Epilogue

あぐおさん:作


2032年 第三東京市
Piiiiii
目覚まし時計が鳴り響く。すると布団の中からぬっと手が伸びて目覚ましを止めて・・・もう一度布団の中へと潜っていく。数分後ドタドタと大きな音を立てながら足音が近づいてきて勢いよくドアを開けた。
「さっさと起きなさい!バカレイジ!」
ブラウンのポニーテールをした少し目のきつい女子高生がズカズカと部屋の中に入って布団を引っぺがした。
「なにすんだよ!アカリ!」
「なにとはなによ!高校生にもなって一人で起きられないなんて情けないと思わないの!?毎朝私が起こしに来るから遅刻しないじゃないの!それが幼馴染に対する感謝の言葉!?」
「うるさいな~」
「いいからさっさと着替えてご飯食べなさいよ!リツコおばさんも待ってるわよ!早くしないと遅刻するわよ!」
「わかったよ・・・」

ダイニングではゲンドウが新聞を読み、リツコがコーヒーを飲んでいる。そこへアカリがやってきた。
「いつも悪いわねアカリちゃん」
「いえ、これも幼馴染の役目ですから」
アカリは席に座るとリツコが用意していたカフェオレを飲む。そこへ制服に着替えたレイジが降りてきた。
「おはよう父さん。母さん」
「おはようレイジ。あなた、もっと早く起きれないの?いくらなんでも母さん情けなさすぎるわ。仮にもあなたは立派なお兄さんとお姉さんの名前をもらっているのだから・・・」
「兄さんと姉さんと一緒にしないでくれよ・・・」
少しムッとしながらアカリの隣に座るとトーストをかじるレイジ、リツコはふと思い出したように言った。
「ああ、そういえば来月シンジとアスカが帰ってくるわ。ミライとノゾムを連れてね」
「シンジさんって今ドイツの病院で働いているんですよね?すごいな~国際結婚して海外で働いているなんて憧れちゃうな~♪レイジ!あなたもシンジさんを見習いなさい!」
「兄さんが帰ってくるということはアスカ義姉さんも来るのか。久しぶりだな~義姉さん相変わらず綺麗なんだろうな~」
「・・・・むっ!」
アカリはレイジの腕をつねる。
「いてっ!なにすんだよ!」
「フンッ!」
ゲンドウとリツコの頬が思わず緩んでしまう。
「じゃれるのはいいけど、もう時間じゃないの?」
「あっ!もうこんな時間!?レイジ!行きましょ!」
「ゆっくりする時間もないのかよ・・・」
「レイジが悪いんでしょ!それじゃおばさん、おじさん、行ってきます!」
「母さん!今日は姉さんの店でバイトあるから夕飯はいらないよ!」
「はいはい、わかってますよ」
アカリはレイジの腕を掴むと急いで学校へと走っていった。リツコは彼らを見届ける。
「ふふっまるでシンジとアスカみたいね。将来が容易に想像できるわ」
「ああ」
「それより!ゲンドウさんも新聞ばかり読んでないでいい加減仕事に行ってください!今日はシャクティが来日してくる日でしょ!?遅刻してマヤに小言を言われるのは私なんですから!」
「わかってるよ。リツコ」






第二成田空港
インド政府専用機が着陸する。飛行機からはSPに囲まれてシャクティが姿を現した。タラップを降りると外務大臣が出迎えた。日本政府専用の車に乗り込むシャクティ。その隣には日向マコトの姿があった。
「今日の予定は?」
「午前は文部科学大臣と協議があります。午後からMAGI管理機構の視察です」
「そう・・・」
シャクティは嬉しそうにマコトの顔を見る。
「彼らに会うのも本当に久しぶりね。祖国にMAGIの導入が決定して以来かしら?」
「そうですね。インドにMAGIが導入されたおかげで飛躍的に教育、及び科学技術の研究が伸びました。これもカーン教育副所長の成果ですよ」
「いいえ、これは私の力じゃないわ。マコトさん、あなたが私を支えてくれたから、我が国にMAGIの導入、及び管理ができるようになったのよ。事実、我が国のMAGI管理責任者はあなたじゃないですか」
「いえ、そんな・・・僕は当然のことをしたまでですよ」
日向は照れながら笑って頭を掻いた。そんな彼を微笑ましく眺めながらシャクティは日向の腕に自分の腕を絡める。
「副所長・・・」
「今はシャクティって呼んでください。あなた・・・私、あなたと結婚して本当によかったわ。最初は政治家である父から随分と反対されましたが、今では二言目にはあなたの名前が出るほど父も気に入っているわ。子供もたくさん授かってみんな元気でいい子に育っています。私、あなたと一緒ならどこへでも行ける気がするの。だから、ずっと私の側で支えてください」
シャクティは腕に頬ずりをしながら語る。日向は空いた手でシャクティの頬を撫でた。
「はい、ずっと側にいます」
二人は今ある幸せを噛み締めあい笑いあった。






山形県尾花沢市
「うん、今日も随分と暑いな」
暑い日差しが照りつける中、加持は麦わら帽子脱いで頭から水を被るともう一度深く麦わら帽子を被りなおした。
彼の目の前には一面のスイカ畑が広がっている。加持は畑に入ると頃合いのスイカを出荷に出すために実を採っている。
加持はミサトと共にスイカの産地でもある山形県に移住し、そこで農家として生計を立てている。この時期は主に茄子やトマトの栽培がメインなのだが、趣味でやっていたスイカが思った以上の反響があり、今では立派なスイカ農家だ。
ミサトと結婚をして以来、彼女は暗い過去を忘れたまま明るく元気に主婦をやっている。それだけでも感謝しているが、一番嬉しかったことは味覚が改善されて料理がまともになったことだろう。それを知った時は涙がこみ上げてきたものだ。
二人の間にできた子供も上は中学、下は小学校に行っている。セカンドインパクト直後の出来事がまるで悪い夢だったと思えるほど毎日が充実していた。
遠くからなんとも情けないエンジン音を響かせながらミサトが原付に乗ってきた。
「りょうく~~~ん!お弁当持ってきたから一緒に食べよ~~~!」
「ああ!今行く」
加持はその場で大きく腰を伸ばすとスイカが積まれたリアカーを引いて畑から出た。
「うわ~ずごくいいスイカが採れたね!」
「ああ、そうだ!この際だからみんなにおすそ分けしようか。碇司令の分と冬月副司令、あと・・・レイちゃんの家にも送ろう。あと他には・・・」
スイカの選定をする二人、数日後、元ネルフのスタッフの元に加持の作ったスイカが送られてきた。






静岡県富士市
「ふんふーん♪」
庭の花に水を撒きながら鼻歌を歌う女性がいる。女性はジョウロを地面に置くと大きく伸びをした。花が咲き誇る庭の向こう側には富士山が良く見える。
「うーん、今日もいい天気だにゃ~こういうときは昼寝するに限るよね~でも、寝てると子供たちが帰ってきたときに起こされそうだし・・・カヲルも文句言いそうだし・・・どうしようかにゃ~」
「おや?マリ君、こんなところにいたのかね?」
振り返ると縁側で手すりにつかまっている冬月コウゾウの姿が見えた。
「お義父さん、大丈夫ですか?起き上がって」
「うむ、今日は気分がいいからね。ところで子供たちは・・・」
「マイコとダイスケは学校、リョウコは幼稚園に行ってますにゃ!」
冬月は嬉しそうに頷く。
「うむ、元気があっていいことだ。それより、その語尾に『にゃ』をつける癖なんとかならないかね?子供にうつるし、カヲルも嫌がるだろう。仮にも教師の妻なのだから・・・」
「にゃははは!こればっかりは癖だからどうしようもないですにゃ!」
冬月はやれやれと言うように軽くため息をついた。
「昨日もらったお団子が残っている。よかったらどうだね?こんなじじぃと一緒に富士を見ながらおやつを食べるのは」
「いいですね!私お茶用意します!」
マリは履物を脱ぐとお茶の用意を始めた。冬月は縁側に座ると杖をついて遠くを見る。
カヲルを養子に迎え入れて変わり者ではあるが妻を娶り3人の子供も上は小学生、下は幼稚園に通っている。ネルフにいた頃には想像もできなかったほど穏やかな時間が流れている。もう少ししたら子供たちが帰ってきてじぃじと呼びながら冬月の元に駆け寄ってくるだろう。
(罪を犯し、老い先の短いじじぃにはもったいないほどの人生だな・・・・)
「お義父さーん、お茶が入りましたよ」
マリがお盆に団子とお茶を用意して隣に座った。二人はしばらくゆったりとした時間を過ごした。
翌年、息子とその妻、そして孫たちに見守られながら冬月はこの世を去った。


「冬月せんせー!」
「うん?なんだい?」
冬月と呼ばれたカヲルは笑みを浮かべながら振り返ると数人の女子生徒が顔を赤く染めながら近づいてきた。
「今日の授業のところでわからないところがあって」
「うん?どこだい?」
カヲルは教科書を広げると親切丁寧に彼女たちに教える。女子生徒はカヲルの顔ばかり見てその声に耳を傾ける。
カヲルはその学校で絶大な人気を誇る教師になっていた。彼の元へ女子がひっきりなしに足を運ぶ。それでも男子生徒から僻みがないのは彼が誰に対しても真摯に向かい合っているからだ。卒業後も彼の元へ元生徒たちが遊びにきている。カヲルは今日も在校生と卒業生の対応に追われながらも職務をこなしている。
「あ、メールが来ている。・・・そうか、シンジ君が帰ってくるんだね。僕もパーティーに参加します・・・っと、送信」






第三東京市郊外
夕方、学校が終わったレイジとアカリは息を弾ませて商店街を走り抜けて、一軒の店の扉を開けた。
「ごめん!遅れました!」
すると店の奥から暖簾を掻き分けて髭を生やしたトウジが姿を現した。
「おう!レイジにアカリちゃん。まだ大丈夫や。それに今夜は貸切やから多少遅れてもええって言うたはずやが?」
「え?そうなんですか?」
「いや、聞いてないけど・・・」
あれ?という顔を浮かべる3人。すると店の奥から髪の毛を伸ばし後ろで束ね、少しだけ太ったレイが現れた。
「ちょっとあなた!もしかして言うの忘れていたんじゃないですか?」
「あ・・・そうかもしれへん・・・」
「そうかもじゃないですよ!まったく肝心なところを忘れるんだから!」
怒るレイ、トウジはばつが悪そうな顔をして頭を掻いた。レイジとアカリは思わず笑ってしまう。
「レ、レイ・・・そんなに大声だすなや・・・ミクが起きてまうやろ」
「大丈夫ですよ。あの子寝付きだけはいいですから。あなたみたいに!」
「せ、せや!タクヤとツカサが母さんが怒ったって心配するで!?」
「タクヤもツカサも聞き分けのいい子ですから、大丈夫です!」
怒ったレイにタジタジのトウジ。その両手を腰に当てて怒った姿はアスカそっくりだ。
アカリはレイの体を見る。レイは3人の子供を産んだ割にはそれほど崩れてはいなかった。
「でもいいな~レイさん。全然太ってないから」
「あらそう?これでも昔に比べて15キロ太ったわよ」
「えっ!?そんなに!?」
「なに言うとるんや。レイは元々痩せすぎやったやろ。これで丁度いいくらや」
「もう・・・」
顔を赤く染めて照れるレイ。3人は思わず笑いあった。
「そういえば姉さん。来月シンジ兄さんが帰ってくるって母さんが言ってたよ」
「ええ、アスカからメールが送られてきたわ」
「シンジが帰ってくるっちゅーことは、またここでお好み焼きパーティをやらなあかんな。ほな、カヲルも呼んでパーッとやろうか!」
「カヲルにはメールで伝えてあるわ。そしたら仕事さぼっても来るって」
「・・・あかんやろ、それ・・・しっかしあれやな、たまにはお好み焼きやなくてたこ焼きでもええな!レイ、そう思わんか?」
「あなた!アスカがタコ苦手なの知っててまたやるつもりなの!?今度こそ二人に半殺しにされるわよ!」
「冗談にきまっとるやろ・・・あはは・・・」

ここは第三東京市でちょっと有名な鉄板焼き屋「あやなみ」
この店の名前はレイの旧姓からなのだが、レイが不満げにそれをもらすと
「ワシは好きやで。その綾波っていう名前の響きが。なんかええやんか」
そう子供のように笑って言うとレイは照れて何も言えなくなってしまった。
店は順調に売り上げを伸ばしていき、第二店舗の話も出て、そこはトウジの妹のサクラが夫婦でやることが決まった。第二店舗ができるまでもう少し先だが、彼らの店には学生時代の同級生やレイジとアカリの友人、元ネルフ関係者がこぞって来る店となった。





ドイツ ハンブルグ郊外
リビングのソファーで少女が腰まで伸びた黒髪を扇状に広げてすやすやと眠っている。
ふと眠たそうにゆっくりと目を開けると彼女の黒曜石のような黒い目に金髪の蒼いつぶらな瞳を持つ少年の顔が映った。少年は少女が起きたのを見るとトタトタと足音を立ててダイニングにいる両親の元へと駆け寄った。
「まま~ねーねがおっきした~」
「あら?やっと起きたのね」
少年に呼ばれた彼女の母親は椅子から腰をあげると少女の元へ歩く。少女は目をこすり母親を見上げる。眼鏡をかけ肩にかかった金髪の髪でコバルトブルーの瞳を持つ母親。アスカだ。
「アスカ、怒っちゃだめだよ」
「わかってるわよ」
優しくアスカを諌める彼女の父親。黒髪で優しい雰囲気を醸し出している男性。シンジだ。
「ノゾム、おいで」
シンジは両手を広げると、ノゾムはパタパタと足音を立ててシンジに抱きつく。シンジはまだ幼い長男を抱きかかえると、自分の膝の上に乗せた。
「ミライ、あなた寝すぎよ?夜、寝れなくなっても知らないからね」
アスカは少しだけ呆れたように長女のミライに呟く。長女のミライは目をこすると大きく伸びをしてソファーに座りなおした。
「パパ、ママ、私ね?すっごい不思議な夢を見てたんだ!」
「へぇ、どういう夢だい?ミライ」
「えっとねえ、私がタイムスリップして、若い頃のパパとママに会いに行くの。そこだとパパとママ、あとレイおばさんがロボットに乗って大きな怪獣と戦ってるの!レイおばさんはすごい無愛想なんだ。パパとママはいっつも一緒にいて~ママはパパにデレデレしてパパをいつも困らせてるの!パパはそんなママを見て笑っているけど・・・よく考えてみたら今とあんま変わらないよね・・・」
「ぬわんですって!?」
「アハッ、そうかもしれないね」
「ちょっとシンジ!恥ずかしいからやめなさいよ!それよりミライ!アンタ本当に見たんでしょうね!?最近怒られてばかりだからママを困らせようと作ったんじゃないの!?」
「作り話じゃないよ!本当に見たんだって!信じてよママ!もう!笑ってないでパパもなにか言ってよ!」
長男のノゾムを膝の上で抱きながら笑うシンジ。そんなシンジの隣に椅子を用意して座り不敵な笑みを浮かべるアスカ。仲睦まじい自分の両親を見て声を荒げながらも笑みがこぼれるミライ。
どこにでもある彼らの家族の家では、そのありふれた幸せを噛み締めるように、いつまでもいつまでも笑い声が響いていた。
















あぐおさんの『Remake of Evangelion もう一度あなたの』完結です!
綺麗なエンディングでした。最後まで、素敵なお話を読ませてもらいました。

今度はまた違うテーマでのお話になるのでしょうか。
あぐおさんの次回作にもご期待ください。

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