(クリックで拡大表示)
エイト・アイズ
機種 ファミリーコンピュータ
発売元 セタ
開発元 シンキングラビット
発売日 1988年9月27日
定価 5,800円(別)
プレイ人数 2人同時プレイ可
ステージ数 8面
ライフ制 あり
残機制 なし
コンティニュー 無限
パスワード あり
難易度選択 なし




単なる『ドラキュラ』二番煎じじゃないぞ

 本作『エイト・アイズ』は、見た目が『悪魔城ドラキュラ』(とりわけ、前年に発売された『ドラキュラII〜呪いの封印〜』)にクリソツなことから、「安易なパクリゲー」として切り捨てられてしまうことが多い。だが、その評価は正確ではない。グラフィックや操作といった基本部分は『ドラキュラ』を参考にしつつも、ゲームの「肝」となるアイデアやそのゲーム性は、『ドラキュラ』とは全く異なる、オリジナリティあふれるものになっているからである。

ストーリー

 19世紀末、バルカン半島。ヨーロッパ列強のパワーバランスの上で、かろうじて余命をたもっていたオスマン・トルコ帝国にも、存亡の影が色こくさしかけていた。「バルカンの火薬庫」と呼ばれるほど密集していた様々な紛争の種子が、今やいっせいに火をふこうとしていたのである。自由アルメニア軍によるテロや、要人暗殺などは、すでに日常茶飯事であった。政府の威厳は地に落ち、悲観的な噂や憶測がとびかうなか、オスマン・トルコを保護領としている大英帝国にとって、治安の回復が最大の急務となる事件が発生した。
 発見されたばかりの遺跡群を発掘するため、大英博物館から派遣された学術調査隊が、盗賊団におそわれて全滅、出土品をふくむいっさいの資料がうばわれたのである。隊員全員の頭部はなく、腹部を裂かれて死んでおり、その残虐な手口から、犯人は悪魔崇拝で知られる女盗賊、ルース・グランディエを頭目とする一団であると知れた。
 一方、ロンドンの王立紋章院では、ルース一味が出土品のみならず、発掘日誌の類まで持ちさったことに大きな危機感をいだいていた。大英博物館の資料からその存在が推定されていたこの遺跡には、中東の宗教史を根底からくつがえす悪魔の秘密がかくされていたのである。
 堕天使ルシフェルの落し子と名乗るルースたちに、悪魔復活の邪法を使わせてはならない。紋章院第七部会(後のMI5)は、紋章院付武官にして、第十七近衛連隊少佐であるバロネット(準男爵)ジュリアン・ジェイムス・ボンド卿を派遣することに決定した。
 かくして、エペ、フルーレともに、その剣技では全英一といわれたボンド卿は、はい刀マザーグースと、愛鷹カットラスをともに、単身バルカン半島に潜入した。

操作方法

 とりあえず、この渋くて、映画や小説のごとく凝りまくったストーリーである。やたらもったいぶった文体からして素敵である。無闇にワクワクさせられる。ちなみに主人公のボンド少佐、その名の通り007のお祖父さん、という裏設定があったりして、このへんも無駄に洒落がきいている。
 時にファミコンのゲームなどでこういう硬派な世界観を設定すると、いざゲーム本編をやってみてその見た目がショボかったり、ハジけていたりした場合そのギャップが痛々しいものだが、本作はその点なかなか健闘しており、ゲーム本編もストーリーに負けない、実に大人っぽい、渋い雰囲気で統一されていると言える。
 リアルに描写されたキャラクター。落ち着いた色調のグラフィック。アクションゲームらしからぬ、ノリの良さよりもステージのコンセプトに合わせた異国的でムーディーなBGM。まあ言い方を変えれば地味地味なのだが。
 さて、ゲームのほうであるが、まずアラビア、スペイン、インド、アフリカ、ドイツ、イタリア、エジプトをモチーフにした7つの屋敷(ステージ)から自由に選択していく。各ステージのボスは宝石を1つずつ持っており、宝石を7つ集めるとラスボス、ルースのいる教会に入ることができる。
 主人公ボンド少佐の基本的な操作は、十字キーで移動、Aボタンでジャンプ、Bボタンで剣を突いて攻撃、A+上下で攻撃アイテム(セレクトボタンで選択)を投げる。攻撃アイテムとは、武器パワーを消費して使う、ナイフやブーメランといった特殊武器で、このあたり確かに『ドラキュラ』そっくりである。また操作方法だけでなく、ボンド少佐の見た目も動きも、やたら重い操作感も、『ドラキュラ』の主人公シモンにそっくりだ。
 しかしながらこのボンド少佐、メイン武器がシモンのムチとは違ってタダの剣なのでリーチが恐ろしく短く、『ドラキュラ』よろしく敵とまともにやりあってもボコボコにされてしまうのである。どうしたものか?ここでもう一人の主人公とも言える、鷹のカットラスの登場となる。

鷹!鷹!鷹!

 鷹のカットラスは普段はボンド少佐の肩の上にチョコンと乗っているが、B+上を押すとボンド少佐のやや上空に飛び上がり、フワフワ上下に揺れながら、画面上を左右に往復する(壁はすり抜ける!これ重要)。この空中にいるカットラスの上下左右移動は一切制御できないが、B+下で急降下攻撃を指示、また再度B+上を押すことで呼び戻すことができる。
 カットラスは独自にライフゲージを持っており、ダメージを受けまくるとしっかり死ぬ。が、カットラスが死んでも別にゲームオーバーにはならないし、ステージクリアすればちゃっかり復活してくる。このへんがミソ。要するに、この便利なカットラス君の使い方こそが本作の「肝」なわけである。
 例えば、ボンド少佐は段差や壁の向こう側といった安全な位置に退避しつつ、カットラスで敵をチマチマ攻撃したり。カットラスを飛ばし敵の気を引いておいて、背後からボンド少佐がチマチマ奇襲したり。はたまたカットラスを特攻させてボスの体力を出来るだけ削り(捨て駒)、しかる後にボンド少佐がチマチマ止めを刺したり。……姑息である。だが、それが楽しい。
 さらに、このカットラスの使い道は敵を倒すだけではない。ボンド少佐では届かない位置にある扉のスイッチを押したり、壁の中に隠されたアイテムを取ったりすることもできる。というわけで本作の攻略には、カットラスを「頭脳的に」活用することが必要不可欠なのである。
 そしてもうひとつ、本作の良く出来た点として、このカットラスのアイデアを十二分に活かした2人同時プレイの存在がある。この場合、1Pがボンド少佐、2Pがカットラスをそれぞれ操作することになる。
 2人が全く異なる性質のキャラを操作する、という面白さももちろんだが、2Pはカットラスの着脱はもちろん、1人プレイ時と違って空中で上下左右、自由に動かせるようになるので、攻略も格段に楽になるのだ。これぞまさに「2人協力プレイ」、1人プレイ時とは全く違う楽しみ方ができる。
 普通、2人同時プレイと言うとオマケ的な存在になりがちだが、本作においてはオマケどころか「もしかして2人同時プレイがメインなんじゃねーの?」と思ってしまうほどの存在感がある。

巻き物と剣の秘密

 本作はアクションゲームだが、ちょっとした「謎解き」が散りばめられているのも特徴だ。このあたりも『ドラキュラII』に良く似ている。
 ラスボスのルースを倒して最後の宝石を手に入れると、悪魔の神殿が現れる。そこには8つの台座があり、手に入れた宝石を正しい順番ではめなければならないのだが、その順番のヒントは各ステージに隠されている巻き物に記されている。
 この巻き物というのがカットラスを使わなければ見つからない所にあったりして、集めるのはなかなか骨が折れる。が、順番がわからなければ、最後の最後でゲームがクリアできなくなってしまう!(ただし7枚全部揃ってなくても、わかってる部分から推理すりゃ何とかなる)ただ先に進むだけでなく、マップを注意深く探索しながら進む必要があるのだ。
 また、各ステージのボスを倒すと毎回宝石の他に、色のついた剣がもらえる。手に入れた剣は、必ず他のある一人のボスに有効になっていて、この場合与えるダメージが通常の2倍になる(これは『ロックマン』と同じシステムだ)。特にこのゲームのボスはキツい攻撃を仕掛けてくるヤツが多いので、これは非常に大きい。どの剣が誰に有効なのか?それを考えることで、おのずと最も効率の良いステージの攻略順が見えてくるようになっている(ヒントは、各ボスが持っている宝石の色)。
 得てして、昔のファミコンゲームで「謎解き」などと言うと、ゲーム的に明らかに蛇足だったり、攻略本でも見なきゃ「んなもんわかるか!」みたいな理不尽なモノが結構あったりもするが……本作の謎解きはキチンと理にかなっていて、ちょっと頭を使えば解けるものだし、ウェイトもアクションゲームとしてのテンポを損なわない程度に収まっている。
 ちなみに、入手した巻き物のメッセージと現在装備している剣の色は、ステージ選択画面でセレクトボタンを押すことで確認できる。細かいことだが、こうした何気な親切設計も好感が持てる。

『倉庫番』クリエイターの知的アクション

 とにかくこのゲームは自機が弱いと言うか敵が強いと言うか、反射神経や指先のテクニックではどうにもならない場面が多い。と言うか、意図的にそう作られているのだ。普通のアクションゲームのような感覚で真っ向勝負を挑むと、ろくに進めずストレスを感じてしまうが、ちゃんとバランスはとれている。このゲーム独特の攻略法があって、それをつかめばサクサク進めるようになるのである。
 「自機のリーチが短すぎる!」→ヒットアンドアウェーでチマチマ倒す。
 「ボスの攻撃が絶対かわせん!」→そのボスに有効な剣で力押し。
 「ライフが足りん!」→隠しアイテムを探す。
 そして……どの局面でも、鷹のカットラスを有効に活用することを考えていく。
 「爽快なアクションゲーム」、「正統派アクションゲーム」とは決して言えない。スカッとした楽しさは皆無と言っていい。だが制作者自身、そういうゲームを目指して作ったのではないと思う。本作のコンセプトは言わば、指先よりも頭で勝つゲーム。どちらかと言えば、パズルゲームのような知的な楽しみを得られるゲーム。純粋なアクションゲームである『ドラキュラ』とは、良くも悪くもここが大きな違いなのだ。
 制作者と言えば、本作の開発元であるシンキングラビット(そして社長の今林宏行氏)は、言わずと知れた傑作パズルゲーム『倉庫番』を作った会社である。何か、本作のパズル性の高さもうなずけるように思う。またシンキングラビットは、『道化師殺人事件』、『カサブランカに愛を』(『時を越えた手紙』)等、ストーリー性に優れたPCアドベンチャーの名作を多数発売したことでも有名だ。
 というわけで本作『エイト・アイズ』も地味ながら作りはしっかりしているし、それにファミコンなんだけど何と言うかパソゲーの香り漂う、「大人のゲーム」になってるような気がするんだよね。
 それにしても、ボスを倒すと和解して仲良くティータイムに突入(しかも給仕はスケルトン)という展開は、大人と言うかハイセンスすぎる。



Main