ギアナシスターズ:ツイストドリームズ
機種 PC/PS4/Xbox One/Switch ステージ数 23面
発売元 Black Forest Games ライフ制 なし
開発元 Black Forest Games 残機制 あり
発売日 2012年10月23日 コンティニュー 無限
定価 1,480円 パスワード なし
プレイ人数 1人 難易度選択 あり


解説

 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』は、ドイツのBlack Forest Gamesによる横スクロールアクションゲームである。1987年にコモドール64で発売された『グレートギアナシスターズ』の続編に当たる本作は、一般ユーザーから開発資金を募るKickstarterプロジェクトで、目標額の15万ドルを上回る投資を受け完成に至った。
 その後、Steamで配信してほしいゲームをユーザー投票で決める「Steam Greenlight」の最初のタイトルに選出され、2012年10月にSteam、GOG、GamersgateでPC版がリリースされた。日本ではほとんど知られていないタイトルだが、海外での評価は非常に高く、2013年にはXbox LIVE アーケードやPlayStation Network、Wii Uのニンテンドーeショップでも配信された。


 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』の祖先に当たる1987年の『グレートギアナシスターズ』は、タイトルから分かる通り、『スーパーマリオブラザーズ』の露骨なクローン(パクリ)だった。あまりにもそっくりだったため任天堂の怒りを買い、市場から消えたといういわく付きの問題作である。しかしながら当時のユーザーには愛された作品で、その後も海賊版やコピー版が出回り、ヨーロッパを中心にカルト的な人気を獲得した。また、コモドール64版『グレートギアナシスターズ』でグラフィックを担当したマンフレッド・トレンツと、サウンドのクリス・ヒュルスベックは、後に名作『タリカン』シリーズを手がけ、ドイツの伝説的ゲームクリエイターとしての地位を確立している。
 彼らとともに『グレートギアナシスターズ』のプログラムを担当したアーミン・ゲザートは1994年、『Desperados』シリーズなどで知られるSpellbound社を設立した。そして2009年4月、同社はニンテンドーDSで『ギアナシスターズDS』を制作する。皮肉なことに20年以上を経て、『ギアナシスターズ』の新作が任天堂ハードで発売されたのだ。本作は日本では発売されなかったが、海外で高い評価を受け、2011年にはiOSにも移植されている。だが『ギアナシスターズDS』発売直後の2009年11月、アーミン・ゲザートは46歳の若さでこの世を去った。25年間にわたりゲームを作り続けてきたゲザートに敬意を表し、iOS版は『Armin Gessert's Giana Sisters(アーミン・ゲザートのギアナシスターズ)』と題されている。


 『ギアナシスターズDS』発売後の2012年初頭、開発元のSpellboundは倒産し、同社の主要メンバーによって、新たにBlack Forest Gamesが設立された。彼らはかつての創業者アーミン・ゲザートの遺志を継ぎ、『ギアナシスターズ』の完全新作に着手する。HD画質の美しい3Dグラフィックと、単なるリメイクではない新鮮なゲームプレイを備えた、『ギアナシスターズ』25周年にふさわしい作品だ。本作でBlack Forest Gamesは他のパブリッシャーとは組まず、自分たちが望む通りのゲームを作り上げ、自社で発売したいと考えていた。だが、完成間近まで行きながら資金が枯渇し、プロジェクトは頓挫してしまう。新たにパブリッシャーを見つけたとしても、開発費は抑えられ、未完成のステージや仕様の多くがカットされてしまうのは避けられそうにない。彼らは自社での発売にこだわった。
 そこでBlack Forest Gamesは最後の望みを懸け、Kickstarterを通じてユーザーから資金を募ることを試みる。Kickstarterは2008年の発足以来、ゲーム、映画、音楽など、さまざまな分野で成功例が生まれ、注目を集めていた。2012年7月末、「Project Giana」のタイトルでKickstarterのプロジェクトが立ち上げられ、目標額15万ドル、期限は1ヵ月に設定された。驚くべきことに、最終的に6千人を超える支援者から約19万ドルの資金が集まり、プロジェクトは見事に成功した。Black Forest Gamesは残りのゲームを納得のいく形で完成させ、2012年10月、『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』として発売されることとなったのだ。


 最新作『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』と、かつての『グレートギアナシスターズ』、『ギアナシスターズDS』との決定的な違いは、素晴らしく進歩したグラフィックなどももちろんだが、何よりゲームプレイの面で、単なる『マリオ』のコピーには終わっていない点だ。オリジナルの『グレートギアナシスターズ』では、主人公ギアナは夢の世界を冒険し、パワーアップするとキュートな金髪少女から赤毛のパンクルックに変身する。要するにキノコ王国とファイアマリオの設定変えにすぎなかったのだが、本作はこの「夢」と「変身」という原作のコンセプトを守りつつ大胆に拡張し、新しいゲームプレイを生み出している。
 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』では、1ボタンで「キュートスタイル」と「パンクスタイル」、2つの属性をいつでも切り替えられる。キュートスタイルは回転しながらフワフワと滑空でき、パンクスタイルはスピンダッシュで敵を倒すことができる。このそれぞれ異なる能力を使い分けて進んでいくのだが、本作の最もユニークな点は、ギアナの属性と連動して、ステージ全体もリアルタイムに姿を変えることだ。キュートスタイルのときは暗い悪夢の世界だが、パンクスタイルに変身した瞬間、背景が明るい夢の世界にモーフィングし、音楽もヘビーメタル調に変化する。さらに、背景や音楽だけでなく、足場が出たり消えたり、敵のアルゴリズムが変わったりと、周囲のあらゆる環境に影響を及ぼす。ボタン1つで世界が一変する演出のダイナミズムと、2つの属性を使い分ける適度なパズル要素が、絶妙に融合しているのだ。


 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』の最も素晴らしい点のひとつは音楽だ。オリジナルの『グレートギアナシスターズ』が人気を博した理由として、クリス・ヒュルスベックが手がけた伝説的なサウンドトラックを外すことはできない。ヒュルスベックはその後も20年以上にわたりゲーム音楽を作曲し続け、海外のゲームファンに広く知られる巨匠となった。もちろん今回もヒュルスベックが参加し、『ギアナシスターズDS』のファビアン・デル・プリオーレとともに、かつての名曲をアレンジしている。
 さらに本作では、キュートスタイルの音楽をヒュルスベックとデル・プリオーレ、そしてパンクスタイルの音楽をMachinae Supremacyが担当し、メロディーやテンポは同じ曲だが、ギアナが変身するたびに2つの曲調がシームレスに切り替わるという、技術的にも興味深い試みがなされている。Machinae Supremacyはレトロゲームとチップチューンをフィーチャーしたスウェーデンの人気ロックバンドで、2000年の結成以来、メタルサウンドにコモドール64のSID音源を融合させた「SIDメタル」を標榜している。まさに本作にはうってつけのメンバーといえるだろう。
 そして実際に、『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』の音楽は、確かな形で評価された。2012年12月に行われた、ドイツで最も権威のあるゲーム賞「German Developer Awards 2012」で、本作は見事にベストサウンド賞を受賞したのだ。


 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』には残機の概念がなく、何度ミスしてもゲームオーバーになることはない。また、ステージ中にはいくつもチェックポイントがあり、ミスしてもすぐ直前からやり直すことができる。このあたりは今風のゲームらしく、非常に遊びやすい調整がされている。ただし最後のボスステージへ進むためには、各ステージである程度高い評価を獲得しなければならない。評価は集めた宝石の数やミスの回数で決まるので、ステージ中をじっくり探索して宝石を集めてもいいし、ミスなくクリアできるように腕を磨いてもいい。古きよきアクションゲームらしく、初めはシンプルでとっつきやすいが、ステージが進むにつれ、かなりサディスティックなレベルデザインになっていき、歯応えも十分だ。
 『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』は、ゲーム性、グラフィック、サウンド、ボリューム、すべての面において水準が高い、2.5D横スクロールアクションの中でも最高級と呼べる傑作だ。だがこれは決して奇跡でも偶然の産物でもない。開発スタッフが最後まで自分たちの目指すゲームとクオリティーにこだわり、それに世界中のユーザーが賛同し、支援した結果なのだ。任天堂との軋轢、原作者の死、Kickstarterでの成功、数奇な運命をたどってリリースされた『ギアナシスターズ:ツイストドリームズ』は、『マリオ』のパクリゲームから脱却し、真にオリジナルな作品『ギアナシスターズ』として堂々とその名を刻むとともに、既存のデベロッパーとパブリッシャーの関係に代わる、新しいゲーム制作の可能性を示したといえるだろう。



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