりたいだけらしい。
それくらいならどうと言う事はない。
今の二人なら、いきなり関係を持つまではいかないだだろうと思う。
せいぜいキスがいいところだ。


「分かったわ、みんなを連れ出せばいいのね?
洞木さん達はどうするの?」


「それはもう手配済みよ。
ミサトが心配することじゃないわ」


「そう・・」


アスカの意気込みは相当な物。
何が何でもその日にきめるつもりだ。
その執念ともいえる気迫は、ミサトにとって不可解なものにしか思えない。
たった一人の男をつかまえるだけなのに・・

しかも彼女は有り余る才能と天賦の美貌を持ち合わせている。
これから先の人生で、シンジ以上の男と出会う機会など幾らでもあるはずだ。
何もシンジにこだわる必要などない。


「一つ聞いていい?何でシンジ君なの?
アスカならもっと・・」


「愚問ね。
アタシはシンジがいいの、それ以外の誰でもダメ。
これが答えよ。
それに、シンジはこれからもっともっといい男になるわ。
ミサトが悔しがるくらいにさ」




自分が失ってしまった物を持つアスカが、とても眩しく見えるミサト。
汚れた自分が卑しく思えた・・







クリスマスイブ・・


パーティ当日は、シンジもアスカもかなりの緊張感を持って迎えている。

アスカはとにかくシンジからの告白が待ち遠しくて落ち着かない。
ヒカリやマヤと部屋の飾り付けや料理をしていても上の空といった感じ。

シンジは結局段取りすら決められずに、今日に至ってしまった。
あれこれ考えすぎてまとまらなかったのだ。
それでも、二人きりで話が出来るように努力はしている。
パーティが始まってすぐ、偶然にも台所でアスカと二人になったシンジは言った。


『パーティが終わったら、二人で話がしたいんだ』


無言で頷くアスカを見て、シンジは今夜が記念すべき日になることを確信した。



「シンジ、これからゲームでもやらないか?
こういうパーティじゃお約束だろ?」


「こら、相田!
碇君達は明日も訓練があるのよ。
無理させちゃダメじゃない」


ケンスケの誘いにヒカリがすぐさま反応する。
学校も休みに入ったし、ゲームなど始めたらいつ終わるか分からない。
アスカとの約束もある。


「そ、そうだったな・・済まん。
じゃあ、俺はこれで帰るとするよ」


「何や、もう帰るんか?ケンスケ
洞木はどないすんねん」


「私も帰るわ。
この前のパーティの時、遅くなってお父さんに怒られてるし。
当然、あなた達が送ってくれるんでしょうね?
女の子を一人で帰すなんて言わないわよね?」


「しゃあないの・・ワイも帰るわ」


実際、トウジは仕方ないのではなく、ヒカリとケンスケをふたりきりにしたくなかっただけ。
この辺はヒカリの計算が働いている。
好かれているというのも悪い気はしないし・・

冷静に見れば、トウジもいい人間であることには違いないのだ。
好きになれる男かもしれない。


「じゃあね、アスカ。今日は楽しかったわ」


「うん、アタシも楽しかった。
鈴原!相田!しっかりとヒカリを守るのよ!」


「「はいはい」」


三人が出ていった後、ミサトも行動を開始する。
約束をした以上、やることはやらねばならない。

加持には適当な理由をつけて事前に話をしていた。
微笑ましいカップルを見守るのもいいのでないか・・・と。

加持が本心でアスカをどう思っているかは知らない。
単なる駒か、あるいは性的対象として見ているのか・・
彼の身辺調査報告書には、彼に数人の愛人がいてしかも、その内の二人が高校生と書かれていた。
それから考えれば、アスカにいずれ手を出そうとしていたとも考えられなくはない。

成功したとも思えないが・・


「加持!酒のないパーティにも飽きたわ。
これから飲みに行くわよ!
リツコとマヤちゃんも一緒だからね」


「そうだな、これからは大人の時間か。
リッちゃんはいいとして・・マヤちゃんも付き合うのかい?」


「私はご遠慮します。
レイちゃんと帰りますから」


「付き合い悪いわね、マヤちゃん。
それだから彼も出来ないのよ」


「余計なお世話です、葛城さん。
レイちゃん、行くわよ」


「はい・・」


レイを連れてマヤが出ていく。
そしてミサト、加持、リツコも・・

アスカとシンジは、みんなが出ていった後の閑散とした部屋で暫くぼーっとする。

何をやっていいか分からない・・そんな感じ。

しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
これから二人だけのイベントがあるのだから。


「まずは片付けようか、アスカ」


「そうね。
綺麗にして、それから・・・ね?」


「うん。
それから・・だね」






この夜、この日は、二人にとって生涯忘れることのない日となった。

使徒が現れるのは、この日から丁度二年後・・


でらさんから『こういう場合』シリーズのお話をまたもらいました〜。

なるほど告白はこういう風にいったのですか‥‥

福音の子らにふさわしい告白の経緯ですね<謎

この世界で使徒が来るのはクリスマスの様子‥‥その頃の描写も是非読みたいものです。

いいお話を投稿してくださったでらさんに読後の感想メールを是非!

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