LASコーラ(後編)


著者:anisotropic様

 


 「ぐひひひぃ〜、キョ〜〜〜ホホホ!!」
 その日アスカとシンジが連れ立って赤木リツコの私室の前にたどり着いた時、いきなり厚手の金属と複合素材からなる扉を通して聴く者の癇に障る甲高い奇声が響き渡った。
 ガス圧のかかる音と共にその扉が開くと、そこにはネルフの赤いジャケットを羽織った妙齢の美女が、ヘソを放り出してそこに書かれた“へのへのもへじ”をクネクネと器用に動かしていた。
 「何をしてるの! はやく取り押さえて連れて行きなさいっ!! 」
 リツコのヒステリック寸前の声に黒服の男たちがその見る影もない美女を両脇から取り押さえると部屋の外に連れ出そうとした。
 「はぁあなふんだらぁ〜!! キョ〜〜〜ホホホ!!」
 「み、ミサト!!? どうしちゃったのよっ!?」
 「シンジ君、アスカ、近づいてはダメよ。・・・・・・“ソレ”はもはやミサトではないのよ、・・・・・・」
 リツコが悲痛な表情で苦い響きを孕んだ言葉をもらす。マヤは自らを庇うようにファイルを胸にして、青ざめ表情で壁に背を押し付けるようにして体を支えていた。
 「・・・・・・あの、リツコさん。ミサトさん、どうしちゃったんですか?」
 あまりの事にシンジは呆けた表情のまま問うた。
 リツコはシンジの言葉に視線を合わせまいとするかのように横を向いて、端末の置いてある机に手をついた。
 「ま、まさか・・・・・・」
 アスカの瞳が、自らの思いついたが恐ろしい結論に見開かれた。
 「LASコーラの最初の被験者って・・・・・・」
 室内に、死を思い起こさせる沈黙が落ちる。
 「リツコ! 何だまってンのよっ!! 答えなさいよっ!!」
 リツコは疲れたように指先で額を触れるとポツリと答えた。
 「・・・・・・そうよ」
 アスカは怒りに反射的にリツコの白衣の襟を乱暴につかんでいた。
 「し、しんじらんないっ! アンタ仮にも友達に対してなんてことすんのよっ!!」
 アスカの視線を避けるように目を伏せて黙り込むリツコの代わりにマヤが口を開いた。
 「違うのよ、アスカっ・・・・・・。最初サンプルとして出来上がったLASコーラのカンが無地の銀色の500mlカンだったから、葛城さん『あたしからビールを隠そうとしてる』って、止めるのを聞かずに無理矢理っ、・・・・・・」
 悲しげに涙ぐむマヤの瞳を目にしたものの、アスカにはぶつけようのないその怒りを鎮める術を知らずに歯噛みした。
 「え、え〜と。はなしが見えてこないんだけどな・・・・・・」
 シンジはその場の雰囲気に取り残されながら遠慮がちに口を開いた。


 一、


 「ええ〜っ!?」
 少年の声がそのさして広くない部屋に響き渡った。
 「ぼ、僕ってそんな大変なことになってたんですか・・・・・・」
 少女は表情を前髪で隠すようにうつむいていた。
 「シンジ、・・・・・・」
 そのいつになく素直な少女の様子がシンジに自分の置かれた状況の現実味を嗅ぎ取らせた。
 「そ、そうなんだ・・・・・・」
 粘土のような重い空気が立ち込める中、リツコが口を開く。
 「与えられた時間の中でシンジ君が助かるには一つしか方法が無いわ」
 「シンジは助かるのっ!?」
 「シンジ君の血液中のLAS濃度をLASコーラの作用より早く上げてしまえばいいのよ」
 「えっ、でもそれじゃあ、クルクルパーになっちゃうんじゃないの?」
 「シンジ君の体機能自体にLAS値を上げさせれば副作用は出ないわ」
 「・・・・・・そんなことできるの?」
 リツコの視線がいつもの理知的な力を湛えてアスカを見て返した。
 「他の選択肢は無いわ。・・・・・・やるしか、ないのよ」





 体の数ヶ所に小さなワイヤレスのセンサーを取り付けられた少年と少女を端末でモニタリングする金髪に白衣の女性と、その二人のようすを手に持ったファイルになにやら忙しげに書き止める、ショートヘアにネルフの制服をまとった頬の線に幼さを残す女性とが、何やらキッチンや居間めいたセットが組まれた研究室風の無機質な床や壁に囲まれた奇妙な空間で難しげに表情をしかめていた。
 「あぁ〜んっ、シンジぃ〜。あのビンとれなぁ〜い!」
 アスカが甘い声でしなやかな肢体を伸ばし、棚の上のビンを手にしようとする仕草を見せる。
 「ど、どれどれ?」
 少年はその少女のようすに顔を赤らめながらそのビンへと手を伸ばした。
 「あれ? 高くて取れないや」
 「・・・・・・あなた達やる気があるのっ!?」
 リツコが険しい表情を浮かべていった。
 「これはシンジ君の男らしさを見てアスカがメロメロ〜って、なってLASな感じを発生させる実験なのよっ! こんな所でつまづいてどうするの!?」
 「えっ、でも同じ身長なのはべつに・・・・・・」
 シンジはリツコの殺人的な視線に半ばまで出かかった言葉を飲み込んだ。
 「す、すみません、リツコさん」
 アスカは何故か何の疑問も抱いたようすもなく謝っていた。
 「リツコごめ〜ん」
 「まあ、いいわ。次のシナリオ、いくわよ」





 「あぁ〜んっ、シンジぃ〜。このビン蓋がとれなぁ〜いっ。あ、」
 きゅぽっ。
 アスカは勢い余って開けてしまったビンの蓋を見つめていた。
 「・・・・・・ア・ス・カ?」
 アスカは背後からのリツコの殺気にギリギリのピンチを感じて慌てて別のビンを手にした。
 「とっ、とれなぁ〜いっ」
 シンジは冷や汗を垂らしながらもシナリオ通りに動く。
 「か、かしてみて」
 必死にビンをあけようとするが、あまりの蓋の固さに困った顔を見せる。
 「・・・・・・あれ? ホントにとれないや」
 「えっ、どれどれ? シンジちょっとかして」
 きゅぽっ。
 「あ、・・・・・・」
 リツコの額にはくっきりと青筋が立っていた。
 「次っ!!」





 アスカは初々しく頬を染めて膝の上で同じように顔をを赤らめる少年の耳掃除を丁寧にしていた。
 「し、シンジ、キモチイイ?」
 「う、うん」
 「じゃ、じゃあ、逆の耳イクわよ」
 「うん」
 少年はなおも顔を赤く染めて少女の方に寝返りを打った。
 リツコがモニターを監視しながら口を開く。
 「シンジ君、今どんな感じがする?」
 「あ、アスカの匂いがします・・・・・・」
 少女は少年の言葉に一瞬で顔を真っ赤にしていた。
 「なっ、なにいってんのよっ! へ、ヘンタイじゃないのっ!?」
 「ご、ごめんアスカ! その、僕、何ていうか、・・・・・・いい匂いだなぁって、思って」
 少女顔をそらしたまま小さくつぶやいた。
 「・・・・・・バカ」
 「ご、ごめん・・・・・・」
 二人のようすにつられて頬を染めたマヤが口をひらく。
 「せんぱいっ、良い具合にLAS値あがってますね」
 「まだよ、油断は禁物よ。さ、二人とも続けて」
 「は、はいっ」
 「・・・・・・わ、わかってるわよ」
 アスカの手が再び慎重に耳かきを操り始めた。





 「し、シンジぃ、あ、あ〜んして」
 アスカは緊張に固くなりながらシンジの膝の上に座ってスプーンを彼の口許に運んでいた。少年の方は膝の上の瑞々しい少女の感触にまごついてぎくしゃくとした機械のように咀嚼していた口の中の物を飲み込んだ。
 「あ、あ〜ん・・・・・・」
 二人は一瞬だけ重なった視線を露骨なまでにあわてて逸らした。
 「・・・・・・お、おいしい?」
 消え入りそうな声でうつむきながらも律義にアスカが問う。
 「え、あ、う、うん」
 シンジは挙動不審なまでに視線を泳がせながら辛うじて意味の取れる口調で答えた。
 「じ、じゃあ、今度はアスカの番だよ」
 シンジは手の震えを押さえてアスカの口許にスプーンを運んだ。
 「アスカ、あ〜んってして」
 少女は期待と不安に目を閉じると口を開いて見せた。
 「・・・・・・あ、あ〜ん」
 「いいなぁ・・・・・・」
 マヤが指を咥えて切なそうにため息をついた。





 「し、シンジぃ、むむむむむむぅ〜」
 「あ、アスカっ、むむむむむむぅ〜」
 二人はまるで今まさに殴られるのをこらえようとするように固くめをつむって、唇を突き出していた。
 シンジの口にはキスチョコが咥えられており、アスカは二人の唇が触れるギリギリの距離でその小さなチョコを器用に唇で挟んで奪い取った。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 二人は赤い顔のまま、頑なに床に視線を落してアスカがチョコを飲み下すまで沈黙を守った。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 アスカがテーブルの上のキスチョコの袋に手を伸ばす。
 細い紙の帯を引いて銀紙を外すとチョコを口の前でかまえた。
 「し、シンジ・・・・・・」
 「う、うん。・・・・・・」
 「むむむむむむぅ〜!」
 「むむむむむむぅ〜!!」
 「はぁ、・・・・・・いいなぁ〜」
 マヤがその光景にうらやましげなつぶやきをもらす。
 対してリツコはこれ以上無いというほど憤りをその面にあらわし、青筋から血を吹き出さんばかりの勢いでシンジ達へと進み出た。
 「やる気があるの二人ともっ!!」
 「えっ?・・・・・・で、でも、リツコさん」
 「あ、アタシ達ちゃんとやってるじゃない」
 「何いってるの!? そんな子供の王様ゲームみたいなやり方でLAS値が上がるとでも思ってるの!?」
 リツコはキスチョコをつかむと乱暴に銀紙をむしりとって口の中に放りこんだ。
 「こうやるのよっ!!」
 リツコの手がマヤの腕をとり、鳩が豆鉄砲を食らったようなままの彼女にむしゃぶりつくように唇を重ねた。
 「せっ、!!・・・・・・んっ、んく、・・・・・・」
 マヤは初め手足をばたつかせていたが、次第にその腕はリツコの背に回され、二人は情熱的な抱擁を交わす形となっていった。
 「す、スゴイ・・・・・・」
 シンジ我知らず言葉をもらし、アスカはただごくりと唾を飲み込んだ。
 リツコの背に回されていたマヤの腕は次第に力尽き、その抱擁から開放されるころにはだらりと力なく垂れ下がっていた。
 「さ、今見せたとおりやってごらんなさい」
 リツコはくたりとなって甘いうめきをもらすマヤをソファに下ろし、にじんだルージュごと唇についたチョコをぬぐってニヤリと肉食獣めいた笑みを浮かべた。
 「シンジ、・・・・・・イクわよっ」
 少女の青い瞳は決意のかいぎろいを映し、素早くキスチョコのラッピングを剥くと少年の袖に両手でしがみついた。
 「あ、アスカ。その、ま、待っ・・・・・・んググ、」
 シンジは次第にアスカの情熱に応えるようにリードを取り、その少女の細い腰に腕を回して抱きしめていた。
 リツコの口角が不気味に釣り上がった。
 「さあ、シンジ君。・・・・・・次は、グミキャンディーを二人で舐め合うのよ・・・・・・」


 二、


 「ぷはぁっ!・・・・・・はぁっ、はぁ、はぁ。り、リツコさん、もう、いいですか?」
 リツコは眉をしかめて見入っていたモニターから慌ててて視線を外すとシンジに答えた。
 「そ、そうね。・・・・・・二人とも、休憩にしてお茶でも飲む?」
 「ふはぁ〜。アタシ、紅茶のストレートがいい。さすがに甘いものつづきはつらいわ」
 リツコは二人に背を向けたまま茶の用意をしはじめた。
 「シンジ君も、それでいい?」
 「あ、はい。僕も手伝いますよ」
 少年が照れ隠しに立ちあがって手伝いに行くその背に嬉しげな視線を向けながら少女が問うた。
 「で、リツコどうなの? シンジのLAS値は十分上がった?」
 ピクリと思いがけぬ動きをしたリツコの手から紅茶のカップが滑り落ると、床に叩き付けられたショックに悲鳴をあげながら粉々に砕け散った。
 「・・・・・・・・・・・・ご、ご免なさい、私ったら何をしているのかしらね。年をとると粗忽になっていけないわ」
 アスカの笑顔がリツコの一瞬の奇妙な沈黙に凍りついた。
 「・・・・・・リツコ?」
 リツコはしゃがみ込むと小刻みに震える手で床に落ちたカップであった破片を必死に拾い集めようとしていた。
 「り、リツコ?」
 「つっ!」
 陶器の鋭利な小片で傷ついた指を口に含むとなおもリツコは執拗にその作業を続けようとした。
 「あ、リツコさん、良いですよ。僕、やりますから。手、消毒しといた方がいいですよ」
 リツコはシンジの言葉に宙を見つめるように動きを止めると、こらえきれなくなったようにうずくまって嗚咽をもらしはじめた。
 「リツコさん・・・・・・」
 「・・・・・・うそ。・・・・・・」
 アスカは思わず立ちあがっていた。
 「ウソでしょリツコ・・・・・・」
 リツコは子供のようにうずくまったまま肩を震わせてアスカに答えようとはしなかった。
 「ちょっとリツコ!!」
 アスカは数歩で床を飛ぶようにリツコの元へ走り寄ると襟首をつかみ上げて逃げようとする相手の目を覗きこんだ。
 リツコはのがれるように露骨にアスカから視線をそらしていた。
 「ねえ、アスカ、やめなよ」
 シンジがその肩をつかんでも少女はその女の目から真実を奪い取ろうとしていた。
 目にしたものの重さに少女はかすれた声でうめきに近い言葉をもらす。
 「・・・・・・うそでしょ?」
 ピクリと怯えたような反応を返した女に少女は悲鳴を浴びせた。
 「うそっ!! なおすって言ったじゃないっ! アンタに出来るって言ったじゃない! いまさらやめてよそんな冗談!! シンジを返してよっ!! アタシのシンジをもとに戻してよっ!!」
 シンジがリツコの襟をつかんでゆすり立てるアスカの肩に手をかけた。
 「アスカっ!」
 「リツコっ!!」
 「アスカ、止めるんだ!!」
 アスカはリツコから引き剥がされるようにしてシンジに抱きとめられていた。
 「・・・・・・うそよ、・・・・・・そんなのうそよ・・・・・・」
 シンジはアスカを自分の方に向かせると、まるでその少女が冷え切っているかのように抱きしめて背中をさすってやった。
 「うそよ・・・・・・」
 少女はただ弱々しげにつぶやいた。
 「・・・・・・・・・・・・一つだけ、方法があるわ」
 小さなリツコの声に二人の視線がよせられた。
 「やるわっ!!」
 少女の瞳は偏執に近い色がうつしだされていた。
 「とても、危険よ」
 「何もやらないよりましよっ!!」
 大見得を切る少女にリツコはのろのろと立ちあがるとゆっくりと答えた。
 「LASコーラが効能を失うのはシンジ君のLAS値が一定の値を超えた時のみ。いわば臨界値があるのよ。・・・・・・今までの実験で臨界値を越えられなかったのは、人間の体の耐性によるもの。つまりシンジ君の状況への“慣れ”がLAS値の臨界を妨げて来たわ。・・・・・・」
 リツコの瞳に悲痛な影がかかる。
 「それを突破するのは急激なLAS値上昇を促す行為、・・・・・・もはや、・・・・・・“アレ”しか残されていないのよ。・・・・・・」
 「あ、“アレ”?」
 シンジはゴクリと唾を飲んだ。
 「や、ヤルわっ!!」
 アスカの二つ返事にシンジは不穏な想像をかきたてられた。
 「何の事だかわかっていっているの?・・・・・・」
 アスカが一瞬ひるんで口篭もった。
 「だ、だから、“アレ”でしょ?」
 リツコが駄目押しのように問う。
 「・・・・・・どの“アレ”のことかしら?」
 「だっ、だぁかぁらぁ〜、あの“アレ”のことでしょっ!」
 「・・・・・・あの“アレ”って?・・・・・・」
 「だっ、だからっ! あの、・・・・・・その・・・・・・せっ、ってゆーか、・・・・・・え、えっち、・・・・・・のことでしょ・・・・・・」
 アスカは顔を赤くしながら後半消え入るように声と共に小さくなっていった。
 「・・・・・・違うわ。」
 「ちっ、ちがうのっ!!?」
 アスカは気恥ずかしさのあまりに顔から火を出していた。
 「そう、・・・・・・最後の手段とは、・・・・・・“愛のあるセッ(ピー)”のことよっ!!」
 リツコは仁王立ちで言い放った。
 「おんなじゃないっ!!」
 「ちがうわ。“愛のある”(ピー)クスなのよっ!!」
 アスカは苛立ちを見せるとリツコに向かってまくしたてた。
 「何が違うってゆーのよっ!! ヤレばいいんでしょっ!! ヤレばっ!! シンジ、隣の部屋イクわよっ!!」
 「えっ? えっ? えっ?」
 シンジは展開の早さにもはや置き去りであった。
 「待ちなさいアスカっ!!」
 「ナニヨっ!!」
 「そのままではシンジ君は即死よっ!!」
 「だからヤリにイクんでしょーがっ!!」
 「普通にシタんではダメなのよっ!!」
 あらぬ想像にアスカの顔が再び急激に赤くなる。
 「えっ? じゃ、じゃぁ、たとえば、・・・・・・どんなふうに?」
 リツコの面が陰鬱な影をうつす。
 「二人の間に究極の愛がなければならないのよ」
 アスカがムキになって返した。
 「アタシたちは両思いなのよっ! 他になにがいるってゆーのよっ!!」
 リツコはくるりとシンジへと向き直った。
 「シンジ君。LASコーラはシンジ君の心理作用を体内物質によって検知するわ。そしてLASコーラが最も危険視するのはシンジ君のアスカに対する純粋な愛の喪失なの」
 「は、はい」
 シンジはリツコの勢いに冷や汗を垂らしながら答えた。
 「シンジはアタシを愛してるわっ!! それ以上ナニがいるのよっ!!」
 リツコはアスカの言葉をまともに取り合おうとはしなかった。
 「いいわ。それじゃあ、無理だという証拠を見せてあげる」
 リツコはソファでクタっとなったままのマヤを揺り起こした。
 「はぁん、せ、せんぱぁい・・・・・・」
 マヤは霞がかった瞳で辛うじてリツコを認めた。
 「マヤ。今から愛のあるセッ(ピー)をシンジ君達に実演して見せるわよ」
 マヤの瞳に急激に焦点が戻る。
 「えええっ!!? い、いやっ、そんなっ、シンジ君とアスカの前でなんて、・・・・・・海の見えるホテルで二人っきりのひとときを過ごしたあとにって決めていたのにっ、・・・・・・ああ、でもせんぱいが望むなら・・・・・・あたしっ!!」
 「盛りあがってるとこ悪いんだけどフリだけよマヤ」
 「そしたら、明かりだけでもって、ああんっ!! そんなムリヤリだなんてっ!!」
 実験室内に小気味良いハリセンの音が響いた。
 「マ・ヤ? フ・リ・ダ・ケ・ヨ。振りだけなの。・・・・・・わかった?」
 マヤは残念そうに頭をさすっていた。
 「振りだけですかぁ〜?」
 「そう」
 「・・・・・・イケズ」
 「嫌ならいいのよ」
 「あっ、や、やりますぅ! 今、猛烈に使命感にもえてきましたっ!!」





 リツコは部下の扱いづらさにぶつぶつと愚痴をこぼしながらソファに横になった。
 「さ、マヤ。いらっしゃい」
 その時点でマヤの瞳は潤みきっていた。
 「はぁんっ、せ、せんぱぁ〜い」
 マヤの手がリツコの髪を柔らかく撫ぜた。指先が愛しげにその頬をなぞる。
 シンジとアスカは二人のただならぬようすにごくりと唾を飲んだ。
 「・・・・・・マヤ」
 「・・・・・・せんぱい、」
 マヤがリツコにのしかかるように近づく。
 「・・・・・・マヤ」
 「・・・・・・せんぱいっ」
 「ああっ、せ、せんぱいっ」
 「・・・・・・マヤ?」
 「はぁ〜んっ、せんぱい、せんぱぁ〜いっ!」
 マヤがリツコにむしゃぶりつく。
 「ちょ、ちょっとマヤ?」
 「あぁ〜んっ!! せんぱい、せんぱい、せんぱい、せんぱぁ〜いっ!!!」
 リツコは額に青筋を立てると素早くソファの下から取り出した得物でマヤの後頭部を一撃した。
 シンジとアスカの額に嫌な汗が流れる。
 「・・・・・・シンジ見た? 薪ざっぽよ、薪ざっぽ」
 「・・・・・・『氷の微笑』かなぁ?」
 「・・・・・・『すげこまくん』じゃない?」
 リツコはズルリと崩れ落ちるマヤを気にする風も無く立ちあがると直径7・8センチ
はあろうかという薪を手にしたまま白衣のほこりを払う仕草と咳払いをしてみせた。
 「・・・・・・今のは悪い例よ。これから良い例を見せるわ」
 リツコは床のマヤの頬をはたいた。
 「マヤ、起きなさい」
 「う、・・・・・・ぅううん。はぅ、せんぱぁい。きのうはステキでしたぁ〜。これから二人で夜明けのコーヒーを・・・・・・」
 リツコは面倒の無いように素早くハリセンに持ちかえるとマヤに電光石火の一撃をくれた。





 仕切りなおしでソファに横になったマヤが期待のこもった視線でリツコを見上げていた。
 リツコがソファの縁に腰をかける。
 「・・・・・・マヤ」
 「・・・・・・せ、せんぱぁい」
 「・・・・・・何がちがうのかしらね?」
 不思議そうなアスカにシンジが難しげな表情で答える。
 「・・・・・・立ち位置?」
 「・・・・・・マヤ」
 「・・・・・・せんぱぁい」
 「・・・・・・マヤ、・・・・・・いつも、苦労をかけるわね」
 「そ、そんなっ、せんぱいっ」
 リツコの指が優しくマヤの髪を撫ぜる。
 「あなたにはいつも済まないと思っているわ」
 その微妙な愛撫にピクリと体をそらしながらもマヤが答える。
 「そ、そんなっ、わたしっ、せんぱいのためでしたらっ」
 「・・・・・・あなたを、いつも頼りにしているわ」
 リツコの指が頬に伸び、マヤがうるんだ瞳をせつなそうに半ば閉じて太ももをすり合わせはじめた。
 「マヤ、・・・・・・あなたが一番よ・・・・・・」
 「くふぅ〜、せ、せんぱいっ」
 リツコの指が首筋に移り、マヤの息が切羽詰ったように激しくなっていた。
 「マヤ、・・・・・・あなたを、愛してるわ」
 「はぁっ、いやっ、はぁあああああああああああぁんっ!!」
 マヤのからだが一瞬弓なりになり、次の瞬間力尽きたように崩れ落ちた。
 シンジとアスカのおもてに理解しがたいという表情が浮かび上がる。
 リツコが得意げにも見える満足な表情で口をひらいた。
 「今の違いが分かって?」
 「・・・・・・言葉攻め、ってコトかしら?」
 「・・・・・・ちがうと思うよ。・・・・・・多分」
 リツコは二人の理解に関わり無く解説をはじめた。
 「マヤの場合は、初めはともかく、後半は肉欲に突き動かされていたのよ」
 その言葉でシンジの目が驚きと理解に見開かれた。
 「そして私はマヤに肉欲を抱かなかった。たとえ部下に対する愛情とはいえども、私のマヤに対する気持ちは純粋なもの・・・・・・」
 「・・・・・・そ、そんな」
 「ど、どうしたのシンジ?」
 「そう、つまり、シンジ君がアスカと“アレ”をして、・・・・・・一瞬でも“ケケッ、この女いいチチしてるゼッ!”とか、“ウハウハだぜっ!!”とか、“オラオラっ!! ココかっ!? ココがイイのかっ!?”とかっ!! 、“俺の(ピー)な液をおまえの(ピー)にそそぎこんでヤルぜっ!”などというコトやそれに類したり準じたりする内容をチラリとでも思ってしまったらっ! LASコーラは全力でシンジ君の血中LAS値を上げにかかるのよっ!!!」
 シンジは打ちのめされたように床に膝をついた。
 「ど、どうしたのよシンジっ!」
 少年は血を吐くようにもらした。
 「ぼ、僕には無理だ!! アスカをやらしい目で見ないでヤルなんてっ!!」
 「し、シンジ・・・・・・」
 リツコは額に手を当てながら沈痛な面持ちで首を横に振った。
 「そう、・・・・・・シンジ君の年でやらしい目でみずに女の子と“アレ”をするなんて神をも越える能力と言わざるを得ないわ。十代半ばといえば下半身が最も甘酸っぱくなる年頃・・・・・・この手段、シンジ君には自殺行為でしかないのよ・・・・・・。大量のLAS値上昇を外部より受けた脳のダメージによって、シンジ君はクルクルパー、いうなれば、アスカが誰だかすら、分からなくなってしまうのよ・・・・・・」
 「そんな・・・・・・」
 アスカはシンジの背を見つめながら絶望に震えることしか出来ずにいた。


 三、


 「牛乳、飲む?」
 少年が風呂からあがった濡れた髪のままの少女に問いかけた。
 少女うつむいたまま、小さくかぶりをふったのみで答えを返した。
 「そう、・・・・・・じゃ、もうおそいし、僕、寝るから」
 少女は突如怯えた表情で少年のシャツの裾をつかんだ。
 「まって! アタシを、アタシを一人にしないで!!」
 少年はいい様のない無力さに歯噛みすることしか叶わなかった。
 「・・・・・・アスカ」
 「ごめんなさい。わ、わかってるの。アタシのせいでこんなことに・・・・・・」
 少女は振りかえった少年の胸に額を押し付けるようにしてすがり付いた。
 「・・・・・・僕はそうは思ってないよ、アスカ」
 少年はため息にも似た優しげな笑みをこぼしてその少女の髪をなでた。
 「僕、本当は、ずいぶん前から、アスカのこと好きだったんだ。」
 涙を湛えた青い瞳が少年を見上げた。
 「シンジ・・・・・・」
 「でも、僕は、・・・・・・アスカが僕のことをなんとも思ってなかったら、今までの関係が壊れるのが怖くて、せっかくミサトさんが家族だっていってくれた絆を壊すのが怖くて、ずっと、・・・・・・ずっと黙っていたんだ」
 「シンジ」
 「多分、アスカも僕のこと好きなのかもしれないって虫のいいこと思ったりしても、僕は臆病で、卑怯で、何も言えなくて、・・・・・・だからバチが当たったんじゃないかと思ってるんだ」
 少女はその少年の自虐的な言葉を激しく否定した。
 「ちがう! ちがう、ちがう!! シンジは、優しいから・・・・・・アタシが、アタシがヘンなクスリなんかに頼らないで素直になってればっ!!・・・・・・アタシが素直な普通の女の子だったら・・・・・・」
 「アスカ、僕が好きになったのは、今のアスカなんだよ?」
 少女は優しく頬に添えられた少年の手に一瞬咲き零れる花のような笑みを浮かび、悲痛な現実がそれを涙へとかえていた。
 「・・・・・・こんな別れかたイヤ!! シンジ、お願いだからアタシのことわすれたりしないで! 何回でもあやまるから! お願い、アタシを! ・・・・・・アタシを一人にしないで・・・・・・」
 少年はただ少女を抱き寄せてやることしか出来なかった。





 少年は泣きつかれて眠ってしまった少女をベッドに寝かせ、風邪をひかないようにその白く華奢な手を毛布の中に入れようと触れた。
 「・・・・・・シンジ?」
 少女がその手を握り返していた。
 「おこしちゃった? ゴメン」
 「ううん」
 二人の視線が複雑な色を混ぜて絡み合った。
 「シンジ、・・・・・・好き」
 少年は照れくさそうな淡い笑みを浮かべた。
 「うん、」
 その少女のおもてに真剣な表情が浮かび上がる。
 「シンジ、あと、2日なんだよね・・・・・・」
 「そうだね」
 「シンジ、アタシの・・・・・・最後のわがまま、聞いてもらえる?」
 「・・・・・・うん、いいよ」
 少女は一度固くその瞳を閉じると意を決して口を開いた。
 「シンジ、アタシに、その残りの2日をちょうだい。・・・・・・アタシ、・・・・・・アタシ、シンジの子供が欲しいの」
 二人の間に長い沈黙が流れた。少年は狐につままれたように、ただ穴の空くほどじっと少女の面を見てかえしていた。
 無言の空間が作り出す重圧に耐え切れなくなった少女が顔を赤らめて恨めしそうに返した。
 「な、ナニヨっ! アンタがダメっていったらアタシ、アンタを殺して後を追ってやるんだからっ!!」
 物騒な内容の告白にも関わらず、シンジの頬には笑みが浮かんでいた。少女が恥じらいに彼の視線を避けるようにしてうつむいたまま、脅しにも似た言葉をつむぐ不器用な発言を彼女らしいと感じ、また愛しいとも感じていた。
 「・・・・・・いいよ」
 少女は急に泣き出しそうになった顔をシンジに向けるとその胸にすがり付いた。
 「ごめんね、アタシ最後までわがままばっかりで。・・・・・・アタシ、シンジの子供がいれば、きっと、・・・・・・どんなに辛くても、生きていけると思うの」
 「うん、約束だ」
 少女は小さな子供がそうするように力強く頷いた。
 「・・・・・・約束」
 少女は少年の差し出した小指に切なげな泣き笑いで答えた。
 「もうっ、子供扱いしないでよ!・・・・・・」


 四、


 「入りたまえ」
 薄暗く必要以上に広い室内にある執務机の上で手を組んで隠した口許から男が言葉を漏らした。
 「失礼します」
 金髪を肩の上で短く切りそろえた妙齢の美女が律動的な歩調でその男へと歩み寄る。
 錆を含んだ男の声が美女のヒールの音を遮る。
 「・・・・・・計画に進展は?」
 「本日、全過程を終了致しました」
 「確証は、あるのかね」
 その美女が優雅で無駄のない動作で液晶の組みこまれた光ディスク装置を男の前に差し出して見せた。
 男が装置のスイッチを入れると小さく甲高い動作音と共に液晶に光がともる。
 『ああんっ、シンジっ、シンジ、シンジっ!!』
 『はうっ! アスカっ、ゴメンよ、ゴメンよ、ゴメンよっ!』
 「・・・・・・赤木博士、確かにこれは計画の最終局面ではあるが、目的の完遂無しに我々に将来はない」
 『きゃぅっ! シンジ! スゴイの、スゴイの、スゴイのっ!!』
 『アスカっ! 僕はっ! ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくはっ!!』
 「そのように心得ております司令。私は伊達にチルドレンの主治医を務めている訳ではありません。セカンドチルドレンは、本日、間違い無く危険日です」
 組まれた手に隠された男の口許が笑みとも取れる形に歪む。
 『あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、ああああああんっ!!!』
 『アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカぁぁぁぁぁぁ!!!』
 「そうか、ご苦労だった」
 その美女の口許に妖艶な笑みが浮かび上がる。
 『イッちゃう、イッちゃう、イッちゃう、イッちゃうぅぅぅ〜!!!!』
 『で、でる、でる、でる、でる、でっ、てちゃうよぉぉぉぉ〜!!!!』
 「つきましては司令。・・・・・・例の報酬を」
 美女が執務机の上に手もとのファイルから取り出した書類を乗せた。
 『はぁぁん・・・・・・シンジぃ〜・・・・・・』
 『アスカぁ〜・・・・・・』
 「うむ」
 男は一つ頷くと、執務机の引出しをあけて印鑑を取りだし、その上下を顰め顔で確認するとヤケに念入りにその書類に捺印した。
 それには“婚姻届”と、あった。
 男は丁寧に元あった形に折りたたんで書類を差し出し、その美女はひどく悦に入った様子でそれを受け取る。
 「では司令、後程」
 「うむ」
 冷ややかなヒールの音が遠ざかり、その美女の手が扉のスイッチにかかろうとする。
 「赤木博士」
 彼女がわずかに頬を染めて振りかえった。
 「いや、いつまでもこの呼び方では他人行儀だな・・・・・・」
 その美女の瞳が期待に潤んだ。
 「リツコ君」
 「・・・・・・はい」
 今その女性は幸福の絶頂にいたと言ってよいであろう。
 「いや、・・・・・・リツコ」
 その頬は既に新妻のように恥じらいに赤く染まっていた。
 「はい、ゲンドウさん、・・・・・・なんでしょうか?」
 男の顔が邪悪に歪んだ。
 「初孫を、楽しみにな・・・・・・」
 その美女の手に持っていた書類がばらばらと零れ落ちる。力なくその背を扉に預けると、本人の意思とは関係無くずるずると床に座り込んでいた。
 赤木リツコの青春はセミの命よりも短かった。


 五、


 「う、ううぅん・・・・・・」
 朝の日差しがカーテンの間から少女を木漏れ日のように照らしていた。
 まどろみの中で薄く笑みをはく天使のような寝顔は、突如記憶によって揺り起こされた。
 少女はベッドの上に起きあがると、恐る恐るその隣に寝ている人物に視線を向けた。
 そのかつて少女に凛々しいと感じさせた事もある細面の繊細な顔立ちには、バカボンのように頬にぐるぐると渦巻きがうかんでいた。
 「キャ−−−−−−−−−−!!!」
 「キャ−−−−−−−−−!!! イヤ−−−−−−−−!!!」
 「アスカっ!!」
 「イヤ−−−−−−−−−っ!!!」
 「アスカっ!!」
 「イヤ−−−−−−−−−っ!!!」
 「アスカ! 僕だよ、シンジだよ、大丈夫だよ!!」
 少女は愛しい少年の声と髪に触れる優しい手に恐る恐る顔を上げた。
 「・・・・・・し、シンジ・・・・・・」
 「そうだよ、僕だよ、だから、・・・・・・大丈夫だからね」
 少女は涙を湛える少年の優しげな笑みが次第に自らの涙で歪んで行くさまをこみ上げる感情と共に見つめていた。
 「シンジっ!!」
 少年は自分の胸に倒れこむようにすがり付く少女の髪を優しく撫でてその気が済むまで涙を流させた。
 少女はひとしきり泣いた後も感情の高ぶりにしゃくりあげていた。
 「アスカって、意外に泣き虫なんだね」
 「うっ、うるさいわねっ。だ、だって、アタシ、シンジのほっぺに赤いグルグルがあるのを見たから、クルクルパーになっちゃったんだと思ったんだもん」
 「え? ほっぺ?」
 シンジが確かめるように頬に触れると手に赤い色がついてきた。
 「なにかしら、これ? 口紅?」
 「・・・・・・どうして口紅なんて」
 「あ、アタシじゃないわよ」
 二人は数瞬見詰め合い、共通の可能性にたどり着いてベッドから起きあがった。
 「ミサト!!!」
 「ミサトさん!!!」
 二人が転がるようにリビングに出ると、そこには果たしてネルフの制服のままのミサトが何故か赤いルージュを片手にしたままうつ伏せに倒れるようにいびきを響かせながら眠っていた。
 「ミサト!!!」
 「ミサトさん!!!」
 二人は感極まったように床のミサトを抱き起こすと、生き別れになった家族のように一方的にミサトと抱擁を交わした。
 「なっ、あにっ!? 使徒!? 使徒なの!? せっ、戦闘配置ぃ〜っ!!」
 その黒髪の美女はやぶにらみのまま一向に状況がつかめないまま、とりあえず経験上過去役に立った言葉を口にしていた。





 今日も朝早くから発令所の定位置で、用も無いのに正面を見据えている二人の男たちがいた。
 「・・・・・・碇、LASコーラの開発費、幾らかかったんだね? 委員会に言い訳する役はご免だぞ」
 「・・・・・・ああ、問題ない。アレは秋葉原の自動販売機で80円だからな。・・・・・・」
 「・・・・・・そうか」
 「・・・・・・ああ、」
 「・・・・・・碇、祝いは考えているのか?」
 「・・・・・・男ならシンジ、・・・・・・女ならレイだ」
 「・・・・・・絶対だな?」






 「ええっ!? じゃあ、ミサトあの時酔っぱらってただけなのっ!?」
 「も〜、それがまいっちゃうわよ。新種のアルコール飲料だとか言ってリツコに飲まされたんだけど、それが悪酔いするのしないのったら!」
 「でも、じゃあなんでシンジの顔にラクガキなんかすんのよ?」
 「だぁってさぁ〜、こっちが寂しくたまった仕事で徹夜帰りだっちゅ〜のに、シンちゃんはアスカとよろしくやってるし、なぁ〜んかエッチなにおいってゆーの? 部屋中に充満してるしねぇ〜!!」
 「うっ、うるさいっ!!」
 「で? どうだったシンちゃんは? 上手だった!?」
 「ミサトさん!! やめて下さいよっ!」
 「なぁ〜によぉ〜、あたしゃ保護者よ? あんたたちの成長のしぐあいってーのも気になるってもんでしょーが?」
 「いいわよっ!! 見せてヤルわよっ!!」
 「ちょっと、アスカっ! んんっ・・・・・・んぅ、んっ、・・・・・・」
 「うっひゃ〜、かゆい、かゆい。あたしゃ部屋にでも退散しますかね・・・・・・トホホ」
 ミサトが部屋に閉じこもると、ようやくアスカがシンジを開放した。
 「ね、でもさ、シンジ。じゃあ、アタシ達はリツコにまんまと一杯食わされたってわけ?」
 シンジは極上の笑みを浮かべてアスカに答えた。
 「でも、おかげで僕はどれだけアスカが好きだったか自分でも分かったし、どれだけアスカが僕のこと好きでいてくれたかも分かったから、それでも、いいかなって」
 アスカが不満げに頬を膨らます。
 「なんか、なっとくいかなーいっ!!」





 その後、急速にラブラブになったシンジとアスカの間はネルフ全域に知られるようになるが、その原因となる事件や事象については憶測と真実とが混ざり合い、当事者達が語ろうとしない今、真相はようとして知れなかった。


 「・・・・・・どこなの?・・・・・・どこ?」


 また、その後、“LRSコーラというモノを求めて秋葉原をさ迷うナゾの青い髪の少女”という物語が都市伝説の一つに加わったという。





 『LASコーラ』  <了>


 anisotropicさんからLASコーラの後編をいただきました。

 はたしてどうなることかと思ったら‥‥やはりらぶらぶでしたね〜(笑)

 いや、らぶらぶだけでなく、電波もいい具合に混じっております。
 いつのまにかばぁさんにあと一歩のリツコさん(笑)酔っ払いのミサトさん。ちょっと(かなり?)百合に壊れたマヤさん‥‥。

 実に、いい感じのお話でありました。
 最後に、LRSコーラがあるかどうかが気になるとこですね(笑)

 読後にこれはよし!と思われた方、ぜひ感想めーるをおねがいします〜。

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