ただ、その言葉を伝えたい

この気持ちは本当だと思うから

 

Messages


by 敏芳祥

 
NERV司令室。

髭面と初老の男二人が密談を交わしている。

初老の男が、驚愕に顔をゆがめた。

ただでさえ薄ら寒いこの部屋の空気が、一気に氷点下まで下がったように感じる。

髭面の男の口から、今、恐るべき計画が語られた。



Message:3


「生かしてはおけぬ」

「他界させる気か?!」

「策のない者への、当然の報いだよ」

「法務部が何と言うかだな......」

 
「今更、体面を気にしても仕方あるまい」

「そのなけなしの体面を、誰が守っていると思う! お前が上との折衝に行くか?」

「........要は、処刑という形を取らなければよいのだな」

「......? どういうことだ、碇?」

「.............」


返事の代わりにニヤリと笑った髭面の男は、サングラスを光らせながら
手元の受話器を取ってダイヤルし始めた。


「......私だ。ああ、例の件お願いする」


短い通話が済むと、彼は先ほど以上のニヤリ笑いを見せ、
顔の前で手を組む、いつものポーズに落ち着いた。


「......暗殺か?」

「ふ。.........問題ない。すべては善意から為せる贈り物だ」


これ以上かみ合わない会話を続けても無意味だと悟り、初老の男は押し黙った。

しかし彼の脳裏には、長年の付き合いから導き出された、ある結論が渦巻いていた。


(碇め、更にえげつないことを企んでいるな?)



 

  コンフォート17、葛城家。

そのキッチンを、見慣れぬ者が占拠していた。


この家の家主でありながら、普段決して立ち入らない、
..............立ち入っていただきたくないエリアに、彼女は腰を据えていた。



Message:2


「イカを短冊状に刻んで、

 シタビラメはぶつ切り。

 カイバシラを煮込んで、

 サクラエビをすりつぶす.......メンドーねぇ。コレでいいわ!

 ノープロブレム!

 ホウレンソウのペーストを混ぜる。要は青物よね、ぽぽい。

 ムース状に固めて、よっしゃできあがり! 我ながら傑作よん♪」

 

  「「............................」」


リビングからキッチンの様子をうかがう、人影ふたつ。

黒髪の少年は生来の性格を存分に発揮し、尻餅をついてブルブル震えている。

気丈な紅い髪の少女は、さすがその場に踏みとどまってはいたが、
滝のように流れ出る冷や汗は、止めようもなかった。

無理もない。たったいま目にした光景は.......


料理の本を片手にした彼らの保護者が、

『 さきいかと、

 缶詰のカレイの煮付けと、

 砂抜きしてない殻のままのアサリと、

 カッパえびせんを粉々にしたものを、

 青汁で煮込んで、

 整髪料でまとめたもの』

を、創造する過程の一部始終だったのだ。


しかも、どうやらそれは「料理」らしい。

心のこもった、「愛情家庭料理」らしい。


幾多の死線を越えてきた、決戦兵器のパイロット。

しかし、そのふたりでさえ、こんな無謀な戦いに挑もうとは思わなかった。

いや、むしろこのふたりだからこそ、真の恐怖を感じ取れたのかも知れない。


ふたりは青ざめた顔で見つめ合い、


「シンジ..........」「アスカ..........」


そして決意した。

 


「「逃げよう」」





 
NERV司令室。

女性士官と司令が机越しに、にこやかに(片方、とてもそうは見えないが)笑い合っている。

脇に立ちつくす副司令は、この世の終わりを迎えたような面持ちで、2人のやりとりを見守っていた。

「ご苦労だったな。それが『例の物』か?」


「ええ、自信作っスよ!」


そう言って彼女は、手にしたポリバケツ〜いや本当は鍋なのだが心情的にポリバケツ〜を差し出した。

司令室に、えもいわれぬ臭いが漂う。

男2人は、ふとすれば飛びそうになる意識を必死でつなぎ止めていた。


「......にしても、司令もニクイことしますねえ!

要人の接待に、このワッタクシの手料理でもてなそうだなんて!

ナイスアイディア! ハートフル! いよ、感動ぷろばいだー!」


「............ふっ、ふっふふ。キミの料理は大評判になるぞ。

政府・戦自・国連・委員会......どの連中も、天にも昇る心地だろうな」


(文字通り、な。そういうことか........碇、非道だな。)


「うっふっふ!」「ふーっふっふっふ......」


ちょーっちベクトルは異なっていたが、背筋を凍らす副司令を後目に

2人の高笑いはいつまでも続くのでした。

めでたしめでた............


「大変です! セカンド及びサードチルドレン、ロストしました!」


突然部屋に入ってきた男の報告に、2人のバカ笑いがピタリと止まった。


「な..........青葉くん、どういうこと?!」


「買い物と偽って、諜報部のガードを振り切ったようです!!
部屋にコレだけ残して......」


ミサトは、ひったくるようにその紙片=書き置きを受け取って広げた。




《ミサトさん、すみません。僕らはどこか遠くで生きてゆきます。
探さないでください。》

《しぬのはイヤアァァ!!! ずぇーったいにかえらないからね!》




「そんな............あの子達が、エヴァに乗ることをここまで怖がっていたなんて......」


(違う! 絶対に違うぞ葛城君!)

「おい碇、どうするつもりだ? 貴様の猪口才な策略を、シンジ君とアスカ君が誤解........」

「な、なななななんのことだ? これは不可抗力だ、シナリオの範疇だ......」


こうしてNERVは、「謎の」チルドレン失踪事件により大混乱に陥るのだが、それはまた別の話。






  その頃、とある田舎町の河原。

少女が、並んで座る少年に語りかける。

普段は機関銃のように言葉を乱れ打つ彼女だが、
暖かな日差しに誘われてか、いくぶんゆったりした口調になる。

しかし、少年は上の空。


すこしムッとして、ほっぺをつねる。 

やっと気づいた彼は、いつものように謝罪しながら、言った。

 


Message:1


「いま、考えごとしてたんだ」

「かんがえてたって、何を?」

「しあわせって、こういうことなのかなって」

「たぶん、そうよ」

「かなしいことがあっても......」

「いっしょにいるから、すぐに癒えてゆくわ」

「さむい夜も.......」

「くっついて眠ればいいのよ」

「のんびりぼやぼやっとした、僕なんかでいいの?」

「ほっとけないのよ、アンタのこと」

「う、嬉しい......嬉しいよぉ! アスカ......」

「ムード無いわねぇ、まったく」


二人のやりとりに、

周囲も自然と笑顔を誘われ、

年明けの空気を明るく彩っていた。

fin.





どうもこんにちは、敏芳祥です。

よくわからん話を書いてしまいました......要するにメッセージです。

意味が判らなかった方は、各「Message」の横に書かれている数字分、

行頭の文字を繋げて読んでください。

例:「Message:3」の場合 行頭3文字で、

「生かし

「他界

「策の

「法務

となります。

それでは、本年もどうぞよろしくお願いいたします。


敏芳祥さんから2周年記念をいただいてしまいました。

実はまったく認識していなかったのですが、12月で2周年を迎えていたのですな。

何はともあれ楽しんでください、なお話でありました。

烏賊した怪作のホウムへの祝辞をくださった敏芳祥さんに、是非感想メールをお願いします!

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