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『新・忍伝』とは 『新・忍伝』は1995年6月にセガサターンで発売された。1994年11月の本体発売から約半年後に発売された、セガサターン初期のソフトである。ゲーム自体は伝統的な横スクロールアクションだが、本作最大の特徴はキャラクターのアクションや背景グラフィックに、当時流行していた実写取り込みを使用している点だ。さらにCDロムの大容量を生かし、ステージの間には実写ムービーによるストーリーシーンが挿入される。これにより、一連の『忍』シリーズとはまったく印象が異なる作品となっている。 ストーリーも一新され、シリーズで初めて、ジョー・ムサシの家系とは異なる主人公が描かれる。物語の中心となるのは、究極の武術「忍道」の創始者・鉄斎の下で忍として育てられた2人の兄弟、ショウとカズマだ。闇の組織「ガルゾ」の首領となった兄カズマは、忍道最終奥義を得るため、鉄斎の一人娘・アヤをさらう。忍道継承者となったショウは兄を倒し、アヤを救い出すため、カズマを追う。 もともと『忍』シリーズは奇妙な世界観が特徴だが、その中でも実写取り込みを使用した『新・忍伝』は、最も風変わりな作品だ。ぶっちゃけ「バカゲー」といっていいだろう。実際、発売当時からゲーム自体の内容よりも、実写ムービーのヘンテコ具合が笑いのネタになることの方が多かった。間違いなく『忍』シリーズ最大の異色作である。なお、本作は『ザ・スーパー忍』の大場規勝がプロデューサーを務めているが、開発はトーセと考えられている。また、北米版『Shinobi Legions』はビック東海から発売された。
リアルな実写取り込みアクション 『新・忍伝』のゲームプレイは『ザ・スーパー忍II』を発展させたようなものになっており、ダッシュ、八双飛び、三角飛びなど、『ザ・スーパー忍II』にあったアクションはほとんど健在だ。ただし従来のシリーズと違い、本作では手裏剣よりも刀を使った戦闘に重きが置かれている。シリーズで初めて、刀と手裏剣に別々のボタンが割り振られ、刀による防御専用のボタンもある。方向ボタンとの組み合わせでコマンド技が出せたり、刀で敵の手裏剣をはじき返すことも可能だ。アクションの数は非常に豊富だが、攻略上はあまり使い分けの必要はない。基本アクションだけでも十分ゲームクリアはでき、さらに多彩な応用アクションを使いこなせば、よりスタイリッシュなプレイが楽しめるといった具合だ。 これらのアクションは、先に述べたようにすべて実写取り込みで表現されている。この手の実写取り込みゲームは大抵、キャラクターの動きがぎこちなかったり、操作性が悪いものが多いが、その中で『新・忍伝』は、かなり滑らかなアクションを実現している。もちろん、従来の『忍』シリーズほど完璧な操作性ではないし、間抜けなコスプレイヤーのようなショウの姿はそれだけで失笑ものだが。 敵キャラクターも実写取り込みなのだが、動きがリアルなだけでなく、やられモーションも妙に生々しい。刀で斬りつけると、鮮血とともに胴体が真っ二つに両断されるのだ。ちなみに手裏剣などで倒した場合は、崩れ落ちるように倒れる別のモーションが用意されており、芸が細かい。このような表現があるせいか、本作は18歳以上推奨ソフトとなっている。
特撮テレビドラマ風の実写ムービー 『新・忍伝』の売りである実写ムービーは、一言でいってチープだ。見るからにショボいし、ストーリーやセリフまわしも実にくだらない。だが開発スタッフ自身が、「『仮面の忍者 赤影』など、昔の特撮物のテレビ番組を見るような感覚で笑って見てほしい」と語っているように、これは真面目にとらえず、笑って楽しむのが正解だろう。 JACことジャパン・アクション・クラブ(現ジャパンアクションエンタープライズ)が協力した実写ムービーは、映画というよりまさに特撮テレビドラマのノリだ。俳優の演技やルックスには難があるが、アクション監督の諸鍛冶裕太が演出したキレのある殺陣はさすがといえるだろう。特に物語中盤での、高さ数十メートルの岸壁からのダイブはまさに命懸けのアクションで、JACの真骨頂を見せてくれる。本作で主人公のショウを演じた青木哲也は、現在もジャパンアクションエンタープライズ所属のアクション俳優として活躍し、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』シリーズにも端役で出演している。 世間的な評判は散々だった実写ムービーだが、制作スタッフにとっては苦労の連続だった。事前のストーリー作りや衣装合わせ、展開に沿った場所でのロケ、撮影中のNGなど、一本のドラマを撮影するのと同じで、大変な時間と労力がかかっている。また、実はストーリーシーンにはボツになったバージョンがあり、製品版はまったく新しく撮影し直したものだ。当初はストーリーや出演している俳優も異なり、ショウとカズマの師匠である鉄斎が登場していたり、ヒロインのアヤ役も別の女優が演じていた。
アクションゲームとしての評価 実写取り込みのインパクトばかりが話題にされがちだが、『新・忍伝』のアクションゲームとしての出来は決して悪くない。『ザ・スーパー忍』、『ザ・スーパー忍II』ほどの傑作ではないが、操作性やゲームバランスといった基本的な部分はしっかりしており、十分に楽しめる。なお、本作の最終調整を行った開発ディレクターは、アイレムで『最後の忍道』を手がけ、後にセガサターンの『Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!』を生み出した辰野英志だ。 難点としては、一連のシリーズと比べると、全体にレベルデザインが退屈なところだろう。実写という新鮮味はあるものの、ひとつのステージがダラダラと長かったり、過去のシリーズで見たような場面も多い。また、ゲーム前半は初心者でも比較的楽に進めるが、後半はかなり難しい。特に最終ステージは、触れただけで即死するミサイルをギリギリのタイミングでかわしていかなければならず、さらにその後に待ち受ける最終ボス・カズマも非常に強いため、エンディングを見られずに投げ出してしまう人も多かった。 音楽も悪くはないのだが、あまり心に残らない。実際、ヨーロッパ版『Shinobi X』のディレクターは音楽が気に入らなかったため、日本版・北米版とはまったく異なる音楽に変更した。このヨーロッパ版の楽曲を手がけたのは、イギリス人のリチャード・ジャックだ。当時セガ・ヨーロッパの新人だったジャックは『忍』シリーズらしさを出すため、古代祐三を強く意識して新しい楽曲を制作した。その後、ジャックは『ソニック3D フリッキーアイランド』や『ソニックR』などを手がけ、現在はフリーの作曲家として多くのゲームに楽曲を提供している。
『忍』シリーズ随一の怪作 『新・忍伝』の評価は、実写取り込みのグラフィックやムービーを楽しめるかどうかに尽きる。実写取り込みのアクションゲームとしては、本作の完成度は間違いなく最高レベルで、セガサターンの2Dアクションの中でも名作といえる。また問題の実写ムービーも、あくまでB級と割り切って見れば、クセになるほど面白い。しかし、こういった部分に魅力を感じなければ、単に出来の悪い『ザ・スーパー忍II』としか思えないだろう。実際、『忍』シリーズとしての本作の一般的な評価は、決して高いものではなかった。 『新・忍伝』は、よくも悪くも過渡期のゲームだ。本作に限らず、1990年代前半は実写を使ったゲームが大流行していた。アーケードでは『モータルコンバット』をはじめとする実写取り込みの格闘ゲームが人気を博し、家庭用ゲームでも実写ムービーを使用した『ナイトトラップ』などが話題を呼んでいた。2000年代以降ポリゴンが主流となり、現在では実写を使ったゲームはまったく見られなくなったが、実写にはドットともポリゴンとも違う、独特の味がある。表現はぎこちないものの、生身の人間ならではの温かみだったり、愛すべきバカっぽさが感じられるのだ。『新・忍伝』はそんな時代背景が生んだ、まさに怪作といえるだろう。 本作を最後に、しばらく『忍』シリーズの開発は中断することになる。『新・忍伝』はセガサターンで発売された唯一の『忍』となり、その後のドリームキャストでも新作は発売されなかった。そして7年の長いブランクを経て、2002年にプレイステーション2で復活することになる。その作品こそ、シリーズ初のフルポリゴンによる3Dアクションゲーム、『Shinobi 忍』だ。
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