Farmer Giles of Ham [50th Anniversary Edition]

最終更新日: 2005.3/2

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書名 Farmer Giles of Ham [50th Anniversary Edition]
著者J.R.R. Tolkien
編者Christina Scull and Wayne G. Hammond
装画・挿絵Paulin Baynes
出版 Houghton Mifflin
ISBN0-618-00936-1
価格$17
エディションハードカバー
書影 Farmer Giles of Ham [50th Anniversary Edition]
目次 (Contents)
  • Introduction ・ iii
  • Foreword ・ 7
  • Farmer Giles of Ham ・ 9
  • The First (Manuscript) Version of the Story・ 81
  • The Sequel ・ 101
  • Notes ・ 105
関連リンク

(本書の入手日: 2004.5/16)

"Farmer Giles of Ham" は、 短編あるいは中篇と呼ぶべき長さの物語で、 ハム村の農夫ジャイルズが、 巨人や竜に挑んだり傲慢な王様をやり込めたりするのが、 ユーモアーたっぷりで痛快に語られ、 散りばめられた言語・地理・歴史に関する遊びも愉快な、お話しです。

本書は、Christina Scull and Wayne G.Hammond 編集による、 "Farmer Giles of Ham"出版50周年記念版です。 詳しくは後述しますが、 本編とポーリン・ベインズ(Paulin Baynes)による「挿絵」以外に、 編者による「序文」と「注釈」、「初期稿」、冒頭と概要だけ書かれて未完の「続編」、 ポーリン・ベインズによる「the Little Kingdom(小王国)の地図」といった、 貴重で興味深い内容も収録されています。

"Farmer Giles of Ham"(農夫ジャイルズの冒険)本編を既読の方でも、 この物語が好きな人には、 本書は強くお奨めできますし、 そうではなかった人も、本書を読めば、この物語の面白さを、 新たに発見できるかもしれませんよ。

僕が所有しているのは、米国 Houghton Mifflin のハードカバー版です。 英国 HarperCollins からは、 Houghton Mifflin ハードカバー版と同等品かもしれないハードカバー版と、 廉価なペーパーバック版が出版されています(関連リンク欄参照)。


以下、各収録内容の紹介。

・Paulin Baynesの表紙絵
Introduction p.X によると、1976年版のときに描かれたカバーの絵が使われているようです。
・『Map of the Little Kingdom』
Paulin Baynes による、The Little Kingdom(小王国)の地図です。 本書、50th Anniversary 用に 贈られたものだそうです。色はついていませんが、 ベインズさんらしく小さな絵による装飾がほどこされていて、 小王国の地図らしい1頁に収まったかわいらしく、 見てて楽しい地図です。 現代のオックスフォード周辺の地図と比較してみるのも面白いかも。
・『Introduction』
編者による序文で、11頁あります。Farmer Giles of Ham の成立過程と背景の詳細や、 出版までの紆余曲折、 本書に掲載されている内容の解説など、面白いことがいろいろ書かれていて、 読み応えあります。 例えば、トールキンの長男ジョンの記憶によれば、この物語が最初に話されたのは、 トールキンが家族でピクニックにでかけたおりに豪雨にあい、橋の下で雨宿りを しているときだったという興味深いエピソードが書かれていたり。
・『Foreword / Farmer Giles of Ham』
本編です。 Paulin Baynes による挿絵も含めて、1949年の初版の複製になっていて、 活組だけでなくページふりも初版と同一になるよう配慮されています。 挿絵は関連リンク欄の邦訳に掲載されているものと同じです。
・『The First (Manuscript) Version』
初期稿です。 ジャイルズが巨人や竜に挑んだり傲慢な王様をやり込め出世する、 中心となる話の流れは最終稿と同じですが、 長さは4分の1程度で、 エピソードやキャラクターも少なく、 犬のガームにも名前がまだありません。 この時点での語り手は Daddy になっているのが、 トールキンが自分の子供に向けて話していた物語らしさを残していますね。 お話しの締め方も、最終稿とは異なっており、 この初期稿の、Daddy によるラストの言葉がなかなか洒落ています。
・『The Sequel』
未完の続編で、3頁と短いです。 小説としては二通りの冒頭部分だけ書かれて中断していますが、 その後の話しの構想もトールキンは残していて、それらが掲載されています。 本編の Foreword でも少し触れられている、 ジャイルズの息子の王子 Georgius(George)と、 page(小姓、騎士見習いといった意味)の Suet が活躍する話しで、 黄金竜 Chrysophylax も登場します。 冒頭部分だけで唐突に中断しているとはいえ、 そのつづきも話しの流れの構想だけはあるので、結構楽しめました。 構想にある、Suet が George王子を助けるために、 黄金竜 Chrysophylax を連れ出そうとして彼と長い議論をする場面などは、 実際に書かれたらさぞかし面白い会話になったことでしょうね。
・『Notes』
編者による注釈で、23頁あります。 本書の注釈は、本文ページに注釈記号や注釈番号は振られておらず、 ここで、ページ番号と文を見出しにして、それに関する注釈が書かれています。 本文ページに注釈番号や注釈がないので、本文を、 注釈に気を取られずに読むことも可能です。本文ページ1頁あたりの活字はそれほど多くないので、 注釈番号がないことで、該当文を探しにくいということも特に感じませんでした。 注釈は、本文だけ読んでいては、気づきにくいようなことや、 元ネタを知らないと分からないことなど教えてくれますし、非常に面白いです。 例えば、トールキンらしい、古典、英国史、地名などが元になった遊びや記述について、 解説してくれます。 注釈は、ラテン語名詞での意味と遊びの解説もしてくれていて、例として、 一つおもしろかったものをあげると、 鍛治屋が「ヒラリウスとフェリクスか!どうもことばのひびきが好かん。」 (『トールキン小品集』所収の邦訳より引用 p66) と言うところで、ラテン語の felix は 'happy' という意味であり、 Hilarius は 'cheerful' を意味するラテン語の hilaris に繋がる、 ということを注釈は教えてくれるので、悲観的な言動を繰り返す、 陰気な性格の鍛治屋が好まない理由がよく分かります。

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