第七話 君が君であるために

あぐおさん:作




夕食も終わりミライは自家製ハーブティーを飲み、シンジは皿洗い、レイは自室に戻り宿題、アスカはテレビを見て寛いでいる。
エプロンで手を拭いてリビングに行く。シンジはひとつ深呼吸をして声をかけた。
「あ、アスカ?」
「ん~なに?」
「いや、あの・・・その・・・」
「なによ、はっきりしなさいよ」
「ご、ごめん。なんでもない」
シンジは落ち込んだように自室へと戻った。アスカとミライは顔を見合わせて首をかしげた。
シンジの机の上には包装された小物が置かれている。それを見つけたのは偶然だった。
夕食の買い物の帰り近くの公園ではフリーマーケットが開かれていた。特に欲しいものはないのだが、なんとなく気になって中へと入って物色してみる。フリーマーケットでは服や小物が並べられている。その中でシンジの目に止まるものがあった。薔薇を模った赤色の髪飾り。それを見たときシンジの脳裏に同居人の赤い髪をした少女の顔が浮かび上がった。
(アスカがつけたら似合いそうだな。そういえばアスカ、インターフェイスをいつもつけているけど、他に髪をまとめるようなものつけたところ見たことないよな)
シンジは財布の中身を見る。そして決めた。
「すみません。これください」


家に帰ったら渡そうかなと思ったのだが、いざそのときになってみると恥ずかしくて渡せない。シンジにとって初めて女の子に渡すプレゼントのためどう渡せばいいのか全くわからない。シンジは思わずため息をついた。
(後で姉さんに相談してみようかな・・・)
アスカとレイが部屋で寝た頃、シンジはミライの部屋を訪ねる。コンコンとドアをノックする。
「はい?」
「姉さん、今いい?」
「いいわよ。どうしたのこんな時間に」
ミライは椅子を回転させてシンジと向き合う。シンジはどこかソワソワしている。
「あのさ・・・姉さんに相談があって・・・」
「ええ、いいわよ」
「あの、その・・・女の子にさ・・・プレゼントを・・・渡したいけど・・・どうやって渡したらいいのか・・・わからなくて・・・」
「・・・・・Pardon?」
「いや、だから・・・その・・・」
「シンジ、プレゼントを渡すのはいいけど、誰にあげるつもりなのよ」
「・・・・アスカに・・・」
「マジで?」
顔を真っ赤にして頷くシンジ。ミライは嬉しそうに目を細めた。
「明日は赤飯かしら?」
「違うよ! そういう意味じゃなくて!」
「今日さ、フリーマーケットに寄ったら髪飾りを見つけたんだ。アスカに似合うだろうなって思ったら思わず買っちゃって・・・」
「ほうほう」
「ほら、アスカってさ、インターフェースを髪留めに使っているでしょ? でもそれ以外につけているところ見たことなくて。アスカも普通の女の子なんだから、他の髪飾りもつけてほしいって思って・・・できれば、そのきっかけを・・・僕が作りたいなって・・・」
(パパ、何気にすごいこと言ってませんか?)
「なるほどね~シンジもなんだかんだ言いながら、アスカのことちゃんと見ていたわけね」
体中赤く染めて俯くシンジ。
(そうね、前のママなら受け取らなかったかもしれないわね。インターフェイスをいつもつけていたのはエヴァのパイロットとしての誇りそのものだから。だからそれを外すということは自分を否定することと同じことだから・・・でも、今のママなら・・・きっと・・・)
「そうね、シンジがプレゼントしたものなら彼女受け取ってくれるはずよ。一言添えてね」
「一言・・・?」
「似合うからって言って渡せば?」
「喜んでくれるかな・・・・?」
「大丈夫よ」
ミライはシンジに微笑んだ。
(となると、こりゃ場の雰囲気作らないとね。パパのことだから雰囲気考えずに渡してママをブチギレさせそうだし・・・)
「シンジ、それを渡すときはちゃんと雰囲気考えて渡さないとダメよ。くれぐれも夕飯後とかに渡したりしちゃダメよ。アスカは雰囲気とかそういうのすごく気にするから」
「・・・そうなの?」
(ダメだこりゃ)



ミライはネルフに着くと廊下を歩いていた日向を呼び止めた。
「おはようございます。日向さん、少しいいですか?」
「おはようございます。式波さん、どうしました?」
「うん、実は日向さんに相談したいことがあって、シンジ達を労う意味でどこか遊びに連れて行ってあげたいけど、どこがいいのか・・・私そういうの知らないから」
「う~んシンジ君たちと遊びに・・・そうだ! 第二東京市に新しくできた遊園地があるじゃないですか。そこなんかどうですか?」
「いいわね! 日向さんこんなこと頼むのは悪いけど、チケット取ってもらえますか?」
「お安い御用ですよ!」
日向はすぐにチケットを取って渡してくれた。ミライはチケットを見ながら今度の日曜日にでも行こうかなと考えていると使徒襲来の警報が鳴った。
ミライはすぐに頭を切り替えると発令所へと向かった。



その使徒は宇宙に現れた。そしてその形態も随分と違う。前はアメーバーのような形をしていたが、今度はヒトデのような形をしてる。
「これが遺伝子上人と数パーセントの違いしかないなんて思いたくもないわね」
リツコが思わずぼやいた。ただ、攻撃パターンは同様で自分の一部を切り離して投下爆弾のように落とした。徐々に狙いを定めていく。
「ミライ、どうするの? 衛星軌道への攻撃手段はないわよ」
「そうね、今回も受け止めるわ。それしかないもの」
「またミサトの作戦のパクリなの? ミライ、あなたならもう少し・・・」
「リツコさん、こんな形になってしまったけど、彼女は使徒迎撃に関してはかなり優秀な指揮官よ。私は知識があるだけで、あそこまでの応用力も自由な発想もないもの。私情にかられなければ私なんか彼女の足元にも及ばなかったはずよ」
リツコは思わず目を見張った。そこまでミライがミサトのことを高く評価しているとは思いもしなかった。
「復讐に目がくらんでか・・・まったく人はロジックじゃないわね」
「あと、彼女は欲張りすぎたのよ。だから視野を狭めてしまって全てが中途半端になってしまった。もっと広い視野で見れば違っていたけどね。そこを直したかったけど・・・残念ね」


ミライから作戦を聞いた3人は呆れた顔を浮かべた。
「こんなの作戦でもなんでもないじゃない!」
「そうね、アスカの言う通りよ。でも、これ以外に方法が思い浮かばなかったのよ。この街に住むみんなを守るためにね」
限られた時間の中で作戦部と戦自が出した答えがこれだった。相手が宇宙空間にいる以上手出しができないのだ。せめてもの時間稼ぎと、戦自から大量の対空砲火とN2爆雷が撃ち込まれる手筈となっている。
本来なら彼らに遺書を書かせる権利が与えられる。しかしミライは敢えてそのことを伏せた。生きて帰ってくる以外認めないから。
「大丈夫よ。新しくなったMAGIのサポートもあるわ。それと、これが終わったら次の日曜日みんなで遊園地に行きましょう」
「遊園地?どこの?」
「この前できたばかりのところ」
「私、遊園地行ったことないから楽しみだわ」
「ふっふっふ・・・ジェットコースターがアタシを待っているわ!」
「お弁当作らないと・・・なにがいいかな?」
3人は楽しそうに話しだす。だが、これはミライに余計な不安を与えないように彼らが自ら考えてやっている演技のようなものだ。ミライも彼らの意図を見抜いているので彼らの演技に乗っかる。
エントリープラグへ向かうエレベーターでアスカが肩を落とした。
「な~んかさ、一生懸命演技したのにミライに見抜かれちゃってるわね」
「えええっ!?そうなの?」
「ええ、姉さんそういうところ鋭いから。兄さんもしかして気づかなかったと思ったの?」
「ホント、バカシンジね」


エヴァ3機は各々にスタート位置につく。あとはミライの号令を待つだけだ。
「もうすぐよミライ」
「ええ、わかっているわ」
大きく深呼吸をしたその時、ブザーがけたたましく鳴り響く。
「なに!?どうしたの!?」
「パターン青!?ええ?使徒!?そんな!」
「なに?なにが起こっているの!?」
その場の全員が次の言葉に血の気を失せた。
「MAGIが使徒の攻撃を受けています!」



エヴァに乗った3機は号令のかからないため待機をしている。
「ねえ、おかしくない?」
レイが2人に問いかけた。
「なに?」
「発令所から何も指令が来ないの」
「まだ待機ってことじゃないの?」
「でも、いくらなんでも遅すぎるわ。問い合わせてみるわ」
「こちら零号機。姉さん、号令はまだなの?」
『レイ! こっちはそれどころじゃないの! MAGIが使徒の攻撃を受けているのよ!』
「なんですって!? ちょっとミライ! どうするのよ!」
『青葉さんと日向さんが望遠カメラで使徒を監視して高度と各エヴァの位置を随時修正かけるようにするわ。高度1万メートルを超えたら目視で確認できるはずよ。戦自とも連絡を取り合っているけど、回線が混乱しているからサポートも多くは望めないわ! そこからはあなた達が独自の判断で行動して! MAGIからのサポートは望めないわ! お願い!』
発令所も混乱しているのかミライは早々に通信を切った。シンジとアスカの顔から焦りと不安が浮き彫りとなる。レイは呼吸を整えると精神を落ち着かせた。
「聞いて、発令所の使徒のほうはリツコさんと姉さんにまかせるわ。私たちは落下してくる使徒を受け止めて殲滅する。私がリーダーをやるわ。いい?」
「レイ、まかせるよ」
「アタシがリーダーよ!って言いたいところだけど、レイが一番落ち着いているから仕方がないわね。今回は譲ってあげるわよ。号令よろしく。レイ」
「ありがとう。必ず生きて帰りましょう。それじゃ・・・」
「Open combat」
エヴァ3機は勢いよく走り出した。


一斉に走り出すエヴァ3機。青葉は使徒を監視し、日向が落下地点の大幅な予測を計算して彼らに情報を送る。その間もリツコとマヤ、ミライの3人は侵入してきたイロウルを殲滅するべく、急ピッチでプログラムを制作している。ミライは焦っていた。使徒が強く進化することはミライ自身予測してきたことだし、それに対しての予測や対抗策も作戦部、技術部が何度も話し合ってきたことだ。しかし、使徒が2体同時で攻めてくるなど考えもしなかった。
(外からはサハクィエル、中からはイロウル。奴らはネルフ本部に標的を絞ってきたわね。イロウルのほうはまだ勝算がある。でも、サハクィエルはMAGIのサポートが使えないのが痛すぎる。しかも前回と同じ場所に落ちるとは限らない。目を塞がれた状態でどこまでできるか・・・でもイロウルはどこから侵入してきたのかしら?)
「ミライ、気持ちはわかるけど集中して」
リツコがミライの心の内を読んだのか声をかけた。
「私たちのやるべきことは、あの子たちを信じてあげることよ。大丈夫よ」
「うん・・・ありがとう。リツコさん」
「それはこっちの台詞よ。ミライがいてくれたおかげで思っていたより早くプログラムが完成しそうよ。ほら、彼らが帰ってくる場所をちゃんと守らないと」
「「はい!」」



発令所ではMAGIの浸食するイロウルと落下するサハクィエルの同時攻撃で浮足立っている。そこへひとりの人物が中へと足を踏み入れた。
「何をしている」
「司令!」
ゲンドウだった。ゲンドウは南極への出張を冬月にまかせて自分は今後のことに備えて戦自との会合に出ていたのだった。ゲンドウは黙ってモニターを見つめると、モニターに地図を出して印をつけた。そこは前回の落下地点の場所だった。
「エヴァ各機に告げる。使徒落下地点の予測が出た。今から座標をそちらに送る。各機、目標地点へ急げ」
3人の所に自分がいる位置と目標位置が記された地図が送られる。3人はゲンドウのことを信じて印のついた場所へと疾走した。
ゲンドウは自分の席に戻るとオペレーター達を見まわす。
「子供達が必死になっているのに大人が浮足立ってどうする。ネルフ職員なら如何なる時でも冷静に対処しろ」
ゲンドウの言葉に顔を赤く染める者、力強く頷く物。反応は十人十色だったが、ゲンドウによって発令所はいつも通りの雰囲気に戻った。そこへミライ達が戻ってくる。ミライはどっしりと椅子に座りいつものポーズをとっているゲンドウに驚いた。
「司令・・・南極へ出張ではなかったのですか?」
「ああ、冬月にまかせた。私は私でやることがあるのでな」
(ありがとう。おじいちゃん)
ミライは心の中でゲンドウに礼を言った。



シンジ達は走る。奇跡を起こすために。ゲンドウから送られた目標地点に一番早くついたのはやはりシンジだった。
「よしっ来い! ATフィールド全開!」
初号機は手をかざしてATフィールドを展開しサハクィエルを受け止める。腕、足に激痛が走る。シンジは奥歯を噛み締めて使徒を睨み付ける。もう少しでレイ、そしてアスカが間に合う。発令所ではミライがその様子を見ていた。ミライは勝利を確信した。だが、サハクィエルはまったく予想もしない動きを始めた。
サハクィエルの体から小さな手のようなものがいくつも浮き出るとATフィールドを擦り抜けて初号機の指に絡みつき。
「あああああああああああああああああ!!!!!!」
初号機の指を折った。一気にすべてを折るようなものじゃない。一本一本まるで相手を試すかのように折る。6本の指があらぬ方向に折りまがった時、零号機が滑り込んでサハクィエルを持ち上げる。そして弐号機がその間に滑り込みATフィールドを切り裂いてコアを潰した。サハクィエルは3人の上に覆いかぶさると爆発した。その爆発でエヴァ3機は軽微ではあるものの損傷をした。
「シンジ! 大丈夫!?」
アスカは弐号機を降りて初号機のエントリープラグへと向かう。シンジは手で自分の指をさすりながら笑って答えた。
「指、折れてない?」
「うん、折れてはいないみたい。でもすごく痛い」
アスカはシンジの手を両手で包んだ。少しでも痛みが引くようにそうしたかった。
「あ! そうだ! 姉さん! そっちはどう!?」
『大丈夫よ。こっちも今終わったわ。ありがとう。司令からシンジに話があるわ』
『シンジ、指は大丈夫か?』
「うん、平気」
『そうか、よくやったな。シンジ』
父親と話すシンジを見てアスカは羨ましく思った。彼女が切望してやまない母親は他界している。彼女の両親は遠いドイツにいる。なんとなくドイツの家族と話をしてみたくなった。
『・・・そこにセカンドチルドレンもいるのか?』
「えっ? あ、はい」
『よくやってくれた。シンジのこと、よろしく頼む』
「ふえっ」
思わず変な声をあげるアスカ、ゲンドウの言葉を頭の中でリプレイしてその意味を考える。しかし、顔を真っ赤に染めあげた頭の中はオーバーヒート寸前で思考が纏まらない。ふとアスカが包むシンジの手が強くアスカの手を握った。
「あっ・・・」
視線が絡み合う。シンジは透明な笑顔でアスカを見る。
「遊園地、楽しみだね」
「うん、すっごく楽しみ! アタシも初めて行くから」
エントリープラグの中で二人は笑いあった。



ミライは今回の最大の疑問点であるイロウルの侵入経路を聞くべくリツコの部屋へと入る。
「どうです? なにかわかりましたか?」
「ええ、わかったわ。MAGIを攻撃した使徒の発信源が」
「まさか・・・タンパク壁?」
「それはないわ。今回変えたのは電子機器のみで生体部品は一切触っていないのよ。前回と同じ目に合うのはごめんだからね。でも、MAGI内部からじゃないのよ」
「じゃあどこなのよ・・・」
「ここよ」
ミライの質問にリツコは手元にある自分のノートパソコンを叩いた。
「えええ!? リツコさんのパソコンから!?」
「ええ、認めたくないけど私のパソコンが使徒に感染していたらしいの。セキュリティは万全のはずだけど、あくまでもウィルスに対してのみだからね。具体的にどこから来たのかはこれから調べるけど、最近やり取りが多いのはアメリカとドイツのネルフ支部ね。たぶんそこからでしょう」
「・・・やられたわね。イロウルは情報しかもたない使徒、あいつは物理攻撃ができない代わりにあらゆるパターンに自分を変えて潜伏することができる。まさか電子情報そのものに化けてくるとは・・・」
ミライは悔しそうに唇を噛み締める。リツコは煙草に火をつけて呟いた。
「文字通り“トロイの木馬”ね。もうこのパソコンは使えないから処分するわ。ここに保存しておいたデータもろとも消去するのは癪にさわるけど、仕方がないわね」
「そうね、そのほうがいいわね」
リツコは煙草を消すと椅子を回転させてミライと向き合う。
「それよりミライ、今度の日曜日、時間あけておきなさい」
「なんで?」
「お仕事よ」
「・・・・ぇ~~~~~~~」





「さて、ここで大事なお話がございます」
次の日、事務処理を終えて帰宅したミライはリビングに3人を集める。いつになく厳しい顔をするミライに3人は緊張する。
「ごめんね!来週の日曜日行けなくなっちゃった!」
「「「え~~~~~~~~~!!!!!」」」
「ちょっとどういうことなのよミライ!」
「だあって、今回協力してくれた戦自との会合が入っちゃっていかなきゃいけないのよ!」
「断りなさいよ!」
「できるわけないでしょ!」
「じゃあ・・・中止になるの?」
「それなんだけど、私のチケットを友達に譲って行きなさいよ。中止する必要はないわ」
「クラスメートを連れて行くのか~誰呼べばいいのよ」
「委員長でいいんじゃない?」
「兄さん、できればその人選はやめてほしい」
「となると・・・トウジでも呼ぶ?」
レイの肩がピクッと動いた。
「鈴原か・・・無難なチョイスじゃない? ジャージ着て来なければ」
「あ~でも、トウジのことだからサクラちゃんも連れて行きたがるな~」
「・・・それなら、私がサクラちゃんのチケット代払うわ」
珍しくレイが手を挙げて意見を言う。レイ以外の3人は驚いた顔を浮かべた。
「その鈴原君が妹さんも連れて行きたいというなら私がその分も払うわ。レイはそんなこと気にしないで楽しめばいいのよ」
「姉さん、ありがとう」
「じゃあ、明日トウジを誘ってみるね」
「シンジ! 必ず来させるのよ! 断られたらアタシがアンタ達を殴るから!」
「複数形かよ! 僕も対象かよ!」


明日、シンジはトウジを呼び出した。
「なんやセンセ、話って」
「うん、トウジさ、今度の日曜日暇?」
「あん? 暇なことは暇やけど、なんかあるんか?」
「うん、日曜日僕たち遊園地行く予定だったけど、キャンセルが出てチケット余っちゃったんだ。よかったらトウジ来ない?」
「ホンマか!? ワシも行ってええんか?」
「もちろんだよ。もしよかったらサクラちゃんも連れてきなよ。喜ぶだろうし」
「センセ・・・ほんまおおきに。サクラの奴、そういうところ行ったことがないからあいつ喜ぶで! センセには頭が上がらんわ」
トウジは深々と頭を下げた。すぐに頭を上げるとトウジはシンジに詰め寄った。
「センセとは言え、サクラはまだ小学生や。手ェ出したら怒るで」
「僕はロリコンじゃないよ!」

夜、シンジは3人にトウジを誘ったことを話す。
「トウジ、サクラちゃん連れてくるって。姉さん悪いけど、もう一枚お願い」
「わかったわ。妹さんを連れてくるって、優しいのね」
「それよりもシンジ!ジャージで来るなってちゃんと伝えた?」
「・・・・・あっ」
「今すぐメールしなさいよ・・・」

その頃、トウジはサクラにシンジ達と日曜日出かけることを話した。
「ホンマ!? 碇さん遊園地連れて行ってくれはるの!?」
「おう! なんでもチケットが余ったもんで、サクラも連れて行こうっちゅー話や」
「メッチャ嬉しいわ~流石碇さんや~惚れてまうやろ~」
「そのネタはあかんやろ。色んな意味で」
「そんなことより兄ちゃん! 日曜日ジャージで行ったらあかんで! ちゃんとした服着ていかな!」
サクラが身を乗り出したため、思わずトウジは引いてしまった。
「べ、別にジャージでもええやろ」
「あかん! せっかく誘ってもろうたんや! たまにはお洒落せにゃ!」
「さ、さよか・・・」
トウジの携帯にメールの着信音がする。
「誰や? うん? センセからか・・・サクラ、センセからも言われたわ。ジャージはやめいて」



日曜日、シンジはいつものように早起きをして朝食と弁当にとサンドイッチを作っている。
「おっはよー!」
ご機嫌なお姫様が元気よく挨拶をする。
「おはようアスカ。悪いけどレイを起こしてくれる?」
「しょーがないわね」
低血圧で朝の弱いレイを起こすのはアスカの日課のようなものだ。いつものようにノックをせずにドアを開けて中に入る。
「レイ~入るわよって・・・アンタもう準備してるの?」
レイは既に起きていて服装もバッチリ決まっている。
「おはようアスカ。今行くわ」
レイはアスカを連れてダイニングへと向かう。
「おはよう兄さん」
「おはようレイ。もう着替えたの?まだ時間あるのに」
「なんだか早く起きちゃって」
「そっか、そういうときもあるよね」
シンジはレイの服装を見る。白のフリルがついたワンピースがよく似合っている。
「レイ、よく似合っているよ」
「ふふふっ兄さんありがとう」
「・・・・むっ」
兄妹の会話にアスカがむっとした顔を浮かべる。
「どうしたのアスカ?」
「なんでもないわよ!」
むっとした顔を浮かべながら席に着く。そこへミライが顔を出す。4人は一緒に朝食を食べた。朝食が済むとアスカは部屋へと戻り戦闘準備に取り掛かる。下着姿のまま床にいくつかの服を並べて吟味する。
「う~~~よしっ! これで!」
アスカが選んだのはクリーム色のワンピースだった。前の世界で初めてシンジと会った時に着たお気に入りのワンピース。今回は初のお披露目だ。アスカはワンピースを着ると軽く化粧をして部屋を出た。リビングでシンジがバッグにお弁当を詰めている。
「あ、アスカ準備でき・・・」
言いかけて言葉を失う。
「なにジロジロ見ているのよ」
「ご、ごめん。その・・・」
「なによ、はっきりしなさいよ」
「すごく、似合ってて可愛い・・・」
「・・・そう・・・」
二人は顔を真っ赤に染めて俯いた。
「あ、あの! 遊園地行くまでに電車とか乗るから、カーディガンとか羽織るといいよ。クーラーきいてて寒いだろうし」
「そ、そうね・・・そうするわ」
アスカはもう一度部屋に戻ってカーディガンを羽織った。リビングに戻るとレイとシンジが待っている。3人は持ち物を確認すると部屋を出て行った。



「シンジさ~ん! レイさ~ん!」
元気なサクラの声が聞こえる。サクラはトウジと一緒に待ち合わせ場所へと着いた。アスカはトウジのファッションチェックをする。ハーフパンツにTシャツ。妥協点だ。
「いや~すまんな遅れて」
「ジャージで来なかったようね。来たら殴るつもりだったけど」
「それセンセからも言われたわ」
苦笑いを浮かべるシンジ、レイはトウジをチラチラと見ている。
「なんや綾波。そないにワシの私服が珍しいか?」
「えっ・・・そういうわけじゃないけど・・・」
顔を赤く染めて顔を背けるレイ。アスカは心の中で毒づいた。
(レイ・・・アンタこういうのが趣味なわけ? 意外すぎるわ・・・)
「ほら、そろそろ電車が来ちゃうよ。急がないと!」
シンジが慌てたように駅の中へと入る。アスカも続く。
「センセも大変やな。ほな行くか」
「ええ」
トウジとレイはサクラを連れて彼らの後を追った。

遊園地は多くの家族連れやカップルが楽しんでいる。シンジ達もパンフレット片手にどこへ行こうか悩んだ。
「えっと、どれから乗る?」
「アンタバカァ? 遊園地に来たらアレしかないじゃない!」
「流石アスカさんやな! わかってらっしゃる!」
「そうね、アレしかないわ」
「アレって・・・なんだよ・・・」
「「「アレよ!」」」
女性人が一斉に指を指したのは新型ジェットコースター。現在日本で一番怖いと噂されるジェットコースターだ。
「あ、あれええ!?」
「あかん! あかんて!」
シンジとトウジはコースを見て流石に腰が引けた。しかし、首根っこを掴まれるとズルズルと引かれて搭乗口へと連行された。

「すごーい! ドキドキしちゃう!」
「わーい、胃がキリキリする~」
「く~! この感じ! たまらんわ~」
「胸がドキドキする・・・」
「あかん、あかんて・・・・」


「「「キャ~~~~~~~~~!!!!」」」
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~!!」
「あか~~~~~~~ん!」(*注 宮○大輔ではありません)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「シンジ、大丈夫?」
「・・・・無理・・・」
「兄ちゃんだらしないな~」
「鈴原くん、大丈夫?」
「・・・あかんわ・・・」

他の絶叫マシンに強制連行されたり、シンジの用意してきたサンドイッチを巡ってアスカとトウジが喧嘩したり、ゆったりと船に乗って自然を満喫したりと5人は遊園地を楽しんだ。夕方、そろそろ帰る時間となる。5人は最後に観覧車に乗った。シンジとアスカ、トウジとレイ、サクラの2組だ。
観覧車からは海に沈む夕日が綺麗に見える。
「ねー! 見て見て! すごく綺麗!」
観覧車の中でも大はしゃぎするアスカ。シンジは夕日に染まったアスカに釘付けになった。赤みのさした髪は黄金色に輝き御伽噺に出てくるようなお姫様のようだった。シンジは鞄の中からプレゼントを出す。
「あ、アスカ」
「なに?」
「これ、アスカに、似合うと思って」
シンジからプレゼントを受け取ると袋から取り出す。
「これ・・・」
薔薇を模った赤色の髪飾りを両手で大事そうに持つ。
「これ、アタシに・・・?」
「うん、気に入らなかったら捨てちゃっていいからね?」
「ううん、ありがとう・・・シンジ、本気、なの?」
「・・・うん」
「ふふふっそっか」
アスカはインターフェイスを取ると髪の毛を後ろで束ね、シンジからもらった髪飾りをつける。
「どう?」
「すごく、似合ってるよ。綺麗だ」
自然と口から出た。髪の毛を後ろで束ねてあげているだけで、彼女からは大人の雰囲気が漂っていた。それ以上、彼らは何も言葉をかけなかった。

レイとトウジは向かい合って観覧車に乗る。トウジの隣には遊び疲れたのかサクラが静かに寝息をたてていた。
「ホンマ、ありがとうな。サクラにいい思い出ができたわ」
「ううん、私も楽しかったから。こういう所来るの初めてで」
「お、見てみい。夕日が綺麗やな」
レイは観覧車から見える景色に目を奪われた。見慣れた夕日がいつもより綺麗に見える。レイが視線を戻すとトウジの横顔が夕日に染まっている。その顔は優しさがにじみ出た男の顔だった。レイの心臓が跳ね上がる。レイの視線に気が付いたのかトウジが顔を戻す。
「うん? なにかワシの顔についてるんか?」
「え!? いえ、なにもないわ」
レイは顔を染めて横に逸らした。
(顔が見れない。胸がドキドキしている。どうして? 私、どうしたの?)



遊園地から帰った彼らは駅で別れて家路についた。式波家ではアスカがキッチンに立ち料理をしている。シンジとレイはリビングでテレビを見ている。ミライが帰ってきた。
「ただいま~うん? 今日はアスカが当番なのね。あれ? どうしたのその髪飾り」
髪飾りをつけたままのアスカ、アスカはニンマリと笑った。
「これね、シンジがくれたの」
「へ~よく似合っているわよ」
「これをくれた時にね、シンジが本気だって言ってくれたの。アタシ嬉しくって! アイツがここまで大胆だと思わなかったわ。口に出さないで物で、しかも花言葉で表現してくるだなんて・・・ロマンチックすぎるわ!」
体をクネクネさせながら本当に嬉しそうに語るアスカ。ミライは思わずズッコケそうになった。
(パパのことだから、花言葉なんて洒落たものとか絶対知りそうにない!)
「シンジ~❤レイ~ご飯できたよ~」
(やっべえ! 新婚モード突入してる! パパお願いだからボロださないで~~~~~!!)
シンジが花言葉なんて知るわけがないと言うわけにもいかず、ミライはこの数日間、胃がキリキリ痛んだと後に語る。
後日談として、アスカがシンジと二人で出かける時にはあの髪飾りをつけて出かけるようになる。



月曜日、ゲンドウの家ではリツコはゲンドウのために朝食を用意している。ミライがネルフに来た翌日には二人は同棲を始めた。ユイがいなくなった寂しさをリツコで埋め、リツコはゲンドウの愛情を日々感じる。二人にとってそれは補完された日常だった。
「おはよう。リツコ」
「ゲンドウさんおはよう。ごはんできてるわ」
「うむ、今日は納豆か」
ゲンドウは席に座るとBGM代わりにテレビをつける。テレビから流されるニュースを聞きながら味噌汁を啜り、思わず手を止めてテレビに注目した。リツコもハッとした顔でニュースに釘付けになった。
『今入ってきたニュースです。本日5時頃、芦ノ湖で老人の遺体を発見しました。遺体はドイツで孤児院を営んでおりますキール・ローレンツ氏本人であることが確認されました。遺体はひどく損傷しており、警察では事件に巻き込まれたとして捜査にあたっております』


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