AD2016 5.26

爬虫類を思い起こさせるような量産型エヴァンゲリオンに取り囲まれたエヴァンゲリオン弐号機は絶体絶命の危機に見舞われていた。その光景に思い浮かぶのは死あるのみだ。
少女は怒りに身を任せて戦意を奮い立たせるも、頭の片隅で刻一刻と確実に近づく死を感じている。
神様なんて、いない。
あるのは無情な現実。それだけだ。
有史以来、このような絶望という名の現実は幾度となく歴史が繰り返されてきた。そして名も無き弱者の血と涙で大地を何度も何度も染め上げてきたのだ。その現実が幸せを、愛されることをただ願った少女の身に降りかかる。ただそれだけのことだ。
ただ、それだけの。

死神の鎌のような禍々しいロンギヌスの槍のコピーが振りかざされた時、少女の目の前に大きな壁ができた。
よく見ると、その壁は見慣れた背中であることがわかった。
「遅れてごめん。アスカ」
聞き慣れた声。その声に少女の怒りと絶望は彼方へと消えていった。
「バカ!遅い!遅すぎるわよ!バカシンジ!」
嬉しかった。少女が何度も助けを求めた少年が、辛いことから逃げ続けた少年が最後の最後で自分を助けるために戻ってきてくれたことが嬉しかった。
「いくよ!アスカ!」
「アタシに命令すんな!」



同時刻 セントラルドグマ
磔にされたキリストのような使徒リリスの前にレイとゲンドウがいる。その後ろには血を流して倒れている赤木リツコの姿が。
「さあ、レイ。はじめよう」
レイは頷くとゲンドウに促されるままリリスの足元へと近づく。
十年、言葉にすればわずか2文字だが、ゲンドウはこのときをずっと待っていた。
ただもう一度会いたかった。そのためなら神にでも反旗を翻すことすら厭わない狂気。その悲願がまもなく叶う。
「ユイ・・・もうすぐだ・・・」
レイとリリスが融合されていく様子をじっと見守るゲンドウ。これから起こる出来事にゲンドウの頬が思わず緩む。しかし・・・
「あなたの思い通りにはさせない」
レイの微かな呟きにその笑みが消える。
「レイ?」
「私、あなたの人形じゃない。碇君がもう戦わなくていいようにする」
レイはそれだけ言うとリリスの中へと消えていった。
「レイ!どういうことだ!」
ゲンドウのその問いかけは結果としてその身に降りかかる。
腐った肉が崩れる様にリリスもどろどろに溶けLCLの海に還る。そして、すべてが溶けて消えた時、衝撃波のようなものが体を貫いた。
金縛りにあったかのように体が動かない。それはまるでブラックホールのような巨大な重力波が時間の流れすら止められたような。そんなシーンをテレビで見ているような。
そして、リリスが崩れ落ちた所に黒い丸いものが姿を現すと大きく膨らみ始めその場にあるすべてのものを飲み込んでいった。


総理官邸
時の日本国首相は綴られた報告書を読み終えると顔色を青白く染めて全身から冷や汗をかいた。
「これは・・・本当なのかね?」
「はい、事実です。嵌められたんですよ。我が国と、戦略自衛隊は」
「しかし・・・ここに書かれていることが事実であるとすると、私は大変なことを仕出かしてしまったではないか!」
「そうですね。しかしまだ挽回はできます。いますぐ撤退命令を出してください。そして、この事実を国際社会に明らかにするのです」
「そ、そんなことしたら・・・私の政治生命は終わりではないか!」
「あなたの政治生命と、我が国の未来。強いては人類存亡を賭けた未来。果たしてどちらが重いか・・・子供でもわかることじゃないですか」
「うっ・・・むむ・・・」
「ご安心を。できる限り非難を免れるよう手筈は打ちます」
「・・・わかった。君の言うことを信じよう。加持リョウジ君」
「英断。感謝いたします」
内閣総理大臣は電話を取る。
「私だ。防衛大臣につないでくれ」
重大な判断を下した彼の手には汗がにじみ、震えていた。


ネルフ発令所
戦略自衛隊が誇る特戦部隊“S”が発令所にMAGIを制圧しようとなだれ込む。ネルフ職員も抵抗を続ける。しかしその実力差たるやあまりにもかけ離れすぎている。アマチュアとプロの戦いだ。この施設の中枢部を完全に制圧するまでそう時間はかからないだろう。そう思っていた。
『こちらHQ、アベンジャー、繋げ』
「こちらアベンジャー。どうした?」
『撤退命令が出た。速やかにその場から離れろ』
「・・・冗談だろ?」
『冗談じゃない。内閣総理大臣からの直々のお達しだ。敵はネルフじゃなかったってことらしい。詳しい説明は帰ってからだ』
「わかった。すぐに撤退する」
Sはハンドサインで撤退の命令を出すと抵抗を続けるネルフ職員に気が付かれないよう発令所からその姿を消した。
来た道を戻るS。あと一歩のところでネルフの中枢を占拠できた状況だっただけに隊員たちは不満を漏らす。
「あと少しだったのに撤退ってどういうことですか!?」
「知らん。それはあとで説明してくれるそうだ。ま、支持率を気にした政治家どもの気まぐれの可能性は高いがな」
「俺たちは政治家のパシリじゃないです!くそ!」
「言うな。この国では軍事は暴力装置の一種だと未だに思われている節があるからな。それより今はここから脱出するのが先だ」
軍事にアレルギーがあるこの国において彼らは良くて無能な暴力集団。悪くて自己保身に汗を流す政治家のパシリでしかない。この国を、人々を守るという気概を持って入隊した戦略自衛隊の情けない現実に唇が歪む。
そして、悔しさと惨めさを押し殺しながら来た道を戻る彼らにソレはきた。まず感じたのは衝撃波、だったと思う。定かでないのはそれが体感的に過去に似たようなものを感じたことがあるため、それに当てはめることしかできないからだ。そう、戦闘機で空気の壁を突き抜けた時に感じる衝撃。あれに近い。違うのは目の前にある光景がまるで時が止まったかのように静止しているのだ。時間は正常に流れていると思う。そう体が告げている。だが、目の前に広がるビデオの静止画面を見ているような光景が理解できない。今、自分がどうなっているのか?何が起きているのか何一つわからないまま彼らは地面から湧き上がってきた黒い何かにすっぽりと体を覆われ、そして意識は途絶えた。


そして地上でも異常は起きた。レバーはガチャガチャと動かすシンジとアスカ。
「動け!動けよ!なんで動かないんだよ!」
「どうして!?なんで動いてくれないの!?ママ!」
突如初号機、弐号機はその場だらんと両腕をさげて静止してしまった。
電源が落ちた?それはない。初号機はS2機関があるし、弐号機はケーブルが繋がっている。原因は他にあるであろう。しかし彼らに見当がつくはずもない。戦場においてこの状況は死に繋がる。しかし死に繋がる危機は皆無だ。なぜなら量産機も彼らと同様に静止したままだからだ。
相対する敵同士がお互いに動きもせずボクシングでいうノーガード戦法でにらみ合っているだけの構図。今この場が世界の命運を分けた戦いの場であり戦闘中であるということを教えたところで一体誰がそれを信じるのであろうか?
シンジはこのとき不思議な感覚に包まれた。突如足元がぐにゃりと沼に足をとられたような感覚に陥ったのだ。足元見るとちゃんと地面に足をつけているのがわかる。しかし感覚がそうは捉えない。視覚と感覚にズレがあるのだ。そのズレに嫌悪感が浮かぶ。
そしてその違和感はアスカも同様に感じていた。地に足がついていないようなフワフワとした感覚。今までにこんなことは一度もなかった。その違和感がひどく不快だ。
「くっ!なによ・・・!この感覚は!」
吐き捨てるようにアスカは言う。しかし不快感は増すばかりだ。
シンジはこのぐにゃぐにゃした感覚にどこか覚えがあった。記憶を便りにその感覚を探す。
「この感じ・・・どこかで・・・はっ!」
「僕があのとき使徒に飲み込まれた時と同じだ!」
第12使徒レリエル。ディラックの海に飲み込まれた時と同じ感覚だ。
「アスカ!逃げて!今すぐ逃げて!」
「逃げられないわよ!動かないのよ!」
シンジはせめてアスカだけでも逃がそうと必死で叫ぶが電源が落ちた様に動かない。脱出装置も働かない。
パニックに陥っている二人は気が付かない。内部電源がなくなってもパイロットを緊急脱出させるための装置は電源が別に確保されており装置を動かすことは可能なため、それすら稼動しないのはシステム上あり得ないことを。
そしてシンジがもう一度足元を見た時、今まで土の上だった地面が真っ黒なものに変わっていた。そしてそれは少しずつ初号機を飲み込もうとしていることに。
「アスカーーーーーーーーー!!!!」
「シンジーーーーー!!!助けてーーーーーー!!」
そして、量産型、初号機、弐号機はすっぽりと黒いものに覆われてしまった。

黒い何かはどんどん膨らんでいき第三東京市すべてを覆い尽くすまで膨れ上がり、そして止まった。



白。
どこまでも続く白。
その上か下かもわからない白い空間にシンジは漂っている。自分が生きているのか死んでいるのか、寝ているのか起きているのかもわからない。ひどく寂しい印象を受ける場所。でもどこか温かく居心地がいい。その中で声が聞こえる。
『碇君』
「その声は・・・綾波?」
シンジが呟くと目の前にレイが現れた。その体はどこかぼやけている気がする。
「綾波。僕は、死んだの?」
『いいえ、生きているわ』
「ここはどこ?」
『すべての始まりですべての終わり。ガフの扉の中よ。世界改変の鍵は私が握っている』
「えっと・・・つまり?」
『サードインパクトを起こしたの。限定的だけど』
「サードインパクトだって!?どうして!」
『碇君が戦わなくていいようにする。そして、二度とこんなことが起きないように』
「綾波・・・僕は綾波が何を言っているのかわからないよ」
『わからなくていい。でも、これだけは覚えていて。もう二度とこんなことはこの世界では起きないということを』
「綾波?」
『さよなら碇君。全ては私が連れて行く』
「待ってよ綾波!綾波はどうなるんだよ!」
『私は、消えるわ。私が消えても、変わりはないもの』
「そんな寂しいこと言うなよ!綾波がいなくても何も変わらないなんて言うなよ!」
『本当は、消えたくないわ』
「だったら!」
『でも、それは無理。碇君は、私を選ばないもの』
「綾波?何を言って・・・」
『碇君の心の中心には、もう私以外の女の人がいる。そこに私は入れない。碇君が選ばないから』
「綾波・・・」
『碇君に選ばれなかったけど、それでも私に生きて欲しいなら・・・ひとつだけ・・・我儘を言わせて』
「なに?綾波」
『どんな形でもいい。碇君の側にいさせて。碇君との絆があれば、私は幸せだから』
「うん、わかったよ。綾波」
『また、会いましょう』
レイが微笑むとその体は光の粒となりどこまでも広がっていった。その光景を現すにはどんな綺麗な言葉を用いても、どれほどの文字を羅列しても足りないだろう。
ただ、美しかった。
その美しさに優しく包まれながらシンジは再び目を閉じた。



重苦しいモーター音でシンジは目が覚める。この音はLCLの循環のための装置の音だ。この音を聞くのは使徒に飲み込まれてディラックの海を漂った時以来だ。
(またこの音・・・うるさいな)
全身がだるい。体が疲れ切って眠りにつきたいのに逆に眼が冴えてだるさをもてあましているような、そんな感じ。
ぼーっとしているシンジの頭の中に色々な出来事が巡る。アスカのこと、ミサトのこと、レイのこと、そして量産機との戦いの最中であるということ。
「あっ!」
意識が瞬時に覚醒し周りを見る。モニターから見える風景に変化はない。弐号機も、量産機もやる気がないように立ち尽くしている。
「アスカ!アスカ!返事をしてよ!」
通信回線を開いてすぐ近くにいるアスカに向けて呼びかけるが返事がない。
「アスカ!ねえ!返事をしてよ!アスカ!」
シンジは何度も呼びかけるが何も返ってこない。最悪の結末が頭を過る。その結末を振り払うかのように何度も叫ぶが叫ぶたびにその最悪な結末は色を濃くしていく。
「ちくしょう・・・ちくしょう・・・・僕が弱かったから・・・僕がアスカを殺したんだ!助けたかったのに!守りたかったのに!・・・アスカ・・・」
LCLの中にシンジの涙が零れ落ちる。シンジは静かに泣いた。その時だ。
『ったく、うるさいわね・・・何度も呼びかけなくても聞こえてるわよバカシンジ』
なんとも気怠そうに、そしてうんざりしているアスカの声が聞こえた。
「え?アスカ?」
『何度も何度も呼びかけなくても聞こえてるわよ。ちょっと体に力が入らなかったから声が出せなかったのよ。それに、勝手に殺さないでよね』
「う、うん・・・ごめん」
本当に申し訳なさそうに謝るシンジの声を聞いてアスカは思わずクスリと笑う。
アスカの言うことは半分は当たっている。最初は本当に意識が朦朧として声が出せなかったのだ。次第に意識と体が覚醒しはじめたとき、シンジはアスカが死んだと勘違いして号泣し始めた。その後悔の叫びの中にはシンジのアスカへの想いが詰まっていた。それを聞いてしまったために今度は照れて何も言えなくなってしまったのだった。
『回線を開くわ』
回線が開くと小さなモニターにアスカの顔が映る。
「アスカ大丈夫?怪我とかしてない?」
シンジはアスカの顔がモニターに映し出されると彼女の身体を気遣う。
『大丈夫に決まってるでしょ?アタシがあんな奴らにやられるとでも・・・』
アスカの言葉は中途半端なところで区切れる。最初はアスカもどこか安堵した表情を浮かべていたが、みるみるうちに不機嫌な顔に変わっていく。
「アスカ?」
『アンタ!後ろにいる女は誰なのよ!』
「へ?」
わけがわからないことを言い始めた。エントリープラグにはシンジしか搭乗していない。そもそも第三者を乗せたところでノイズにしかならないことをシンジは身を持って知っているからだ。
「なに言っているんだよアスカ。僕しか乗ってないよ」
『はあ!?アンタの後ろにいるじゃないの!バカにしてるの!?』
「エントリープラグに僕以外いるわけないだろ!?意味がわからないよ!」
『アタシがピンチだってーのにアンタはプラグの中に裸の女を乗せて洒落こもうって魂胆なの!?』
「は、裸の女!?いるわけないじゃないか!」

『じゃあアンタの後ろにいるあの女はなんなのよ!』

アスカの予想を斜め上に飛び越えていく発言にシンジは思わず後ろを振り返る。
シンジは絶句した。

「かあ、さん?」

シンジの後ろにはエヴァに取り込まれた当時の姿のまま、碇ユイが気を失って倒れていたのだ。
「母さん!母さん!」
取り乱したかのようにシンジはユイを揺さぶった。するとユイの目がゆっくりと開いたのだ。
「ん・・・しん、じ?」
「そうだよ!僕だよ!シンジだよ!」
シンジは今までの感情を爆発させるかのようにユイに抱きついた。
その様子はアスカにも届いていた。ただ呆然とその様子を眺めていたのだ。
(アイツ、母さんって言ってたわよね・・・じゃああの女はシンジのお母様!?)
フリーズした思考が少しずつ動き始める。しかし何故ユイがシンジのエントリープラグの中にいたのかという疑問は微塵も浮かばず、嫉妬してシンジの母親をあの女呼ばわりしたユイにどう言い訳しようか悩んでいた。
「う、うーん・・・」
アスカが必死で言い訳を頭の中で並べていくとアスカの後ろから人の気配がする。アスカがおそるおそる後ろを振り向くと、やはり全裸の女性が眠そうに目をこすっているではないか。その女性にアスカは見覚えがあった。
「ママ・・・・?」
女性はゆっくり目を開けるとアスカの顔をまじまじと見る。
「アスカ、ちゃん?」
「ママ!ママーーーーーー!!!」
アスカもまた、いてもたってもいられず母親であるキョウコに抱きついたのであった。


その頃、ネルフ本部では敵味方関係なく、全員が狐に包まれたかのように呆然としていた。
特戦群が通ってきた通路は死体の山が転がっている。そうであるはずだった。
しかし、激しい銃撃戦の跡はそのままに殺したはずのネルフ職員が呆然と立っていたからだ。
(こいつら・・・殺したはずじゃ・・・・)
(あれ?俺・・・死んだんじゃ・・・あれ?)
殺した人間と殺されたはずの人間が呆けたかのように顔を合わせていた。予想ができない光景を目の当たりにしたとき人は思考が完全に失われるらしい。
「あの・・・戦自の・・・方ですよね?」
「ああ、そうだが・・・」
「もしかして、迷いました?」
「あ、ああ・・・そう、なのか?」
「出口まで案内しましょうか?」
「ああ、頼むよ」
こうして特戦群のメンバーは殺したはずのネルフ職員に案内されてネルフ本部から出ていった。


「・・・生きてる・・・」
ミサトはシンジを送り出したエレベーターの前で壁に背を預けては自分の手の平を開いたり閉じたりして自分の手を眺めている。
確か自分は迫りくる戦自と共に奪った手榴弾で自爆したはずだった。しかし自分の体に変化はない。ただ、そこで何らかの爆発があったという事実だけが生々しい跡として克明に残っているだけだ。
なぜ自分は生きているのか?何が起こったのか?そんなことすらミサトはどうでも良かった。もやもやとした疑問だけが残った。
ミサトはポケットから煙草を取り出すと肺一杯に吸い込んで吐き出した。
「ふーっ・・・こういう時に吸う煙草も悪くないわね」
ミサトはもう一度煙草を吸うと自分の口から吐き出された煙の行く末をボーッと眺めた。


数日後、落ち着きを取り戻したネルフ本部ではユイとキョウコミサトと加持の4名が最深部のリリスが磔にされた場所へと降り立った。そこにはリリスが磔にされていたはずの大きな十字架とLCLの海、そして直径5メートルはあるであろう黒い真球のようなものがLCLの海に浮かんでいた。
「なんなの?あれ?」
「わかりません。ただ、私が以前来た時にはあのようなものはありませんでした」
キョウコの質問にミサトが答える。この光景には流石の加持も口に手をあてて黙り込む他なかった。ユイはじっとその球体を睨み付けるように見る。そして何かに気が付いた。ユイはLCLの海の中へと入っていった。
「ユイ!何をしているの!?」
「碇博士!」
「博士!」
ユイは海の中で何かを拾い上げると大事そうに抱きかかえて戻ってくる。
「ユイ、それは?」
ユイの腕の中には生後間もない女の赤ん坊がいたのだ。ユイは言う。
「この子は・・・レイよ。綾波レイ。彼女の生まれ変わり」
「ええ!?」
「なんだって!?どういうことですか!」
そのことを説明することはユイでもできない。ただ、問いかける様にユイは語りかけた。
「そうでしょ?レイ」
その言葉は母親が我が子に話しかける様に優しい口調だ。そして、その言葉を合図に赤ん坊は大声で泣き始めたのだ。泣き出したレイをあやすユイ。その姿は母親そのものだ。
ユイはレイを抱きなおすと強い眼差しでミサトに言う。
「この子は、私が育てます。私の子供です」
「ちょっとユイ!?」
「碇博士!シンジ君にどう説明するつもりですか!?」
ユイは静かに応える。
「シンジにはすべてを打ち明けます。あの子なら理解してくれるでしょう。大丈夫です」
こうなったらユイは梃子でも動かない。彼女のことをよく知るキョウコは諦めたようにため息をつく。
「仕方がないわね。このことはうちのアスカにも打ち明けるけど構わないわよね?」
「ええ、是非に」
ミサトは何も言わずにユイの言葉に頷いた。それは時折見せるシンジの強い眼差しがユイの瞳と被ったからだ。彼らは間違いなく親子なのだとミサトは改めて思った。
「わかりました碇博士。その子の処遇は全ておまかせします。このことは私達とシンジ君とアスカのみ知らせることにしましょう。公にできるような内容ではないですから。それと彼女が綾波レイではなくシンジ君の妹の碇レイであるというカバーストーリーを用意しましょう」
「そうだな。その件は俺にまかせてくれ」
「頼んだわよ。加持君」

こうして新しい家族が一目の知らない場所で誕生したのだった。





世界を巻き込んだサードインパクト未遂事件は後に「箱根事件」と呼ばれる。
ゼーレは国際テロリストとして重犯罪者として公表され、その身柄は生死問わず懸賞金が掛けられることになる。
一方ネルフはゼーレと協力体制ではあったものの、最後で碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、赤木リツコ、綾波レイ4名が離反。その身をもってゼーレの真の目的、サードインパクトを防いだ英雄として祭り上げられることとなる。
しかしながらその全容が明らかになることはなく不明瞭な証拠、支離滅裂な証言によりその謎だけを深めていくこととなった。特捜部、ならびに国連査察団が何度もネルフに出入りしたが決定的な証拠を掴めるわけもなく、彼らを英雄視する世論の後押しもあり捜査は打ち切りとなった。



AD2016.610 第三東京市第壱中学校再開

同年.8.16 碇シンジ、惣流アスカ・ラングレー両名、葛城ミサトとの同居を解消。同マンションの隣の部屋に引っ越し。ミサト、加持リョウジと同棲を再開。日向マコトが大いに荒れる。

AD2017.3.10 碇シンジ、惣流アスカ・ラングレー 中学校卒業
同日 葛城ミサト 国連総会にて箱根事件についての全容の一部公開。ゼーレ、国際テロリストとして認定。最重要容疑者として国際手配される。

同年.4.1 碇シンジ、惣流アスカ・ラングレー 第三東京市立明城学園に入学。鈴原トウジ、相田ケンスケ、洞木ヒカリも入学。

4.8 葛城ミサトとの同居生活の全貌がユイにバレる。ミサト、ユイから小一時間正座で説教を喰らう。

同年.6.6 箱根事件捜査終了。同日、国連特務機関ネルフを改め特務機関ネルフジャパンと改名。司令には葛城ミサトが就任。

6.7 鈴原トウジ。相田ケンスケ両名、周囲の反対を押し切ってエヴァンゲリオンパイロットとして登録。

AD2018.9.7 葛城ミサト妊娠騒動。ネルフジャパンが大混乱する。翌日葛城ミサト強制的に寿退職。花嫁修業に駆り出される。

AD2018.9.10 ネルフジャパン新司令官に日向マコトが就任。副司令に元戦略自衛隊特戦群隊長の菅原ヨウジが就任。作戦本部長はミサトの紹介で元ドイツネルフ、作戦補佐官のエミリー・デーミッツが就任。

AD2018.9.16 ダミープラグを応用し新しいシンクロシステムの開発に碇ユイ。惣流キョウコ・チェッペリンが乗り出す。同時進行で新型エヴァンゲリオンの開発に取り組む。

AD2018.12.2 加持リョウジ食中毒で入院。「病院食ってうまいんだな」の呟きに全米が泣いた。

AD2019.4.29 加持ミサト。双子の男の子を出産。



AD2019.6.5 (土曜日) 16:12 ネルフジャパン本部




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