いちごぼっくり物語

[その21]

湖のほとりでキャンプをはった三人を、朝の太陽がやさしく照らした。
「少しこの湖の周りを歩いてみない。」
いちごぼっくりが提案した。
朝食の後、三人はぶらぶらと湖畔を歩き始めた。
水際まで木が生えていたり大きな石が転がっていたりと歩きにくい行程が続いた後、少し先を歩いていたいちごぼっくりが大きな声で言った。
「ここに筏があるよ。」
それは三人が載るのに丁度よい大きさの筏だった。
「ねえ、乗ってみようよ。」
「僕は筏がなくても湖には入れるけどなー。」
いんげんどじょうは思案顔。
「あんたは漕ぎ手よ。」
「あぶなくないかなー。」
しいのみ君は不安そう。
「大丈夫。さあ乗った乗った。」

こうして三人は湖の中へと漕ぎ出した。水はとても澄んでいて、深い水底を泳ぐ魚の群れまでよく見えた。水面を吹く風はひんやりして気持ちがよかった。三人は無言で、聞こえてくるのは筏を漕ぐ櫂の音だけだった。
何時の間にか朝の太陽は雲に隠れて、少しもやがかかってきた。

その時突然、そのもやの中から黒い島影が見えてきた。
「あら、何かしら。小さな島みたい。」
「なんか無気味な雰囲気だなー。」
いんげんどじょうは櫂を漕ぐのをやめた。
「もう帰ったほうがいいんじゃない。」
しいのみ君が心細そうに言った。
「なに言ってるのよ。せっかくだから上陸してみましょうよ。」

三人が言い合っていると、後ろの方から声がした。
「おおい、あんたらそこでなにしてるんだい。早くその島から離れたほうがいいぞ。」
振り返ると、かなり離れたところに一隻の船が浮かんでいる。
三人はとりあえずその船のほうに向かった。

その船には真っ黒に日焼けしたおっさんが一人乗っていた。
「よかったよ。たまたまここを通りかかって。
俺はこの湖で魚をとって暮らしている漁師だ。
いいかいあんたら、あの島には絶対近づいてはなんねえ。」
「どうして近づいちゃいけないのよ。」
いちごぼっくりは不満そう。
「あの島は死の島。別名『ベックリンの島』と呼ばれている恐ろしい島だ。昔から絶対に近づいてはなんねえと言われている。」
「どう恐ろしいのよ。」
「そ、それはおめえ、近づいた奴がいねえからわからねえよ。とにかく生きては帰れねえという話だ。」

三人は漁師のおっさんにいわれるまま、湖畔の村まで行ってみることにした。
お昼にはまだだいぶ間がある頃、三人は湖畔の小さな村に着いた。
「ベックリンだかなんだか知らないけど、行ったこともないのに恐ろしいとか決めつけるのもどうかと思うわよねえ。」
いちごぼっくりが口をとがらせて言った。
「でも村の言い伝えとか古老の話というのは、あながち根拠がないともいえないよ。」
いんげんどじょうがもっともらしく答えた。
「ねえ、この村面白そうだから歩いてみょうよ。」
しいのみ君がとりなすように言った。
「私はくたびれたからここにいるわ。あんたたち二人で行ってきたら。」

しいのみ君といんげんどじょうが出かけた後、いちごぼっくりは考えた。
『二人が行かないなら私一人で行けばいいんだわ。あの島には何か運命的なものを感じるのよね。』
こうしていちごぼっくりは一人で『死の島』に向かって筏を漕ぎ出した。

いちごぼっくりが再び島影を見た時、太陽は中点にかかろうとしていた。
筏は吸い寄せられるように島に近づいて行く。岸に着いた時、いちごぼっくりのせなかにぞわぞわするような寒気が走った。
確かにその島は一種異様な雰囲気を漂わせていた。
大きな岩で囲まれた岸辺の先は草原になっていた。その先には暗い森があり高い白亜の建物が浮き上がっていた。草や木々はたえず小さく震えていて、光と影が異様にはっきりと別れて目に痛いくらいだった。

いちごぼっくりはそろそろと島の内部に入っていった。
空気はひんやりしていたにもかかわらず、熱を帯びたようなねっとりとした重さがあった。
いちごぼっくは枯れ蔦が一面にからまった白い建物を見上げた。それはいまにも崩れてきそうな気配だった。
目の前には小さな扉がある。
『ここまで来たんだから、やっぱり中に入るしかないわよね。』
いちごぼっくりは自分に言い聞かせるようにしてゆっくり扉を開けた。

なかは壮大な空間が広がっていた。正面からではわからなかったが、かなり広い奥行きをもった建造物だった。ロマネスクの教会の内部みたいだといちごぼっくりは思った。
内部は薄暗かった。それでいちごぼっくりは、歩いて行く先に人影が立っているのを、かなり近づくまでわからなかった。
そのものは黒い服を着て後ろ向きに立っていた。細みの異様に背の高い人物に見えた。
いちごぼっくりがはっとして立ち止まった瞬間、そのものは振り向いた。




 


 


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