いちごぼっくり物語

[その12]

  「壷じいさんの話」

わしを作ったのは丹後の国の陶工なんだ。わしは元々出来損ないでね。奴はわしを窯から出した時、横っ腹に大きなひびが入っているのを見て、腹を立てて投げ捨てたんだ。大抵はそこでみんなオジャンさ。しかしわしは余程強く投げられたとみえて、運良く道ばたの草薮のなかに落ちたんだ。翌日そこを通りかかった馬引きが俺を拾って町の道具屋に売っぱらった。安かったねー。馬鹿みたいな値だったよ。しかしその道具屋はなかなかのしたたか者でね。わしを汚ねえドブのような水溜りに沈めたんだ。五年程たって出てきた時は、色も黒ずんで時代がかった渋い壷に変身してた訳だ。
空飛ぶ皿と知り合ったのも確かドブのなかだったかな。そいつからはいろいろ学ばせてもらったよ。なにしろ奴は世界中を飛び回ってたからなー。

わしがさる大家の奥方の居室に収まったのは、店に並べられてからそんなに日はたってなかったな。たいそうな値だったよ。出世したもんだね。椿なんか活けられたこともあったけど、わしはその頃から歩行術の会得に励んでたんだ。夜皆が寝静まった頃、まず畳の上に転げ落ちる。そして必死になって回りを転げ回ったもんだよ。最後の頃は転がらなくても畳の上をひょいひょい移動出来るようになった。ところが飛ぶことが出来ないもんだから朝はいつも棚から落ちてる。そのつど女中が変わるので、始めは平気だったんだが、あまりにたびたび落っこちてるもんだから、これはおかしいということになった。気味悪がった奥方はわしを山の大岩でたたき割ってきなさいと、女中に言いつけた。わしは逃げようにも、頑丈な箱にしまわれて身動きも出来ない。いよいよ明日は御陀仏かと思ったその夜、なんとその家に泥棒が入った。わしは運良くそいつに盗み出されて生きのびたって訳だ。わしを盗み出した男は若いんだか年寄りなんだかわからない変な奴だったなー。逃げ出すことも出来たんだが、なんとなくそいつが気に入ったんで、一緒に諸国を彷徨ったよ。奴はよくわしをトックリ代わりにして酒を飲んでたな。おかげでわしもめっぽう酒に強くなった。この沼に辿り着いたのは旅を始めて三年もたった頃かな。たまたま小金が入ったもんだから、やっこさん酒をしこたま買い込んで沼のほとりで酒盛りをはじめたんだ。満月が中天にさしかかる頃には奴もわしもべろべろに酔っぱらってた。そのうち奴は漢詩のような変な詩を歌いながら素っ裸で踊り始めたんだ。

今宵 我 月のあまりの白さに涙す

そは 始めてかき抱きし 女人の肌の色なり

幾星霜 ただ独り 市井を彷徨い 山野を流浪す

いま我 この泉のほとりにありて故郷を偲び 遥か遠くに来るを思う

ああ この暗闇の内 ただ悔恨と寂寥に浸るのみ

わしも一緒になって踊ったもんだ。そのうちどっちが先に落っこちたのかよく覚えてないが、二人とも沼にドボンさ。酔っぱらって訳もわからずもがいているうちに泥にはまってしまった訳だよ。相棒はどうなったかねー。さっき泳いだ時、近くに骨があったけど、奴はもっと大柄だった気もするしなー。
わしはこれから飛行術をマスターして、諸国漫遊の旅に出ようと思う。
 


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