いちごぼっくり物語

[その8]

 いちごぼっくりは旅に出る決心をした。
 『いよいよ私のルーツを探る旅が始まるんだわ。それにしても手掛かりがこれだけとはねー。』
 手掛かりというのは、彼女が大きな籐の篭に入って森に捨てられていた時、胸にしっかりと抱いていたという一冊の本だった。
 タイトルは「マルガリータとゴブガリー太とその恋人アタマカーラの物語」。本は初めの「この物語はこうして始まる。」という文章のページと、終りの「めでたし、めでたし」のページしかなくて、間がまるっきり抜けていた。

 夜明け前、いちごぼっくりは「ほんの少しの荷物」と「旅への大きなあこがれ」と「森への中くらいの心残り」を抱いて家を出た。
 「そうだ。しいのみ君といんげんどじょうにメッセージを残していこう。」
 彼女は二人に残す言葉を考えながら、だんだん明るくなってゆく森を歩いていった。

 彼女がちょうど森の出口の大岩にさしかかった時だった。
 なんと目の前には、ばかでかい帽子をかぶり、長い杖を持ったしいのみ君と、山のような荷物を背負ったいんげんどじょうが立っているではないか。
 「あっ、あんたたち一体……。」
 「えー!」
 しいのみ君のどんぐり眼がいっぱいに開いた。
 「ふむー。」
 いんげんどじょうが低く唸った。
 
 しばらくの沈黙の後、いちごぼっくりが言った。
 「これはくされ縁と言う奴ね。いんげんどじょう、あんたが旅に出るというのは大体察しがつくわ。傷心旅行というやつね。」
 いんげんどじょうは再び「ふむー」と唸った。
 「それにしてもしいのみ君はどうして?」
 「僕、急に海が見たくなったんだ。」
 「はあー。海ねー。まあいいわ。こうなったら一緒に旅をしましょう。そのかわり私が隊長よ。」
 「何がそのかわりなんだか……。」
 いんげんどじょうが小さくつぶやいた時、東の空に昇ったお日さまが三人を照らした。
 
 こうして旅が始まった。


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