NO.5



注意!



このお話は、大変汚い言葉で進んでいきます。

エヴァのキャラがそんなことを言うのは耐えられない、という方は読まないほうが良いかもです。

シンジが色々な人を罵倒したりします。シンジが、残酷なことを考えたりします。

特に、リツコさんファン、レイファンの方は、彼女たちはシンジにかなり・・・・・・。

また、僕の私的観念や、その瞬間瞬間に感じたことや、思ってもいないことも多々出てきます。アテになさらないでください。

シンジが、こんな弱虫な人間にならないように信じて……

なお、これは愛と夢の蘇生first resuscitation versionの続きです

前作の結末でもうひどいのは十分だという方にはおすすめしません



































愛と夢の蘇生

second resuscitation version


終人











 俺たちが、そのことに気が付いたのは、もう、2週間が経ってからだ。アスカとミサトさんの風呂とか、着替え、そして、俺たちの3食の食事は、看護婦にやってもらったり、持ってきてもらっていた。
 加持さんは、ミサトさんの服が汚れているのに気が付き、着替えさせようとした。
 ………加持さんは、絶句した。俺は、葛城を着替えさせるからそっぽを向いていてくれ、と加持さんが言ったから、その通りにしていたのだが、しばらく、冷たい沈黙があって、気がかりになった。俺は、そのままで訊いた。
「加持さん、どうかしたんですか?」
「傷の、向きが、違う」
「え?」
「葛城には、大きな傷があった。セカンドインパクトのときのものだって言っていた。それは、胸から、右脇腹にかけてあったんだ」
「今は、どうなんですか?」
「胸から、左脇腹だ……」
「見間違いじゃないんですか?僕たちからしては右だけど、ミサトさんからしては左、みたいに」
「俺は、葛城との思い出を、忘れたりはしない」
 加持さんの声は、その温かみを、失った。
「……じゃあ、このミサトさんは、なんですか?」
「クローンだ。葛城は、あの傷を誰にも見せようとしなかった。リッちゃんも、傷はあることは知っていたが、向きだとか、そういう詳しいところまでは知らなかったはずだ。きっと、このクローンに傷をつけるとき、間違えたんだ―――きっと、アスカも、クローンだ」
 加持さんは、加持さんに似合わない、消え入りそうな声でそう言った。
「何言ってるんですか?だって、手は温かいし、生きているんですよ。呼吸だってしてます。匂いだって、アスカの匂いです」
「綾波レイは、君の母親のクローンだった。君は知っていたか?」
「ミサトさんと、一緒に、見ました。でも、アスカが、そんな、クローン……なんて、だって……」
 赤木リツコは、俺にいつか言った。「アスカは、もう、戻ってこない」、と。俺の心に、再び、憎しみの鎧がまとわり始めた。それは、前よりも頑強で、呪いがこもっている。
「今度、看護婦が来たら、訊いてみよう」
 加持さんは、言った。




 俺たちの昼ご飯を届けに来た看護婦は、知らない、と言った。いくら脅しても、彼女は、泣きながら知らない、知らない、助けて、と言った。加持さんは、看護婦に、伊吹マヤを呼び出させた。
「惣流・アスカ・ラングレーさんと、葛城ミサトさんの様子がおかしい、と言え」
 加持さんが看護婦を脅しながら言った。
「惣流、アスカ、ラングレーさん、と、葛、城、ミサトさんの、様子がおかしいのですが」
 看護婦は、言った。加持さんは、俺が、アスカを見ている内に、彼女を気絶させていた。




 しばらくすると、伊吹マヤが走ってきた。加持さんは、容赦なく彼女の胸ぐらを掴み、言った。
「正直に答えろ。この2人は、本当に、葛城ミサトと、惣流・アスカ・ラングレーか?」
「何を、言っているんですか?この2人は、葛城さんと、アスカでしょう?あなたたちがそう思ったのなら、そうでしょう?」
「嘘を、言うな」
 俺は、言った。加持さんは、伊吹マヤに白い錠剤を見せた。「これは、自白剤だ。これを飲めば、お前は本当のことを強制的に言わされる。その後、お前は、発狂する。あるいは、死ぬ。この自白剤は、性能の良いやつだから、死ぬ確率は、極めて低いらしい。そうなれば、お前は発狂する。お前の尊敬する赤木リツコは言ったぞ、発狂は、死よりも辛い、ってな。本当のことを言った方がいい」
 自白剤はというのは、もちろん嘘だ。だが、恐怖に染まった、この弱虫は、それを簡単に信じた。こいつも、醜い。
「そ、そうです……その、2人は、2人の、クローンです」




 廊下が、俺の向く向きと反対向きに勝手に動いた。廊下は、加速した。殺してやる。あいつは、生きていてはだめだ。殺す。
 俺は、同時に悔しかった。2度までも、アスカではないものを、アスカだと思い込んだのだ。俺は、カス以下だ。チクショウ。加持さんは、加持班(加持さんの課の先鋭の班の別名だ)を呼び出した。加持班は、赤木リツコと、冬月コウゾウに染まらなかった。加持さんは、どこかに行った。俺は、赤木リツコの元へ、廊下に導かれて、向かった。チクショウ。殺してやる。




 赤木リツコは、彼女の部屋から出てきた。俺は、拳銃で、撃った。女は、「キャッ」と声を上げ、倒れた。俺が駆け寄り、見下ろすと、赤木リツコは、俺の顔を見て笑った。
「今頃気づいたの?アハハハハハハハハハハハハハハハハ!バカのくせに、偉そうなことをしておいて、あのザマ?このザマ?ハハハハハハハッ!分かったかしら!その、腐りきった脳で、理解できたかしら!お前の愛なんて、そんなものだったのよ?ブザマね!」
 俺を嘲笑する、この女を、俺は何よりも醜いと思った。汚らしい、女だ。
「お前、何を笑っているんだ?……いや、当ててやるよ。お前は、俺の父親が好きだったな、だが、碇ゲンドウは、碇ユイが好きだったな、愛していたな、お前は裏切られたな、俺は、裏切られた、中身は全然違うが、お前と同じように。その俺を見て、お前は、快感だったんだろ?」
赤木リツコは、また笑い出した。
「アンタにも、あの男の血は流れているのよ!バカの血がね!ハハハハハ―――」
俺は、もう一度拳銃を撃った。この汚らしい女は、まだ生きていた。
「赤木、リツコ博士。本当に―――お前は、気持ち悪い。吐き気がする」
 女は、顔を笑って歪めながら、死んだ。それでも、俺の怒りは、収まらなかった。俺は、女の死体の上に、吐いた。




 俺は、口に残る気持ちの悪い嘔吐物を洗面所でうがいして取り除き、すぐに司令塔に向かった。そこで、俺は、泣きながら言った。
「リ、リツコさんが・・・・・!UNの奴らに!僕を、守ろうとして!」
 そのすぐ後、冬月コウゾウが指令室で、銃殺されている現場を、SPが発見した。
 ネルフ職員は憤り、彼らはUNの仕業だと、完全に信じた。俺は、加持さんからの伝言だと言って、職員にUNに連絡を取らせ、マスコミにも情報を提供させた。俺は、必死に笑い出しそうなのを我慢していた。こんな嘘でも、弱虫に対しては、真実となるのだ。どれほどの嘘が、歴史を作り上げてきたのだろう?今の場合の嘘は、言ったのが早いもん勝ちだ。そして騙されている弱虫たちは、滑稽だ。こんなに面白いものはない。




 ネルフの報告に、UNは何のことかさっぱり分からない様子だった。そして奴らは、何が起こっているのかも、あまり理解できていなそうだった。しかし、その振る舞いは、ネルフの職員にとぼけているように聞こえた。ネルフは、ネルフ司令、冬月コウゾウ氏、ネルフ副司令、赤木リツコ博士がUNのスパイによって殺された、とあらゆるマスコミに広めた。それと同時に、この前のネルフの軍備拡張はフォースインパクトを企んでいた、秘密結社ゼーレを解散させるためだった、と公表した。その後ネルフは積極的平和主義を掲げ、軍事力を放棄し、大不況での難民の支援を余った予算でしている、と。また、UNは、秘密結社ゼーレとも関わりが強く、今回の暗殺は、その報復によるものと推測される、とも。
 世間はネルフを支持し、UNを非難した。ネルフは英雄視され、その英雄を、悪の秘密結社ゼーレという仲間の報復攻撃しようとしているUNを信用する者はいなかった。そして、UNは、ネルフ本部に攻撃を仕掛けてきた……。




 ネルフの防御は、赤木リツコたちによってほとんどないようなものにされていたのだったが、MAGIによりUNの攻撃を察知した俺たちは、各国や、松代のネルフ支部に要請した。結果的に、ネルフ本部の人間が、戦闘に加わることはなかった。赤木リツコがいなければ、伊吹マヤも地下の、俺たちが騙されて閉じ込められていた、あの部屋に監禁しているから、あまり順調にはいかなかったが、問題は起こらなかった。松代支部がUNの攻撃を食い止めていると、中国支部や、ロシアからの援軍が到着し、UNの戦闘員たちは捕虜となった。俺は捕虜の全員殺害を提案したが、各国の支部が認めなかったため、それは出来なかった。それは、そいつらが気弱だからだ。奴らは世界をフォースインパクトの危機から救った俺たちを攻撃したんだぞ?……それに、サードインパクトの危機から、たった1人で救おうとした、勇敢な少女も、奴らは殺した。チクショウ。俺はずっと戦闘を指令室から眺めていたが、何も感じなかった。爆発が起こっても、建物が揺れても、俺はゆったりと椅子に腰かけ、その様子を見ていた。
 その戦闘中に、俺と加持さんは、話し合った。
「これでやっと、俺たちの目標が達成されるな」加持さんが言った。
「はい。長かった……。加持さん、本当に、ありがとうございます」
「いやいや、礼には及ばないよ。君と俺は、目標を共有しているんだからな。……それにしても、よくあんなことを思いついたな」
「たまたま、体が勝手に動いたことが、良い方に転んだだけです」
 俺は、少し照れた。加持さんは、弱虫でなければ、俺の理想だからだ。
「慌てて冬月元指令を殺させたよ。もちろん、監視カメラもちゃんと処理した。元指令たちが、弱腰の積極的平和主義を唱えていたのを上手く利用してる。弱虫たちは、自分に支援してくれる人を信頼する。弱虫の特性をよく理解しているよ」
「そんなことより、今度はUN本部への攻撃です」
「そうだな、まぁ、パッと思いついたんだが、隕石の落下、でいいんじゃないか?セカンドインパクトと同じで」
「爆弾が、隕石になるわけですね?」
「そうだ。そうしたら、インパクトだ。やらなければならないことは全てやって、最後にやりたいことをやる、これは賢い生き方だよ」
「憶えておきます」
 俺たちは、笑った。弱虫にはできない、賢い生き方を、俺はしているんだ。




 2日後、加持さんは、衛星からUN本部に、爆弾を落とした。MAGIのオリジナルと、松代のMAGI2号により全世界の電気を数秒だけ止めたのだ。その間に、何のレーダーにも捕まらない、隕石と化した爆弾は、UN本部に舞い落ちた。燃え上がるUN本部も、俺の、この怒りの物足らなさを、満たしてはくれなかった。




 その日、加持さんが何者かによって、殺された。隕石がUN本部に落ちてから、13時間後だった。この世で唯一の、弱虫でない人間が、この世で唯一の、俺の理想が、死んだ。殺された。




 その10分後、俺は、地下に向かった。加持さんを喪った心細さは、計り知れない。俺は、加持さんには申し訳ないが、一人でインパクトを起こすことにした。それは、加持さんに言われていたことでもあったのだ。万が一、俺が死んだらどんな状況でも、インパクトを起こせ、そして、俺の代わりにミサトとアスカに会ってくれ。そう、言われていた。俺は、加持さんが、可哀想でならなかった。あともう少し生きていれば、目標を達成できたのに。俺は、加持さんの遺体に向かって感謝を述べてから、地下に、走って、向かっている。




 綾波レイと、カヲル君は、昼ご飯を食べていた。カヲル君が、ガラスの先の部屋に入って、ベッドの上に座っている綾波レイに、お粥を食べさせていた。
「どうしたんだい、シンジ君」
カヲル君は、切らした息を整えている俺に、その落ち着いた声で言った。俺は、渚カヲルに苛立ちを憶えた。
「フォース、インパクトを、起こして」
 膝に手を当て、息を整える俺を、渚カヲルはジッ、と見ていた。「僕たちは」彼は言った。
「僕たちは、君がしてきたことを、全て知っている。リリスは、本当は、君がそんな風に変わってしまって、こんな状態になってしまったんだよ。それに、ここが老人たちやUNに攻撃されなかったのも彼女のおかげだ。リリスは最後の残された力を使って、ここを、君を、守ったんだ」
「知るか。そんなこと。事の発端は、そこにいるリリスがしたミスのせいで、俺はこうなったんだ―――ちょっと待てよ。リリスは最後に残された力を使ってここを守ったって言ったな。リリス。お前、アスカを助けることができたんじゃないのか……?いや、それ以前に、アスカのあの戦闘に関する記憶を消すことができたんじゃないのか……?」
 リリスは、俺がリリスと言うと、下げていた顔を上げ、俺を見た。綾波レイの姿をしたリリスは、俺から目を逸らさなかった。俺も逸らさなかった……失望していたが。
「ええ。出来たわ。でも、そんなことをしたら、碇君の中から私が消えてしまう。セカンドだけを碇君は大事にする。だから、できなかった」
「……ふざけるな」
 我慢しなければならないと、よく分かっている。今、ここで、ここまで来て、リリスやアダムの機嫌を損ねたら、俺は最悪の状態に陥るだろう。だが、体の奥からこみあげてくる、この目の前の人類の母であるリリスという人間以外の生物に対する、限りのない憎悪があふれてしまいそうだ。
「ふざけるなよ……?いいか!ふざけるなよ!!」
 俺は言った。もちろん、リリスへの怒りが大半だが、リリスに頼らなければアスカに会うことができないなんていう、情けない自分にも腹が立った。
「ごめんなさい。だから、碇君がそうしたいなら、私はやるわ」
 リリスの言葉に、俺は少しだけ安堵した。
「まぁ、リリスが言うなら、僕もいいよ。僕は別にリリンがどうなってもいいしね。シンジ君は、変わってしまったし。何も、僕の興味を引き立てるものはない。でもね、シンジ君。君は、リリンを殺すんだよ?良いんだね?」
「当り前だよ。俺は、アスカに会うんだ」
「……シンジ君は、もういない。なら、シンジ君に似た姿の、君に協力してみよう」
 渚カヲルの姿をした、アダムが言った。




 俺たちは手を繋ぎ、円を作った。アダムとリリスは目を瞑った。すると、白い空間が、俺たちを中心に、広がっていった。俺たちは、ゆっくりと上昇し始めた。天井に体をぶつけることはなかった。俺たちは、急に加速し、あっという間に地上へ出て、雲の上まで来た。俺は、眩しさに、目を細めた。白い空間が、地球を満たす。俺は、神と同化しているのだ。アスカ……やっと会えるよ。
 俺たちは、回転し始めた。それはその間に、アダムとリリスが融合しているのを見た。2人の片手を握っていたはずが、俺は1人の両手を握っていた。そいつは、綾波レイの姿をしていた。綾波レイは、俺の手を離したが、俺が落ちることはなかった。綾波レイは急に巨大化し、彼女の手の上で、俺は浮かんでいた。綾波レイはが手を動かすと、俺も浮きながら動いた。綾波レイは、俺を、彼女のへその下辺りに、入れた。




「違う。私の欲しかった碇君は、こんなのじゃない」
 真っ白な空間に、俺はいた。そこには、俺しかいないのに、綾波レイの声は聞こえてきた。俺は不思議と、安らかな気持ちになった。
「君こそ違う。俺は、何も変わっていない。俺は、碇シンジだ。碇ユイが、六分儀ゲンドウと結婚し、俺ができた。そのときから、俺は、何も変わっていない。俺は俺だ。例え俺が人を殺したり、殺さなかったりしても、俺は俺だ。例え俺がアスカと出会わなくても、出会っても、俺は俺だ。お前は、お前の中の碇シンジを勘違いしてインプットしていたんだよ。本当の碇シンジは、これだよ」
 俺は、柔らかい声で言った。声は、どこまでも響く気がした。
「私は、あなたなんか、知らない」
「止めるのか?フォースインパクトを」
「そう」
「何故だ?」
「あなたは、碇君じゃないから」
「お前にとっての、希望じゃないからだな?」
「そう」
「俺にとっての希望は、お前たちなんだけどな」
「でも、ダメ」
「そうかな?」
「そう」
「…………………ふざけるな」
 俺の声はもう、柔らかくなかった。心はもう、安らかなんかじゃなかった。
「お前が、アスカに関しての記憶を消していれば!アスカは死ななかったんだぞ!お前にとっての碇シンジは変わらなかったんだぞ!お前が、アスカを殺した!俺は、お前が一番憎い!」
 俺は、泣いた。失望しながら。
「さよなら」
「やめろ!なんでお前は、俺からアスカを奪うんだ!」
 返事は、なかった。俺は、後ろから衝撃を受け、転んだ。俺は、その方を見ると、アスカがいた。プラグスーツに、包帯をしている。
「アスカ!」
「アンタ、誰?うるさいんだけど」
「……!!アスカ!僕だよ!シンジだよ!」
 俺は、何故か失望した。なんでだ?アスカはここにいるんだぞ?
「シンジ?シンジは、あそこにいるじゃない」
 アスカが指さした先には、制服姿の碇シンジが、いた。
 アスカが指を鳴らすと、俺のまわりには、テレビのような、長方形の箱が無数に現れ、その各々の中では、各々のアスカと碇シンジが食事していた。分かりやすく言えば、電化製品店のテレビのコーナーでいくつものテレビが映像を映しているが、その映像がちょっとずつ違っているかんじだ。どのアスカも碇シンジも、少しずつ違っていたり、大きく違っている。知らない場所だ。台所があるから、きっと彼らの家だろう。そのアスカは、碇シンジと笑って喋っていた。碇シンジも、笑っていた。いつの間にか、アスカがみんな、俺を見てニヤニヤ笑っていた。
「違う……。お前たちはアスカじゃない……。アイツらも、俺じゃない……。リリス!アダム!お前たちが見せているんだろ!?」
「何言ってんのよ、さっさとどこか行きなさいよ、ここは、アタシとシンジの楽園なんだから」
「ありえたかもしれない、未来」綾波レイの声が、聞こえた。
 目の前のアスカと、テレビのようなものの中のアスカたちは、それぞれの、碇シンジに駆け寄り、2人はきつく抱き合ってキスをした。碇シンジがもっときつくアスカを抱きしめると、アスカは甘えたような声をした。
 俺は、どこか遠くへ何者かによって連れて行かれた。
 最後に俺がそこで見たのは、大人びたアスカが赤ん坊を抱き、母乳を与え、大人びた碇シンジがその横で2人を見て微笑んでいる、という俺の夢だった。































 僕は、確かに少女と会っていた。僕は確かに、その少女が好きだ。少女は、きれいだった。あの娘は、いったい誰だったんだろう?もう、会えないのかな?
「じゃあ、12番を、碇君」
 僕は、社会の先生に当てられた。
「あ、はい。……えーっと、飛鳥、…………」
「正解だ」教師は言った。
 アスカ?俺は、何故か失望した。何かに対して、何故か失望した。胸に残留する、濃いモヤは、以前感じたことのあるものだった。その後、俺は、どす黒い憎しみの波に流された。手に握ったシャープペンシルをへし折りたくなった。机を、思い切り殴りたくなった。
「ねぇ、碇君。消しゴム、余分にもってない?忘れちゃったんだ」隣の席の女の子が、訊いてきた。
「いいよ………あれ?おかしいな。いつも俺は2個持っているのに、1個だけだ……ゴメン、ないや。でも、一緒に使う?」
「うん。ありがとう」彼女は、笑った。「それにしても、碇君って一人称、俺、だったのね。なんか、そういう感じしなかったわ」
 俺?俺はいつから俺だっけ?
 俺は、目を外に向けた。蝉は鳴き、雲と、風と、時間がゆっくり流れる。外の明るさについていけなくて、教室の中は暗い。
「あれは、入道雲だね。もうすぐ、大雨が降るわ」隣の席の女の子は言った。「あたし、入道雲って好きよ。なんか、未来って感じがするなぁ。今のこののどかな晴れた天気とあの雲から降り落ちた雨粒は、過去よね。そして、激しい雨が降るのは、現在よ。その後、あんなに怒っていたのに、最後の最後に見せてくれる虹は、未来なのよ」
 俺は、「アスカ」と呟いた。鼻の、喉のちょうど真上辺りに残る、アスカと共に自分が失っていた自分に、俺は、また失望した。入道雲は、俺が忘れさせられていた、アスカとキスを交わす前に見た彼女の瞳の奥の、歪な円にそっくりだった。
「呼んだ?」
 俺は、ハッとして、隣の席の無邪気な女の子を見た。
 僕は、「アスカ」と言うのが好きになった。






The End.













2度目のあとがき(言い訳&謝罪)


 ここまで読んでくださった方がどれだけいるのか……。
 気分が悪くなった方、本当にごめんなさい。
 これでおしまいです。書きたいことは書き尽しました。  シンジ一人称なので書くことができず、何故最後にシンジが蘇生したのかよく分からないかもしれません。この場で説明させていただくと、このお話の中のレイはシンジを恋愛の意味の好きです。でも、シンジはアスカばかりを追い求めてしまい、フォースインパクトを起こすほどにまでなってしまいました。彼女は、シンジを無理矢理自分が好きになるようにすることもできましたが、シンジが好きだからこそ、また、アスカの戦自との戦闘に関する記憶を消さなかった罪悪感から、彼女はアダムと融合し、力を得て地球を元の姿に戻し、シンジを蘇生させ、彼が求め続けた「アスカ」とめぐり合わせたのです。
 友人にこの話を見せ、この説明をすると、「これはシンジがアスカを大好きっていうお話なの?それともレイがシンジを大好きっていうお話なの?」と言われてしまいました。僕的にはLASを書いたつもりだったのですが……。
 怪作さま。そして最後まで読んでいただいた方。本当に、ありがとうございます。




2014/04/19 終人.