名松線・参宮線雨の中

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 (出張に持っていたノートパソコンで,車内でリアルタイム入力したものです。)
(1)近鉄で松阪へ
 1月のある日曜日,まだ暗いうちにホテルを出た。早めに京都駅へ行って朝食を,と思ったのだが,八条口側の店はどこも開店準備中だったので,しかたなく近鉄の改札を入って,売店でサンドイッチを買った。
 これまで,関西出張の帰りにいろいろな線に乗った。今日はJR名松線と参宮線を訪ねてみようと思う。名松線は三重県の松阪から出る行き止まりの線で,列車は1日8往復,非常に地味な存在である。NiftyServe の鉄道関係のフォーラムを検索してみたが,乗車記はごく少なく,家城駅の腕木式信号機についての発言がいくつかあった。

 7:15 の近鉄の賢島行き特急で出発。夜は明けたが曇っていて薄暗い。奈良県へ入ると道路が湿っていた。八木で東へ向きを変え,山越えにかかる。川沿いに黒い瓦の屋根の家が並んでいる町を見下ろしながら勾配を登る。三輪そうめんのかんばんが見える。茶畑も多いようだ。県境を越えて,名松線が目指していた名張を通過した。やがて再び山が深くなり,雨が少し強くなった。山も田畑ももやにかすんで,夢幻的な風景である。
 長大な青山トンネルを含むいくつかのトンネルを抜けると,平地が広がってくる。中川の三角線を通過して,8:59 松阪着。
 

(2)名松線往復
 雨は,かさなしでも歩ける程度だった。駅前広場に駅鈴のモニュメントがあった。後でここで昼食となるが,30分では松阪牛というわけにはいかないようだ。
 駅にもどって,名松線のホームへ行くと,2両のディーゼルを1両ずつに分割しているところだった。一方が伊勢市行きとなって9:33 に発車していった。それに背を向けるようにして,名松線は9:43 に北へ向かって発車した。6つのボックスのうち5つに乗客が一人ずつ座っている。
 しばらく紀勢本線と平行し,田んぼの中で左へ分かれる。田んぼの間に新しい住宅がけっこうある。やがて少しずつ山が近づき,登り勾配になってゆく。最初からの乗客は平均年齢が高く,どうやら私が最年少のようだったが,途中で高校生・中学生が乗ってきて,平均年齢は一気に下がった。小さなサミットの短いトンネルをくぐると,雲出(くもづ)川が寄り添ってきて,再び田園地帯となる。雨はまだ降っているが,空はだいぶ明るくなった。

 10:20 唯一の有人駅家城(いえき:ATOK君は当然最初は「胃液」と変換した。でも「家城」もちゃんと辞書にある)着,腕木式信号機が出迎えてくれる。上りと交換し,運転士さんが交代し,タブレットの受け渡しがあった。次の伊勢竹原を出ると勾配がかなりきつくなる。ただし,人家はかなりたくさんあって,それほど山の中という感じはしない。茶畑がかなりある。周りの山は緑の濃い杉林に覆われているが,ところどころにある明るい緑色の部分は竹林で,それがもやの中で墨絵のような濃淡となっている。
 伊勢八知が美杉村の中心駅らしい。かなりの下車客があって,残ったのは2人。駅を出てすぐの貯木場に杉の丸太がたくさん並んでいた。
 伊勢八知を出ると少しの間本格的に山の中という雰囲気になり,かなり細く急になった川の縁をゆっくり登っていく。再び人家が見えると比津,運転士さんが切符の回収にきた。10:56 終点伊勢奥津(いせおきつ)着。

 折り返すまで30分ある。赤く錆びた古い給水塔が駅を見下ろしている。駅前では名松線の名前の由来となった名張へ行くバスが待っていて,乗客2人を乗せて発車していった。1日3本のうちの2本目である。ほかに村営バスの路線がいくつかあるらしい。
 雨が少し強くなった。駅にかさが何本かあったので,1本借りて少し歩く。古い街道だったことを思わせる道沿いに,杉を豊富に使った家が並んでいる。造り酒屋があって,「平成10年度新酒鑑評会金賞受賞」という看板が誇らしげに掲げられていた。
 駅には「名松線物語 No.6」と題したノートが置かれていて,訪れた人が自由に書き込めるようになっていた。鉄道ファンが置いたもののようで,記入者はやはり「乗りにきた」人が多いようだった。

 来たときと同じ車両に,同じ運転士さんと乗客を4人乗せて,11:29 伊勢奥津発。乗客の一人は女子高生で,すね毛の手入れに余念がない。ゆれる車内でカミソリを使って大丈夫かなと心配になった。
 帰りも家城で交換,こんどはのんびり6分止まった。駅員さんが昔ながらの転轍機を動かしていた。
 

(3)参宮線
 12:46 松阪着。次に乗る参宮線が出るまで持ち時間は33分である。さっき目を付けておいた松阪牛のレストランへ一応行ってみたが,ちゃんとした料理はやはり値が張る。こういうのはゆったり食べられるときにしよう。駅へもどり,牛肉弁当を買って,ホームの待合室で食べた。牛肉はまあまあボリュームもあり,おいしかったが,たれが甘すぎた。
 快速「みえ」は,近鉄の特急と並んでやってきた。2両編成の転換クロスシートの車両で,名松線の出るホームの反対側から 13:19 発。紀勢本線を走り,多気で参宮線に入る。ほとんど起伏のない線路を快走し,宮川駅そばの森を見,宮川を渡って,伊勢市では52分も前に津を出た各駅停車に追いつく(この各駅停車は伊勢市に29分も停車する。今時,こんな長時間停車は珍しいのでは?)。やがて海が左に見えてきたなと思ったら,近鉄の線路がまた現れて並行し,終点の鳥羽には13:52に着いた。

 ホームは切り欠き型になっていて,入れ替わりに各駅停車が発車していった。こじんまりしたJRの出口を出たが何もなく,冷たい雨がさっきより強く降っている。近鉄の駅へ回り,おみやげを少し買って,あわただしく14:12 の近鉄の名古屋行きの特急に乗った。グループ客でかなり混雑していて,私の席はビスタカーの1階の階段に向き合った落ち着かない席だった。雨はまだやまない。
 

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