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『魂斗羅ハードスピリッツ』は、2002年11月14日にゲームボーイアドバンスで発売された。8年ぶりのシリーズ復活作となるプレイステーション2版『真魂斗羅』と同時発売であり、魂斗羅シリーズの歴史において、同じ日に2つの新作が店頭に並ぶという出来事は初めての快挙だった。 ゲームボーイアドバンスは2001年に任天堂から発売された携帯ゲーム機で、ゲームボーイの12年ぶりの後継機に当たる。ゲームボーイアドバンスにはスーパーファミコンからの移植作やリメイク作が多く見られ、2002年時点では、カプコンから『ファイナルファイトONE』、『超魔界村R』、『ブレス オブ ファイア』、『ミッキーのマジカルアドベンチャー』、『ロックマン&フォルテ』、任天堂からも『スーパーマリオワールド』、『ヨッシーアイランド』などが発売されていた。 そうした状況の中、コナミはハード初期から、ゲームボーイアドバンスオリジナルの作品を積極的にリリースしていた。『悪魔城ドラキュラ Circle of the Moon』、『グラディウスジェネレーション』など、同社の人気シリーズも、旧作の移植ではなく新作として発売された。しかしながら魂斗羅シリーズに関しては、コナミは別の道を選択した。 ゲームボーイアドバンス版『魂斗羅ハードスピリッツ』は、基本的にスーパーファミコン版『魂斗羅スピリッツ』の移植だ。ただし、原作にあったトップビューステージは削除され、代わりにメガドライブ版『魂斗羅 ザ・ハードコア』から2つのステージが採用されている。すなわち、『スピリッツ』と『ハードコア』が合体した『ハードスピリッツ』というわけだ。シリーズ屈指の名作として名高い『魂斗羅スピリッツ』が、携帯ゲーム機で遊べる。しかも、2002年当時にはレアソフトとなっていた『魂斗羅 ザ・ハードコア』も復刻されているとあって、同時発表された『真魂斗羅』とともにユーザーの期待は高まっていた。 しかしながら、期待に応えて高い評価を受けた『真魂斗羅』に対し、『魂斗羅ハードスピリッツ』の出来は残念ながらあまりよくなかった。まったくのクソゲーというわけではないが、シリーズ中でも凡作以下といえるだろう。そもそも、2本のゲームのリニューアル移植という企画の中途半端さもあったが、単純に開発力の低さが、ゲームとしての完成度の低さにつながっている。 『魂斗羅ハードスピリッツ』のプロデューサーは『真魂斗羅』と同じく中里伸也が務め、同様にイメージイラストもアシュレイ・ウッドが手がけているが、実際の開発は当時トーセの子会社であったシングがメインと考えられている。シングは、本作のゲームデザイナーも務める宮川卓也がリバーヒルソフトから独立して立ち上げた会社で、ニンテンドーDSの『アナザーコード 2つの記憶』、『ウィッシュルーム 天使の記憶』などで成功を収めたが、2010年に倒産している。 変わった部分のほとんどが、原作と比べて劣化している 『魂斗羅ハードスピリッツ』は、グラフィックだけ見ればかなり原作に似ているし、通信ケーブルを使用して2人同時プレイも可能だ。だが実際にプレイしてみると、ゲームバランスなどの中身はまったく別物になっている。そして問題は、その変わった部分のほとんどが、原作と比べて劣化しているということだ。 まず大きな違いとして、スーパーファミコン版『魂斗羅スピリッツ』は両手に2丁の銃を持つことができたが、本作では1丁しか持てなくなっている。そのため、状況に応じて武器を使い分ける戦略性が失われてしまった。また、原作ではアウトになっても使用していた方の銃を失うだけだったが、本作では一気に丸裸に戻ってしまうため、死んだ後の立て直しがより厳しい。当然、両手に銃を構えて撃ちまくる「乱れ撃ち」もカットされている。もともと見た目が派手な割に実用性は少ない大道芸ではあったが、なくなったらなくなったで、とても寂しい。 さらに、画面全体にダメージを与える「ボム」も削除され、ことごとくプレイヤーに不利な方向へ調整されている。もともと一発死のシビアなゲームにおいて、ある程度のミスや大味なプレイを許容してくれる要素があったことが原作の遊びやすさにつながっていたのだが、本作ではそれらが軒並みカットされてしまっているのだ。 唯一プレイヤーに有利な変更といえるのが、『真魂斗羅』で採用された「銃口の向きを固定したまま移動」の追加だ。ただ、そもそも原作にはなかった操作なので、あれば便利なのは確かだが、プレイアビリティーが劇的に向上するようなものではない。 それよりも奇妙な変更点として、新しい武器を取ると、それまで使っていた武器が画面に残るようになっている。間違った武器を取ってしまったときに元に戻せるようにしたかったのだろうが、むしろ邪魔なアイテムがいつまでもフワフワと画面内に残り、取って付けた仕様にしか見えない。 もうひとつの大きな違いは、画面サイズの問題だ。ゲームボーイアドバンスのハードに合わせて画面が小さくなっているのだが、プレイヤーや敵などのキャラクターはあまり小さくなっていないため、明らかに画面が狭い。当たり判定の異常な大きさも相まって、とにかく敵の攻撃に当たりやすく、爽快感よりもストレスばかり感じてしまう。魂斗羅シリーズは快適な操作性と、明快な当たり判定があるからこそ、いくら死んでも「自分のミス」と素直に納得できるのだ。 このような仕様の変更に伴い、ゲームバランスも大幅に変わっている。そもそも画面の大きさが違うため、攻撃のかわし方や安全地帯など、原作の攻略法が通用しない場面が多い。プレイヤーが使える6種類の武器も、性能がかなり変わっている。レーザーが高威力のままに貫通するようになったため、ファイヤーの価値はほとんどなくなった。また、原作で強かったクラッシュが弱体化した一方、ホーミングとスプレッドは原作より強くなっている。では原作とは別物としてバランスが取れているかというと、ボスや中ボスの耐久力設定が微妙で、妙に時間のかかる敵がいたかと思えば、あっさり瞬殺できてしまう敵もいたりと、調整不足の感は否めない。 難易度は2種類から選べるが、敵のアルゴリズムは変わらず、残機や敵の耐久力、途中のステージ4で終了するかどうかの違いだけ。コンティニュー(中断・再開)機能も追加されているが、何と21世紀にもなってパスワード制で、しかも無駄に長い。同発の『真魂斗羅』を意識したのか、オールクリア時にランクが表示されるが、これも単にミスの回数などを見ているだけで、『真魂斗羅』の「撃破率」のような深みは何もない。どれも取って付けたような仕様ばかりで、ゲームの楽しさや遊びやすさにまったくつながっていないのだ。 『スピリッツ』と『ハードコア』の融合は、まったくうまくいっていない 最初に述べた通り『魂斗羅ハードスピリッツ』は、『魂斗羅スピリッツ』にあった2つのトップビューステージが削除され、代わりに『魂斗羅 ザ・ハードコア』のステージが2つ挿入されている。有名な「パワード忍者YOKOZUNA」が登場する列車ステージと、暴走したバハムート大佐と戦う最終ステージだ。確かにスーパーファミコン版『魂斗羅スピリッツ』の時から、トップビューステージには賛否両論あり、サイドビューステージに比べると遊びが散漫で、ゲーム全体の統一感も損なう、という意見は少なからず存在した。そこへ、名作の呼び声が高いにもかかわらず入手困難となっていた『魂斗羅 ザ・ハードコア』の要素を代入するというのは、一見悪くないアイデアのように思える。 だが結論から言うと、このアイデアはまったくうまくいっていない。『魂斗羅スピリッツ』の中に、ハードもシステムもまったく異なる『魂斗羅 ザ・ハードコア』のステージを、そのまま乱暴に突っ込んでしまったからだ。まず当然ながら、『魂斗羅スピリッツ』のシリアスな世界観に、『魂斗羅 ザ・ハードコア』のアニメ&ギャグテイストがマッチしていない。グラフィックもメガドライブ版のままで、スーパーファミコン版と統一感が出るような調整は加えていないため、明らかに浮いている。またゲームバランスの面でも、『魂斗羅 ザ・ハードコア』は発動中無敵のスライディングとライフ制を採用しており、敵の攻撃もそれを前提とした激しさだった。『魂斗羅スピリッツ』準拠の本作にはスライディングもライフ制もないため、単純に難度が暴騰してしまっている。購入したプレイヤーの多くは、ステージ2の列車ステージをクリアできず挫折したことだろう。 移植としての問題点を置いておいたとしても、『魂斗羅ハードスピリッツ』のゲームバランスはかなり不安定だ。原作とは別のゲームとしてパターンを作り直しても、いくつかの場面で異様にシビアな操作を要求されたり、さらに悪いことに、運が絡むような理不尽な場面もある。結果的に、携帯機でありながらノーコンティニュークリアは原作より難しく、ノーミスクリアとなると、魂斗羅シリーズ全作品の中でも屈指の難度だ。だがそれは、単に本作の調整不足によるもので、フェアなチャレンジとは言い難い。最初は難しくても、鍛錬を積むことで最終的に気持ちよくクリアできるようになる、絶妙なゲームバランス。それがあったからこそ、『魂斗羅スピリッツ』も『魂斗羅 ザ・ハードコア』も名作だったのだ。 プレイする価値も、存在感も薄い一作 サウンドについては、ゲームボーイアドバンスの音源が貧弱なこともあり、映画のサウンドトラックを意識した『魂斗羅スピリッツ』の重厚な音楽が、劣化して軽薄な印象になってしまっている。また、原作のステージ3ボス(ビッグファズ)は、ボスが爆発し始めると同時にBGMが止まり、最後はボスの首が切断される「ガッシャーン」という音だけが響き渡って終わるのだが、本作ではBGMが鳴りっ放しのため、余韻も何もない。ステージ4の冒頭も、原作はBGMなしで始まり、魂斗羅が「ブロロロロー」とエアバイクで登場。ヘルライダースが「キィーン」と飛び去ってから、おもむろに「ギャギャッギャギャッギャギャッギャギャッギャンギャン!」と熱いイントロが流れ出すのだが、本作では最初からBGMが垂れ流しのため、盛り上がりも何もない。音源の貧弱さもさることながら、サウンドとシンクロした演出のこだわりも感じられないのだ。 それ以外の演出面も総じてパワーダウンしており、まず原作で最高だった「奴ら…ゆるさん。」「派手に出迎えてやろうぜ!!」のオープニングデモは丸々カット。ステージクリア時も、原作は各面ごとに熱い一枚絵が用意されていたのが、ビルの素立ちに固定。エンディングも、初期3部作の回想シーンがカットされ、まったく味気ないものになっている。とにかく残念な点を挙げれば切りがなく、その上本作ならではの新機軸も何もないのだ。 全体として『魂斗羅ハードスピリッツ』は、「『魂斗羅スピリッツ』っぽいもの」が携帯機でプレイできる、というだけの作品であり、それ以上でもそれ以下でもない。原作や他の魂斗羅シリーズを知らなければそれなりに遊べるかもしれないが、オリジナルの『魂斗羅スピリッツ』や『魂斗羅 ザ・ハードコア』をプレイできる環境があるなら、あえて本作を選ぶ理由はないだろう。2002年の発売当時から評価は芳しくなく、結果的に魂斗羅シリーズの中でも、存在感の薄い一作である。 |
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