ウィッシュルーム 天使の記憶
Hotel Dusk: Room 215




【ストーリー】
 本作のストーリーは、『探偵 神宮寺三郎』シリーズでたとえるなら、『時の過ぎゆくままに…』系だ。人がバコバコ死ぬとか、拳銃バンバン撃ちまくりとか、そういう殺伐かつローラーコースター的なミステリではない。舞台は小さなホテルの中だけ。そこで起こった一夜の出来事を、非常にスローペースで、淡々と描いていく。まさに「紐解く」といった趣で、ジワジワと物語に引き込まれていく感じだ。
 物語の舞台となる「ホテル・ダスク」には、泊まると「願いが叶う部屋」があるという。そのちょっと神秘的な設定を聞くと、シンキングラビットの名作『カサブランカに愛を(時を越えた手紙)』や、あるいは菅野ひろゆき(剣乃ゆきひろ)の『DESIRE』のような、ファンタジー、SF要素を絡めた異色ミステリなのか? という印象も受ける。
 だが実際に本作で展開されるストーリーは、極めて地に足のついた、現実的なミステリだ。「不思議なホテル」の設定はあくまで、「事件の関係者が揃って同じ夜に、同じホテルに泊まる」という、この手のミステリではほぼ不可避な「偶然に偶然が重なるプロット」を、ある程度プレイヤーに納得させるためのギミックにすぎない。
 ゲーム中に登場する誰もが、何かしらの秘密を抱えている。と言っても、彼らの中に「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者」がいるわけではなく、むしろその人物描写や設定は非常に現実的だ。そんな彼らが“偶然”一堂に会し、探偵役の主人公(プレイヤー)と関わりを持つ……強いて言えば、その基本シチュエーションが本作の“神秘性”であって、そこにまで「ありえない」と突っ込みを入れるのは、さすがにフィクションを楽しむうえで野暮というものだろう。
 シナリオ担当は、リバーヒルソフトで名作『J.B.ハロルド』シリーズを手がけた、CINGの鈴木里香氏。まさに貫禄のストーリーといった印象だ。

【ボリューム】
 同じCINGが開発した『アナザーコード』は、とかくその短さが酷評されたが、本作に関してはその心配はないだろう。謎解きのスピードによる個人差はあるが、クリアまで純粋に10時間か、それ以上はかかると思われる。長編ミステリ1本を読了したくらいの満足感は得られるはずだ。

【謎解き】
 なかなか歯ごたえがある。ノーヒントでキツいフラグ立てをしなければならない場面が結構あり、「今時のアドベンチャーゲーム」に慣れた人には、やや厳しい難易度かもしれない。とは言え決して理不尽なわけではなく、当然ネットの情報などは一切見なくても、きちんと理屈で考えながら最後までクリアすることができる。
 「ノーヒント」というのは、よくある「よし、次は○○へ行って××をしてみよう」とか、「もしかしたらこのアイテムは、ここで使うんじゃないか?」とか、「ん? あそこに何かあるようだが……」みたいな、親切なモノローグがほとんどないということだ。と言うか、むしろ本来アドベンチャーゲームというのはそうあるべきで、主人公がいちいちプレイヤーに答えを教えてくれる「今時のアドベンチャー」のほうが優しすぎるのである。本作では久々に、自分で考えて謎を解いたときの、心地よい達成感を得ることができるだろう。

【総評】
 独特の色気を持つ画面写真を目にしたり、世間での評判を聞いて気になっている人は、プレイして損はない良作と言えるだろう。気になる点がまったくない、というわけではないが、全体として非常に良質のストーリーを楽しめる。アドベンチャーゲーム好き、ミステリ好きには、特にオススメだ。



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