その日、碇シンジ、惣流アスカ・ラングレー・葛城ミサトの3名はネルフ司令室に来ていた。
シンジの父親、碇ゲンドウに頼みがあると呼ばれたからだ。そしてその依頼を聞いた時、アスカはものすごく不機嫌そうな顔を浮かべ、ミサトはものすごく嫌そうな顔をする。シンジにいたってはどうにかしてあげたい手前、自分の諸事情により実に複雑そうな顔をした。その頼みはエヴァに乗ることより、使徒を倒すより難しい。ゲンドウは言う。
「レイを、綾波レイを普通の女の子に育てて欲しい」

綾波レイ育成計画

 レイ襲来



今、彼らがいる世界はサードインパクトが起こった後のことである。
「・・・気持ち悪い」
サードインパクト直後、アスカの首から手を離したシンジはただ泣いていた。泣き止んだ所でシンジはゆっくりと真実を語り始める。長い長い話の後、シンジは最後にこう結んだ。
「一緒に生きていこう。生きていればどこだって天国なれるよ。アスカと一緒なら」
アスカはゆっくり頷いた。
こうして二人しかいない世界で、二人だけの生活がスタートした。
体の弱ったアスカをシンジは気遣った。アスカもまたシンジの気遣いを受け入れた。シンジは罪悪感から、アスカは諦めから。その歪んだ関係はすぐに崩壊する。
それは些細なことだったかもしれない。どうでもいいことかもしれない。気が付いたら二人は罵り合いを始めていたから。思いつく限りの罵詈雑言を相手に叩きつけた。そしてアスカの張り手でその関係は決定的なものとなった。
お互いが真逆の方向へと向いて歩き出した。二度と会わないように。思い出さないように。
しばらくは良かった。話もしたくないし思い出したくもなかったから。気を紛らわせるために何かしていたようにも思えるし何もしていなかったような気もする。
ふと見上げると空が青かった。雲があった。そんな些細な変化に二人は離れた場所で感動を覚える。
「ねえアスカ!空が・・・」
「シンジ!雲が・・・・」
呼んだ相手が隣にいない。そう望んだのだから。
でも、やっぱり一人は寂しい。自分の心と向き合うには十分すぎるほどの時間があった。長い長い自問自答の末に二人はいつの間にか別れた場所に戻ってきた。
それから話し合った。自分のこと、相手のこと。何が嫌で何が好きなのか。
シンジは怯えるのをやめてアスカは意地を張るのをやめた。
そして二人は心と体を重ねた。
少年と少女が性の快楽に溺れていくのに時間はかからなかった。狂ったようにセックスに没頭した。そして堕落した生活を続けていたある日のこと、いつものようにセックスの余韻に浸っていると他の誰かの話し声と足音がする。何事かと思い外に出るとそこには集団ヌーディスト達が我先にと下着や服を手にしている姿だった。
何が起こっているかわかるはずもなく二人はただ唖然とその光景に目を奪われていた。
「シンジ君?・・・アスカ?」
聞いたことのある声がする。二人が振り向くと良く知った人がシャツを羽織ってそこにいた。
「「ミサト!(さん)!」」
3人はただただお互いの無事を喜び抱き合った。涙が自然とあふれ出た。3人は思う。これからも一緒に生きていこうと・・・失ったものを取り戻そうと・・・

「シンジ」
「碇くん」
シンジを呼ぶ声がする。ミサトとアスカの顔が強張る。そこには意外な人物がいた。
「父さん・・・綾波・・・」
ゲンドウとレイだった。
ゲンドウはシンジに一歩近づくと深々と頭を下げる。
「シンジ、すまなかった。父親らしいことを何一つせず、辛い思いばかりさせた俺を許してくれ」
それは紛れもなくゲンドウの本心だ。人に怯え息子に怯えた父親の姿はもうどこにもなかった。シンジは言った。
「いいんだ。もういいんだよ父さん。僕は許すよ」
「シンジ・・・・」
ゲンドウの目頭が熱くなる。
「シンジ君」
「シンジ・・・」
ミサトとアスカが声をかける。シンジは力強く頷いた。そしてもう一度ゲンドウに顔を向ける。
「父さん、そんなことはもういいんだ。それより、お願いを聞いてくれるかな?」
「もちろんだ。どんなことでも答えよう」
「いや、その・・・そんなに難しいことじゃないんだ」
「なんだ、早く言え」
「その・・・父さん・・・・」




「パンツはいてくれないかな?」




「むぅ・・・」



「なんでそこでものすごく残念そうな顔をするんだよ!」
ゲンドウはフルチンだった。
「碇君、司令をいじめちゃダメ。もう碇君に隠し事をしないように自らを曝け出しているの」
「ソコは隠して欲しかったよ!誰も父さんのアダムなんて見たくなかったよ!綾波も!なんで朝を迎えた格好いつまでしてるんだよ!なんか他に着てよ!」
綾波はシャツ一枚だけを羽織っている。
「どうして?」
「目のやり場に困るよ!」
シンジの言葉にアスカが正気を取り戻す。
「ちょっとファースト!アンタいつまでもそんな恰好していないでズボンでも探しに行きなさいよ!アタシのシンジに変なの見せないで!」
「どうして?あなたは散々あられもない姿を見せてイチャコラしてたくせに」
「シャラーーーーーーップ!」
さりげない悪意ある爆弾発言にその場が凍る。
こうして人類は赤い海から少しずつ戻っていき世界は元に戻っていった。
復興は急ピッチで進められていき、彼らの住んでいた第三東京市はボロボロの状態から見事復興を果たした。それは偏にゲンドウの卓越した政治手腕が故である。その他の地域も復興を遂げていき生活は徐々に戻っていった。量産型エヴァが未だ健在ということでネルフもまた残ることとなったが、その権限や規模は大幅に縮小された。ミサトもまたネルフに残ることを決めた。
シンジ達もまた学校が始まり以前の生活へと戻っていったのだが・・・


「ミサトさん、本当にお世話になりました」
シンジはミサトに深々と頭を下げる。
「いいのよ。シンジ君と暮らせて本当に楽しかったわ」
シンジはゲンドウとレイの3人で暮らすこととなった。それはレイが正式にゲンドウの養子として迎えられたことと、シンジとの和解ができたからである。
「アスカだけじゃ心配ですから、たまにはこっちに寄ります」
「そうしてくれると助かるわ」
「なによ!アタシが家事できないとでも思ってるの!?」
アスカが食って掛かる。その話を聞いた時、アスカはシンジに大激怒し、しばらく口もきかなかったがシンジは彼女が寂しがっているからだとわかっているため何度も説得しアスカを慰めた。シンジがいつもいることが当たり前だったアスカにとってこれは深い葛藤がゆえの決断だった。
「・・・居づらくなったら・・・いつでも帰ってきなさいよ。部屋そのままにしておくから」
「大丈夫だよ。心配しないで」
シンジはそういってアスカを抱きしめて頭を撫でる。アスカは静かにシンジの胸で泣いた。
「大人になったら・・・また一緒に住もうよ」
「・・・うん・・・」
抱き合う姿を見てミサトは思う。彼らはちゃんと一歩ずつ真っ直ぐな大人になっているのだと。それが嬉しい反面どこか寂しく感じる。
「それじゃあ、行ってきます」
そう言ってシンジはミサトの部屋を後にした。

3日後、姉妹のような関係のミサトとアスカは買い物袋片手に自宅のマンションへと入る。
「アスカ~今日私がご飯作ろうか?」
「やめてよ!折角体の傷も消えたってーのにこれ以上リツコの世話にはなりたくないわ!」
お互いを理解しあっているだけあって、毒舌も可愛く感じる。ミサトがカードキーを差し込むと既にドアが開いている。
「あれ?」
「なによ、鍵空いてるじゃない」
「おかしいわね~確かに閉めたはずなんだけど・・・」
ドアを開けるといい匂いが部屋の中からする。恐る恐る中に入ると
「アスカ、ミサトさんおかえりなさい」
シンジがいた。
「し、シンジィ?」
「ちょっ!どーしたのよいきなり!」
混乱する二人を余所にシンジはいつも通りに夕飯の準備をしている。
「後で話します。それより食べましょうよ」
「え、ええ・・・」
夕飯を終えてミサトはビール、アスカは紅茶を飲んでいる。シンジは二人の前に立つと勢いよくその場で土下座した。
「ミサトさん!僕をここに置いてください!お願いします!」
「な!なんでそんなこと言うのよ!?司令とうまくいってないわけじゃないでしょ?」
アスカの疑問はもっともである。親子の関係を最初からやり直したいという名目があったからこそアスカは送り出せたのに。
「それはいいけど・・・またなんで・・・そっか~シンちゃんアスカと離れたから寂しくなっちゃったのねん❤」
「ちょっと!ミサト!?」
からかわれて全身を真っ赤に染め上げるアスカ、内心はそういう風に期待していた部分はあった。だが、事態は彼らの予想以上に深刻なようだ。シンジは大粒の涙を流し始める。
「うっ・・・ううっ!・・・」
「シンジ?」
「シンちゃん・・・」
「僕には・・・もう、ここしかいる場所がないんです!」
「シンジ君、何があったの?」
ただ事ではない雰囲気にミサトは真剣な顔つきになる。シンジはポツリポツリ語り始めた。



シンジが帰ってきた夜、ゲンドウは惣菜を買ってきた。
「時間がなくてすまない。今夜はこれを食べよう」
用意されたのは助六弁当だった。これならレイも食べられるからだ。
「別にいいよ。僕、お稲荷さん好きだし」
「ふっ・・・そうか」
黙々と食べる3人、ふとゲンドウがシンジに話しかけた。
「シンジ、お稲荷さんは欲しいか?」
「え?食べないならもらうよ」
「さあ、俺のお稲荷さんだ」
そして目の前に出されたのはゲンドウのお稲荷さんだった。

「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

「碇君汚いわ」
激しくむせ込むシンジ。
「な、なにやってんだよ!父さん!」
「わからないか?お稲荷さんだ」
「見ればわかるよ!そんな座芸いらないよ!」
「碇君、司令は食べてくれることを望んでいるわ」
「無理だよ!食べるものですらないよ!」


深夜
シンジが自室で用意されていた布団で寝ていると熱くて目が覚めた。サードインパクトの影響で地軸が戻ったとはいえ、セカンドインパクトの影響はいまだ健在なのだ。
(どうも寝苦しいな・・・)
シンジが寝返りをうつと目の前にゲンドウのドアップが目に入った。
「うわあああ!」
シンジの叫び声を聞いてゲンドウが目覚める。
「どうした!シンジ!なにがあった!」
「なにがあったかじゃないよ!なんで僕の布団で寝てるんだよ!父さん!」
「親子のコミュニケーションというものだ」
「何も言わないで布団に入ってこないでよ!」
「ふっ問題ない」
「おおありだよ!」
「碇君そんなこと言ってはダメ。司令も寂しいのよ」
後ろからレイの声がする。恐る恐る振り返るとレイもまたシンジの布団で寝ていた。
裸で。
「はやなみ!なんで綾波まで僕の布団で寝てるんだよ!しかもなんで裸なんだよ!」
「碇君、私とひとつになりましょ。それはとてもとても気持ちいいことなの」
頬を赤く染めながらレイは言う。
「ダ、ダメだよ!僕たちは兄妹だよ!そんなことできないよ!」
「血の繋がりなんて越えられるわ」
「超えなくていいよ!」


話を聞いたミサトは見事なまでにドン引きしている。アスカもまた本来ならレイの行動に大激怒してカタパルトで打ち出されるが如く突撃しそうなものだが、あまりのことでやはりドン引きしている。二人の顔には縦筋の線がいくつもあるだろう。
「そ、そりゃ・・・まあ・・・」
「逃げたくもなるわね・・・」
それしか言えない。
「父さんの家で住み始めてからずっとこんな感じなんだよ!家で音楽聞いていれば頭にナニ乗せてチョンマゲマーチ歌いだすし!綾波は『く~る~ きっと来る~♪』って歌いながら四つん這いで追いかけてくるし!静かに寝たくて部屋に鍵をかけてもピッキングでこじ開けるわ!窓ガラス破って入ろうとするわ!あそこにいたら僕はいつか殺されるんだ・・・・」
「シンジ、アタシ、こういうときどんな顔をすればいいのかわからないわ」
「・・・笑えば、いいと思うよ?」
「笑えないわよ!」
「ですよねー」
こうしてシンジの生活は元通りミサトとアスカと同居することとなった。
一方、ゲンドウ宅では・・・・

『葛城さんの家に戻ります』
シンジの書いた紙を見てゲンドウとレイが途方にくれていた。リツコは事の顛末を聞いて頭を抱えている。
「何がいけなかったんだ・・・シンジ」
「碇君、どうして?何がいけないの?」
「・・・全部よ」


そして彼らは第壱中学校を卒業し、そのまま第弐高等学校へと進学する。
「ま~た惣流と一緒かいな」
「また頼むぜ。碇」
「また一緒だね!高校行ってもよろしくね!」
トウジ、ケンスケ、ヒカリも同様に同じ学校へと進学する。そのほかの生徒も顔見知りが多く同じ学校へと進学した。そして自分たちの周りでも変化があった。ゲンドウとリツコが正式に結婚をしたのだ。この出来事は全ネルフ職員が参加し彼らの新たな節目を祝った。そして、ミサトは日向と交際をスタートしたのだった。このことを一番嬉しく感じたのは間違いなくシンジだ。周りは少しずついい方向へと変わっていく。このまま自分たちも少しずつ変わりながらも変わらないものを大事にしながら大人へと成長していくのだろう。そう信じていたのだが、中学を卒業しあとは高校の入学を待つばかりだったシンジ、アスカにゲンドウから思いがけない提案をされたのだ。

「レイを、綾波レイを普通の女の子として育ててほしい」

ものすごく嫌そうな顔をしてミサトが尋ねる。
「あの・・・司令・・・本気ですか?」
「本気だ。葛城二佐、今の部屋では狭いだろうと思って新しい部屋を用意した。そこへ引っ越してほしい」
「いえ、その・・・なんで私の家に同居させるのですか?別に司令の家でも良いのではないでしょうか?ほら、リツコもいるし・・・」
この質問にリツコが答える。
「それはあなたが適任と判断したからよ」
「ちょっと待ってよリツコ!いくら私でも3人の子供の面倒を見るのは無理よ!」
「私がレイを育てるよりもシンジ君たちと一緒に、同世代の人と生活させることに意味があるのよ。レイを一日でも早く普通の人間にするためにもね。MAGIも賛成しているわ。それに複雑な事情もあるのよ」
「なによ、事情って・・・」
ミサトの問いにリツコは少しだけ笑って答えた。
「ゲンドウさんとの二人きりでイチャイチャしたいのよ。私は」
「私事じゃないの!」
「ハッ!」
思わず口を塞ぐリツコ、その顔は青白く体を震わせる。
「そんな・・・私が本音と建て前を言い間違えるなんて・・・これは・・・」

「妖怪の仕業ね!?」

「「「妖怪ウォ○チかい!」」」
シンジ、アスカ、ミサトからツッコミがはいる。
ゴホンとひとつリツコはせき払いをすると真面目な顔をする。
「今のレイは見た目は15歳でも中身は9歳の子供と変わりがないわ。理由は・・・説明するまでもないけど、サードインパクトが起こってレイはレイとして生きることが許された。これだけでも喜ばしいことだけど、逆にレイがこのままだとそれこそネルフしか知らない人間になってしまう。レイは人間よ。レイにも色々な選択をさせてあげたいの」
「リツコさん・・・」
シンジは正直な所リツコがここまで真剣にレイに対して考えているとは思ってもみなかった。シンジは心の中でリツコに感謝をした。
「それで、これがMAGIから提案されたレイの育成計画書よ。参考になればいいけど」
シンジの手にA4サイズの紙の束が渡される。シンジは紙をめくって内容を確かめる。

「モグ波育成計画」

「同人かよ!」
シンジは思わず冊子を床に叩きつけた。リツコはため息をつきながら答える。
「何度やってもソレが出るのよね」
「使えないねえ!?」
「それより、真面目な話レイを普通の女の子に育ててほしいの。シンジ君ならできるわ」
「でも・・・」
シンジとしてはレイの面倒を見るのは決して嫌なことではないし、彼女をこのままにしてはいけないというもある。ただ彼女との生活はぶっちゃけあの3日で懲りたところもある。しかし家事無能のミサトや我儘姫のアスカ、この2名の面倒を見ているのは他でもないシンジである。これ以上負担が増えるのは正直勘弁してほしい。
ミサトも家のことはシンジにまかせているとはいえども彼女はれっきとした?彼らの保護者でもある。彼らのメンタルな部分はミサトがフォローしているのだ。レイのことも彼女は心配していることは確かのだが、もうひとり面倒を見るとなるといくら相手がレイでも気が引ける。
アスカにいたっては、レイはシンジの妹とはいえ相変わらず強力なライバルだ。一緒に住むということとなると、今まで以上にシンジとイチャイチャできなくなる。ミサトがいないときは文字通り片時も離れないほどシンジにくっついているのだ。それができなくなるのは彼女にとってデメリットでしかない。
「葛城くん、やってくれるな?」
ゲンドウはさらに追い打ちをかける。その言葉には拒否を一切認めない強さがある。
「いや、しかし・・・」
それでもミサトは二の足を踏む。
「ふむ、葛城くん。これを君にあげよう」
ゲンドウはそういってミサトに分厚い封筒を渡す。恐る恐る中を覗くとそこには札束が・・・
入ってない。
代わりにえびちゅのビール券が大量に詰め込まれている。ゲンドウはもう一枚の紙を渡す。
そこには「本場ドイツビール 飲み放題の旅一週間!」という文字があった。
「わかりました。謹んでお受けします」
「「ミサト!?(さん)!?」」
あっさり寝返った。
「どういうことよ!ミサト!」
「いや~だって他でもない司令のお願いだしね~」
苦笑いを浮かべるミサト。しかしアスカの怒りは収まらない。
「アタシは嫌よ!いくら司令の頼みごととはいえ、ファーストと一緒に住みたくないわ!」
「アスカ、そんな言い方しなくても・・・」
「なによシンジ!アタシの味方じゃなくてファーストの味方をするってーの!?」
「どうしても嫌か?アスカ君」
ゲンドウがアスカに問いかける。流石にゲンドウから言われると勢いが落ちる。
「いえ、その・・・口で言うほどじゃないですけど・・・」
「ふむ、君にはこれをあげよう。どうかこれで納得してもらえないだろうか?」
そういってゲンドウはアスカに封筒を手渡した。恐る恐る中を見ると一枚の紙が折りたたんで入っているだけだ。封筒から紙を出してみると、それは婚姻届だった。
「これは・・・」
「既に保証人の所に私と君の父親のサインが入っている。時期が来たら出すといい」
アスカは大切に紙をしまうと顔を真っ赤にして咳払いをする。
「お、お義父さまのお願いでしたら・・・断れませんわ・・・」
最後にゲンドウはシンジと向かい合う。
「シンジ、お前はどうだ?」
「ミサトさんとアスカが納得してくれたのなら僕はいいよ。僕も綾波のことは心配していたしね」
「そうか、流石俺の息子だ。シンジ、これをやろう」
ゲンドウはシンジに小さな箱を手渡す。中には指輪が入っていた。
「これは・・・」
「私が捨てきれなかったユイの婚約指輪だ。お前にやろう。アスカ君に渡すといい」
「父さん・・・ありがとう・・・」
リツコもミサトも嬉しそうにその光景を眺める。レイは少しだけ不満そうだ。アスカは目に涙を浮かべ感動している。
「シンジ、もうひとつお前にプレゼントがある」
ゲンドウは一枚のDVDを渡した。
「父さん、これは?」

「俺厳選のエロDVD総集編、女医編だ」
「いらないよ!」
シンジは思わずDVDを叩きつける。
「俺にはもう必要ない」
「僕だって必要ないよ!」
「すべては頭の中にある。今はそれでいい」
「暗記するほど見たの!?」
ゾクリと背筋が凍る。振り返ると蒼い目をした鬼がいた。
「シンジ、受け取ったら浮気とみなすからね・・・」
「受け取らないよ!」
「シンちゃん本当にいらないの?」
「いりませんよ!」

こうして多々問題しかなかったが、レイはミサト達と同居することが決定した。
そして引っ越し当日、シンジ達は住み慣れたコンフォートマンションを出て新しいマンションへと行く。そこは広々としたリビングにダイニング、機能性を重視したシステムキッチン、そして各個人の部屋が4つある。
「こんなところに住むの・・・?」
部屋を見てミサトは思わず口に出した。今まで住んでいた部屋よりもかなり広いし作りも良い。
「キャー!この部屋すごく景色がいい!アタシここの部屋に決めた!」
「すごいよこのキッチン!これならもっと色々な料理が作れるよ!」
シンジとアスカは大興奮しながら部屋を見ている。ミサトは二人の笑顔を見てこれはこれで結果オーライかな?と思う。どんなものであれ二人の笑顔を見ると自分も嬉しくなる。ミサトは手を叩いて二人を呼ぶ。
「はいはい、嬉しいのはわかるけど早く荷物を片付けちゃいましょ。もうすぐレイも来るはずよ」
3人が各々に荷物を整理していると呼び鈴が鳴った。
レイが来たのだ。レイはスポーツバックひとつ肩に背負って部屋に入ってきた。
「こんにちは」
「いらっしゃいレイと言いたいところだけど、ここは今日からあなたの家でもあるのよ。帰ってきたら“ただいま”でしょ?」
ミサトはウィンクしてレイに言う。それは昔シンジに言った言葉だ。レイは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「・・・ただいま・・・」
「うん!おかえり!レイ!」
部屋に入るレイ。リビングではシンジとアスカが待っていた。
「綾波、これからよろしくね」
「うん、お兄ちゃん」
シンジとレイは握手を交わす。次にアスカがレイの前に出た。
「ファースト!と言いたいところだけど、これから一緒に住むことになったし、アンタはシンジの妹よ。アタシの未来の義妹になるからレイと呼ばせてもらうわ。だからアンタもアスカって呼びなさい」
言葉の節々に棘のようなものがあるがそれは彼女が照れているからだろう。アスカは顔を赤くしながら握手をするように手を差し伸べる。
「ぺっ!」
レイはその手に唾を吐いた。
アスカは別の意味で赤くある。
「ファ~スト~アンタね~!!」
「なに?」
「謝りなさいよ!」
「謝る。それは謝罪の言葉。頭は理解しているけど、心が拒否するわ」
「こ!の!殺してやる!」
シンジが慌ててアスカ止めに入る。
「ちょっ!やめなよアスカ!」
「離せ!止めるなシンジ!」
「もう!バカなことしないで綾波も謝ってよ!」
「そんな!」
「いや、驚くところじゃないから」


「あちゃー・・・」
ミサトは初日からトラブルが続く3人を見て本気でゲンドウからの依頼を放棄しようかと本気で思った。しかし受けてしまった以上もう引き返せないことは明白だ。
今日から始まった新しい家族は一体どうなるのだろう?
ミサトはこれから確実に起こってくるであろう数々のハチャメチャな生活を思い頭を抱え込んだ。

こうして彼らの新しい生活は 火種だけ を大いに燃え上がらせてスタートしたのだった。



あとがき
あぐおです。
アフターEOEを舞台としたコメディを目指しました。シンジとアスカがレイを育てるLASです。気楽に見ていただけると嬉しいです。

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