「どうしたものかな・・・」
アスカと二人きりで夕食を囲みながらシンジはふと呟く。ふとアスカの箸が止まりシンジの顔を見る。
「どうって、レイのこと?」
「うん、頼まれたのはいいけど、普通の女の子ってどんなのかなって」
「アンタバカ?普通っていうのは普通ってことじゃない」
「だから、その普通っていうのがわからないんだよ。あ、アスカこの煮物すごくおいしいよ!」
「うふふ~ありがと♪そうね、確かに普通ってどんなものを指すのかわからないわ。それにアタシも含めてレイの周りには模範となりそうな女性がいないわけだし」
「ぼ、僕は別にそんな・・・」
「最後まで聞いて。レイは今まで人からの命令だけで生きてきて自分がどうしたいなんてほとんどしてこなかったのよ。自分で考えて行動する。それをまずは身近なところから始めるわ」
「どうするのさ?」
「アタシにまかせて」
アスカはそう言ってシンジに微笑んだ。



雨、逃げ出した夜。というか逃げたい。




高校でのクラス分けはシンジとトウジ、レイとケンスケ、ヒカリとアスカと分かれた。初日からアスカを一目見て声をかけてくる男子生徒は後を絶たなかったが、左手の薬指にはめられた指輪をこれ見よがしに見せつけて売約済みをアピールしまくったおかげでシンジとアスカの仲はすぐに全生徒に知れ渡った。当初、男子はおろか女子でさえもシンジのどこがいいのかと首を傾げた。その疑問を完全に払しょくするまでに1年はかかったが、それは別の話である。
「ねえ、アスカは部活入るの?」
休憩時間ヒカリはアスカの席の前に座り話しかける。彼女たちの周りには新しくできた友人もいた。
「ええ、部活入るわよ。折角高校に入学したんですもの。楽しまなきゃ損よ」
「惣流さんどこに入るの?やっぱ運動部?」
「いいえ、家庭科部よ」
アスカはごく当たり前のように言ったつもりだったが、彼女の回答はヒカリでさえも驚いた。
「ええ!?家庭科ってアスカ・・・」
家庭科部とはこの学校がまだ女子高だった頃にあった名残で家事全般や礼儀作法などを教える部活だ。この中には茶道や華道も含まれる。
「なんか、惣流さんのキャラに合わない気が・・・」
「それは自分でも思ってるわよ。アタシはシンジと今日明日にでも結婚して家庭に入ってもいいと思っているわ。でも、家庭に入ったところで家事全般ができなかったり、一般常識がなかったりしたら困るじゃない。これも花嫁修業の一環よ。夫を支えるのが妻の勤めってもんでしょ」
ヒカリはアスカがここまではっきりと未来のビジョンを明確に考えているとは正直思わなかった。ヒカリ自身まったくビジョンがないわけではないが、ここまで明確なものはない。羨ましく思う反面、そんなアスカに嫉妬してしまう。
「ま、アタシだけじゃなくてレイも家庭科部に入れるけどね。それよりヒカリ、放課後空いている?」
「ええ、少しなら・・・」
「ちょっと付き合って」

放課後、アスカはレイ、ヒカリと一緒に大型ショッピングモールへと足を運ぶ。彼女たちの前には色々な洋服店が並んでいた。
「レイはほとんど服を持ってないのよ。アタシだけだと偏りがあるからヒカリもアドバイスしてほしくて」
「なるほどね、じゃあ綾波さん行きましょう!」
ヒカリはレイを促すがレイはその場を動こうとしない。
「綾波さん?」
「わからない」
「え?」
「どういう服がいいのか、わからないの」
「わからないって・・・とりあえず店の中に入ってから考えようよ」
3人は手ごろな店に入るが、やはりレイはその場で立ち尽くしてしまう。
「どんな服を着ればいいのか、わからない」
その言葉にどれほどの悲しみがあるのだろう?ここへ来る前に簡単ではあるがヒカリはレイの生い立ちをアスカから聞いた。アスカの話ではレイはエヴァのパイロットになるために女の子らしいことも人として大切なものも何も教えてもらうこともなく育てられたということになっている。
「じゃ、じゃあ、私が綾波さんに似合う服を選んで・・・」
「待ってヒカリ」
ヒカリの言葉をアスカが止めるとレイの前に立つ。
「レイ、自分がどんな服を着たいか。それは自分で考えて自分で決めなさい」
「ちょっとアスカ!?いくらなんでもそれは・・・」
「ヒカリ、レイは今まで人からの命令だけで生きてきたの。それじゃお人形と変わらないわ。レイ、あなたが選ぶの。コーディネートとかならアタシやヒカリがいくらでも教えてあげるし付き合うわ。でも、何を着るかは自分で選びなさい」
レイはまっすぐアスカの目を見ると小さく頷いてゆっくりと物色し始めた。ヒカリはアスカがレイにいじわるをしたのではないかと少しだけ非難の目をアスカに向けたが、すぐにその疑念は払しょくされた。
アスカは腕を組みながらイライラしたように指で自分の二の腕を叩いてたのだ。
(そっか、アスカが一番言いたいことを我慢しているんだね)
ヒカリはレイに顔を向けなおして彼女を温かい目で見始めた。そして、レイが着たいと初めて選んだのは赤のサマージャケットと白のタートルネックだった。
「あまり言いたくはないけど、これおばさん臭くない?」
「まあまあ、レイさんとりあえず試着してみたら?意外と似合うかもよ?」
コクリと頷き試着室へ行き着替えてカーテンが開く。
レイを一目見た瞬間、ヒカリは動いた。何かに導かれるように。

「レイちゃ~ん、一緒に~他の店も回ろうよ~いいじゃ~ないの~」
「ダメよ。ダメダメ」
「アンタ達バカァ!?」



その頃、シンジはネルフでミサトから個人レッスンを受けていた。使徒がいなくなったとは言えエヴァは健在である。そのためにチルドレンには監視の目が付き影で護衛されているのだ。しかし、学校ではどうしても手薄にならざるを得ない。そこでミサトはシンジを鍛え上げて彼女たちの護衛に当てているのだ。このことはシンジの希望でもあり、ミサトはシンジを短期間で鍛え上げるようにしているのだ。その訓練はサードインパクト後の混乱期から現在も続いておりひ弱だったシンジの体は今ではアスリート顔負けの肉体を手に入れている。
「ほい、シンちゃんお疲れ様」
ミサトは地面に座り込み汗を拭いているシンジにドリンクを手渡した。シンジは一言礼を言うと勢いよく飲み始める。
「ほら、いつも言ってるでしょ?勢いよく飲んじゃダメ。どんなに喉が渇いていても口の中を湿らせるようにゆっくり飲みなさいって。長期戦になったら水は貴重よ」
「はい、すみません」
ミサトは改めてシンジの体を見る。それは何も知らない女性から見れば雌の本能を掻き立ててしまうほど均整のとれた体でありミサトの育てた結晶でもある。腕力では少しずつミサトに近づきつつあるが技術ではまだまだ未熟だ。素人相手なら十分な戦力。でもプロが相手なら少しだけ抵抗できる程度。それがシンジの評価だ。それでも1年も満たない期間でよくぞここまで成長してくれたとミサトは思う。
「シンちゃんも男の子なのね。腕力ではもう私とほぼ互角。技術はまだまだだけど、2年、いえ1年後には私を超えるわ」
「そんな、僕なんかまだまだ・・・」
「謙遜しなくてもいいのよ。それが教官である私の評価だから」
「ミサトさんの教え方がうまいんですよ」
「あら?嬉しいこと言ってくれるじゃないシンちゃん。こうなったら大学入りなおして教員免許でも取ろうかしら?それとも戦自に戻って新人の教官になるのもいいわね。シンちゃんを鍛えてくれた教官に見せてみたいものだわ。きっと目の色変えて欲しがるでしょうね」
「そこまで僕のことを・・・」
「お尻の穴を」
「今の感動を返してよ!」


夜、夕食を終えたシンジは自室でアスカと話をしている。
「へ~綾波の服を買いに行ったんだ。どうだった?」
アスカは今日の出来事を話す。流石のシンジもレイとヒカリのコントには驚きを隠せなかった。
「へえ!そんなことが!?」
「そうなのよ、ズレてるとは思ったけどあそこまでとはね」


『アンタね~なにやってるの!』
『・・・わからない?』
『わかるわよ!じゃなくて!』
『私で3人目だから、つまり3号』
『いや、あのね・・・』
『なんきょ・・・むぐっ』
『それ以上言わせないわよ!』


「驚いたな・・・ノーメイクでいけちゃうんだ」
「驚くところはそこじゃないでしょ!」
「ご、ごめん」
「とりあえずレイには自分が着たいと思った服を片っ端から買ったわ。これから雑誌とかでコーディネートとか勉強させるけどね。さっき様子を見てきたけど、あの子すごく嬉しそうな顔して服を並べていたわよ?」
「流石だよアスカ」
シンジとアスカが話をしているその時、レイは初めて自分で選んだ服に囲まれながら寝てしまっていた。アスカから衣装ケースにしまうように言われていたのだが、どこかもったいないと感じたレイは並べた服を眺めながらそのまま寝てしまったのだ。

「それより、アンタ服を脱いでベッドに横になりなさいよ」
急かすように言うアスカ、シンジは思わず顔を赤く染めた。
「ええ?するの?」
「バカ!今日もミサトから特訓受けて疲れてるから、このアタシがマッサージしてあげると言っているのよ!全く!ホントアンタって男はスケベなんだから」
「だったら最初からそう言ってよ」
シンジはTシャツを脱いでベッドにうつぶせになる。アスカはシンジのお尻の部分に乗るとマッサージを始める。
「どう?」
「うん、すごく気持ちいいよ。どこで覚えたのさ?」
「本を見てね。ミサトとかヒカリに何度か実験台になってもらったけど」
シンジがミサトから訓練を受け始めたことを知ったアスカは自分でも何かできないものかと考え、たまたま本屋でスポーツマッサージの本を見つけて独学で勉強しはじめた。自分の能力を誇示するためにしてきたものとは違い誰かのためにやる勉強はとても楽しかった。知識を身に着けた所でなにかと理由をつけてヒカリやミサトのところへ行き彼女たちに実験台になってもらったのだ。彼女たちもアスカの本心を理解してか快く応じてくれた。こうしてアスカは腕を上げていったのだ。
シンジにマッサージをしながら改めてシンジの体を見る。下手な筋肉トレーニングを行わずに体幹トレーニングで鍛え上げられた肉体は無駄がなく、それでいて柔らかい実戦的な筋肉だ。最近では身長も伸びてせいもあり、芸術の域にあるとすら感じる。
最近シンジを見る女性の目が色を帯びてきたことをアスカは敏感に感じ取っていたが自分自身納得できる部分もあるせいか、その体に存分に堪能できる自分の立場に優越感すら覚えている。
「はい、終わったわよ。・・・シンジ?」
声をかけても返答のないことでアスカはシンジの顔を覗き込む。シンジはいつの間にか眠ってしまっていた。
「まったく、アンタって本当に無防備な顔して寝るわね」
アスカはシンジの頬にキスをするとシンジの隣に寝転がった。
レイには悪いかもしれないけど、実質夫婦みたいなものだからこれくらいは大目に見てもらおう。アスカは静かに目を閉じた。

深夜、シンジの部屋のドアが静かに開き、赤い目が覗き込んだ。
「既成事実・・・それはとてもとても気持ちいいことなの・・・」
ゆっくりと部屋の中に入るレイ。ふとんをめくると・・・
「う~ん・・・シンジ~❤」

「・・・・・・」
イラッ

「シャアアア!ゴルァ!」←レイです。
「痛っ!」
蹴りが入った。



放課後、アスカとレイは部活動にいそしんでいる。アスカは眉間に皺を寄せており、レイもまた微妙に難しそうな顔をしている。
初老の家庭科部の顧問、中川シヅが微笑みながら近づく。
「お二人とも習字は苦手ですか?」
「こんなのやったことないわよ!」
「・・・私も・・・」
二人が教わっているのは書道だ。二人が文化的なものになるととことんダメということに気が付いた先生はまずはそこから重点的にと教えるようになった。アスカはもっぱらドイツ語か英語で書く癖があり日本語も書けなくはないが字はうまくはない。レイは綺麗にまとまった字を書くが小さすぎて読みにくい。
「今はパソコンで文章を書いたりするんですから、こんなのナンセンスですよ!」
アスカの言葉にレイも頷く。
「確かにそうですね。普段はパソコンなどで作った文字を見るとこが多いでしょう。しかし手書きの文章を読んだり書いたりする機会が全くないわけではありません。字はその人の内面を現すと言います。そのときに汚い字や読みにくい字で相手に見せた時、受け取った側はどのように思うでしょうか?無礼な人と思われるでしょう。その悪い評価はあなた達自身だけでなく、配偶者やご両親もそのように評価されてしまうのですよ?」
「ぐっ・・・むぅ・・・」
納得はできないものの自分のせいでシンジに恥をかかせるわけにはいかない。アスカは半紙を変えると難しい顔をしながら書を書き始める。レイも続く。
中川は彼女たちを微笑ましく見守る。二人とも後学のためと門を叩き、自分のためというより相手のために一生懸命になっている。そう想える相手がいることが羨ましく感じた。
「お二人とも、書は一日にしてなりません。よかったら練習キットを買って家でやってみてはどうですか?」


「ったく、いきなり降り出すからびしょびしょだよ。これならミサトさんに送ってもらえばよかったかな・・・んなわけないか」
夜、シンジはネルフの帰る途中、雨に降られて濡れてマンションの玄関をくぐった。帰るときにミサトから一緒に帰ろうと誘われたのだが、ミサトの運転する車が怖いのと買い物があったため断った。濡れる不快感とミサトの運転とどちらが嫌かと考えると命に係わる分運転のほうが嫌だ。そんなことを考えていると部屋の前に着いた。
「ただいまー」
ドアを開けて中に入る。しかし部屋の明かりはついているのにいつもうるさいくらいのアスカの声もレイの声もない。不思議に思いダイニングにいくと、リビングで二人が習字をやっていた。邪魔してはいけないと思いシンジは着替えると夕食の準備に入った。

「たっだいま~」
「「「おかえり~」」」
「こんばんは、お邪魔するね」
ミサトが日向を連れて帰ってきた。
「日向さんどうしたんですか?」
「いや~葛城さんがシンジ君の料理を大絶賛しているから気になって僕も食べてみたいって言ったら招待してくれたのさ」
「そうですか、もうすこしでできますからテーブルに座って待っていてください」
しばらくするとテーブルに料理が並べられ夕食が始まった。
「いや~おいしい!シンジ君、本当においしいよ!」
「ありがとうございます」
一口食べるたびに大げさに表現する日向の褒め言葉に思わず顔を赤らめる。
「アタシも料理頑張ってるけどさ、シンジにはどうしても勝てないわね」
「ええ、お兄ちゃんの料理は絶品」
日向はアスカとレイを改めてみる。使徒と戦っていた時は彼女たちに他のことを見ている余裕などなかった。自分のことで手いっぱいで誰かのために努力している姿など想像が及ばなかった。もちろんそれは自分にも当てはまるものだが・・・彼女たちにとってシンジがどれほど心の支えになっているのか改めて思い知らされる。
「しかし、アスカちゃんもレイちゃんも変わったな。明るくなったよ。これもシンジ君のおかげかな?」
「まあ、ね」
「うん」
自覚はあるものの第三者から指摘されると恥ずかしいのかアスカは赤く顔を染めて頷く。レイもまた微妙ではあるけど嬉しそうだ。
「しかし、習字を習いはじめたとはね。どうだい?感想は」
「疲れるわ・・・なんか余計な神経使うし」
「習字か~懐かしいわね。私も昔は散々やらされたわ」
「え?ミサト習字できるの!?」
「当たり前じゃない!こんなの日本人としての嗜みよ!女なら尚更よね~」
ミサトは胸を張って答える。散々女らしくないと酷評されてきただけにどこかその表情は誇らしげだ。
「練習用の筆も買ったけどイマイチ使いづらいのよね~アタシにはもっと高級なものが合うのよ」
「な~にマセたこと言ってるの。筆は使い分けてナンボのものよ。それぞれ硬さも形も違うんだから」
「アスカ、私たちはまだ始めたばかり、道具のせいにしてはいけないわ」
「お!流石はレイ、正論言うわね」
レイは続ける。
「よく言うわ」

「モーホー筆は選ばずって」


「アハッそれを言うなら弘法筆を選ばずだよレイ。本当は筆を選ぶようにしてたけどね」
レイの間違いをシンジは軽く笑いながら訂正する。
ふと辺りがやけに静かになる。シンジが顔を上げるとアスカ、レイ、ミサト、日向がシンジを見ている。
「あの、僕変なこと言った?」
「シンジ君・・・」
「シンジ・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「シンジ君!?」
「えっ?なに?この雰囲気」
何故か露骨に白い目で見られている。

「シンジ君、両刀はダメよ」
「シンジ・・・アタシという女がいながら・・・」
「お兄ちゃん・・・ホモなのね」
「シンジ君、僕は狙わないでね?」
「なんでそうなるんだよ!」
突然の展開についていけない。しかし周りはシンジを置き去りにしてヒートアップしていく。
「シンちゃんの口から筆を選ぶなんて聞きたくなかったわ~」
「そういえばフィフスチルドレンの子と随分仲が良かった気が・・・」
「そういえば、最近は相田君や鈴原君とよく出かけてる・・・」
「いや、だから僕はホモじゃないですって!」
「やめなさいよ!」
この状況、やはりシンジを救うのはアスカだった。
「さっきから聞いてれば好き放題言って!そんな言い方したらシンジが傷つくじゃない!」
「アスカ、アスカは僕のこと信じてくれるんだね・・・」
「当たり前じゃない」
アスカは涙ぐむシンジの頬に優しく手を添える。

「ホモでもアタシは受け入れるから!」
「一番疑ってるじゃないかああああ!!」

「あ!シンジ!」
シンジは部屋を飛び出し雨の降る外へと飛び出した。ミサトは思わず頭を掻いた。
「やっちゃったかしらね」
「どうみてもやっちゃってますよ」
「兎に角探しに行くわよ。レイ」
「わかったわ」
アスカとレイは傘を持ちシンジを探しに出かけた。

その頃、シンジは勢いで飛び出したものの途方にくれて雨の中を歩いている。
「なんだよ・・・みんなしてホモホモって・・・僕はホモじゃないよ・・・」
ふと思い出すシンジのことを好きだといってくれた少年。
『君の心はガラスのように繊細だね。行為に値するよ・・・』
(あれ?なんか違う気が・・・)
『つまり、ヤリたいってことさ』
「お前が元凶かあああ!」
発狂したように頭を振り回したと思えば、今度は電柱に体を預けて悩んでいる。
「はあ・・・どうしよう?」
今更自分の家には帰りにくい。どうしようかシンジは悩んだ。


「それで?俺のところに来たのか・・・」
「うん・・・」
シンジはケンスケの家に来ていた。服がびしょ濡れのため家に上がることに躊躇したシンジは玄関で濡れた体をタオルで拭いている。
「それで今夜だけでも泊めて欲しいけどいいかな?」
「いや、俺個人の意見としては構わないけどな・・・」
どうも歯切れの悪い言い方をする。
「今夜シンジを泊めるのは無理だよ」
「なんでだよケンスケ!」
「だってさ・・・惣流と綾波がすでにウチで待機してるんだよ」
「へ?」
その時、隣の部屋の襖がスパーンと開きアスカとレイが出てきた。
「帰るわよ。シンジ」
「え?ええ?」
「お兄ちゃん、帰ろう」
「ええ?なんで?」
戸惑うシンジを無視してアスカとレイは両側からシンジの腕を抱きかかえると引きずるように外へと出ていく。
「邪魔したわね。相田」
「協力、ありがとう」
「いや、何もしてないけどね」
「け、ケンスケ~~~~~」
バタンとドアが閉まるとシンジの悲鳴は聞こえなくなった。多分諦めたからなのだろう。ケンスケはそう考えた。
「まったく、お前が羨まし・・・というほどでもないな。あそこまでいくと流石に逃げられないだろうし・・・」


シンジは両サイドを固められながらとぼとぼと歩く。その表情は暗い。アスカはシンジの顔をチラリと見るとすぐに正面に顔を向ける。
「悪かったわよ。少し悪乗りしすぎたわ」
「アスカ・・・」
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
「レイ・・・」
「もう、あんな飛び出し方しないでよ・・・心配したんだから・・・」
本当に心配したのだろう。アスカの言葉の最後は小さくなっている。シンジの心に少しだけ罪悪感が芽生えた。
「ゴメン」

家に着くとすぐにお風呂に入り、そのあとにアスカとレイと一緒にブランデー入りのコーヒーを飲んでいる。温かい飲み物は心が休まる。シンジはホッと一息ついた。
一息つくとふとシンジの頭の中に疑問が沸く。
「でもよくわかったね。僕がケンスケの家に行くって」
シンジがケンスケの家に着いた時にはすでに二人は部屋の中で隠れていてシンジが来るのを待っていたのだ。その質問にアスカが答える。
「当たり前じゃない。アタシを誰だと思ってるの?アタシは未来のシンジの妻よ。妻なら夫のことくらいわかるわよ」
さも当然のように言うアスカ。過程がどうあれ自分のことをわかってくれる人が近くにいる。これほど嬉しいことはないとシンジは思う。
「ありがとう。アスカ・・・」
「いいのよ。シンジ・・・」

「だってアンタ友達少ないし」
「それ気にしてるから言わないでよ!」
「お兄ちゃんコミ障だから」
「なんだよ!二人して友達少ないだのコミ障だの!結構気にしてるのに!」
「だって事実だし」
「出てってやるぅぅぅう!」
「あん!シンジ!」
シンジは再度出て行った。


「んで、今度はワシのところに来たんかい」
「そうだよ!トウジ僕を匿ってよ!」
「いや、それはセンセの頼みでも無理やで」
「なんでだよ!」
「だってのぅ・・・・」
またもや隣の部屋からアスカとレイが出てきた。
「さ、帰るわよシンジ」
「帰ろう。お兄ちゃん」
「いやだあああああああああ!!!!」

前作の続き。なんというカオスでしょうか……。

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