7:15 の近鉄の賢島行き特急で出発。夜は明けたが曇っていて薄暗い。奈良県へ入ると道路が湿っていた。八木で東へ向きを変え,山越えにかかる。川沿いに黒い瓦の屋根の家が並んでいる町を見下ろしながら勾配を登る。三輪そうめんのかんばんが見える。茶畑も多いようだ。県境を越えて,名松線が目指していた名張を通過した。やがて再び山が深くなり,雨が少し強くなった。山も田畑ももやにかすんで,夢幻的な風景である。
長大な青山トンネルを含むいくつかのトンネルを抜けると,平地が広がってくる。中川の三角線を通過して,8:59
松阪着。
10:20 唯一の有人駅家城(いえき:ATOK君は当然最初は「胃液」と変換した。でも「家城」もちゃんと辞書にある)着,腕木式信号機が出迎えてくれる。上りと交換し,運転士さんが交代し,タブレットの受け渡しがあった。次の伊勢竹原を出ると勾配がかなりきつくなる。ただし,人家はかなりたくさんあって,それほど山の中という感じはしない。茶畑がかなりある。周りの山は緑の濃い杉林に覆われているが,ところどころにある明るい緑色の部分は竹林で,それがもやの中で墨絵のような濃淡となっている。
伊勢八知が美杉村の中心駅らしい。かなりの下車客があって,残ったのは2人。駅を出てすぐの貯木場に杉の丸太がたくさん並んでいた。
伊勢八知を出ると少しの間本格的に山の中という雰囲気になり,かなり細く急になった川の縁をゆっくり登っていく。再び人家が見えると比津,運転士さんが切符の回収にきた。10:56
終点伊勢奥津(いせおきつ)着。
折り返すまで30分ある。赤く錆びた古い給水塔が駅を見下ろしている。駅前では名松線の名前の由来となった名張へ行くバスが待っていて,乗客2人を乗せて発車していった。1日3本のうちの2本目である。ほかに村営バスの路線がいくつかあるらしい。
雨が少し強くなった。駅にかさが何本かあったので,1本借りて少し歩く。古い街道だったことを思わせる道沿いに,杉を豊富に使った家が並んでいる。造り酒屋があって,「平成10年度新酒鑑評会金賞受賞」という看板が誇らしげに掲げられていた。
駅には「名松線物語 No.6」と題したノートが置かれていて,訪れた人が自由に書き込めるようになっていた。鉄道ファンが置いたもののようで,記入者はやはり「乗りにきた」人が多いようだった。
来たときと同じ車両に,同じ運転士さんと乗客を4人乗せて,11:29 伊勢奥津発。乗客の一人は女子高生で,すね毛の手入れに余念がない。ゆれる車内でカミソリを使って大丈夫かなと心配になった。
帰りも家城で交換,こんどはのんびり6分止まった。駅員さんが昔ながらの転轍機を動かしていた。
ホームは切り欠き型になっていて,入れ替わりに各駅停車が発車していった。こじんまりしたJRの出口を出たが何もなく,冷たい雨がさっきより強く降っている。近鉄の駅へ回り,おみやげを少し買って,あわただしく14:12
の近鉄の名古屋行きの特急に乗った。グループ客でかなり混雑していて,私の席はビスタカーの1階の階段に向き合った落ち着かない席だった。雨はまだやまない。