いちごぼっくり物語

[その32]

 いちごぼっくりはある晴れた日の午後、退屈そうに一人で庭をぶらぶらしていた。ふと庭からこの大きな家を見上げた時、彼女は屋根に小さな天窓があることを発見した。
『あの窓は何かしら?あの窓の下は屋根裏よねえ。』
 さっそくいちごぼっくりは二階に上がってみた。
 はたして廊下の隅の天井には四角い扉のようなものがついていた。ちょっと危なっかしかったけれど、部屋から運んで来た小さなテーブルの上に椅子を乗せ、それに乗って背を伸ばすとなんとか扉に手が届いた。扉を開けるとやはり上には屋根裏部屋が広がっていた。いちごぼっくりは早速這い登った。
 そこはかなり広々とした部屋になっていた。天窓から淡いひかりが射していて、部屋全体がうすぼんやりとした静かな明るさにつつまれていた。何処もかしこもほこりだらけだった。光線の筋を見ると細かな塵が舞っているのが見えた。しばらくいちごぼっくりは、この誰もいないひっそりとした部屋にぼんやりと立ちつくした。
 ここはもう使われなくなった物、いらなくなった物、こわれてしまった物たちの行きつく最後の場所だった。こわれた机、椅子、鏡台、藤で出来た大きな篭、小さな箪笥、蓋のこわれた木箱などが無造作に置かれていた。机の上には小さな瓶や何かの置き物 、表紙の破れた本、そのほかこまごました物がほこりに埋もれるようにして乗っていた。いちごぼっくりはそのなかに小さな写真帳を見つけた。けれどもなかの写真は黄ばんでいて、もうほとんど何が写っているのか見分けがつかなかった。

 部屋の隅には子供用の小さなブランコが置いてあった。
 ペンキは剥げ赤錆だらけだったけれど、いちごぼっくりはそのブランコにそっと乗ってみた。
 ブランコはギッ、ギッ、と音をたてて揺れた。静かな部屋にそのブランコの揺れる音だけが響いた。彼女は目をつぶり、ブランコの揺れるままに身をまかせた。だんだん意識が遠のいていった。
 
 その時ブランコはいちごぼっくりにそのブランコが見てきた長い思い出を、セピア色の走馬灯のように見せてくれた。
 そのブランコにはとてもたくさんの子供達が乗ったようだった。やがてその子供達はこの家を去り、ほんのわずかな子供たちが戻って来た。その子供達もいなくなり、また別の子供達がブランコに乗り、また出てゆく。そしてわずかな子供が戻って来てはいなくなる。それが延々とくり返された。そして子供たちを見守るのはいつもあの女主人の変わらぬ笑顔だった。
 いちごぼっくりはその子供達のなかに自分もいることに気がついた。
『やっぱりそうだったのね。どうりでこの家には見覚えがあると思っていたわ。』



BACK  NEXT 

NO.1 

EXIT