最高級の素材には、やはり一流の料理人が相応しい。

碇シンジも日々修行に励んでいるが、かの高名な和の鉄人のように

素材を成仏させるという境地には未だ到達していない。

技術向上を目指してビデオ学習を試みたりもしたのだが、結局あまり参考にならなかったようである。

今ではもっぱら実地訓練に励むことにしているようである。

しかし、これまた有名な中華の鉄人の言葉にもあるように、料理は愛情なのである。

料理人の技術の未熟さはたっぷりの愛情でカバーされ、
素材の方も、その新鮮さを保ち続けていると同時に、日々熟成を重ねている。

二人はそれなりに美味しい夕食を、毎晩のように味わっているのだ。

これは、そんな二人のある日の夕食のお話である。
 
 
 
 

メニューはシェフにおまかせで
 
 
 
 
 
阿頼耶さん
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「あ、当たったー!」

その瞬間、商店街に絶叫が響き渡った。
シンジが商店街の記念セールでの福引きで、なんと3等賞をゲットしたのである。
ちなみに1等は○○○旅行、2等は○○○○○○テレビであった。
彼の同居人で、いわゆる将来を誓い合った仲の少女に言わせれば、彼の運は

「アタシをゲットしたことで一生分の運を使い果たしたのよ!」

ということだそうである。

ともかく、懸賞やらくじ引きやら、
はたまた学校での席順や委員会の役割分担を決めるあみだにいたるまで、
運とは縁のない生活を送ってきたと思われるシンジが引き当てたもの。
それは、フランス料理店のディナー券であった。
ペアで、シェフおすすめのフルコースが味わえるのだ。
誕生日でもクリスマスでも、はたまた二人の記念日でもないけれど、
二人は精一杯お洒落をして出かけたのであった。
 
 

住宅街にあるこじんまりとした瀟洒な一軒家。

今宵の二人の晩餐の舞台である。

「いらっしゃいませ。碇様ですね。承っております。」

若い二人に対しても、にこやかに丁寧な対応をするギャルソン。

「ご予約のお電話で、このようなフルコースのお食事は初めてでいらっしゃると
 うかがいましたので、本日はごゆっくりくつろげるように個室を準備致しております。」

「は、はい。ありがとうございます。」

「メニューはいかが致しましょう?」

「よ、よくわからないので・・・。」

主夫として家庭料理ではかなりの腕を持つシンジだが、さすがに本格的なフレンチは初めてであった。

「それでは、このシェフにおまかせコースはいかがでしょう?
 その日のおすすめの素材を中心としたメニューになっております。」

「アスカ、どうする?」

「アタシはそれでいいわよ。」

「じゃあ、二人ともそれでお願いします。」

「かしこまりました。」

こうして、二人のフルコースのスペシャルディナーはスタートしたのである。
 
 
 

まず前菜。

「○○○のカルパッチョ仕立てでございます。
 本来はイタリア料理の技法でございますが、今ではこのように素材も料理方法も国境がなくなっております。
 ○○○の方は、今年初めて水揚げされました今年の初物でございます。
 オリーブオイルはエクストラバージンオイルを使用しております」

妙に初めてを強調しているようなギャルソンの言葉。
ついついシンジは、初めてアスカと共に厨房に立った夜のことを思い出してしまう。
料理する方も初めてなら、料理される方も初めてだった。
特にアスカの方は、無理矢理包丁を入れようものなら刃こぼれでも起こすんじゃないかと思われたほど、

がちがちに緊張していた。

ベッドの上に横たわる姿は、そう、まるで冷凍マグロ・・・。

慣れない包丁さばきのシンジが、解凍にかなり時間を要したのは致し方ないだろう。
解凍後もなかなか思うように調理は進まなかったが、やっと3回目のチャレンジで成功したのだった。

(でも、あの晩のアスカってばものすごくいじらしくて、可愛くて・・・。)

ついついうっとりと思い出し笑いをしてしまうシンジ。

「なあにトリップしてんのよ!またスケベなこと考えてたんでしょ!」

早速アスカに怒られていた。
 
 

続いてスープ。

「○○○○○○のポタージュでございます。
○○○産の、今がまさに旬の味でございます。」
 

(旬の味か・・・。)

シンジはチラッとアスカを見る。

アスカと過ごす夜は、日増しに味わい深いものになっている。

(どこまで美味しくなるのかな・・・。)

再びトリップしかかるシンジだったが、アスカににらまれ現実に戻った。
 
 
 

いよいよメインディッシュ。

「○○牛のヒレステーキトリュフソースフォアグラ添えでございます。
 肉は○日間寝かせ熟成させたもので、最高の状態に仕上げております」

(メインディッシュかあ・・・。
 この間は3回おかわりしたんだっけ・・・。
 結局明け方までだったから学校休んじゃったんだよなあ・・・。
 何せ1週間ぶりだったもんなあ・・・。
 アスカってばホントに真っ赤になって可愛かったよなあ・・・。)

シンジ再びトリップ状態。

「・・・ねえ?いい加減食べるときHなこと考えるのやめたら?」
 
 
 

そしてデザート。

「○○○○の衣をまとったアイスクリームでございます。
 衣の○○○○を剥がしてお召し上がりください。」

(衣を剥がして・・・。)

「だーからいい加減スケベなこと考えるのをやめろっつってんのよ!食事中よ!今は!」

アスカ、食べているんだか怒っているんだか・・・。
 
 
 

ともかくコースを一通り平らげた二人。
ゆっくりと食後のコーヒーを味わっている頃、ソムリエが一本のワインを持ってきた。

「お二人の最初の晩餐を記念しまして、シェフよりプレゼントがございます。
 お飲みになれる日まで、こちらで熟成させておくとのことでございます。
 その日は是非当店にお食事にいらしていただきたいと」

それは、2001年産の赤ワインだった。

「アタシたちの生まれた年のワインなのね!」

(ベッドの上のアスカの色・・・。)

「・・・いい加減にしなさい!」
 
 
 

「美味しかったわね!たまにはああいう食事もいいわね!」

マンションに帰宅し、くつろいでいる二人。
味といい、雰囲気といい、最高のディナーであった。
アスカはうっとりと思い出している。

「そうだね。何かの記念日にはまた行こうよ。」

「何かの記念日って言っても・・・誕生日とかクリスマスって大体うちでやるわよ。
 みんなを呼んでパーティーするじゃない?」

「僕の誕生日の前日があるでしょ?」

「シンジの誕生日の前日?それって何の日だっけ?」

「だからさ、僕とアスカだけの記念日だよ。」

「アタシとシンジだけの記念日って・・・?え、え、ええっ!」

途端に真っ赤になるアスカ。

「アスカの方から来たくせに、忘れちゃったの?」

「あ、あ、あうあう・・・!」

「僕にとっては生涯忘れられない日なんだけど・・・?」

「そ、そうだ!日付変わってた!うん!変わってたわ!シンジの誕生日と同じ!」

「残念でした。6月5日午後11時59分だったよ。」

「な、なんでそんな時間まで覚えてるのよ・・・。」

「そりゃあ、僕にとって大切な瞬間だったから。アスカにとってはそうじゃないの?」

「そ、それは、そうだけど・・・。で、でも、やっぱり恥ずかしいよ・・・!
 それを記念して食事に行くっていうのは・・・。露骨すぎると思うけど・・・。」

 真っ赤になったままうつむくアスカを、シンジはそっと抱きしめた。

「僕は一生忘れないよ。これから何度アスカと夜を過ごしたとしても、
 初めてアスカが僕を受け入れてくれた日だから。」

「シンジ・・・。」

「愛してるよ、アスカ。」

そうささやいて、シンジはアスカを抱き上げた。

再びアスカの耳元でささやく。

「・・・今日はどうしようか?」

シンジの腕の中で、小さく肯くアスカ。

蚊の泣くような声で答える。

「・・・シンジにまかせる・・・。」
 
 

再度フルコースのディナーが始まるらしい。

メニューはシェフにおまかせで・・・。
 
 
 

前菜には「綺麗だよ」の言葉

スープには「可愛いよ」の言葉

メインデッシュには「愛してる」の言葉を添えて

今宵も

幸せなフルコースを

二人で召し上がれ・・・。
 
 
 
 

おまけ

うーん・・・。デザートはなんだろう? 素敵だったよ、かな?
 
 
 
 
 

あとがき

ハハハ・・・(笑)。もう行き着くとこまで言っちゃえって感じですね(笑)。
どこまで料理で表現できるかなあと思いまして。
今までの集大成?ですかね(わかる方はわかるだろうなあ)。
このシリーズ?さすがにこれ以上は無理だ(笑)。
食材はもうお好きなものを入れてください。
(具体的に調べるのが面倒になってしまった。なんて横着モノでしょう・・・。)

それでは、お読みくださってありがとうございました!
 
 


 阿頼耶さんからシリーズ最終話をいただきました〜。

 これまでの総まとめですね。

 心も体も通じ合った二人が過ごす晩餐‥‥。素敵ですね(^^)
 これまで読まれた方ならおわかりでしょう‥‥阿頼耶さんの描いてきたシンジとアスカの愛の軌跡が、フルコースのディナーと重ね合わされているのですね〜。

 とっても良いシリーズでしたなぁ。シンジ君とアスカちゃんの魅力を再確認できたでしょう〜。

 みなさんも読後に阿頼耶さんへの、『今までどうもありがとう!』のメールをお願いします〜

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