魅力
作者:でらさん



















前世紀末からすっかりこの国の民に定着した感のあるヘアカラー。
某博士などのように完全な金髪に染めるのも、最近は珍しくない。
小学生中学生でも染める者は多く、ここ第壱中でもその数は多い。

硬派を自称していたこの人物までも・・・


「ト、トウジ・・
何だそれは!


「何やケンスケ、人を化け物のように見おってからに。
ちょいと、髪を茶色にしただけやないかい」


「お前がやるとシャレにならん。
金髪でないだけマシだが」


「ヒカリは金髪がええ言うたんやが、流石にそれは断ったで。
男の意地やな」


「洞木の好みか・・どうりで」


トウジとヒカリは、付き合い始めて半年余りになる。
当初は照れまくっていた二人も現在は落ち着き、空気のように馴染んでしまった。


「トウジったら、お店で土下座までするんだから。
あんまりみっともないから、茶髪で勘弁してあげたわよ」



「え〜〜〜!?鈴原が土下座!?
ヒカリには頭が上がらないのね」


数人の女子に囲まれたヒカリが大声で真相をばらしてしまう。

男の意地を通したというトウジの言葉は、どうやら強がりであったらしい。
トウジの顔に緊張が奔るが、ヒカリの方をちらと見ただけで後は反応無し。

その様子でケンスケは二人の力関係を察し、敢えてトウジに問いつめるような事はしなかった。
友人らしい配慮といえるだろう。


「おっはよ〜〜〜!」


良くも悪くもトウジの茶髪化で盛り上がる教室に、幸せ者がまた一人。
ヒカリより一歩早くシンジとの関係を進展させたアスカである。
今日も、後ろにその恋人を従えての登場。


「騒がしいわね・・何かあったの?」


教室内の様子が気になったアスカが入り口付近の男子生徒に尋ねると、彼はただトウジの方を指さす。
それだけで全てが分かるというように。

そしてアスカの目・・後ろのシンジの視線までもがトウジに向けられる。


「「あ〜〜〜!!」」




得意のユニゾン攻撃。
使徒のいなくなった今でも、それは健在。





放課後・・


シンジとレイだけネルフに招集となった今日、アスカはヒカリとお帰り。
トウジは、ケンスケと男の付き合いでゲーセン。
よって、二人は甘味処で暇つぶし。

頻繁にシンジの携帯へ電話するアスカはヒカリから見れば鬱陶しいが、シンジと行動を共にするレイに対する嫉妬と思うと、可愛らしい気もする。


「ヒカリが金髪好きだとは、初耳だったわ」


「金髪好きって・・何かいやらしいわ」


「だって本当じゃない」


「そうだけどさ」


少女漫画を愛読するヒカリが、幼い頃白馬の王子様に憧れていたとアスカは前に聞いた事がある。
イメージは当然西洋の王族なのだから、金髪好きなのは納得。
現実に付き合っている少年とのギャップは激しいが。


「だからって、トウジに金髪奨めたわけじゃないわよ。
単に似合うと思っただけなんだから」


「・・・鈴原に?」


トウジの角刈りを金髪にした姿を、アスカは頭の中でイメージしてみた。
・・・が、似合うとか似合わないとかそんな問題ではない。


「ヒカリの趣味は、よく分からないわ」


「あら。
それ言うなら、アスカの趣味こそ分からないわ。
碇君は茶髪系が似合うと思うのに、黒のままなんだもん。
みんな言ってるわよ・・何でアスカが碇君に茶髪奨めないのかって」


「アタシは黒髪が好きだし、それを染めるのは勿体ないわ。
ヨーロッパじゃ、東洋の黒髪は憧れの対象でもあるのよ」


「私から見れば、アスカの金髪が羨ましいけどね」


「これが?」


「うん」


よく手入れされたサラサラの髪の毛を指で少し摘み、ヒカリに翳してみる。
と、彼女の目に本当の羨望を感じる。

シンジも事あるたびにこの髪の毛を愛でてくれるし、自分も嫌いではない。
しかし、黒髪に憧れているのもまた事実。
時折見かける長い黒髪の女性を羨ましいと思う。
あの艶は、金髪ではあり得ない。

それに、別の理由もある。


「黒に染めてみようかな」


「黒に染めるの?
勿体ないわよ、そんなの」


「アタシには、アタシの好みとか事情があるのよ。
ヒカリが鈴原に金髪奨めたみたいなさ」


「ふ〜ん・・」




黒髪のアスカも美しいには違いない。
だがヒカリには、納得のいくものではなかった。





ネルフ本部・・


「LCLに改良加えてみたんだけど、どうかしら?シンジ君」


<何か、シンクロがダイレクトに伝わる感じがします>


「予定通りの性能には、なっているようね」


実験棟の制御室に立つリツコの顔に、満足そうな表情が浮かぶ。

長らく、LCLはすでに完成された物として研究の対象になっていなかった。
それを今回、リツコは改良してみた。
シンクロをより安定させるための、一手段として考えたのだ。


「今日はこれくらいにしましょう、充分なデータが取れたわ。
上がっていいわよ、シンジ君・・お疲れ様」


<了解です、赤木博士>


近頃シンジは、リツコを赤木博士と呼びミサトを葛城二佐と呼ぶ。
プライベートな時は以前と同じ。
公私の区別をつけたというところか。
恐らく、付き合っているアスカの影響だろう。

彼女には礼儀も知らない傍若無人の印象があるが、実際はそうではない。

軍隊式の訓練を10年も続けてきた彼女は上下関係に敏感で、ゲンドウや冬月の前では直立の姿勢を崩そう
としないのだ。
ミサトに対してさえ、公式の場では礼を尽くす。
それを、シンジは踏襲しているらしいのだ。

アスカも落ち着いたという評判だし、良い影響を与え合っている理想の恋人同士と言える。

ゲンドウに対しては、まだわだかまりがあるようではあるが・・


「マヤ、データの分析急ぐわよ」


「はい、先輩!」




マヤは相変わらず。




更衣室・・


シャワーでLCLを洗い流し髪の毛をタオルで拭きながら洗面台の前に立ったシンジは、鏡に映った自分
を見て固まってしまった。

別に自分に見とれたわけではない。
そんな趣味はないし、自分の容姿は人並みでしかないと自覚している・・周囲の評価は別としてだ。

彼の固まった理由はこれ。


「ちゃ、茶髪になってる・・」




違和感しか感じない鏡の中の自分が、別人のように思えた。




約10分後 発令所・・


「改良したLCLの副作用かしらね。
データを洗い直す必要があるわ」


「そんな冷静に言われても・・」


脱色し茶髪になってしまったシンジを前にしても、リツコはあくまで冷静。
シンジには、その態度が少し癇に障る。

発令所内にいる女子職員達の視線もどこか変だ。
自分の方を見て、何やら囁き合っている。
笑われているのかと思うと、恥ずかしい。


「体の調子はどうなの?おかしい所とかある?」


「いえ、それは別に」


「なら、心配する事ないわ。
放って置けば、その内元通りになるわよ。
LCLの問題点もすぐ改良出来るし、病気じゃないんだから」


「でも、恥ずかしいですよ」


「今時、茶髪くらいが何だと言うの?
私なんて金髪よ」


「そ、それはそうですが・・」


リツコの金髪は、すでにそれが彼女の一部でありシンジの場合とは違う。
元の黒髪に戻した方が違和感を感じるだろう。


「話はそれだけ?
それだけなら、もう帰りなさい・・アスカが待ってるわよ。
あんまり遅くなると、私が苦情言われるんだから」


「は、はあ・・じゃあ、これで失礼します」


リツコは、データの洗い直しで忙しそうだ。
これ以上愚痴を言って困らせるわけにもいかない。
シンジは、もう諦めるしかないと割り切り、発令所を後にした。

そして彼の出て行った後の発令所では、女子職員達のひそひそ話が広がっている。


「シンジ君の茶髪、いけてるじゃない」


「ホントホント、○ャニーズみたいよね」


「どうして今まで染めなかったのかしら・・
あんなに似合うのに」


「あんた知らないの?
アスカちゃんが強硬に反対してたのよ」


「アスカちゃんが?」




黒髪好きのアスカ。
それを当然知るシンジの帰宅への足取りは重い。





葛城宅・・


「あ〜〜〜!!」


帰宅したシンジを出迎えたアスカの第一声がこれ。

シンジもこれは予想していた。
ついでに張り手の一発くらいも予想していたのだが、それは無し。
代わりに”アタシを裏切った”とか、”もう離婚よ”とか訳の分からない台詞を連発され宥めるのに一時間を要し、
こうなった事情を納得させるのに更に一時間を費やした。

おかげで、夕食は遅れに遅れた。
ミサトが出張だったのは幸運だろう。
彼女がいたら、事態は更にこじれたに違いない。


「で、どうすんのよ、それ」


「どうするって・・・放っておくよ。
黒に染めるのも何だし」


「アタシとしては、染めてもらいたいわ。
アンタが軽くなったみたいで嫌よ」


同じベッド上で、寝る前の一時を雑談して過ごす二人。
ミサトが居ない日は、シンジのベッドで同衾するのが最近の習慣。
同衾して何もしないわけがなく、すでにそういう関係でもある。


「僕は僕だよ、周りはどう見てもね」


「そうだけどさ。
シンジが他の男と同じように見られたら、彼女のアタシとしてはどうもね。
ヒカリに、茶髪が嫌いって言った手前もあるしさ」


「それなら、僕が洞木さんに説明するよ。
ホントの事故なんだって」


「む〜〜〜」


どうあっても、アスカは茶髪が気に入らないらしい。
そんな拗ねた顔をしたアスカを見て黒に染めようかと一瞬考えたシンジだが、思い直すと小遣いの残りが
あまり無い。
メンズやら床屋に行くのは無理だ。

ここは、アスカの機嫌をとるしかなさそう。


「ほら、拗ねないでよアスカ」


「あん・・こんな事で誤魔化さないで」


「やめる?」


「・・・・」




この後・・
シンジが説得に成功したのは、言うまでもない。





数日後・・


茶髪で登校したシンジへの反応は概ね好意的で、特に女子の評価は高かった。
男子はそうでもなかったのだが、これはやっかみが多分にあるだろう。
近頃女子からの人気急上昇中のシンジに対する風当たりは、決していい物ではないから。

トウジは何か勘違いしたようで・・


『センセも、ようやく目覚めたようやな』


肩をポンと叩かれ意味ありげな笑いを投げかけられたが、シンジには何のことか分からない。
ただ、やっぱりトウジに茶髪は似合わないと再確認するだけだった。

そして今日、更に第壱中を驚愕させる事態が展開されている。
それは・・・


「ア、アスカ・・本当に染めちゃったの?」


「どう?似合う?ヒカリ。
シンジは綺麗って言ってくれたわよ」


「ま、眉毛まで・・」


「当然ね。
アタシは、やると言ったら徹底的にやるわ」


赤みが抜けつつあった見事な金髪を漆黒に染めてしまったアスカに、ヒカリは唖然呆然。
まさか本当にやるとは思わなかった。
しかも、眉毛まで染めている。

アスカが美しい事に違いはない。
違った魅力で、美しさを増しているとも思える。

だがヒカリとしては、どこか納得が・・


「元に戻す気ないの?」


「さあね、それはこれからの気分次第ね。
シンジの意見も聞くけどさ」


「はあ〜、勿体ない。
あの金髪が・・」


「何よ、アタシが自分で決めたんだからいいじゃない」


「そうだけど、私は」




アスカが黒髪に染めた理由・・それは一つではない。
表には出せない、誰にも言えない理由もある。

それは・・・


夜 葛城宅・・


「ア、アスカ・・これは?」


「ここは自分で染めたわ。
どう?淫靡でしょ?
黒って、興奮しない?」


「する、するよ!
やっぱりアスカは天才だ!」



「あん♪慌てないの」




何にどう魅力を感じるのは個人の勝手。
アスカが黒髪に憧れたのは、こういう理由もあったということ。


でらさんから色の道のお話(爆)をいただきました。

黒が好きなのですか。そう‥‥下着も下毛(爆)も黒なのでしょうか。

ちょっと趣味が中学生っぽくない気がするのですが(笑)

なかなか濃くって良い話だったです。続きも楽しみですね<続きません

みなさんも是非でらさんに感想メールをお願いします。

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