西暦2017年 12月24日・・・・・


東海沖の海中を進む人型をした異形の物体。

かつての人の町を漁礁とした魚たちが群れ集い、透き通るほどの透明度を持った美しい海・・・

その美しい景色を陵辱するように物体は進んでいく。

が、後に第三使徒サキエルと呼称される事になる彼(彼女?)は、裏死海文書の指し示す予言から
約、二年遅刻していた。

神の気まぐれか、ただ単に寝過ごしただけなのかは分からない。

しかし、この二年という時間は第18使徒であるリリン・・・人間世界に大きな影響を及ぼした。



利益を得た者。

全てを失った者。

夢を諦めた者。

新たな夢を見出した者。

来るべき苦難に備え、待ち続けた者達・・・・・



この二年で凝縮されたその思いが今・・・・弾けようとしている。








こういう場合 プロローグ
作者:でらさん






ネルフ本部 発令所


「正体不明の物体、海面に姿を現しました!」


「物体を映像で確認!」


「波長パターン青!間違いありません、使徒です!」


巨大な主モニターに映し出された物体を見て、息を呑む発令所の職員達。

余りに非現実的な存在。

生物学上在り得ないとされている大きさ。

しかし、映像の中の生物?は問題なく地上を歩き、ハエのように群がる地上攻撃機の攻撃を
これまた問題なく受け流している。
物理上の損害を受けているようには見えない。

それでも彼らはうろたえたりはしない。
この数年間で非現実には慣れている。
その上、彼らには確実な力があるのだから。



「十七年振りだな」


「ああ」


「遅刻だな」


「ああ」


「まあ、我々にとっては都合が良かったがな」


「ふっ、使徒に感謝ですか?冬月先生」


発令所全てを見下ろす位置で、演習のように落ち着き払っている人物。

司令 ゲンドウと副司令 冬月・・・・・

眼下で慌ただしさを増している職員達の動きとは対照的。


「国連軍、N2爆雷投下!」


「無駄と分かってやるとは、税金の無駄遣いだな」


「彼らの面子も立ててやらねばなりませんので」


使徒にATフィールドが存在する事は予想されていたし、エヴァを使って耐久実験も行っており
データもある。
N2系の兵器でも致命的な損害が与えられない事は、軍関係者なら常識。
通常兵器の攻撃も無意味ではあるのだが、何もしないのでは国連軍の存在意義が問われかねない。
ゲンドウも彼らの意を汲み取り、出撃を命じたのだ。


「国連軍司令部より、通信です」


「私だ・・・・・・ふむ、いやそちらの立場も分かる。
ご苦労だった。後は任せたまえ」


「あちこちにいい顔するのもいいが、予算も考えてくれ。
この数時間でいくら使ったと思っとる」


「ふっ、後はお任せします」


「おっ、おい!・・・息子のとこか・・初めての実戦だからな。
葛城君、エヴァはどうか」


はっ!いつでも行けます!


階下に消えたゲンドウを見送ると、今まで状況を見守るだけだった葛城 ミサト一尉にエヴァの状況
を確認する。
この二年・・・使徒が襲来しない事により肩身の狭い思いをしていたミサトは、水を得た魚のように
生き生きとしている。

作戦本部の解体も噂されていただけに無理も無いだろう。


「よし、正式に指揮権が委譲されたら即出撃だ。いいな?」


了解であります!


冬月が思わず引いてしまうほどの大きな声で応えるミサト。
ミサトの横に立つ技術部統括責任者の赤木 リツコ博士も耳を押さえたほど。


「やる事ができて嬉しいのは分かるけど、気合入れすぎよミサト」


「ふん、あんたに分かるもんですか。
この二年、私がどれだけ肩身の狭い思いしたか・・昇進だって見送りになるし
・・・でも、それも今日で終わり。
今日から作戦本部がネルフを仕切るのよ!


目を輝かせ、拳を握り締めて力説するミサトに呆れながらも
リツコは久しぶりに見るミサトの元気な様子に安心してもいた。
加持と結婚したとは言え、些細な事で喧嘩が絶えないとも聞いていたし・・・
その度にシンジ達の所に泊りにいくので、アスカからリツコに苦情の電話が来るのだ。


『アンタ親友でしょ?アンタが引き受けなさいよ!邪魔でしょうがないわ!』


リツコにも引き受けたくてもできない理由はあるのだが。


「国連軍司令部から伝達!指揮権の委譲を確認!」


「了□解、いくわよ□・・・みんな、聞いたわね!初めての実戦よ、準備はいい!?
何も心配する事はないわ!訓練通りやればいいんだから!」


ミサトのテンションは上がるばかり、出撃態勢で待機していたレイ、アスカ、シンジはちょっと戸惑い気味。


「何、興奮してんのよミサトのやつ」


「やっと来た使徒だからね。仕方ないよ」


「・・・・・・・・・・葛城一尉・・うるさい」


通信を常時繋いでいるエヴァ内で小声で話すパイロット達・・・が、ミサトはしっかり聞いていた。


「聞こえたわよ、アスカ。私は興奮なんてしてないわ!高揚してるだけよ!」


「どっちでも同じでしょ?どうでもいいから出撃命令出してよ。
さっさと終わらして、クリスマスパーティの準備するんだからね。
これだから嫁き後れは・・・・・」


「また聞えたわよ、アスカ!私は結婚してるのよ!」


「へへ□んだ、30過ぎてお情けで結婚して貰ったくせに!」


何ですって□□□!!


緊急事態にも拘わらず止まらなくなる口喧嘩。
このままでは出撃命令が出ないと判断したレイが、独自の判断で出撃する。
モニターに写るマヤに目配せして。

マヤも慣れたもので、すぐに零号機のカタパルトのロックを解除。
こんな事はいつもの事のようだ。


「零号機、出ます。
フォーメーションはケース6-Bでいくわ。いいわね、碇君」


「了解、僕もすぐに出るよ」


「じゃ」


バシュッ


常識外れのパワーを持ったリニアカタパルトが、エヴァの巨体を強烈なGと共に地上に射出する。
その震える空気はアスカを正気に戻した。


「ちっ、アタシとした事がこんな時に冷静さを失うなんて・・・
シンジ!アタシ達も出るわよ!」


「フォーメーションはケース6-Bだ。いいね!」


「了解!任せといて!弐号機、出ます!」


「初号機、出ます!」


発令所では一人取り残されたミサトがバツの悪い顔で、出撃していくエヴァ三機を見守っていた。

複雑な表情。

ミサトの命令もなく、自分達の判断でフォーメーションまで決めてしまう彼ら。
二年の時間はこんなところにも影響を与えている。


「さっきまでの勢いはどうしたの?ミサト」


「・・・・・・私、いらない人間かな・・どう思う?リツコ」


「あの子達をあそこまで育て上げたのはあなたよ。自信を持ちなさい」


「とは、言ってもね・・・」


主モニターでは、先行した零号機がポジトロンライフルで使徒の足を止めるべく射撃体勢に入った姿が
映し出されている。

後方からはアクティブソードを持った初号機と弐号機がかなりの速度で使徒に突進していた。
全速ではない。
最大戦速を出すと音速を超えてしまい、その衝撃波で街に甚大な被害をもたらすからだ。

その辺は今までの訓練で実証済み。

因みにミサトは一言の指示も出していない。


「あれ見てよ。私が指示出さなくたって完璧じゃない。
他のみんなだって、あの子達に動き合わせてるしさ。
最近じゃ、私よりレイと打ち合わせする時間の方が長いのよ」


「そ、そう?私は違うわよ・・」


オペレーター達にじと目の視線を投げかけ、無言の圧力を加える。
彼らも思い当たる節があるだけに何も言えない。
事実その通りなのだから。


「使徒の足が止まりました!」


「初号機、弐号機、使徒と接触!」


レイの的確な射撃により足を止めた使徒。

そこへ、左右から突撃してきた初号機と弐号機がATフィールドを一瞬で中和。
初号機が羽交い絞めしている間に、弐号機がコアを抉り取った。
出撃して数分の出来事。
断末魔の爆発もさせない完璧な勝利。

あまりの見事さに、ついエリートたるオペレーター達も任務を忘れていた。


「日向君、報告は?」


「あ、ああ、申し訳ありません。目標、沈黙・・・事後処理に移ります」


「じゃあ、後は頼むわね。私は他の部署との調整にあたるわ
リツコ!アンタも来るのよ!」」


「分かってるわ、そんなに急がないで」



ウオォォォォォ!!!


ミサトとリツコが発令所を出たと同時に、発令所の中で歓声が沸き起こった。

勝利の歓声。

そして忍従の時が終わった事を祝う歓声でもある。
彼らのほとんどは、今まで冷や飯食いとか無駄飯食いとか言われて肩身の狭い思いをしていた
作戦本部の所属である。
そんな事情を知っている冬月も壇上から感慨深げに、歓声に沸く発令所を見守っていた。


「使徒の来襲はめでたい事ではないが・・・・・まあ、いいだろう。
あの戦い振りを見れば、自信も出るしな。
しかし、碇は間に合ったのか?・・息子の出撃を見守るつもりだったようだが」




その頃、ゲンドウは・・・・・


「ええ□い、ここはどこだ!さっぱり分からんぞ!」


道に迷っていた。

司令なんだから覚えとけよ・・・・






その夜、旧葛城邸・・・・・


二人で用意した料理の数々・・・とはいかなかった。

戦闘の後、事後処理や戦闘報告などで料理の買出しどころではなかったのだ。
街中も特別非常事態宣言のあおりを受けて、クリスマス気分など吹き飛んでいたし。

それでも、あり合わせの材料で体裁は整えた。


パーティの始まりは思い出の場面から・・・

アスカとシンジが正式に恋人同士になった場面を再現する。

蝋燭だけを灯し、小さなテーブルにはシャンペングラスが二つ。

浮かび上がる二人の顔・・・
あの頃より大人っぽくなったお互いの顔に、時の流れを感じる。

あの時は、赤の他人。
今は婚約者。


「大事な日にとんでもない事になっちゃったけど・・・・メリークリスマス」


「ふふ・・でも、シンジがいるから問題無し・・・・メリークリスマス」


・・・チン


軽く合わさるグラス。


「これから戦いの日々が続くんだね。ひょっとしたら使徒は来ないかもしれないって、思ってた」


「使徒を倒すのがアタシ達の仕事・・人類の救世主だもん。それに・・・」


「それに・・・なに?」


「それにさ、使徒とかエヴァが無かったら、アタシ達会えなかったかもしれないんだよ?
ほんの少しだけ、使徒には感謝してるんだ、アタシ」


「・・・・そうだね。そうかもしれない」


見詰め合う瞳と瞳。

互いの目の中に映るのは、人生のパートナーとして誓い合った男と女。

まだ早いと人は言う。

でも、二人にとっては出会いが早かっただけ。




「これからもよろしく、アスカ」


「アタシこそ、末永くよろしくね」





安定した二人の関係とネルフを取り巻く状況。

しかし、ここまでくるには多くの犠牲・・そして汗と涙が流されている。

ゼーレの排除。

ネルフ支部間の抗争。

ミサトと加持の結婚。

シンジから身を引いたレイ。


それらが語られるのは、次回から・・・・・


 でらさんから早速プロローグをいただきました。

 なんというか‥‥2年の歳月がそれぞれ違った人生の歩み方をもたらしたという感じですね。

 次回からはNervの過去へと遡り、物語の始まりを見ていくようです。楽しみですね。

 みなさんも是非でらさんに感想メールをあげてください。

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