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魔獣王
機種 スーパーファミコン
発売元 KSS
開発元 KSS
発売日 1995年8月25日
定価 10,800円(別)
プレイ人数 1人プレイのみ
ステージ数 6面
ライフ制 あり
残機制 あり
コンティニュー 無限
パスワード なし
難易度選択 あり




大穴! ショッキング・アクション

 飛び散る鮮血ッ! 揺れる首吊り死体ッ! 首を吹っ飛ばそうがなおも向かってくるゾンビの群れッ! そんな子供にゃ見せられんグログロ映像が炸裂する暗黒アクションゲーム、それが『魔獣王』。
 ゲーム自体はシンプルかつオーソドックスな横スクロールアクションで、正直言ってあまり見るべきところはない。だが独特の世界観と、それを見事に活かしたゲームシステムの融合ぶりが実に素晴らしい意欲作である。
 もし、まだ本作をプレイしたことがなくて、ここまでですでに「ちょっとやってみようかな」と興味を持った人がいたら、なるべくこの先の文章は読まないことをおすすめしたい。本作は予備知識ゼロの状態でプレイしたほうが絶対に楽しめるからである。

ストーリー

狂信者ベイヤーは、魔王の復活のためにアベルの妻マリアと娘イリアを誘拐した。
復活した魔王は暴走をはじめ、魔界を地上に出現させる。
アベルは妻と娘を救出するため、わずかな可能性にかけて銃を片手に単身魔界へと乗り込んで行く。
そこで彼に襲いかかる異形の生物たち。
過激なバトルを繰り返し、アベルは倒した魔獣に変化してゆく…!

 ……と、ここまでが説明書に書いてあるプロローグなのだが、ゲーム開始直後がオープニングイベントのようになっているのでそれも紹介しよう。
 魔界の入口へと向かうアベル。その行く手に魔獣となった元親友、ベイヤーが飛来する。
 ベイヤー「アベル、久しぶりだな! 私だ、君の大親友のベイヤーだ!」
 アベル「ベイヤー、悪魔に魂を売ったな! マリアとイリアはどこだ!」
 ベイヤー「喜べ! 魔王様の復活に2人はとても役にたったぞ!!」
 アベル「きさま!」
 ベイヤー「おまえも2人の元に送ってやる。死ね!」
 ここでベイヤーとのバトルになるのだが、いくら撃ってもアベルの攻撃は一切きかない。それどころかベイヤーの攻撃を食らうと一撃で死んでしまう。力尽き倒れるアベル。と、突如その体が光に包まれ、目の前に愛妻マリア、愛娘イリア、愛猫エリアの面影が。
 イリア「だらしないぞパパ! そんなの相手にノックダウンかよ!」
 マリア「アベル立って。あなたはキングオブストリートファイターでしょう。」
 イリア「そうだ戦えパパ! あたしのパパは一番強いんだ!」
 マリア「アベル立ってください。」
 イリア「パパー! がんばれー!」
 エリア「ニャーア!」
 「キングオブストリートファイター」とは……? ともあれアベル復活、見た目は変わらないが今度はまともに戦えるようになり、ベイヤーをあっさり撃退する。傷ついたベイヤーは空へと逃げていく。
 そしてアベルはようやく魔界の入口にたどり着くのだが……何とそこには、無残にもすでにブッ殺され、亡霊となった妻マリアの姿があったのだった。マジですか?
 マリア「アベル…。ごめんなさい。私、イリアを守れなかった…。でもあの娘はまだ生きています。急いでください! 私も一緒に行きます!」
 そう言うとマリアは妖精に変身し、アベルのオプションとなってくっついてくる。果たして、アベルとマリアの行く手に待つものは? そして2人は娘イリアを救うことができるのか? ここから、いよいよステージ1がスタートするのである。

ゲーム「が」物語を紡ぐ

 というわけで、ゲームを始めて最初の5分でいきなり大親友はバケモノになって襲ってくるわ、主人公は1回死んで復活するわ、しかもわずかな可能性にかけて救出に行った妻は早速帰らぬ人になってるわ、と実に衝撃的なオープニングで幕を開ける『魔獣王』。このひたすらドロドロした世界観は、確かに本作の大きな特徴と言えるだろう。
 とは言え、本作はデモやイベントばかりに特化したゲームではなく、中身はかなり正統派なアクションゲームである。実はこのオープニング以降、こうした会話イベント形式でストーリーが語られるのは最後の最後、ラストシーンのみ。それ以外の道中では強制イベントによるストーリー説明どころか、1文字のメッセージすら画面上に表示されることはない。だが、何の説明がない道中にも、確かに山あり谷ありのストーリーが存在しているのだ。例えば……
●魔界へと通じる地下道を進むアベル。と、突如床が崩れ、下水道に落とされる。アベルはエレベーターに乗って脱出を図るが、そこに巨大な魔獣が出現!
●人間の奴隷を魔界城へと運ぶ列車に飛び乗ったアベル。その眼前で拷問され、殺される奴隷の少女。怒りに燃えたアベルは列車を暴走させ、城の壁へ激突させる!
●魔界の奥深く、氷の宮殿で遂にアベルはベイヤーと宿命の再会を果たす。アベルの復讐の時は来た!
 メッセージやセリフ等による説明が何もなくとも、優れた演出――各シーンの背景、スクロール、登場キャラの動き――それら全てに意味があり、そこからプレイヤーはドラマチックなストーリーを容易に想像し、体感することができるのである。またむしろ、明確な説明がないぶんプレイヤーの想像力に委ねられている部分も多く、そこがまた何とも言えない余韻を残す。いやほんと、ダラダラ「見せられるだけ」のCGムービーばかりが演出じゃないね。

背徳的なシステムの数々

 『魔獣王』は、十字キーと2ボタン(Yでショット、Bでジャンプ)しか使わないシンプルな横スクロールアクション。ただし、溜め撃ち、ジャンプ下撃ち、前転(下+B)、二段ジャンプと、アクションはなかなか多彩である。結局のところ、ゲーム自体はありきたりなものなのだが、冒頭でも触れたように本作は、不気味な世界観とマッチした独特のゲームシステムが実に秀逸だ。

●変身<メタモルフォーゼ>
 このゲームのウリとも言えるシステム。最初アベルは生身の人間だが、各ステージのボスを倒すと上空に「呪いのクリスタル」が出現。これを撃ち落として取るとアベルは敵の能力を吸収し、不気味な魔獣に変身するのである。
 このクリスタルは空中で赤、緑、青とゆっくり色彩を変えながら漂っており、撃ち落とした時の色によって3タイプの変身を選択することができる。クリスタルはボスを倒すたびに出現するので、面クリアごとにタイプチェンジが可能になっている。どのタイプもかなりクセがあり一長一短だが、せっかく3タイプあるんだから面ごとにタイプチェンジして、全部使っておいたほうがいい!?
 ちなみに「バケモノになんかなりたくねえ!」ということならクリスタルを取らなければ、拳銃片手に人間のまま最後まで戦い抜くこともできる……当然、道のりは厳しいものになるが。このへんの自由度も面白い。

●オプション
 オプション、と言うか魔獣に殺され、妖精となったアベルの妻マリアその人である。アベルの斜め後ろに位置する彼女は完全無敵&常に当たり判定を発生しているのでシールド代わりにもなるし、アベルがショットを撃つと一緒に飛んでって体当たり攻撃を仕掛けたりもする。母は強し!
 こんな頼もしい彼女だが、アベルのライフがゼロになると、何と彼に命を与えて(アベルのライフ全快)消滅してしまう。愛する夫のために身代わりとなってくれるわけで、なかなかつらいものがある。ちなみにマリアの命をもらった後にミスすると、今度こそ残機が1機減ってリスタートになるのだが……マリアは復活しない!

●極めつけ。他に類を見ない体力回復システム
 ゲーム中、妖精やハーピーといった女性型の敵キャラを倒すと、ポトリと地面に落ち、死体はしばらくその場に残っている。魔獣となったアベルがその死体の上でしゃがみこむと……何と。おもむろに彼女らの死体をガツガツと喰らい始めるのである。飛び散る鮮血。そしてモリモリと体力回復。すごいでしょ。
 ちなみに魔獣に変身していないと死体は食えないので、人間のまま進んだ場合体力回復できず難しくなるわけである。わはは。良く出来てるわ。
 このように、「この世界観ならでは」のシステム、もっと言えば「この世界観でなければ成立しない」ゲームシステムが、実に巧みに織り込まれている。そこが評価に値するのである。
 ただ単にストーリーが暗くて、グラフィックがグロテスクなだけのゲームじゃない。その世界観がゲームと無理なく融合し、そしてあたかも一本の映画のように美しく統一されている。それこそが本作の優れた点であり、大きな魅力なのだ。

最後の、そして最大の秘密

 最後にもうひとつ。このゲームのラストには、ある大きな「秘密」が隠されている。その内容をここで明かすことはしないが、その秘密を知った時は、きっと感動することだろう。そしてその秘密を知って初めて、この『魔獣王』というゲームは、プレイヤーの心に残る真の名作となるのである。
 だから、これからこのゲームをプレイする人は、途中で投げ出さずに是非最後までプレイして欲しい(そんなに難しくないし、無限コンティニューだし)。そしてもし、エンディングまで到達して、「納得が行かん!」と感じたら――最初はきっとそうなると思う――納得が行くまで、何度でもやり直してみて欲しい。謎を解くためのヒントは、この文章の中にある。
 『魔獣王』……そのタイトルに秘められた、真の意味とは?



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