はぁ、だるい…
 痛い…
 気持ち悪い…


アスカは今日は二日目だった。
しかし、こんな時に限ってネルフではシンクロテストだった。
アスカはエヴァパイロットの中で一番こういう事には熱心だったが今日はさすがにプラグスーツを着る気になれなかった。
とにかく出血が多くてさらに貧血気味で体感的にも気分的にも気持ち悪い。なのに密着したプラグスーツを着たらさらに不快度が上がる。そしてこういう日はいつもは落ち着くLCLの中も何故か妙に気持ち悪い。

 はぁ、シンジはいいわよね…男だからさ、お気楽で。
 …ファーストとかは大丈夫なのかしら?
 …ってゆーか、このくらいって普通??ひどい方??
 …はぁ、なんでシンクロテストってこんなに長いのかしら??
 …同じデータばっか取りまくってどーするってぇの!!
 …あーやだやだやだ。

アスカはこんな調子でシンクロテストはあまり集中出来なかった。

「アスカ、余計な事を考えずに集中して。」

アスカはすかさずリツコからお小言を言われた。

 …リツコさんって同性なのに分かんないのかしら??

小言を言われたアスカはさらに不快度が上がって集中力が落ちた。

 …コレの日って厄日よね…まったく。







夕焼けに染まって

Author: AzusaYumi






ネルフでのエヴァとのシンクロテスト終了後、アスカとシンジはマンションに帰るべく、電車に乗った。
電車は帰りのラッシュ近くでやや混雑していて席とかが開いてなかったが、運良く一つ開いていた席があり、今日のアスカの調子の悪さからシンジはアスカに席を譲った。
アスカは黙って座ったが見るからに顔色が悪そうだった。

「アスカ…大丈夫? 顔色悪いよ?」

シンジがアスカに声をかけた。
シンジの声はいつもより気遣わし気な優しい声だったが、今日は妙な風にアスカの頭に響いて不愉快だった。

「…気持ち悪いから話しかけないで。」

アスカはうっとおしがるように言った。
これを聞いたシンジはそのまま黙り込んでしまった。

 …まいったな。こういう時って何話せばいいんだろう?

シンジはつり革に掴まりながらため息をついた。
今日は朝からこんな調子だ。シンジから言わせれば理解不能、いや、あまり触れられない話だった。ただ、かなり調子が悪そうなのに声もかけずに…というのも気が引ける。
ああ、こんな時にヒカリやミサトがいれば…などと思ってしまう。
どうもシンジにとってこういうものはもてあましてほとほとまいっていた。

一方アスカの方はシンジのそんな気遣いや気苦労など気にしている余裕はなかった。痛み止めで腹痛はおさまったものの、腰と下腹部の鈍くだるい感じは抜けきれず、体もやたらとどんよりした感じでだるい。さらに出血の多さで体感的な不愉快がずっと続いていた。そして今日一日こんな調子なので疲れが溜まって気持ちも滅入っていた。





もうすぐ電車が駅に到着するという女性の声の車掌の車内アナウンスが入った。
座っていても仕方が無いのでアスカは立ち上がろうとした瞬間、イヤな感触がしてそのまま座り込んでしまった。

 …ヤバイ!!
 …今のはヤバイ!!

アスカは立った拍子に…だった。
大体こういうのはほとんど何も感じないモノなのだがかなり多いと体感出来てしまう。アスカは今までの経験上、体感出来るほどの時は大体服とかにも甚大な被害が出ているというのを思い知っていた。
前に朝起きる時に似た感触でシーツやパジャマが大変な事になっていて慌てて飛び起きてシンジに気が付かれないように事後処理をするハメになった事があったりした。
シンジの方は慌てて洗濯し始めるアスカを見て「こういう時って、らしくない子でも女の子らしくなるんだなぁ」と感心した。
アスカにとってはシンジに知られたくないのと恥をかきたくない一心で必死だったのだがシンジに分かるはずもない。

 …今のは絶対スカートまで来てる!!
 …椅子とかもまずいかも…。
 …どうしよう…

アスカは座って下を向いたままどうしようもなく焦った。
込み合った電車、目の前にはシンジ。はっきり言って絶望的状況だった。
電車が減速して前方車両に乗客が前のめりになる感触がした。
車掌が駅に到着したアナウンスを流す。

「アスカ、駅に着いたよ。」

シンジが立とうとして座り込んでしまったアスカを怪訝に思って声をかけた。
でもアスカは降りられない。停車時間は短く、シンジは慌ててアスカの手を引っ張って言った。

「アスカ、降りなきゃ!!」

しかしアスカは頑として動かない。いや、シンジに引っ張られても立たないように必死だった。

「ごめん、先行ってて!!」

アスカは慌ててその場を取り繕うように言った。

「え?」

シンジは何の事だか一瞬分からずに手を引っ張ったままアスカの顔を見た。
アスカは下を向いたまま固まっているような感じだった。
車掌の車内アナウンスが出発の合図をする、車両のドアは一斉に閉まった。
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…
電車は動き始めた。

 …バカぁ〜!!なんで降りないのよぉ〜〜!!

アスカは絶望したような、なんとも言えない表情でシンジの顔を見た。
シンジはアスカの様子が変だったので何か声をかけようと思ったが…、何かものすごく声がかけずらい雰囲気を漂わせていたのでただ呆然とアスカを見ていた。





次の駅、そしてその次の駅…。
アスカは降りようとしなかった。いや、降りるに降りられないのだが。ただひたすら顔を下に向けたまま両手を膝の上に乗せてじっとしていた。正直、シンジに途中の駅で下りてもらいたかったのだがシンジは降りようとしなかった。シンジにしてみればそんな風に様子の変なアスカを置いて降りるに降りられずに黙ってつり革に掴まったままでいるしかなかった。
常時夏の街に西の空に傾きかけてきた太陽が赤く照らしていた。
電車の中はほとんど人がいなくなっていて、立ったまま動かない少年と座ったまま動かない少女が二人、黙って揺られていた。

そして終着駅。
車掌の車内アナウンスが流れる。
電車は止まった。
まったく知らない駅。回りはたんぼと山のみの寂しい風景の場所だった。
車内には少年と少女の二人しかいなくなっていた。

「あ……アスカ…。
 終点だよ?」

下を向いてかたまったまま動こうとしないアスカにシンジがおずおずと話しかけた。

「……。
 …先に降りて…」

アスカが小さな声で言った。

「でも…。」

「降りてよ…」

「…ど…どうして?」

シンジのこの言葉を聞いてもうすでに八方ふさがりでどうしようもなくなっていたアスカは顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうにしながらわめいた。

「だから降りてっていったら降りてよ!!
 バカ!!バカ!!バカシンジ!!!!」

そう言い終えるとアスカの目からボロボロと涙がこぼれた。
…とうとうアスカは泣き出してしまった。
これを見たシンジはたじろいだ。

 …まさかアスカが泣き出すなんて…。

「ご…ごめん…。僕が悪かったら謝るよ…。
 ごめん…アスカ…泣かないで…。」

「だからバカって言ってるじゃない!!!!
 バカバカバカァ〜!!!!」

シンジはなだめたつもりだったのにそのままアスカはわんわん泣き続けたので困り果ててしまった。
アスカの方も、もうどうしようもなくてわめくしかなかった。

そこへ忘れ物や居眠りの乗客がないか車内をチェックしていた女性の車掌がやってきた。
車掌は様子のおかしい男子と女子の中学生に気が付いて声をかけた。

「…お客さまどうかされましたか?」

「あ…あの…、一緒に乗った子が…、その…調子が悪そうで…」

シンジはどもりながら女性の車掌に答えた。
車掌は泣きぐずるアスカにそっと声をかけた。

「…大丈夫ですか? お客さま??救護班か何かを呼びましょうか?」

これに対しアスカはイヤイヤしながらひたすら「誰も呼ばないで。誰も呼ばないで。」と、ひたすら涙声で言った。
車掌はしばらく困った顔をしたが少ししてはっと何かに気が付いてシンジに言った。

「すいません、ちょっと電車の外で待ってて頂けませんか?」

シンジは何が何だか分からずに言われるままに駅のホームに降りた。
アスカのいた席は車掌が日よけのカーテンを引いて中の様子が真横からの赤い陽光の照らすシルエットだけでしか分からなくなった。
アスカは車掌にうながされて立ったらしく、その後何かごそごそと動いたりしていたが車掌が電車のドアから顔を出してシンジに話しかけた。

「あの…、何か履くものってもってませんか?」

シンジは慌てて鞄の中から今日の体育に使ったジャージのズボンを取り出して車掌に渡した。

「一緒に来た子、どうしたんですか?」

シンジは何がなんだか分からないので車掌にそう尋ねた。
車掌は少し困ったような笑顔をしてシンジに向かって答えた。

「女の子の事情ですよ。あなたと一緒に居たから言えずに困っていたみたいですよ?」

これを聞いたシンジは真っ赤になった。
車掌はクスっと笑ってシンジから預かったズボンを持ってそのまま電車の中に入っていった。
シンジは何もすることがなくなってそのまま夕日に赤く染まった遠く続く線路の方を眺め続けた。


しばらくして、車掌と一緒にシンジのジャージの下を履いたアスカが俯いたまま出て来た。

「シートの方は大丈夫ですよ。では、この電車は車庫の方に入るので…」

車掌はそう言うと電車の中に入っていった。シンジは車掌の方に頭を下げてお礼をしてアスカの方を見た。
アスカは制服のスカートを紙袋の中に詰め込んだものを両手で掴んだまま下を向いていた。そんなアスカの姿がシンジにはとても小さく見えた。

終点まで来てしまったアスカとシンジは次の帰りの電車までにかなりの時間があってそのまま無言でホームのベンチに座って待っていた。
シンジはずっと気まずくて何か話さなきゃ…と思ってアスカに声をかけた。

「アスカ…何か飲む?」

アスカはホームのベンチに腰を降ろしてじっと下を向いたままぶっきらぼうに「暖かいの。」とだけ言った。
シンジはベンチから立ち上がって近くにある自販機まで駆け寄ると制服のズボンから小銭を取り出して暖かい何かを買おうとしたがどれも冷たいのしかなかった。シンジは仕方なく冷たいミルクティーを二本買ってアスカの側に戻って来た。


「…ごめん。冷たいのしかなかった…。
 ミルクティーだけど…いい?」

そう言ってシンジがミルクティーを差し出すとアスカは黙って受け取った。
シンジはアスカの隣に腰かけるとミルクティーの缶のプルタブを開けて少しずつ飲んだ。アスカは飲まないでそのまま缶を握ったまま俯いていた。
シンジはそのまま少しずつミルクティーを飲んでたがしばらく経って中が空になってしまった。
アスカの方は飲んだ様子が無いのでシンジは気になってアスカに声をかけた。

「…やっぱり冷えたミルクティーって…嫌だった?」

……。
アスカから返事がない。

「アスカ?」

シンジがそう言ってアスカの方を向いたらアスカの頭がコックリ、コックリ、となっていた。

 …あ…疲れてるんだ…。

シンジはそのまま話しかけるのを止めてそっとしておくことにした。
アスカはしばらくコックリ、コックリとしていたがその内シンジの方に傾いてきた。

 …今日は何も手助け出来なかったから…
 …僕にはこのくらいしか出来ないけど…

シンジはそう思いながらそのままアスカに肩を貸してしばらく夕焼けを眺めた。






- END -






あとがき
こんにちは、AzusaYumiです。
ちょっと別の意味ではずかしい話書いちゃいました。
男の子ってこういう場面でかなりダメっぽそうです(笑)
しっかし、"生理痛"とかストレートに書けなくてダメですねぇ〜。
そんなわけで自分のサイトを放置して書いていたAzusaでした(笑)


AzusaYumiさんから女の子の日のお話をいただきました。

シンジ君も鈍いですね。鈍くないシンジ君はありえないのかもしれませんが(´ー`;)

でも、鈍いなりにアスカのことを思いやっているのがいいですね。

素敵なお話でした。読後にAzusaYumiさんへの感想メールをお願いします。

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