秋。
食欲の秋。勉強の秋。スポーツの秋とは良く言ったものだ。また新しく何か習い事を始めるのには良い時期でもある。
「そろそろお料理できるようにならないとね~シンちゃんお料理教えて❤」
「ミサトさん、誰を殺す気ですか?」
とか
「アタシ、茶道を本格的にやろうと思うけどレイはどう思う?」
「茶道、私には無理だわ。泡立てながら『ありがと~ありがと~』呟くなんて放送事故みたいな真似できないもの」
とまあ、彼らもこんな感じで何かしらやろうという空気が自然と芽生えた。そんな時だからかもしれない。ひとつの変化があった。

「「ただいま」」
いつものようにユウタの面倒を見て家に帰ると部屋の中からいい香りがする。
「?なに?この香り」
「これは・・・木の香りね。なんだったかしら・・・」
「おかえり二人とも」
奥からシンジが出迎える。
「兄さん、いい香りがするけど」
レイの台詞にシンジはクスリと笑う。
「ああ、これはアトラスの香りだよ。いい香りでしょ?」
リビングに行くとテーブルの中央に見慣れないものが置いてある。
「これは?」
「これはアロマポットだよ。上のお皿にアロマオイルを入れて下からろうそくの火で温めるのさ」
「よくできているのね」
この日以来、葛城宅ではアロマを焚くのが日課となった。というのもシンジがアロマにハマったからのだが、決してストレスからではないというのは追記しておく。
ここでレイは香りというものが日常に密接にかかわっていたという事実を知ることとなる。
例えばアスカやミサトがデートに行く時だ。彼女たちの体からいい香りがすることに気が付いた。これは香水をつけているからなのだが、彼女はここでそういうのも女性のエチケットとして大切なことだと知った。
(そういえば、兄さんもよく香水をつけている。男性にも必要なのね。私もあの香りが好きだから、つけてみたい)
レイはシンジがよく使っている容器を思い出し自分も同じものを買いに行った。そして・・・
「あれ?綾波どうしたの?」
「私、香水をつけてみたの。兄さんの同じものを。メンソール効果もあって気分が爽快になるのね」
「同じものって・・・どうみてもその匂いは湿布の匂いだよ。どこか痛めた?」
「香水をつけてみただけよ」
「いやいや、それ香水じゃなくて湿布の・・・」
「香水をつけただけ」
「いや、その・・・それは・・・」
「香水」
「・・・はい」
レイの部屋の中にはトクホンの塗り薬が置いてあった。



漢女の戦い



シンジ達の通う学校での秋の一大イベントといえば文化祭である。
その日のホームルームでは文化祭のクラスの出し物として喫茶店をやることが決定した。クラスにはヒカリをはじめとしてお菓子作りが得意な女子が多くいたからだ。
「さーて!な・に・を・作ろうかな」
ヒカリはどこかウキウキとしながらお弁当を広げて頭の中でレシピをめぐらしている。
「お菓子か~アタシも出そうかしら?」
「そうね、みんなで協力すればたくさんできるわ」
その言葉はヒカリにとって意外な言葉だった。それはトウジ、ケンスケ、カヲルも同様であった。
「なんや、惣流はお菓子作れるんかいな?」
「バカにしてるの?簡単なものならできるわよ」
「私もアスカも、クッキーとかなら作れるわ。調理実習で習ったし、兄さんからも教わったから」
「なるほど、そういうことね」
ヒカリは納得したように頷く。
「惣流と綾波が作ったお菓子が食べられるとなると話題性があるな!こりゃ盛り上がりそうだ!」
「僕にも味見させてほしいな。いいだろ?」
「カヲル君、味は保証するから味見とか言わずに食べてみてよ」
シンジの言葉にケンスケとカヲルも期待が膨らむ。

「ん?誰もアタシ達が作るものを出すとは言ってないわよ」
「「「「「え?」」」」」
意味がわからないという顔をする5人。
「だから、アタシ達が作ったっていう文句でシンジが作ればいいじゃない」
「そうね、兄さんなら私達より上手だし」
「いやいやいや、それじゃ意味ないじゃん!」
「アホかいな!詐欺やんか」
ケンスケとトウジが抗議するが本人たちはどこ吹く風だ。
「別に誰も傷つかないからいいじゃない。おいしい物を食べられて、それをアタシ達が作った物と思うのは勝手でしょ」
「アスカの言う通りだわ。期待を裏切れないもの」
「シンジ、頼むわね❤」
彼女たちの中では既にシンジをゴーストライターにすることは決定済みのようだ。
「ねえ、アスカ、綾波ひとつ聞いていいかな?」
「なによ?」
「僕に拒否権は?」
「意外なこと言うのね・・・」
「あるかないか、今までの人生で学ばなかったの?兄さん」
「・・・・ですよね」


こうして詐欺ともいえるような喫茶店は着々と準備が進められてきた。しかし数日後風雲急を告げる事態が起こり楽しいはずの準備が戦闘準備に変わることとなった。
クラスメイトの女子が廊下を走り抜けてシンジ達がいる教室の扉を勢いよく開けた。
「大変よ!みんな聞いて!クラスの出し物、F組の人たちと被らせてきたの!」
「はあ!?何よそれ!ウチのクラスに対しての当てつけじゃない!」
「宣戦布告よ!」
女子たちのボルテージが一気に上がる。男子たちは何が起こったのか理解できていない。
シンジは隣にいたレイに話しかける。
「綾波、なんでみんな怒ってるの?どうしたのさ?」
「兄さん、知らないの?」
シンジが頷くとレイは呆れるように言う。
「F組って彼女とその腰ぎんちゃくが牛耳ってるクラスじゃない。大久保マユミの」

大久保マユミ。シンジ達が通う学校の五大美女に数えられる人物である。ある人物が彼女のことを例えた一言は正鵠を得ていると言われている。
「ときメモで言うなら滅茶苦茶性格が悪い藤崎詩織」
容姿端麗、成績優秀。だが性格は最悪。彼女は自分が一番注目を浴びないと気が済まないのだ。しかも親に資本力があり、政治の世界にも力を持っているため余計に性質が悪い。彼女は何かにつけて目立つアスカとレイに絡んできた。それだけならアスカはともかくレイは気にも止めなかっただろう。しかし、その被害は彼女たちのクラスメイトにも及んでいた。当然生徒たちは先生に対策を求めたが、先生の前では猫の皮を被った態度を崩さないことから勘違いとバッサリ切られたり、不審に思った先生が調べようとすると上から圧力がかかり何もできないのが続いている。このことはすべての生徒が知ることとなり彼女の周りには金魚の糞のように付き従う取り巻き以外誰もいないのだが、悪知恵だけは働くようで自分の同じクラスのクラスメイトは恐怖政治で自分の手中に収めているのだ。
自分の思い通りにならないアスカ、レイに恥をかかせたい。その手段として文化祭を利用している。
「私達は好きで目立ってるわけじゃないのに・・・しかもこんなに人を巻き込んで」
「売られた喧嘩は買ってやろうじゃないの!」
「当然ね。あそこのクラスよりもインパクトがあって売上を多くしないと」
シンジはしみじみとレイも随分と逞しくなったなと心の中で思った。しかし、できる限り争いはどんなことでも避けたいシンジである。
「べ、別にそこまで熱くなることでもないじゃないか。たかが文化祭だし・・・」
「あら?目の敵にされているのはアタシ達だけじゃないのよ?アタシとレイを庇ったヒカリもそうだし、鈴原も睨まれているわね」
「彼女の誘いを断った渚君もよ。兄さんもそうだけど・・・」
「待ってよ!僕は何もしてないよ!」
突然のことにシンジは慌てる。少なくともシンジ自身彼女を不快にさせた記憶はない。
「何言っているの?兄さん彼女にダメだししまくったじゃない」

アスカを目の敵にしている彼女がシンジに目をつけるのは当然と言えるだろう。彼女はまだ料理が苦手だった頃に調理実習で作ったクッキーやお弁当などを差し入れてアスカからシンジを奪ってやろうとしたことがある。
しかし・・・

『碇君!私、碇君のためにお弁当作ってきたの!食べてくれるよね!』
『え?自分のあるからいらないよ』

『碇君!クッキー作ったけど食べてくれる?』
『うん、いいよ』
『・・・あ~粉の配合が間違ってるね。それに火を入れすぎて煎餅みたくなってるよ。あと塩を入れすぎだね。これじゃあ逆にしょっぱいよ』

このようにシンジからすればあくまでも善意なのだが、彼女からすれば顔に泥を塗る処か肥溜めに頭から突っ込まれたようなものだった。
「しょ、しょうがないじゃないか!弁当を余分にもらっても余るだけだし、クッキーの件だってたまに女子から味見して欲しいってアスカと綾波のクラスの子からも来たりしてたから・・・」
「そうかもしれないけど、流石にアレはアタシでさえも同情したわよ」
「ええ、おかげで風当たりがより強くなったわ。主に兄さんのせいで」
赤と蒼の非難する視線を受けてシンジは縮こまることしかできなかった。


さて、こうして二つのクラスを巻き込んだ騒動は当然の如く全校生徒の耳にも知れ渡った。アスカ達を応援してくれる生徒もいれば、F組が何をやるのか情報をわけてくれる生徒もいた。
「あそこは親のコネを使って高級アンティークの家具を使ったのをやるってさ」
「自分達のアイディアじゃなくて親のコネなの?よく恥ずかしくないわね」
「あの子がそんなの気にすると思う?とにかく目立ちたいだけなのよ」
アスカ達クラスの女子はなにかと集まってはどういう喫茶店にしようかアイディアを練っているが思うように捗ってはいないようだ。お菓子などの料理類はヒカリ以外にも得意な女子は数人いるし、シンジもいるから問題ない。飲み物とかも紅茶などはアスカとレイが上手な入れ方をクラスの女子に教え、コーヒーはケンスケとトウジがかなり拘っているため二人に任せれば問題はないだろう。飲食のみで言えば文化祭レベルで言えば完璧と言ってもいい。
「でも、まだ足りないわね」
アスカの言葉にクラスの女子全員が頷く。相手は高級アンティーク家具を使用し普段では味わえないような高級感を出すことに成功している。インパクトが足りないのだ。うーんと悩んでいるとひとりのクラスメイトが手を上げた。
「あ、あの・・・こういうのはどうですか?」

ゴニョゴニョ・・・

「それいいかも・・・」
「面白そうじゃん!インパクトあるし!」
「どうせなら男子も巻き込んじゃおうよ」
「賛成!」
こうして極秘裏に女子の間でのみ意見がまとめられ、シンジ達男子は協力してほしいとだけ言われ当日まで情報は一切合財伏せられた。

そして当日・・・

「そういえば聞いた?例の話」
「ああ、大久保先輩のクラスと碇先輩たちのクラスで争ってるって話でしょ?大久保先輩の店は高級志向の店って聞いたけど、碇先輩の店ってなにやるか聞いてないのよね」
「私も聞いてないけど噂ではすごいことするって話よ」
「ええ~!知りたい!行ってみましょ!」
そして、後輩たちが恐る恐るシンジ達のクラスのドアを開けると・・・・
「ようこそ、大奥喫茶ネルフへ。こちらへどうぞ」
蒼い髪をオールバックにし、制服を着崩し男装したレイが迎え入れ。
「やあ、レディー達。この席にどうぞ。さて、注文を聞こうか」
前髪をあげて男装したアスカが注文を聞いてきた。そう、このクラスの女子は全て男装しているだ。特に際立っているのがアスカとレイだ。二人はモデルと言っても過言ではないほどだ。そして・・・今度は大柄のメイド服を着た人がジュースと食べ物を持ってきた。
「お、お待たせ、しました。ご注文の品は、お揃いですか?」
女装したシンジだ。あまりの展開に言葉を失う二人。よく見るとシンジだけではない。カヲルも金髪のカツラを被せられてメイド服を着せられている。
この様子は即座に学校中に伝わった。
彼らのクラスの前の廊下には男装、あるいは女装した彼らを見ようと長蛇の列ができた。
「惣流先輩素敵すぎる・・・」
「レイ先輩・・・一目惚れしました・・・」
女子生徒たちは目をハートにしてアスカとレイを見ている。
「ぎゃはははは!碇お前似合いすぎだろ!」
「渚~その恰好で一発ヤラせろよ」
男子生徒はシンジとカヲルに指をさして笑っている。シンジとカヲルだけではない。ケンスケも強制的に女装させられている。
「相田、お前もやらされてるのか」
「ああ・・・なんでもOL風だってよ・・・ひどい話さ。すね毛まで剃られたよ・・・」
ケンスケもカツラをかぶってリクルートスーツを着ている。メイクが良いのか見事にエリートOL美女の雰囲気を醸し出しているケンスケ。
「でも、お前はまだマシなほうじゃねえかよ。アレに比べたら・・・」
そうして指を指した向こうには・・・
「やかましいわ!ジロジロ見るもんやないで!」
女装というよりオカマ化したトウジがいた。和服と髷のカツラに身を包み、顔を白く塗りたくられたソレはオカマというより痩せた小梅太夫だ。
「鈴原!チキショー!って言ってくれよ」
「やかましいわ!チキショー!」
最後の最後まで抵抗をしていたトウジだが、ヒカリに脅されて泣く泣く女装するハメになった。しかしトウジはガチはやめてネタメイクにしてほしいと訴えたのだが、悪乗りしすぎて出来上がったのが痩せた小梅太夫だった。


その頃、F組では予想していたよりもお客が入らないため大久保マユミが苛立っていた。
「もう!なんでこんなに人が入らないのよ!一般人が手の届かないような高級家具を使って演出してあげてるのにさ!」
F組の出店は決して閑古鳥が鳴いているわけでもないが、空席があり廊下に列が並んでいるわけでもない。
「き、きっと大久保さんのセンスが良すぎて普通の人じゃ敷居が高すぎるのよ!」
「この良さがわからないなんて、所詮は下民ね」
彼女の取り巻きが機嫌を取ろうと好き勝手なことを言い出す始末。大久保自身も自分と周りは世界が違うと言わんばかりに彼女たちの意見に同調するかのように頷いたが、廊下を歩いていた他の生徒の話し声が彼女の耳に届いた。
「惣流さんのクラス行こうよ!女子は男装、男子は女装してるって!」
「うん!早くみた~い!」

「・・・あれ、どういうこと?」
「えっ?もしかして碇さんと惣流さんのクラスのこと?」
「そうよ!なによ!パパに頼んで高級な家具を使わせてあげてるのに、あんな女のコスプレのほうがいいわけ!?ふざけてるわ!こうなったら見に行って小馬鹿にしてやるわ!」
マユコと取り巻き達は自分たちのクラスの出し物をそっちのけにしてシンジ達のクラスを見に行く。すると彼女たちの目にはシンジ達のクラスの店に入ろうとする生徒たちが今か今かと並んでいるのが目に入った。
「なによ!どうせ大したことないくせ・・・に・・・」
彼女勢いは最後まで続かなかった。いや、取り巻きの女子ですら言葉を失っている。
廊下に出て接客をしていたのは、まさに男装しているレイとアスカだった。彼女たち二人の完璧とも言える男装に言葉を失う。調子に乗ったレイに壁ドンされている後輩たちはみんな目がハートマークになっている。
「あれ・・・なによ」
「ちょっと反則じゃない?」
「くっ!どうせ二人だけが出来が良いだけよ!他の生徒は!」
マユミは窓から中の様子を伺うと女装してふっきれたシンジ、ケンスケ、カヲルが楽しそうに接客している。それだけではない。男装をしているヒカリをはじめとした女子生徒も、女装している男子もこのクラスの生徒のほぼ全員がフル稼働で接客しているのだ。そしてそれらの男装、女装はどれもレベルが高かった。彼女たちの周りに必然的に敗北感が漂い始めたのも無理もなかった。
しかし、マユミは諦めきれなかった。なにがなんでも彼らの顔に泥を塗りたい一心でクラスの中をもう一度見渡す。そして・・・
「鈴原お前ひどすぎだぞ。夢に出てきそうだ」
「流石は関西人。芸人魂の血が流れてるな!」
「わかっとるわい!」
見つけた。
トウジの女装は周りの男子から比べても女装とは言えないようなひどいものだった。これならそこらあるオカマバーのほうが数段マシと言えるレベルだからだ。
「うふふっ・・・少なくてもこれで洞木ヒカリの顔に泥は濡れるわね」
マユミはうっすらと微笑んだ。


放課後、トウジとヒカリは並んで校舎を出ようとしている。
「トウジ、お疲れ様」
「おう、ヒカリもな」
「うふふっトウジったらあんな恰好して恥ずかしくなかったの?」
「恥ずかしいに決まっとるやろ。ワシに女装なんぞ似合わんからの。あれなら笑ってくれるからのぉ」
ヒカリとしてはトウジにもちゃんと女装をさせたかったが、トウジが頑なに断りネタ扱いでよければというトウジが了承できるギリギリのラインだからだ。
「みんな喜んでくれたね」
「ああ、それが一番や」
しみじみと語るトウジ。もうすぐ校門にさしかかろうという所で彼らの前にマユミとその取り巻き達が行く手を阻むように現れた。ヒカリは思わず不快感を露わにする。
「・・・なにか用なの?」
ヒカリの質問には答えずに彼女たちはクスクスと笑い始める。
「すごいコスプレをしているって聞いたからあなた達のクラスを見に行ったけど・・・なにあれ?」
「ひとりだけお化けがいるじゃない。お化け屋敷かと思ったわ」
「本当、無様すぎるわね」
そう言ってマユミ達は笑った。トウジは静かに反論する。
「別にええやん。所詮お祭りやし、ワシ女装似合わんもん」
「あはは!そうよね!?あなたみたいなサル顔はいくら着飾ってもサルはサルだもんね!」
「あはははは!」
腹を抱え指を指して笑うマユミ達。トウジはくだらないと言うように黙っていたが、その横でヒカリは悔しそうに唇を噛み締める。
「明日は何を見せてくれるのかしら?猿回しでもしてくれるの?」
「なに好き勝手言ってくれてるのよ!トウジをバカにしないで!」
「あらあら、飼い主さんはちゃんとお世話しないとダメよ~それとも二人で猿回しでもするのかしら?サル同志お似合いですものね。あはははは!」
ヒカリは顔を真っ赤にして文句を言おうとしたが、トウジに遮られる。
「ワシのことはいくらでも笑ってくれてもええ。せやけど、ヒカリのことは悪く言わんでもらえんかのぅ」
静かな怒りを込めて言うトウジ。しかし彼女たちには何も届いてはいない。
マユミ達は腹を抱えて笑うと気が済んだかのように見下した目でヒカリとトウジを見てその場を後にした。トウジがヒカリを見るとヒカリは顔を俯かせて肩を震わせている。
「ヒカリ、気にしちゃアカンで。所詮暇な奴らが・・・」
「あああああああっっっったまきた!」
ヒカリは勢いよく顔を上げるとトウジを見る。
「トウジ!あいつら見返してやるわよ!」
「べ、別にええやんか無視しとれば・・・」
「いーえ!サル顔ですってぇ?上等じゃないの!トウジ!こうなったからには明日はアイツらに吠え面かかせてやるわよ!」
「あの・・・ヒカリさん?」
「トウジが嫌がってネタの恰好させたけど、明日はガチメイクでいくわよ!」
「い、いや・・別にええよそこまで・・・」
「やるったらやるの!拒否は認めないわよ!」
ヒカリの目力に圧倒されてトウジは首を壊れた人形のようにカクカクと振り続けた。


次の日、シンジ達の出店に来た生徒たちは一様にひとりの女性を見ている。
「おい、昨日あんな子いたかよ・・・」
「すごい綺麗・・・誰なの?」
ひそひそと腫物を触るかのように言われる女性はただ黙々と自分の作業に集中するかのようにコーヒーをいれている。

「はあ?新しい子がいる!?見に行くわよ!」
この話は当然マユミ達にも伝わり彼女たちはシンジ達のクラスに乗り込んできた。
「洞木さん!いる!?」
「あら?何しに来たの?」
「昨日はあんな子いなかったじゃない!外部から人を呼んできたのね!?そうに決まってるわ!」
そう言って女性を指差す。
「あら?あの子は昨日からいたわよ?」
「ウソつきなさい!誰なのよ!」
ヒカリはその女性に顔を向けると合図をするようにクィッと顎で合図をする。その女性は頭を掻いてバツが悪そうに答えた。
「ワイや・・・・鈴原トウジや・・・」

「「「「えっ?」」」」

その女性こそ、鈴原トウジなのだ。自分とトウジを小馬鹿にされたヒカリはガチギレし、トウジを自分の家に連れてきてエステシャンに就職したコダマのアドバイスをもらいながら。大改造したのだ。眉は細くされ、産毛まで剃られて、つけまつげなどのオプションなどもつけて完成されたトウジは昨日と同じ和服を着ながらも、髪の先を少し湿らせたカツラを被り、髪を下した姿は和装美人といってもいい。その姿を見たアスカとレイも思わず声を失ったくらいだ。
昨日とはうって変わったトウジの姿にマユミ達も言葉が出ない。その姿を見てヒカリはニヤニヤと微笑んだ。
「ふん、トウジだってやればできるのよ。昨日は散々言ってくれたじゃない。まずはそのことを謝ってもらいましょうか」
「・あああ・・・あ・・・」
ふらふらと歩きながらトウジの前に立つマユミ。トウジは居心地の悪そうに彼女を見る。
「あなた・・・本当に・・・鈴原トウジ?」
「せや、声聞けばわかるやろ」
「ああ!ああああ!」
マユミは大きく髪をふるように頭を振ると、倒れ込むようにトウジの胸の中に飛び込んだ。
「お、おい、大丈夫かいな・・・」
「素敵」
「はあ?」
「鈴原!お姉さまって呼んでいい!?っていうか性転換して私のお姉さまになって私と愛し合いましょう!」
「はあ!?」

大久保マユミは女装したトウジに一目惚れした。大久保マユミが生まれて初めて恋を知った瞬間だった。

「き、気持ち悪いわ!」
「ああ!待ってお姉さま!」
逃げるトウジ。追うマユミ。ある意味修羅場と化したこの出来事がきっかけでより多くの生徒がこのクラスの出し物を見に来るようになった。
「か、カオスね・・・」
「トウジ、頑張れよ・・・」
「ヒカリさん、本気出しすぎだわ」

その後、マユミは事あるごとにシンジのクラスに来てはトウジを追いかけまわす光景を目にすることとなる。
「さあ!西陣織の着物を用意したわ!お姉さま着てください!」
「うわわ!誰がお姉さまや!だ、誰か助けてぇな!」

「ヒカリ、止めなくていいの?」
「ちょっと面白いからそのままにしておくわ」
「鬼ね・・・ヒカリさん」

それから数日後、騒動も落ち着いたある日、シンジ、ケンスケ、トウジ、カヲルの4人は屋上で昼食をとっている。
「やっと落ち着いたな」
「そうだね、なにかと騒がしい日々だったよ」
「でもまさかトウジがあそこまで女装が似合うとは思わなかったよ」
数日前を振り返り3人はしみじみと語る。トウジはヒカリからもらった弁当を見たまま動かない。
「どうしたのトウジ?調子でも悪いの?」
「疲れたからじゃないのかい?保健室行って休みといいよ」
「い、いや、そういうわけじゃないんやけどな・・・」
どうも歯切れが悪い。
「トウジどうしたのさ?お前らしくないぜ」
「い、いや・・・ワシな?」
ケンスケの言葉を皮切りにトウジが心の内を語る。
「今回の騒動で色々思ったことがあるんや」
「まさかヒカリさんから彼女に乗り換えたいってことかい?」
「い、いやそうわけじゃないんやけど・・・もっとひどいかもしれん」
「トウジ、何があったのさ?」
「ワシ・・・な?」


「男の娘に目覚めたかもしれん」


「「「 」」」


あぐおさんから異性装喫茶のお話です! w
トウジは似合わないんだろうなと思ったら……そうきましたか。
これで一件落着…ですね。トウジの精神が(女装に)侵食されるという犠牲をはらって……。

いつもこちらの予想を斜め上に飛び越えていく素敵なお話を書いてくださったあぐおさんに、是非読後の感想をお願いします。

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