いちごぼっくり物語

[その24]

いちごぼっくりが黄泉の国へと旅立った後、死神は畑男に言った。
「おまえの処分はあの子が帰ってからにする。ところであの子は自分の母親の事をなにか言ってなかったか。」
「いいえ、何にも。」消え入りそうな声で畑男が答えた。
「そうか…。もうさがっていい。」
そう言った死神の顔には苦悩と悔恨のしわが一本増えたようだった。

気がつくといちごぼっくりは巨大な円筒形の管の中を仰向けになってかなりのスピードで飛行していた。
いちごぼっくりが魂となって黄泉の国に旅立つ前、死神はいろいろな注意を与えていた。

『この世は時間と空間の世界だ。時間と空間はいつもセットで現れる。時間のあるところ空間があり、空間のあるところ時間がある。この物質世界独特のものだ。
黄泉の国はこの世的な時間と空間とは無縁の世界だ。永遠と無限の世界といってもいいだろう。おまえたちは『永遠』というのを時間がいつまでも続くようなことと考えているようだがそれは違う。むしろ無時間というべきだろう。『永遠』は時間とは無縁の世界だ。

お前達は『無限』をいつまでも続く空間と考えているようだがそれも違う。『無限』は空間とは無縁のものだ。
あえて言うなら多重時間、多重空間というべきだろう。同じ空間に様々な空間が同時に存在する。同じ時間に様々な時間の流れが同時に存在する世界だ。
それを移動する力は物理的な力ではなくお前達のいう想念の力だ。だから黄泉の国に入ったならば、心をしっかりと保ち、自分の目的意識をしっかりと保つことだ。
黄泉の国には北とか南とか固定した方向などありはしない。いんげんどじょうとしいのみ君を心にしっかりと描くこと。そのイメージの強さが進むべき方向の正確さと到達するスピードを決める。それがふらふらしていると別の空間や別の時間に彷徨い出てしまうだろう。』

いちごぼっくりは飛びながら考えていた。
『なんだ、これって私が時々やる幽体離脱と同じじゃん。そのうち下に足がついて歩けるようになるんだよね。おっ、そろそろ身体が立ってきた。いつもだと、ここからぶらぶら散歩気分で歩きまわるんだけど、今回はそんな呑気なことはしてられないわ。』
いちごぼっくりのまわりには古びた町並みが広がっていた。
『今回は古都に来たってわけね。いきなり部屋の中よりいいか。一旦部屋のなかに入ってしまうと、いくら扉を開けても次から次へと部屋が続くことになるのよね。でもそういう部屋のディテールを見て歩くのもなかなか楽しいんだけど。
いけない、いけない。集中しなきゃ。』

いちごぼっくりは心に、しいのみ君といんげんどじょうの姿を強く思い描いた。



 


 


BACK  NEXT 

NO.1 

EXIT