|
その夜いんげんどじょうは、昼間みた夢の話を皆に話した。
しいのみ君が、赤々と燃える暖炉の火を見つめながら、小さな声で言った。
「なんか恐そうな夢だね。」
いちごぼっくりは床に寝転がって眠そうな声でつぶやいた。
「あんたはきっと心の奥に小さな怒りの炎をかかえているんだわ。あんたみたいな、ちょっと人生をはすにかまえた皮肉っぽい人は、大抵心のなかに漠然とした怒りのようなものをかかえているものよ。
それが時々マグマみたいに吹き出すんじゃないかなあ。その鬼神はあんたの怒りの化身みたいなものよ。
もっとも本人には怒りの自覚はあんまりないもんなのよね。」
「そうなのかなあ。僕が心の奥に怒りをかかえているなんて思ってもみなかったけど……。
言われてみるとなんかそんな気がしないでもないなあ。」
「でも小さな怒りなのになんでそんなに恐いことになるのかなあ。」
しいのみ君がきいた。
「小さな怒りだって溜め込めば大きくなるわよ。」
「怒りをかかえているなんてあんまりいいことじゃないね。」
「あら、そんなことないわよ。あんたみたいな人は、その小さな炎ぐらいは、消さない方がいいってもんよ。それまで消えちゃったら、あんたはただの木偶の坊になっちゃうわよ。いまでも十分木偶の坊だけどさ。」
「君にかかっちゃかなわないな。いまでもあの鬼神のことを思い出すと寒気がするよ。」
「もしその鬼神があんたの心の幻影でなかったらもっと恐いことになるわよ。だってそうなるとその鬼神は外界に実在することになるもの。」
「じ、実在するって何処にいるわけ?」
「そんなことわからないけど何処かにいるのよ。」
しいのみ君が心細そうにいった。
「もうやめようよ、その話。僕、今晩眠むれなくなっちゃうよ。」
|