Mission こういう場合 外伝

作者:でらさん

















戦自はおろか政府さえ従える強大な組織ネルフ。
国連の組織図では事務総長直下に位置し、議会の制約さえ受け付けない。
いや事務総長さえネルフの意向は無視できず、事実上国連を牛耳る世界の頂点。

その中枢たる本部へ今日この日、戦略自衛隊幼年学校高等部に所属する少年二人が訪れた。
一人はアメリカ系のハーフで、ムサシ リー ストラスバーグ。もう一人は、いかにも気が弱そうな外見をした、浅利ケイタである。

二人は、研修生として幼年学校から派遣された。
戦自とネルフの友好の証として何か形に出来る物はないかと両者が話し合った結果、このような形になった。
当初は交換留学生にしようとの話も持ち上がったのだが、ネルフ側が安全保障上の理由からパイロットの派遣に難色
を示して、その話は潰れている。


「き、緊張するな、ケイタ。マナもこんな気持ちだったのかな」


正面ゲートの前に立つムサシは、ここに来るまで巨大組織の名に恥じない威容を誇る施設をマジマジと見せつけられ、
緊張しまくっている。
対して、ケイタの方はそれほどでもない。


「どうかな。
霧島には護衛が付いてたし、あの性格だから、アッケラカンとしてたんじゃないか?
それより、お前が緊張するとは意外だったよ。将官の前でも物怖じしないムサシがね・・・」


「お、俺だって、緊張くらいするわ!
お前の落ち着きぶりの方が恐いぜ」


「士官を目指す人間が、このくらいで緊張してたら恥だよ。
その程度の精神力で実戦を戦えると思ったら大きな間違い」


「君達」


「うわぁぁぁぁ!!」


言葉の途中で突然後ろから肩を叩かれたケイタは絶叫を挙げ、その場を全力で離れた。
そしてゲートの入り口に取り縋り、ブルブルと震えている。
ムサシも肩を叩いた男も、その場で固まってしまった。臆病にも程がある。


「す、すまん、脅かすつもりはなかったんだが・・
君達が困っているようだから、手助けしようと思ってね。
戦自の幼年学校から派遣されたんだろ?君達。話は聞いてるよ」


「し、失礼しました。ぼ、僕は・・いえ自分は、浅利ケイタであります」


「自分は、ムサシ リー ストラスバーグです」


「俺は加持リョウジ。階級は一尉・・出世からは見放されてる人間だ。
まあ、これも何かの縁だな。よろしく頼むよ」


「よろしくお願い致します!一尉殿!」


先ほどまでの醜態はどこへやら・・
直立して敬礼するケイタに、ムサシは溜息を漏らすのだった。





ゲートを前に戸惑う二人を見た加持は、気を利かせてミサトに連絡を取って二人の処遇を聞いてみた。
すると二人を発令所まで連れてこいとの事なので、加持はその言葉に従い、二人を先導して発令所に。
発令所に着いた加持は自分の仕事に戻るため、すぐに出て行く。

今まで見たこともない巨大な作戦指揮所に入ったムサシとケイタは、その空間の広がりに圧倒される。
特に、運動場をそのまま画面にしたようなメインモニターの大きさには感動さえ覚えた。
なにも言わずに立ちつくし、都会に初めて出た田舎者のようにボーっと中を眺めているそんな二人を現実に呼び戻す
ため声をかけようとしているのは、ここを仕切る葛城ミサト三佐。
そして彼女の横に立つのは、綾波レイ、碇シンジ、霧島マナの三人。彼ら三人は今日、戦自からの客を迎えるために
学校を休んでいる。
アスカは出産が近いため、ネルフ医療部特別病棟に入院中。


「いらっしゃい、二人とも。まずは挨拶、いいかしら?」


声をかけられた二人はハッとしてミサトの方へ体を向け、姿勢を正して敬礼。
幼年学校の制服と相まって、その姿だけは一人前に見える・・・姿だけは。


「失礼しました!自分は戦略自衛隊幼年学校高等部二年、浅利ケイタであります!
本日から一ヶ月、よろしくご指導のほどをお願いいたします!」


「同じく、ムサシ リー ストラスバーグであります!」


「零号機パイロット、作戦本部特別顧問の綾波レイです」


敬礼を解き直立の姿勢を崩さない二人に、まずはレイが挨拶を返した。
今日は彼女専用に蒼くカスタマイズされた制服を着ていて、軽く化粧もしている。
そんなレイを見たムサシとケイタは、彼女に目が釘付け。

若手戦自隊員達が女神と崇拝するレイの噂は幼年学校にも届いていて、どこで撮影されたのか分からない写真も多
数出回っていた。
幼年学校でも、レイの人気は絶大なものがあるのだ。
この二人はファンというわけではないが、写真でレイは知っている・・・が、実際に見るレイは、写真など問題にならな
いくらいに美しい。
彼女のすぐ横に立つミサトも綺麗だし、端に立つ嘗てのクラスメート、マナも綺麗にはなった。
でもレイのそれは、基準そのものが違う。先輩達がレイに心酔するのも分かる。


「僕は、初号機パイロットの碇シンジ。よろしく、二人とも」


「「はっ!こちらこそ!」」


ダークグレーの制服に身を包んだシンジに挨拶された二人は体に緊張を漲らせ、揃って敬礼。
シンジの噂も二人の耳に入っている・・決して手を出してはいけない危険な存在として。
噂の域を出ないが、彼は通う学校で格闘係のクラブといざこざを起こし、相手数十人全てを病院送りにしたという。
複数相手の喧嘩など、普通はプロでもしない。ましてや数十人相手など非常識。
が、朗らかな顔と裏腹に隙を見せないシンジの物腰を見ると、それも本当かなと思えてしまう二人だった。

そして、マナにはムサシから声をかける。
昔からマナに思い焦がれた気持ちに変化はない・・・と、ムサシは自分でも思っている。
その彼女と話をするのは、嬉しいものだ。
ミサトにもレイにも目移りしているのは確かだが。


「お久しぶりであります。霧島君」


「久しぶりね、ムサシ。表敬訪問以来かしら?」


「は、はい!・・・え〜と、その」


ムサシは敬語を使おうとするが、慣れない場所のせいか、または思い人を前にしたせいか巧くいかない。
そんな事情を察したマナが、ニコッと笑って助け船を出した。


「普通でいいのよ。普段のネルフは、結構フランクなんだから」


「そ、そうか?なら、お言葉に甘えさせてもらうか。
元気で良かったよ、マナ。おいケイタ、お前も何か言えよ」


「綺麗になったね。別人みたいだ」


「ば、馬鹿!レイさんに誤解されるようなこと言わないでよ!」


ケイタは、思った事をそのまま口にしただけ。別にマナに気があるとか、そんな訳ではない。
古い馴染みに対する挨拶の一環というわけだ。
ところがマナは、ケイタが自分と特別な関係にあると匂わせるような言葉と受け取り、慌てた。
恋人となったレイに誤解されたら・・・
とはいえ、ケイタにそんな事情が分かるはずもない。


「誤解って・・・何を誤解するんだ?」


「あんた達に関係ないわ!じゃあね!
レイさん、学校に行きましょ」


ケイタの問いにも応えず、マナはレイの腕を取って発令所を出て行く。
そのマナを、ムサシが複雑な視線で・・・


「葛城三佐のようなお綺麗な方と一ヶ月もご一緒出来るなんて、自分は幸せであります」


「あ〜ら、嬉しいこと言ってくれるわね。
今夜、食事でも奢っちゃおうかしら」


「いやあ、光栄です。三佐殿」


何も考えていないようだ、こいつは。








初日の予定を全て終えネルフの用意した宿舎(独身寮)に帰った二人は、それぞれ風呂に入った後、今日一日をふり
返っての反省会議。
研修を終えて帰ったら学校にリポートを提出しなければならないので、こういう事はマメにやっておかないと後で苦労
する。
が、真面目な顔のケイタとは違って、ムサシの顔は緩みっぱなし。ミサトと一緒の夕食が余程嬉しかったらしい。
ケイタは、しっかりしろとでも言うようにムサシの頭を軽く叩いて話を始めた。


「とりあえず初日は過ぎたけど・・・どう思う?」


「葛城三佐の事か?美人だよな・・・
伊吹一尉も綺麗だけど、どこか子供っぽいしな。
赤木博士はアダルト過ぎてちょっと俺には」


「馬鹿!」


「馬鹿とは何だよ。葛城三佐が美しくないとでも言うのか?」


「そんな事はないが、赤木博士の美貌を理解できないお前はお子様・・じゃなくて!
霧島と綾波特別顧問の関係だよ!先輩達から調べてくるように厳命されただろうが!」


「・・・・・
ああ!」


「ああじゃないだろ、ああじゃ・・」


ムサシのあまりの脳天気ぶりに、ケイタは頭を抱えてしまう。
相棒がこの調子では、先輩の隊員達から下命された指示の完遂は難しいかもしれない。

今回の二人の派遣には、ちょっとした裏話がある。
ネルフと戦自の上層部が話し合って決めた今回の研修生派遣・・・その元を辿ると、戦自若手隊員グループに行き着く。
彼らの熱意が今回の話を実現させたと言っても過言ではない。
このグループは使徒戦時にネルフと共同戦線を張った部隊に所属していた士官が中心となっており、士官に限らず、
下士官や兵卒も加わる一大勢力でもある。
彼らはネルフとの友好を第一とし、常日頃から上層部に友好を維持発展させるようなイベントの開催を要望していた。
今回の幼年学校学生の派遣は、本格的なイベントのテストケースみたいなものだ。

そして派遣に伴い、グループの上層部からケイタ達に下された秘密指令も存在する。
それは、マナとレイの関係・・・その真意である。
近頃レイに恋人ができた。しかも相手は同僚の女性パイロットとの噂が戦自内に衝撃をもたらしたのは、数ヶ月前。
ネルフ関係者に問いただしても要領を得ない応えが帰ってくるばかりの状況に業を煮やしたレイのファンクラブ上層部
は、戦自幹部にネルフとの友好というもっともらしい理由を挙げて働きかけ、調査員を送り込んだのだ・・研修生という形で。
戦自内に一大勢力を張るグループとはつまり、レイを崇拝するファンの集まり。

ムサシとケイタは、二人の関係を明らかにせよとの密命をおびているわけ。


「とにかく、職員にさりげなく話しかけて情報を集めるんだ。
普通の男女関係なら隠す事もないだろうが、女の子同士の関係は隠すだろうからな。
チャンスがあれば、本人に問いただしてもいい。分かったか?ムサシって・・・何寝てんだ!人の話を聞け!」


「ん?ああ、寝ちまったか。どこまで話したんだっけ?」


「・・・もういい」


やる気を見せないムサシに、ケイタは早くも疲労の色を濃くしていた。







二日目から、ケイタは精力的に・・ムサシは暇を見て職員と雑談し、マナとレイの関係に探りを入れていた。
しかし、みんな口を揃えて二人は仲のいい友達だと言い、レズ説を否定する。
いつも二人を見ている職員達がそう言うのなら、それが真実かもしれないとケイタも一時は考えた。
だけれども、初日にマナがレイの腕を抱えて歩いていった光景がどうしても気になる。

そんな時、ひょんな事からマナと二人きりになるチャンスが巡ってきたのである。
スケジュールの都合でムサシと別行動になったケイタが休憩所で休んでいると、マナが一人で突然現れたのだ。
聞けばレイの担当する零号機の調整が遅れていて、一時間ほど帰りを待たなければならないという。
またとない絶好の機会だ。二度と無いかもしれない。
ムサシとケイタのスケジュールは厳密に決められていて、マナと接する機会もかなり限られるから。


「いきなりだが、単刀直入に聞くぞ霧島。
答えづらいかもしれんが、正直に答えてくれ」


「性格変わったんじゃない?ケイタ。あんた、そういうキャラだったっけ?」


「僕のキャラなんか、どうでもいい!」


「まあ、いいけど。
エヴァに関する事は、何も喋れないわよ。あんた達、まさか・・」


マナは、ケイタ達がネルフの機密を狙っているのかと一瞬疑う。
いかに友好関係にある組織同士とはいえ、情報収集は活発なはず。


「誤解するな。ネルフの機密なんか、僕達に扱えるもんか。
聞きたいのは、ごくプライベートな事なんだ」


「ムサシから頼まれたの?」


「え?」


「わたしに付き合ってる人がいるかどうか聞いてくれって、ムサシに言われたんでしょ?」


「・・・ムサシは関係ない」


マナの的外れな問いを、ケイタは苛立たしく否定した。
ムサシは昔からマナに恋心を持っていたし、今でも意識しているのは確実。
でもそれは段々落ち着いてきており、実際今のムサシは、ネルフの綺麗なお姉様方に夢中。特にミサトに入れ込んでいる。
マナに思いを打ち明ける状況にはない。


「って事は・・・
あんた、わたしが好きだったの?ゲイじゃなかったんだ。
いつもムサシとつるんでるから、てっきりそうかと」


マナの幼年学校時代、ケイタとムサシの怪しい噂は、その手の話が好きな女子生徒の間で流れていた。
マナも、ムサシはともかくケイタは怪しいのではないかと疑っていたのだ。
ケイタが女の子を好きになったとか言う話も聞いたことがなかったから。


「何で僕が・・
期待に添えなくて悪いけど、僕はノーマルだよ。
アダルト好みだけどね」


「あら、そう。
じゃあ、わたしの答えも決まってるわ。あんたと付き合う気は無いの」


「だから違うって。
アダルト好みだって言ったろ?」


「じゃあ何なのよ、一体。何が聞きたいの?」


「霧島は、綾波さんと付き合ってるのか?」


「付き合ってたら何なのよ。ケイタに関係ないでしょ?」


「そ、それはそうなんだが・・ちょっと、気になってな」


あっさりと認めたマナに、ケイタは逆に気圧されてしまう。
のらりくらりと逃げるだろうと予想していただけに、反応に困る。

しかし、あのレイと付き合っているとは・・


「わたしはレイさんが好きだし、レイさんも私が好きだって言ってくれるわ。
お互いが好きだって言ってるんだから、いいじゃない」


「いや、別に悪いとは・・」


「あ、レイさんだわ。
今の話、喋るなとは言わないけど、あんまりあちこちに広めないでね。
雑音が入るのイヤだから。
じゃ、またね」


マナはレイに駆け寄ると、いつかのように腕を絡めて歩いていった。
ケイタは幸せそうな二人の後ろ姿を見ると、興味本位で探ってはいけない関係なのだと・・
そっとしておいてあげようと思うのだった。

そして、もう一人のお気楽な少年はというと・・・


「か、加持一尉・・これは、何という技でありますか?」


なぜか加持と格闘訓練に励んでいるムサシは現在、加持に寝技で押さえ込まれている。
が、加持の自由になっている片手が体のあちこちを這い回って気色悪い・・こんな技は知らない。


「ふふふふふふ・・・これはな。
人呼んで、”美少年殺し”・・・俺が最近編み出したオリジナル技だ」


「び、美少年殺し?
か、加持さん、あなたまさか!


「ふっ、ミサトの監視が厳しいから、女との浮気が難しくなってな。こっちの道に目覚めたってわけだ。
なあに、苦しいのは一瞬さ」


「だ、誰か・・」


「往生際が悪いぜ・・・せ〜の」


「○△☆◎■◇▽×〜〜〜!!」




この後・・
ムサシが変な道に目覚めたかは、定かでない。



でらさんから『こういう場合』の外伝をいただきました。

人生色々といいますが、加持はますますヤヴァイ人になっていますな・・・

どこまで進化するのでしょうか?(退化かも)

相変わらずのでらさん節が楽しめますね。

皆様も是非読後にでらさんへの感想メールをお願いします。