遊園地パニック

その日も洞木ヒカリは悩んでいた。

洞木ヒカリ14歳
第三新東京市の第一中学2年A組で委員長をやっている少女。

その視線の先には
いつも通り、喧嘩している二人の友人の姿があった。

惣流・アスカ・ラングレー
碇シンジ

「なんでアンタはいつもそうなのよ!。」

「アスカには関係ないだろ。」

「なんですってぇええ。」

二人がお互いに好意を抱いているのは周知の事実。
だが、その話題になると二人して顔を赤らめ俯いてしまう。

ヒカリの懸念もそこにあった。
親友としてアスカには幸せになってもらいたい。

「なんやまたアイツらやっとるのか・・。」

そんなヒカリの元へジャージ姿の少年が姿を現した。

鈴原トウジ

トウジは机に座るヒカリの元へとやってくるとそう言った。

「う、うん。」

一方のヒカリもそんなトウジの姿を下から見上げると
顔を赤らそっぽを向いてしまった。

「まったく毎度毎度まったく飽きんやつらやのぉ。」

「そうね。困ったものね。」

二人並んで喧嘩を続けるアスカとシンジへと視線を送るヒカリとトウジ。

この二人もシンジとアスカ同様微妙な関係ではあるのだ。


「このバカシンジ!。」

パシンッ

アスカの怒声と共に放たれるアスカの平手打ち。


「をぉ、またやりおったわ。」

半ば関心したようにトウジ。

「ちょっと鈴原、感心してる場合じゃないでしょ。」

それをたしなめるヒカリ。

その視線の先、アスカは怒ったようにシンジの元から去り、
シンジは平手打ちを受け、昇天していた。


「まぁ・確かにこのままじゃシンジのやつもアレやなぁ。」

「だからね・・ちょっと耳かして。」

ヒカリはそう言い、トウジの耳へとそっと囁いた。

「をぉ、そいつはおもろいな。」

「じゃあ、鈴原は碇君をよろしくね。私はアスカを。」

「まかせとけ。」











そして・・次の日曜日

葛城邸

朝9:00

「あれ?シンジ、どっか出かけるの?。」

黄色のポロシャツにジーパン姿のシンジに
勘を働かせ、問いかけるアスカ。

「うん、ちょっとトウジとね。アスカも?。」

アスカの恰好は白のワンピース
鈍感なシンジでもうっすらと化粧すらしているアスカが
どこかで出かけることぐらいは分かった。

「うん、ヒカリとちょっと。」

そう言いシンジと並ぶように玄関へと向かうアスカ。


「「それじゃ行ってきます。」」

ユニゾンで一人見送るペンペンを後にでかけるシンジとアスカ。



「それで?シンジはどこまで行くの?。」

「駅まで。」

晴れた歩道を二人並んで歩く二人。
遠目のその姿はどう見ても恋人同士のそれであった。

「で?どこに行くの?。」

「それが・・聞いてないんだ。」

「はぁ?あんたバカァ?。なんで行き先も聞いてないのに
出かけるのよ。」

「ご、ごめん。」

「まぁたアンタはそうやって謝る。」

アスカは呆れたようにそう言った。

「ところで・・アスカは?・」

「へ?。」

「アスカはどこまで行くの?。」

「え?え〜〜とね・・。」

思わず思い悩むアスカ。

まさか自分もヒカリから聞いていないとは言えなかった。
言及しても「楽しい所よ」とだけ。

「あ、アンタには関係ないでしょ。」

困ったアスカはそう言ってシンジを一蹴。
アスカはシンジからの質問を一切シャットアウトすることにした。



やがて二人は仲良く(?)並んで
第三新東京市駅へと姿を現した。

「よ、来たな。」

その視線の先には
麦わら帽子に薄いピンクのワンピース、バスケットを抱えたヒカリと
いつもと変わらずジャージ姿のトウジ
そして、水色のシャツに迷彩の短パンにカメラを携えた
相田ケンスケがそろって立っていた。

「なんであんた達が一緒にいるのよ。」

怪訝そうにトウジとケンスケを見やりながらアスカ。

「まぁまぁアスカ、落ち着いて。」

そんなアスカをヒカリは制止した。

笑いながら制止するヒカリの顔を見て、

「ヒカリ・・謀ったわね。」

とアスカはヒカリはジロォッと睨み付けながそう言った。

「ほ、ほら。こういうのはみんなで行ったほうが楽しいじゃない。」

アスカの追求を誤魔化すようにヒカリ。

一通りまとまったところで

「そう言うわけやシンジ。
今日はこの五人で遊園地行くで。」

一人キョトンとするシンジへとトウジが主旨を説明した。





ガタンゴトン


ガタンゴトン

ガタンゴトン

電車は進み、一路
第2東京市にある一大テーマパークへと向かっていった。

談笑するトウジ、ケンスケ、シンジの3人。

そんな中、アスカは一人、しきりに電車の窓に映る
自分の髪を気にしていた。

「どうしたの?アスカ。」

不思議そうに親友を見つめるヒカリ。

「な、なんでもないわ。」

まさか

(シンジと出かけるんだったらもっとオシャレしてくればよかったなぁ)

などと思っていたなど、ヒカリには言えないアスカであった。

「変なアスカ。」

ヒカリは笑いながらそう言った。

「む、言ったわねぇ。」

と、頬をふくらませ、アスカは反撃を開始した。

「そう言うヒカリだって・・さっきからどこ見てるのかなぁ?。」

「え?。」

思わずドキッと硬直し、ヒカリはチラッと再度視線を送ってしまった。

その視線の先には例のジャージ男の姿が。

「まぁ、気持ちは分かるけどねぇ。」

そう言いながらアスカはヒカリの視線を追うように
いやらしい笑みを浮かべながらジャージ男へと視線を送った。

だがその視線も、次第にその横のシンジへと移っていった。

そんな視線にトウジ達と談笑していたシンジはふと気づき、
アスカに向かい微笑みを向けた。

その瞬間、

「ふんっ。

と、その姿にバッと顔を赤らめ、アスカはその背を向けてしまった。

だが、それを見ていたヒカリは、

「くすっ。」

失笑。

「な、なによ。」

顔を赤らめながらヒカリへと詰め寄るアスカではあるが、
何しろそんな様子では説得力に欠けるというもので、

「なんでもないわ。ふふふふ。」

ヒカリの顔から笑みが消えることはなかった。

「もういいわよ。」

アスカは怒ったようにそっぽを向いてしまった。











「さぁて、それじゃ行くでぇ。」

遊園地の門の前へとやってきた一行はトウジを
先頭に中へと入っていった。



最初はシンジ以外のメンバーの意見の一致により
ジェットコースターへと乗り込んだ。

「わぁあああああああああああああ。」

響き渡るシンジの絶叫。

ジェットコースターに乗り込んだ後、
シンジの顔は顔面蒼白、ハァハァハァハァと酷く疲れたような顔をしていた。

「まったくだらしないのぉ。」

「まだ一つ目だっていうのに・・。」

呆れ顔でシンジへと言い放つトウジとアスカ。

ケンスケとヒカリはそんなシンジへと気の毒そうに視線を送っていた。

続けざまに
様々なアトラクションへと乗り込んでゆく一行。

だが、どれもこれもスピードの恐怖を伴い、
更にシンジを追い込んでいった。

「おかしいのぉ。シンジ、あんさんエヴァのパイロットやろうが。」

「なんでこんなに弱いのかしら。」

呆れ顔を通り過ぎ、トウジとアスカは不思議そうに
シンジへと声をかけた。

「そ、そんなこと言われたって・・苦手なものは苦手なんだから。」

心底疲れたように言うシンジを見かね、

「じゃあここら辺でお昼にしない?。」

とヒカリが提案。

一行は遊園地の広場へと身をよせ、お弁当タイムへと突入した。

「「「をぉ!。」」」

ヒカリのもってきたバスケットには
色様々なサンドイッチ、おかずがひしめいており、
男性陣3人はそろって声をあげた。


「いやぁ、委員長はホント料理がうまいのぉ。」

早速と言わんばかりにサンドイッチを頬張りながら、
トウジはヒカリを褒め称えた。

「そ、そんなこと・・。」

顔を赤らめ俯くヒカリ。

「ホントに美味しい。」

と、声を漏らすシンジ。

それにアスカは賛同しながらも・・
自分でも得もしれない思いに胸を締め付けられそうになっていた。



ヒカリのお弁当を粗方片づけた後、

「じゃあさ、午後は別々に回らない?。」

ヒカリがそうメンバーに提案を持ちかけた。

「じゃあ、ワイと委員長とケンスケで。
そっちは惣流とシンジでまわりぃな。」

すぐさま賛同するトウジ。

「ちょ、ちょっと!。勝手に・・。」

慌てて抗議の声をあげるアスカの声を遮るように、

「それでいいじゃない。」

ヒカリがそう言った。

そこに湛えられていた笑顔にアスカは
親友の企みを全て悟り、

「ヒカリ・・謀ったわね。」

ヒカリに向かい一言、そう言った。

「あら?アスカは何か不都合でもあるの?。」

「え?。」

「いいじゃない。いつも家では一緒なんでしょ?。」

「そりゃそうだけど・・・。」

突然の追求に言葉もないアスカであった。

「じゃあ相田君、鈴原。行くわよ。」

そう言って二人へと声をかけ、

「アスカ、ごゆっくりぃ。」

そう言い残し、

「ちょ、ちょっとぉ!。」

更に呼び止めようとするアスカの声を無視するように
ヒカリは二人を残して行ってしまった。



呆然と佇むアスカとシンジ。

「あ・・あの・・。」

おずおずとシンジが言葉を発する。

「どうしようか?。」

「アンタバカァ?どうしようかじゃないでしょ。
行くわよ。」

そんなシンジに憤りを感じながらも
アスカはシンジと共に午後の遊園地へと向かっていった。



午前中のジェットコースター地獄とは違い、
午後は一転してスローペース。

シンジとアスカは
飛び出す映画や観覧車等へと足を運び、
久々の休みを満喫していた。


「なかなかあの二人いい雰囲気じゃない?。」

「あぁ。」

アスカ達とは別の行動をするとは言ったものの
ヒカリ達は二人の後を付け、隠れるように二人の様子を観察していた。

そこには
相田ケンスケの姿はいつの間にか消えていた。

その本人はと言うと・・・

トウジ達と別れ、一人遊園地に来ていた女の子の後を追い回し
写真を撮っていた。





「ねぇ、シンジ。次あそこ行ってみない?。」

「え?。」

アスカの指さした方向を見、再び顔面蒼白にするシンジ。

『お化け屋敷』

「い、いやだよ。」

「はは〜ん。」

強く否定するシンジに目を光らせるアスカ。

「さてはアンタ・・お化け屋敷が怖いじゃ。」

「そ、そんなわけ・・。」

そう言いながらもシンジの体は恐怖の為震えていた。

「じゃあいいじゃない。行きましょ。」

アスカはそう言うと半ば強引にシンジの手を繋ぎ、
お化け屋敷へと向かっていった。

恐怖におののくシンジは気づかなかったが、
アスカはシンジと手を握ってることにほのかな
喜びを感じていた。

また、それは一部始終、

「やるわねアスカ。」

遠くから見つめるヒカリとトウジの目に映っていた。





ヒュー

    どろろろろろ

お化け屋敷特有の効果音と闇の中、
シンジはまるでアスカの後ろに隠れるように歩みを続けていた。

「ちょ、ちょっとシンジ。
あんまくっつくんじゃないわよ。歩きにくいじゃない。」

「そ、そんなこと言われたって・・うわぁあああ。」

突然目の前に現れた火の玉に悲鳴をあげるシンジは、
悲鳴をあげ、よりいっそう強くアスカの腰へとしがみついた。

「ちょ、ちょっとバカ、どこさわってんのよ。」

「で、でも・・うわぁあああああ。」

再び悲鳴をあげるシンジ。

それと共により強くアスカへとしがみつくシンジ。

「何やってんのよ。こんなの作り物じゃない。」

そんなアスカとは対照的に平然とお化け屋敷を歩くアスカ。

だが暗闇の為、よく見えはしないがその顔は限りなく朱に染まっていた。

「うわぁあああああああああ。」

「ちょ、ちょっとシンジ。」

さすがのアスカもシンジがここまで恐がりだとは
思ってなかったらしく、困ったように声をかけた。

「だ、だって・・・うわぁああああああ。
あ、アスカぁああああ。」

「もう、仕方がないわねぇ。」

アスカはそう言うとシンジの手を取り、
しっかりと寄りそった。

「あ、アスカ?。」

突然のアスカの行動に戸惑った声をあげるシンジ。

「ほら、何してんのよ。行くわよ。」

「う、うん。」

暗闇でよく見えないがその顔は二人とも真っ赤、

アスカの突然の行動にシンジの感覚も麻痺をし・・

その後は何事もなかったかのように二人は
お化け屋敷を抜けていった。





「を、シンジやないか。」

と、お化け屋敷を抜けたところで突然寄りそう二人へとかかる声。

見るとそこにはヒカリと行動を共にするトウジの姿があった。

「と、トウジ・・。」

慌てて離れるシンジとアスカ。
その顔はこれ以上ないというほど真っ赤であった。

「ほ〜、いつから二人ともそんなに仲良うなったんじゃ?。」

「私も知らなかったわ。おめでとうアスカ。」


「ちょ、ちょっと待ってよ、ヒカリ。
こ、これは・・。」

慌てたように弁解を始めるアスカ。

「そ、そうだよ洞木さん。こ、これは・・。」

「見苦しいでシンジ。観念せい。」

「ちょ、ちょっと勘違いしないでよね。
わ、私とシンジはなんでもないんだから。」

「そ、そうだよ二人とも。」

必死に弁解を続ける二人ではあったが、

全ては二人の計画通り(?)

トウジの二人がそんな二人の言葉に耳を傾けるはずがなかった。









その帰り道・・・・

「ほ〜んと、いやんなっちゃうわよねぇ。
二人ったら・・勘違いしちゃって・・・ねぇシンジ?。」

帰路を夕日を背に歩く二人、
アスカは振り向きざまにシンジへとそう言った。

「・・・・・。」

しばしの静寂の後、

「ね、ねぇアスカ?。」

シンジは決意したような顔でそう言った。

「ん?。」

「アスカはホントに・・迷惑だった?。」

「え?。」

突然の告白に戸惑った顔のアスカ。

「僕は・・その・・・・アスカと手、つなげて・・
あの・・・その・・嬉しかった・・・。」

「・・・・シンジ・・。」

思わずシンジの顔を見つめるアスカ。

シンジはその言葉を言ったと同時に
立ち止まっていてしまっていた。

ジッと見つめるアスカ。

動こうとはしないシンジ。

そんなシンジへとアスカはゆっくりと近づいてゆくと・・

その右手へとそっと右手を重ねた。

え?

と慌てたようにアスカの顔を見つめるシンジであったが、
アスカの顔はそっぽを向いており、
その真意を確かめることはできなかったものの・・

寄りそい、再び歩き出した二人。

ポツリと・・

「・・・・・・・・・私も嬉しかった。」

そっぽを向き、小さな声でアスカはそう言った。













別路

そこにも二人並んで歩く二人の姿があった・・
鈴原トウジと洞木ヒカリ。

「ホント、よかったわね。
あれで二人が少しでも素直になってくれれば万々歳ね。」

と横を歩くトウジへと話しかけるヒカリ。

「・・・・・。」

だが、トウジは無言のまま、それに答えようとはしなかった。

「鈴原?。」

不思議そうにその顔をのぞき込むヒカリに、

「委員長・・・。」

トウジは一瞬まじめな表情を湛え、その名を呼んだ。

ワイも・・ホントは委員長の事・・・・・

伝えられない想い。

トウジは勇気のでない自分を恨みながら・・

「そやな。」

そう一言ヒカリへと答えた。

「うん。」

そんなトウジの想いに気づくはずもなく頷くヒカリ。

二人の恋はまだ始まらないようであった。









終わり





おまけ

遊園地へと一人忘れ去られた相田ケンスケはというと・・・

暗闇の中、
誰〜もいなくなった遊園地で一人、ポツ〜ンと突っ立っていた。













あとがき
まとまった?
どうにか終わったようで一安心(^^;
しかし、一見幸せそうに見えるこの話。
ケンスケの台詞が一つもないのに気づいた人は果たしているでしょうか(マテ
台詞がないのにある程度存在感のあるケンスケって
ある意味凄いかもしれませんね(爆)

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

それではまた〜


 押しも押されぬ有名作家のベファナさんから投稿をいただきましたです。

 うーん‥‥凄い存在感‥‥ある意味目障りですね!ケンスケ!<感心するとこが違う

 それはともかく。
 シンジとアスカの二人の心が、遊園地でのデートで近づいていった‥‥いやいや既に近づいていたのに二人が気づいたのが良かったですな。

 もうひとつのカップル、トウジとヒカリ‥‥は今回はまだ春は来てないようですけど、訪れは近いかもしれませんね。

 とてもよいお話を書いてくださったベファナさんに是非感想メールを一筆頼みます〜