リツコはプリントアウトされた実験データを見ながらタンポポのコーヒーを飲む。彼女のお腹は大きくなり服の上からでもその大きさはよくわかる。タンポポコーヒーは他でもないシンジからの差し入れである。カフェインの効いたブラックコーヒーは飲めないのでシンジが気を利かせてブラックでも飲めるようにと買ってきたのだ。
ただ、味は決してリツコの好みとは言い難いので飲むのに躊躇してしまい、前のようにコーヒーメーカーに思わず手を出しそうになるが手を伸ばそうものならいつも一緒にいるマヤの小言が待っているため、そこをグッと堪えているのだ。
「コーヒーが飲めないのがこんなに苦痛とは思わなかったわ」
「ダメですよ先輩。コーヒーはカフェインが強いんですから。シンジ君から絶対に飲ませないように強く言われていますからね」
「わかっているけどね・・・マヤ、一杯だけダメかしら?」
「ダメです!」
リツコは思わずため息をついた。
その時、ドアが空いてレイがリツコの部屋に入ってきた。
「あの・・・お母さん?」
「あら?レイじゃない。どうしたの?」
リツコはコーヒーカップを置くとレイと向き合う。レイはどこか余所余所しい態度でリツコの前まで歩いてきた。
「あの・・・その・・・」
「なに?用件があるなら早く言って頂戴」
無意識にコーヒーが飲めない苛立ちが言葉に出てしまった。レイはその苛立ちを敏感に感じ取ってしまった。
「あの・・・ごめん、なさい」
「あ!レイ!?」
レイは俯きながら部屋を出て行った。
マヤが非難の目を向ける。
「先輩、いくらなんでも今のはないですよ。レイちゃん、そういうの敏感なんですから」
「そう、よね・・・」
リツコは思わず天井を仰いだ。




修学旅行の価値は





リツコが家に帰るとゲンドウとシンジの靴が置いてあった。
「ただいま」
「おかえり、母さん」
「シンジじゃない。どうしたの?」
妊娠を機にシンジはリツコを母さんと呼び、リツコはシンジと呼び捨てにするようになった。シンジはリツコに席に着くよう促す。リツコはゲンドウの隣に座った。
「あのさ、父さんと母さんにお願いがあるんだけどいいかな?」
「もちろん構わないけど・・・」
「実は来月なんだけど修学旅行があるんだ。それでアスカとレイを修学旅行に行かせてあげたいと思っているけど、どうかな?」
シンジの言葉にリツコはレイが自分の所に来た理由がわかった。レイは修学旅行に行かせてもらうように頼み込もうとしたのだ。ただ、タイミングが悪かったためにそれは未遂でおわってしまった。
「なるほどね、もちろんそれは構わないわよ。いってらっしゃいな」
「ありがとう。母さん。早速二人に・・・」
シンジが席を立とうとするとゲンドウが引き留める。
「待て。シンジ」
「どうしたの父さん?」
「アスカ君とレイが修学旅行に行くのはわかった。お前はどうなんだ?」
「ゲンドウさん?」
リツコはゲンドウの言葉の意味が理解できなかった。
「シンジ、お前は行きたいのか?」
「そりゃ行きたいに決まってるよ。行先が奈良と京都だし、今まで旅行なんて一泊二日の温泉旅行しか行ったことないから。でも、ネルフとしたら第三東京にチルドレンがいないのはまずいんじゃないの?」
「だったら行けばいい。もう使徒は来ないからな」
「でも・・・」
「シンジ、お前はいつも人に気を使ってばかりで自分のことを顧みようとしない。それ自体は素晴らしいことだが、少しは自分に我儘になったほうがいい」
「父さん・・・ありがとう」


「ただいま」
「おかえり。お兄ちゃん」
「シンジ、おかえり。どうだった?」
シンジが帰宅するとアスカとレイが出迎えてくれた。
「うん、父さんと母さんに相談したんだけど行っていいってさ」
シンジの言葉に二人は飛び跳ねて喜んだ。
「ヤッター!初めての修学旅行よ!」
「ええ、すごく嬉しい」
二人の笑顔を見てシンジは相談して良かったと心から思った。
二年生に進級するとチルドレンの他にケンスケとヒカリも同じクラスになった。それだけにアスカとレイは修学旅行に行きたいと強く思っていたのだ。ただ、チルドレンという特殊な立場は変わることがないため、様々な諸事情を考慮して行くことを諦めかけていた部分もある。だからこそシンジの言葉は彼女たちにとって朗報だった。
「そういえば母さんが綾波にごめんなさいって謝っていたよ。随分きつい言い方したの気にしていたから」
「わかった。後で電話いれておく」
シンジはもう一度二人と向かい合う。
「僕さ、初めて京都に行くんだよ。父さんと産みの母親に所縁のあるところだけど、一度も行ったことがないから」
「京都、奈良と言えば国際的にも有名な観光地だからアタシも行きたかったわ。シンジに縁のある場所だから尚更ね。レイはどこか行きたいところとかある?」
「そうね、清水寺に行きたいわ。そこの舞台からお兄ちゃんをダイブさせたいの。頭から」
「死ねってか!?僕に死ねっていうことか!?」



そして修学旅行当日、二年生全員が第三東京市駅に集まった。
「おはようセンセ!」
「おはようさん」
「おはようみんな!って・・・レイさんひどい顔してるわね・・・」
ヒカリはレイの顔を見て思わず呟く。
「ええ・・・興奮して眠れなかったわ」
レイの目は真っ赤に充血し、下にはくまがくっきりとできていた。
「アンタね~楽しみなのはわかるけど、ちゃんと寝なさいって言ったでしょ?」
「そういうアスカだって真夜中に眠れないって僕の布団に入ってきたじゃないか」
「ふ、不潔よぉぉぉ!」
「「いや~んな感じだ!!」」
「ば、バカ!」
こうしてチルドレン達の初めての修学旅行はスタートした。


リニア車内では・・・
「はい、リーチ一発のツモ、ドラ、役満だよ」
「くっそ~~~~!また碇かよ!」
「センセ手加減せいや!」
「シンジ君は勝負事になるとやたら強いね・・・僕の点棒がもうすぐなくなりそうだよ・・・」
「いいから点棒渡してよ。次行くよ次」

「まったく・・・鈴原ったらあんな大声出して恥ずかしいじゃない」
「ヒカリ~よそ見している場合じゃないわよ。ヒカリの番よ」
「はいはいっと」
「ヒカリさん、それダウト」
「レイさああああああん!」



バス車内では
「なんや、綾波の奴寝てるで」
「これはチャンスだね。顔にいたずら書きしようか」
「渚・・・お前何か恨みでもあるのかよ」
「渚君!?額に殺とか書いちゃダメよ!」
「ZZZZZ・・・・」

「ねえシンジ、気が付いた?」
「うん・・・このバス完全武装してるよね・・・」
「対戦車ライフルとかじゃないと傷一つつけられない作りよ?」
「やりすぎだよ。父さん」




東大寺では
「うわ~こりゃまたえらいでかいの」
「1500年以上前に創られたものが未だに残っていると思うと感慨深いものがあるねぇ。流石は2600年の歴史を持つ国だよ。驚異に値いするよ」

「ぬ!抜けなくなっちゃった!シンジ助けて!」
「もうアスカ!レイさんが通り抜けられたからって自分もできるなんて思わないで!」
「・・・なにやってんだよアスカ・・・」
「お!惣流のマヌケな恰好いただき!」
「ケンスケ!写真撮らないでよ!」
「無様ね♪」
「・・・あとで殺してやる・・・」




奈良公園では
「ほらほら!見て見てシンジ!」
「へ~おじぎするんだね」

「ちょっと!スカート食べないでよ!」
「委員長は動物に好かれるのがうまいな~」
「鈴原!相田君、渚君も!見てないで助けて!いや~~~~!!」
「黄色やな」
「黄色だね」

ボリボリ・・・
「綾波、それ鹿が食べる煎餅であって人が食べるものじゃないから」
「そうなの?お兄ちゃん」
「いや、買う前に話聞いただろ!?」





シンジ達は年頃?の高校生らしく修学旅行を楽しんでいた。
中学生の頃、使徒殲滅のために行けなかったことを知るトウジ、ケンスケ、ヒカリはシンジ達が一緒に行けたことに喜び、いつも以上に羽目を外すこととなった。
今夜シンジ達が泊まる旅館は由緒ある旅館で夕食に精進料理と柿の葉寿司が出された。
目の前に並んだ柿の葉寿司を見てヒカリの表情に陰がさす。
「ねえ、レイさん。お寿司があるけど大丈夫?先生に言って変えてもらおうか?」
ベジタリアンのレイを心配してからの行為だが、レイには無用の心配だった。
「大丈夫よ。最近食べれるようになったから」
「え?そうなの?」
「大丈夫よヒカリ、レイはちゃんと味付けされたものならお魚は食べれるわ。お肉も火が通ったものなら大丈夫だから」
「そうだったの!?いつの間に?」
「最近ね~。ね!レイ」
「ええ、自分でも驚いているわ」
レイがお肉やお魚が食べられるというのを見つけたのは偶然だった。
ある日、いつもアスカが朝食とお弁当を作っているのだが、その日に限ってアスカは寝坊してしまったため大慌てで弁当を用意していた。弁当を用意し、バンダナで弁当を包むときに自分の分とレイの分を間違えて包んでしまったのだ。
昼、いつもならアスカ達と一緒に食べるのだが、レイはこの日に限って別のグループとお昼を食べたのだ。そのため間違いに気が付いたときアスカは急いでレイがいる中庭に向かったのだが、そこで見たのはそぼろのお肉が入ったご飯を食べているレイの姿だった。レイもまたお肉とは気が付かずに普通に食べていたのだ。
その日からレイの食事にも肉や魚が出ることになったのだ。ただ、いくら味付けされていてもレバーだけはダメだった。尤も、アスカもレバーは苦手だったため都合が良かったのは内緒の話でもある。



夕食が終わるとケンスケは物足りなさから売店へ足を運んだ。売店でパンとジュースを買うと部屋に戻る。その途中、同級生数人が旅館の地図を一生懸命眺めて話し込んでいた。
「よう、何してんだ?」
「あ!相田か・・・驚かすなよ・・・」
「うん?声かけちゃマズイようなことしてたのか?」
「いや、そういうわけじゃないが・・・そうだ!相田、お前も来ないか?」
「どこに行く気だよ」
「のぞきだよ。のぞき。うまくいけば綾波と惣流、洞木の裸が拝めるぜ」
興奮したように何度も頷きながら力説する同級生。ケンスケは思わずため息をついた。
「あのな、やめとけやめとけ。碇にバレたら殺されるぜ」
「バレなきゃ問題ないさ。どうだ?行くか?」
「遠慮しておく。命が惜しいからな」
「そうか、いいか?このことは女子にはもちろん、碇にもしゃべるなよ」
そういうと同級生たちはいそいそとその場を後にした。ケンスケはシンジにこのことを知らせなければと思い急いで部屋に戻った。

ケンスケが部屋に戻ると、当の本人はお風呂へいく準備に余念がない。
「タオルは持った・・・浴衣もOK!」
「シンジ!」
「ああ、ケンスケ。今からみんなでお風呂行くけど、ケンスケもどう?」
「それどころじゃないんだよ。どこぞのバカがのぞきに行くみたいなんだ。俺は止めたんだが、どうしてもって聞きやしないんだ」
「なんやて!?ケンスケ!追いかけるで!パチキかましたるわ!」
「ふ~ん、ま、いいや。それよりお風呂行こうよ。露天風呂だってさ」
「碇!」
いきり立つトウジにシンジは平然と答える。
「おいシンジ!惣流や綾波の裸を見られてもええんか!?」
「ふふふっ僕もそこまでお人好しじゃないよ」
「シンジ君がここまで言うからには何かしら策を講じているからだよ。大丈夫だよトウジ君。それよりお風呂に行こうじゃないか」



女湯
「ふ~お風呂は心の洗濯とはミサトもうまいこと言うわね」
「そうね、景色も最高だわ」
アスカとヒカリはゆったりと湯船に浸かりながら足を伸ばしている。レイは少し離れた所でじっと座っていた。
「レイ~そんな隅の所にいないでこっち来なさいよ」
アスカが呼ぶとレイは顔だけ向けて静かにのジェスチャーをした。
「うん?なにしてるのよ?」
アスカとヒカリがレイに近づくと壁の向こうから聞き慣れた声がする。
「この壁の向こうは男湯、普段なら聞けない話がここなら聞けるわ」
「あら、面白そうじゃない」
「ちょっとアスカ、レイさんもやめようよ・・・・」
「いいじゃない。ここなら鈴原の本音も聞けるかもよ?イ・ロ・イ・ロ♪」
3人は壁に耳を当ててその会話に聞き入った。


『お風呂はいいね~お風呂はリリンが生み出した文化の極みだよ。そうは思わないかい?』
『カヲル君、もう少し別のネタないの?』
『それにしてもや、センセの体すごいな。ミサトさんの特訓の賜物やな』
『まったくだよ。それに・・・アッチもデカいしな』
『ちょっ!ケンスケ!どこ見てるんだよ!』
『見るも何も目に入ったからしょうがないだろ?惣流も大変だよな~』
『まったくシンジ君を独り占めできるなんて、羨ましい限りだよ』
『せや!ここは男同士、隠し事なしで話をしよか。女のどこに魅力を感じるのか?っちゅー話題で』
『おっ!面白そうだね。流石はトウジ』
『いいね~やろうか』
『全く・・・ケンスケならまだしもなんでカヲル君までノリノリなんだよ』
「せやな・・・まずはシンジからや!」
『ぼ、僕!?そうだな・・・やっぱクビレかな?こう・・・くってしてると思わず抱きしめたくなるっていうか』
『あ~惣流さんがそういう体型だからね~彼女のクビレを見ると抱きしめたくなると・・・でもいいのかい?彼女に子供ができるとそのクビレもなくなってしまうかもよ?』
『別に構わないよカヲル君。アスカが太ったとしても僕の気持ちは変わらないよ。アスカがアスカであることには変わりはないからね』
『流石は碇、そんな台詞なかなか言えるもんじゃないぜ?よし、次は渚、お前言えよ』
『僕かい?僕はやっぱおしりだね』
『なんか、カヲル君がそういうと別の意味でも聞こえる気がするよ・・・』
『女の人は子供を産むんだからお尻の形は重要だよってシンジ君、なんで手でお尻を隠すんだい・・・』
『ほうほう、それで?カヲルがいいなと思うおしりを持つ女子はいるんかい』
『そうだね・・・強いて言えばレイさんかな・・・プラグスーツを着ている後ろ姿を見ると思わず鷲掴みしたくなる衝動に駆られる時があるよ』
『カヲル君、本当にやらないでよ?殺されるじゃ済まないから。そういうケンスケはどうなんだよ?』
『俺はやっぱ足だな。スラッとした足を見るとたまらないね』
『足が綺麗なオナゴといえば、陸上部の片山ミナミか?』
『片山もいいけど、1年の安藤シズルのほうがいい足してるね。ドンピシャリだよ』
『そういえばケンスケ、あの足で踏まれたいって言ってたよね。トウジはどうなのさ?』
『ワシか?ワシはやっぱ胸やな。おっぱい星人やもん』
『ほうほう!流石はトウジだよ。知ってるか?惣流、綾波、洞木の三人の中で誰が一番胸がでかいと思う?』
『惣流さんじゃないのかい?』
『惣流は腰のラインが細いからそう見えるだけさ。実は、洞木が数字の上では一番デカいらしい』
『マジか!?』
『トウジ!声でかいって!』
『なんでそんなことを知っているんだい?ケンスケ君』
『たまたまクラスの女子から聞いたのさ。トウジよかったな❤』
『そろそろ上がろうか。のぼせちゃうよ』
『せやな』



女湯ではアスカ、ヒカリが真っ赤な顔をしている。
「そ、そろそろアタシ達も出ようか・・・」
「そ、そうね・・・レイさんお風呂出よう。レイさん?」
よく見るとレイは真っ青な顔をしてブツブツと呟いている。
「不潔・・・不潔・・・不潔・・・」


「枕投げじゃあああ!シンジ!覚悟せいや!」
「返り討ちにしてあげるよトウジ!」
部屋に戻るとトウジとシンジはクラスメートと一緒に枕投げ合戦に身を投じる。部屋の外ではケンスケはカメラの手入れ、カヲルはコーヒー牛乳を飲んで涼んでいた。
「元気だよね~。ま、初めての修学旅行だから楽しくて仕方がないのかな」
ガラス越しに合戦を見るカヲル。ケンスケも横目で見ながら「あっ」という声をあげた。
「どうしたんだい?変な声あげて」
「いや、なにか忘れている気がするんだよな~なんだっけ?」
「思い出せないってことは別に大した内容でもないだろ?」
「・・・それもそうだな」

その忘れていたことは修学旅行が終わった数日後に思い出すこととなる。隣のクラスの男子生徒5人が女湯の付近で猪の罠にひっかかりぶら下がっている所を教師たちに発見され、女湯を覗こうとしたらこうなったという理由から停学処分を受けたという話が広まったからだ。
その罠を仕掛けたのは言うまでもなくシンジである。そのことも女子の中で実しやかに囁かれ本人の知らない所で女子からの好感度を上げていたのだった。


最終日、京都内を自由行動ができるこの日は私服での観光をしても良いというだけあってみんなが気合を入れて決めている。早々に準備を終えたシンジ、トウジ、カヲル、ケンスケはホテルのロビーでくつろいでいた。
「シンジ君は惣流さんと、トウジ君はヒカリさんとデートだよね?ケンスケ君はどうするんだい?」
カメラのレンズを拭いているケンスケにカヲルは話しかける。
「俺か?俺は写真だよ。師匠に京都の観光スポットの写真を撮ってくるよう言われているのさ。これも修業のうちだな」
シンジとトウジが近づいてきて話に加わる。
「なんやケンスケ、ここでも写真かいな。他にやることないんかいな」
「アハッ!ケンスケらしくていいよね。カヲル君はどうするのさ?」
「僕は適当に一人でブラブラするよ。しかし遅いね惣流さんたちは・・・」
カヲルがそういうとタイミング良くアスカの声が聞こえた。
「おまたせー!」
アスカはヒカリとレイを連れてロビーに姿を現した。
3人とも動きやすいようにジーンズにTシャツというラフな姿だが、化粧をしているだけあってその姿は、特にレイは際立っていた。普段化粧をしないからであろう。その場にいたシンジ達を除くすべての男子生徒がレイに見とれた。
「おはようアスカ。すごく綺麗だよ」
「えへへ~」
「綾波もお化粧したんだね。似合っているよ」
「う、うん・・・」
「ね~本当、美人よね。アタシとヒカリがやってあげたのよ」
自慢げに言うアスカ。レイは顔を赤らめて俯いてしまった。
「僕とアスカは一緒に京都の街を散策するけど、綾波はどうするの?」
「私は友達と約束しているから」
「そっか、じゃあまたあとで」
シンジとアスカは腕を組んでホテルを後にする。続いてトウジとヒカリ、ケンスケが出て行った。レイはひとりロビーで友人を待っている。ふと周りを見渡すと友人たちがコソコソとホテルから出ていこうとしているのをレイは見つけた。レイは彼女たちに近づく。
「お待たせ。行きましょう」
レイに声をかけられた友人たちはビクッと大きく肩を揺らした。
「い、いいい、碇さん!?」
「あっちゃー見つかっちゃった」
「?どうしたの?」
友人たちは目を泳がす。
「い、碇さん、ごめんね。実は私達彼氏と一緒に行こうかと・・・」
「そ!そうそう!だから悪いけど」
「そう、残念ね」
「ご、ごめんね~」
友人たちはそそくさとロビーから出ていく。
彼女たちの話はもちろん嘘である。当初、彼女たちはレイと一緒に行動しようとしていた。だが、化粧を施し神秘的なイメージに磨きがかかり神々しいとさえ感じるレイに思わず引いてしまったのだ。そんな彼女たちの心理をレイがわかるはずもない。レイは自分が知らず知らずのうちに彼女たちに不快な思いをさせたのではないかと思ってしまった。
「おや?レイさんは友人と一緒に出掛けないのかい?」
レイが顔を上げるとカヲルがいた。
「彼女たち、男子と一緒に行くって」
「それは残念だね」
カヲルは少しだけ考えるとレイに提案してみる。
「良かったら、僕と一緒に京都の散策に行かないかい?」
「え?」
「僕もひとりだからね。君が良ければ・・・」
レイは少しだけ考えると小さく頷いた。こうしてカヲルとレイは二人で京都の街へと出かけた。

二人は清水寺や金閣寺など有名な観光スポットを巡った。彼らにとってこの街は興味をそそられるものばかりだった。できることならもう数日京都に泊まって色々な所へ行きたいと思うほどだった。歩きつかれた二人は甘味処に入って一息つく。
「いや~一生に一度はここに来るべき所だね。もっとじっくりと観光してみたいよ」
「そうね、興味がそそられるものばかりだわ」
ふと視線を感じたレイは周りを見渡す。店内にいる客のほとんどがレイ達をじろじろと見ていることに気が付いた。
「ねえ、渚君」
「なんだい?」
「私達、注目浴びてない?」
「それならさっきからずっと感じているさ」
「私達、なにか失礼なことでもしたのかしら・・・」
注目を浴びることに慣れていないレイはどうしてもネガティブな思考へといってしまう。レイはカヲルの台詞に思わず思考が止まった。
「そんなことはないさ。君が綺麗だから、みんな見とれてただけさ」
「えっ・・・」
カヲルはいつものように微笑んでいる。
「な、なに言っているのよ・・・」
思わず赤くなるレイ。カヲルは微笑ましくレイを見ると手に持った観光スポットの地図を見た。
「さて、もう見て回れるほどの時間が残り少ない。ここの近くに有名な神社があるみたいだから行ってみないかい?」
「そ、そうね」
カヲルとレイは席を立った。
カヲルに連れて来られてきた神社は今まで見てきたような芸術性のあるものとは違い、どこにでもあるような小さい神社だった。
「ここは?」
「地主神社っていうところで今流行のパワースポットみたいだよ」
「縁結び・・・恋愛成就の神社なのね」
「お互い、いい人と巡り合えるようにお参りでもしようか」
二人は並んでお参りをした。レイは心の中で思う。果たして自分のような生い立ちの人間を受け止めてくれる人がいるのだろうかと・・・その答えはもう少し先の未来によって明らかとなる。
「さあ、戻ろうか」
カヲルに言われてレイは来た道を戻る。その途中で絵馬が大量にかけられているのを見つけた。
「絵馬があんなに・・・」
「人は一人では生きていけないからね。少しでもいい人に巡り合おうと一生懸命なんだね」
レイは何気なく一枚の絵馬を裏返して見る。
「これは・・・」





「ぷはーっ!京漬物とビールの相性抜群だわ!」
「ミサトはビールが飲めればなんでもいいでしょうが」
修学旅行から帰ってきた3人は久しぶりにシンジの料理を囲み夕食を食べている。ミサトはお土産の京漬物をつまみにビールを飲んでいる。
「でも、良かったわね修学旅行に行けて。いい思い出になったんじゃない?」
「そうですね。すごく楽しかったです」
「また行きたいわね~今度はシンジと二人きりね!」
「レイはどう?楽しかった?」
「ええ、とても。今度は数日かけてゆっくり散策をしたいわ」
レイは嬉しそうに言う。
「そういえばレイ、アンタ今日あのナルシストホモと一緒に巡ったっていうじゃない。どこ行ったのよ?」
「有名な場所ばかりよ。最後に地主神社に寄ったけど」
「あら~!ソコって縁結びの超有名なパワースポットじゃない!もしかしてレイと渚君ってそういう関係なの!?」
「ゲッ!マジで!?」
「綾波、そうなの?」
「いえ、そういうわけじゃないけど・・・そういえば気になるものを見つけたのよ」
レイはその日地主神社での出来事を語りだす。
「あそこに絵馬がたくさん飾られていて、気になったから少し見て見たの」
「綾波、そういうのはあまりやらないほうがいいよ?」
「うん、それで、たまたまめくった絵馬が・・・洞木ヒカリさんが書いたので・・・」
「ヒカリ!?まあ、予想はつくけど・・・なんて書いてあったの?」

その時、レイが見たモノとは・・・・


『洞木ヒカリVS鈴原トウジ  ず~~~っと一緒❤』




「彼女は一体何と戦っているの?」

意外ッ! オチないと思ったら、オチはヒカリッ!

意外なとこにオチつけたあぐおさんにぜひ感想をお願いします。

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