|
いんげんどじょうが沼のほとりに戻った時、いちごぼっくりはかんかんに怒っていた。
「まったく何時まで人を待たせる気なのよ。きっとあんたの頭の中は半分泥がつまってるのね。」
「ごめんごめん、いろいろあって。」
そういう時、しいのみ君は何時も少し困ったような顔をする。支度を済ませたいちごぼっくりはどんどん先に行ってしまった。
二人がいちごぼっくりに追い付いた時には、山道もようやく終わり、なだらかな草原が広がっていた。ぬけるような青空と緑の草原、おまけに心地よい風まで吹いている。いちごぼっくりは立ち止まっていた。
少し先に一人の男がいる。男は大きな弓を持ち、青空の一点をめがけてしきりに矢を射ている。次々に放たれる矢は、空に吸い込まれるように消えて行き落ちてこない。
三人はぽかんと口を開けたまま矢の行方を見つめていた。
いちごぼっくりが声をかけた。
「おじさん、どうして矢は落ちて来ないの。」
男はしばらく矢を放っていたが、やがてこちらを向いた。
「私が射るあの空の一点に永遠への入口がある。時々そこに矢を通してやらないと穴が塞がってしまうんだよ。その穴を通して永遠の息吹がこちらに伝わってくる。大きく深呼吸してごらん。」
三人は大きく息を吸った。なんだか心がうきうきするような気分になった。
「それって僕知ってるよ。ブラックホールっていうんだよね。」
しいのみ君がめずらしく大きな声で言った。
「ちょっと違うな。私が射ているのは、ホワイトホールだ。」
「そ、そんなものあるの。」
「あるとも。ブラックホールがある以上ホワイトホールだって必ずある。さて今日の仕事はこれくらいにしておこうかな。」
そういうと男はあっという間に三人の視界から消えていった。
その夜、三人は焚火を囲みながら昼間の男のことを考えていた。空を見上げる度にあのうきうきした気分が甦った。
満点の星空だった。
しいのみ君が言った。
「確かあの方角だったよね。あの明るいのがホワイトホールなのかなー。」
「あれはただの星よ。」
いちごぼっくりが眠そうに答えた。
|