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(1)

 九州へ(東京から)出張することになった。日曜日(1月18日)の夜に大分に着けばよいから,その前に少しどこかへ行ってみようと思い立った。
 思い浮かべたのは門司港の駅舎である。日光,奈良,旧二条,旧出雲大社,浜寺公園など,いろいろな機会に有名な古い駅舎を見てきたが,残っているいちばんの大物は重要文化財である門司港である。大分までは小倉から遠くないので,好都合だ。
 しかし,その後時刻表を見ていたら,久大本線経由の「ゆふいんの森3号」がちょうど1月18日までの運転ということになっている。これも何かの縁かと思い,予約した。


(2)

 九州までは 500系「のぞみ」でということも考えたが,ここは穏当に(?) 飛行機ということにし,早朝割引(4割)のある6時台の便で福岡へ飛んで8:30に着いた。福岡空港では,大きな虹が出迎えてくれた。 ゆふいんの森が博多を出るのは14:45だから,門司港駅を見るだけならそれほど急ぐ必要はない。ちょっと迷ったすえ,海の中道をいく香椎線に乗ってみようと思い,そこまでは西鉄宮地岳線でアプローチすることにした。
 地下鉄の福岡空港駅を発車したのが8:50,中津川端で乗り換えて終点貝塚で西鉄に乗り換え,9:14発。2両のワンマン運転である。小雨が降っているが,気温はそれほど寒くない。路線図だけ見ていたときはよくわからなかったが,途中まではJRとまったく並行していて,「さくら」とすれ違ったりもした。単線で,ほぼ各駅に交換設備があるが,実際に交換したのは香椎と唐の原(とうのばる)でだった。(その2,3日後,九州の地方紙に,地下鉄が単線のままで宮地岳線へ乗り入るという話が出ていた。)

 9:30ごろ,香椎線との接続駅和白(わじろ)で下車。西鉄の駅ではおばさん駅員が1人でがんばっていたが,JR駅は無人だった。まもなく,雨の中を鮮やかな赤の1両のディーゼルがやってきて,9:41発。整理券は発行していなかった。車内には路線図もなく,色鮮やかな外観に反して殺風景である。すぐ西鉄の下をくぐって半島へ向かう。
 左側はところどころで博多湾が見えていたが,雁ノ巣で交換した後,右にも海が見えてくる。細い半島ならではの風景である。海の中道の手前の信号所で4分停車してまた交換した。海の中道を過ぎると左側のすぐ下が海となり,10時ちょうどに終点西戸崎(さいとざき)着。リゾート地の玄関らしい雰囲気の海の中道と違って,西戸崎はふつうのさびしい終着駅だった。小さな駅舎は新しく,小ぎれいに作られていた。

 折り返して10:09発。帰りもまた信号所で止まって交換があって,10:32香椎着。すぐ,10:37の鹿児島線快速で小倉へ向かう。朝早かったのに,朝食は機内の軽食(小さなサンドイッチ)だけだったので何か食べたいと思ったが,接続が良すぎて食べられない。クロスシートの快適な車両はかなり混んでいて,最初は座れなかった。重い雲の下を疾走し,11:30小倉着,急いで11:32の電車に乗り換え,11:46門司港に着いた。


(3)

 頭端式のホームに降り立ち,0哩標などを見てから改札を出る。頭上に重厚な高い天井が広がる。切符賣場という旧漢字表記がある。門司はレトロの町として売り出し中で,いろいろな観光チラシが用意してあった。
 まずは昼飯,ということで,チラシを参考に,雨の中を,いちばん飲食店のありそうな商店街へ行ってみたが,日曜で休みのところが多い。大衆的なすし屋兼そば屋に入ったが,味についてはあまり正解とはいえなかった。しかしまあ東京よりはるかに安いことは確かだ。

 食事を終えると雨はほぼ上がっていた。港と対岸の下関を眺め,レトロな建物のいくつかを見て駅へ戻る。門司港の駅舎は,写真で見ていたときにはよくわからなかったが,淡いピンク色が美しい。大正3年の建築だというから,東京駅と同じころだ。2階のホールには,門司港駅の昔の写真が展示してあった。貴賓室などをのぞいているうちに時間となり,13:42発,小倉から1駅新幹線に乗って14:25博多着。

(4)

 博多の在来線ホームは玄界灘から吹く風でかなり寒かった。待つことしばし,14:35ごろ,4両編成のゆふいんの森が入線になる。ゆふいんレディの出迎えを受けて乗車,14:45発。最初はすいていたが,久留米で強力なおばさん軍団約15名その他が乗ってきてかなりうまった。ゆふいんレディは4人も乗っていて,駅ではドアをひとつずつ担当しているらしい。
 1号車の展望ラウンジにビュッフェがある。混んでいたけれどなんとか確保した最前列で,さえぎるもののない景色を見ながら地ビールを飲むのは,小さな極楽気分である。その後まもなく地ビールは売り切れたようで,山の中に入る前に来たのは正解だった。

 途中から筑後川と並行し,しだいに山深くなる。真冬でも田の草が青いのはやはり九州ならではのことだろう。天気はかなり回復した。やがてU字型になった線路の底の部分にある由布院駅着。さきほどのおばさん軍団も下車して,車内は静かになる。外を見ると,隣の線路に,久留米行きと大分行きのまっ黄色の各駅停車が背中合わせに止まっていて,その向こうに上りのゆふいんの森がいるという,おもしろい光景がみられた。
 大分へ向かって下っていくあたりは,谷を見下ろすような位置に線路があって,なかなか雄大な風景である。やがて完全に平地になり,薄暗くなって,17:37大分に着いた。

 会社の関係者がとってくれたビジネスホテルでは,うれしいことに部屋で温泉に入れるようになっていた。晩飯は,昼のリターンマッチで,うまいすしを食べた。

 

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