社員旅行で伊香保(群馬県)へ行くことになった。社員旅行といっても夕方現地集合、宴会をして翌朝現地解散で、行き方・帰り方は自由。私は同僚のためにはJRの時刻を調べて資料を作ったりしたのだが、さて自分ではどう行くか、どこへ寄ろうかいろいろ迷った。旅のおもしろさは、まずこの計画で迷うところである。
地図を見てしばし思案の末、まだ乗ったことのない上毛電鉄に乗ろうと思い立った。最初、前橋側から乗って桐生から両毛線で新前橋に戻ることを考えたのだが、往復するとかなり時間のむだが多くなりそうだ。そうだ、桐生なら東武で行かれるではないか。ということは、前橋から上越線の渋川へのバスがありそうなので(伊香保は渋川からバスが便利)、
JRをまったく使わないで伊香保まで行かれるということだ。そんなわけで、行きはこの非JRコースを試みることにした。
上野で地下鉄銀座線に乗り換え、浅草に九時二〇分ごろ着、東武の急行「りょうもう7号」の切符を買う。九時四〇分発。けっこうきれいな車両だったけれど、隣にやってきた「スペーシア」を見てしまうとちょっと見劣りがする。これが帰りのコース選択の伏線となるのである。
巨体をうねらせて急カーブを切り、墨田川の上に出るときは、いつものことながら気持がいい。北千住を過ぎて複々線区間になるとようやくスピードが上がり、たちまち埼玉県に入る。複々線の延長工事や高架化工事がかなり進んでいるようだ。車内は当初約6割の乗車で、背広を着た人が多かったが、館林や足利市でかなり降りてガラガラになった。少々うとうとしているうちに桐生市にさしかかる。
両毛線の線路を越えるとすぐ相老(あいおい)に一一時二四分着。ここは構内の跨線橋が緑、外の跨線橋がピンクでほとんど接している。どちらでもいいから同系の色の濃い・薄いとかいうならいいのに、なんとも落ち着かないな、などと思っているうちに、わたらせ渓谷鉄道の列車が来た。こげ茶色の車両が1両で、やや地味だが、明るい色の車両のうす汚れたのよりはいい。次の駅を出ると両毛線に並行し、すぐに桐生着。
緑が多く変化のある車窓を楽しみ、川幅の割に水量の豊かな広瀬川と並行するとまもなく終着の中央前橋駅着、所要四五分余りだった。
JRの駅に行き、コンピュータによるバス案内ボードでバスの便を確かめる。渋川行きは1時間に4〜5本もあって、へたな郊外団地行きよりよほど便利である。まっすぐ行くとちょっと早いなと思っていたら、会社の先輩にばったり会い、いっしょにタクシーで萩原朔太郎の記念館に行った。広い敷島公園のかたすみに生家の一部を移築したごく小さな記念館で、所要7分、入場無料。
少し公園を散歩してから、国道一七号線のバス停まで一五分ほど歩く。一七号線は東京・文京区の起点のあたりにはなじみがあるので、これがその続きかといささかの感慨を覚える。バスは上州の空っ風のように国道をひた走り、二五分で渋川駅前着。伊香保行きが待っていたのですぐ乗り込むと、車内の半分ぐらいはうちの会社の連中で占められていた。
渋川を一〇時すぎに出、新前橋ですぐに両毛線に乗り換える。なつかしい湘南電車風の電車で関東平野を東へひた走る。座席は終始かなり埋まっていて、都市近辺では立っている人もいた。伊勢崎・桐生・佐野など古い歴史のある町には、沿線風景もどこか落ち着きがある。しつこくからんでくる東武をふりきって一一時五〇分、小山着。
一三時二五分日光線で出発。高校生でかなりの混雑だったが、次第にすいてゆく。今朝の伊香保は小雨だったが、その後晴れてきて、むし暑い。杉並木はさすがの貫禄で、雨に洗われた緑が美しい。
四〇分余りで日光着。まずは有名な風格ある駅舎を見学する。広い駅前広場はひっそりしていた。続いて東武日光駅はどこかなと思いながら東武の線路の続く方向へちょっと行ったら、あっけなく見つかった。さっそくスペーシアの指定券売場へ。「満席」の表示だったが、聞いてみたら1枚ならあるという。
時間があるが、観光地まで行くのはあわただしいので、近くを散歩する。橋を渡って川沿いの道を歩いていたら遊歩道の入り口の看板があったので、そこから森の中を歩く。気持のよい道で、昔山歩きをしていたころのことを思い出した。
駅前に戻って「コーヒー & チーズケーキ」という看板がふと気になった。ふだんは旅に出ると日中からビール専門なのだが、ちょっとセンスの良さそうな店だったので入ったところ、とても美味。ただし、おばさん旅行軍団ほぼいっぱいでにぎやかだった。
一七時三四分北千住着。地下鉄への乗換え通路の雑踏を歩くと旅の終りである。