閾値と測定法

1.閾値とは。  
  閾とは境目の意味で、閾に対応した刺激量を閾値という。  
  閾値には、大きく分けて刺激閾、弁別閾の2種類ある。
  
  a)刺激閾(stimulus threshold)   
 絶対閾とも呼ぶ。感覚を生じるか生じないかの境界の刺激値である。しかし、感覚を生じさせる刺激値の境界は明瞭ではなく、刺激強度が徐々に増すことにより感覚が生じる確率も徐々に増加していく。よって、刺激閾を定義するのに感覚が生じる確率(0.5であれば二分の一の確率なのでばらつく。よって、0.75が適当である。)を用いる。  
(参考)   
 感覚器などが正常に働くことによって感覚を生じさせることができる刺激の上限値を刺激頂(terminal threshold)と呼び、刺激0から刺激閾までの値の刺激を閾下(subliminal)刺激、刺激閾から刺激頂までの値の刺激を閾上(supraliminal)刺激と呼ぶ。
  
  b)弁別閾(difference threshold)   
 丁度可知差異jnd(just noticeable difference)とも呼ぶ。刺激量の相違に気づくか気づかないかの境界の刺激変化量。弁別閾には、上弁別閾(upper limen)、下弁別閾(lower limen)、平均弁別閾(DL: difference limen または difference threshold)がある。
(参考)   
 弁別閾の測定などを行う場合に,二つの刺激を呈示し、一方の刺激は一定でもう一方の刺激を変化させるという方法がよくとられる。この場合、判断の標準となる前者を標準刺激(standard stimulus)といい、後者を比較刺激(comparison stimulus)あるいは変化刺激という。標準刺激がもたらす感覚特性と比較刺激がもたらす感覚特性が等しい時、比較刺激は標準刺激の等価刺激(equivalent stimulus)といい、比較刺激値を主観的等価値(PSE:point of subjective equality)と呼ぶ。恒常法などでは、標準刺激に対して弁別確率0.5の時の刺激値をPSEとする。これは標準刺激値と異なっていることが多い。この時の刺激値の差を恒常誤差(CE:constant error)と呼び、被験者の意図など(期待誤差や慣れの誤差)によって生じる。弁別確率0.5で与えられたPSEを基準にして、それよりも強い刺激によって弁別確率pが与えられるなら、それが弁別確率pのもとでの上弁別閾であり、それよりも弱い刺激によって弁別確率(1-p)が与えられるなら、それが弁別確率pのもとでの下弁別閾である。上下の平均弁別閾の間の刺激値では標準刺激と比較刺激の弁別は困難であり、この間の刺激値帯を不確定帯(IU:interval of uncertainty)と呼ぶ。上下の弁別閾の平均を平均弁別閾(DL:difference limen)と呼ぶ。
 
2.閾値の測定法。  
  閾値の測定方法には、調整法、極限法、恒常法、単純上下法、変形上下法などがある。
  
  a)調整法(method of adjustment)
 被験者自身が刺激の次元を連続的に変化させて、刺激の変化を観察しつつ測定を進める方法で、被験者の反応が刺激変化としてフィードバックされる。PSEなどの等価刺激を測定するのに用いられる。実験者が刺激を十分な閾上または閾下のランダムな出発値を設定し、被験者がダイヤルを回転させるなどして調整していく。上昇的調整では閾下から出発し、下降的調整では閾上から出発する。呈示する刺激範囲は予備実験などであらかじめ決めておく必要がある。測定を数回繰り返し平均値をとる。被験者にも理解しやすい方法であるというメリットと短時間で測定できるメリットがあるが、被験者の意図が入る可能性や連続的に変化させられる刺激の場合にしか用いることができないという短所もある。残像やadaptationの影響も受ける心配がある。
 
  b)極限法(method of limits)
 実験者が刺激の次元を一定の間隔で変化させて測定を進める方法。閾値を測定できる。実験者は測定に入る前に刺激値を十分な閾上または閾下にランダムに設定しておく必要がある。実験者が刺激値を段階的に変化させていき、被験者の反応を記録する。刺激値を変化させる方法には上昇系列(ascending series)と下降系列(descending series)があり、上昇系列では閾下の刺激値から、下降系列では閾上の刺激値から出発して、測定を繰り返し反応の変化する刺激値の平均をとる。上昇系列と下降系列は順序による効果を除くため半数ずつ行う。呈示する刺激範囲と刺激変化の間隔はあらかじめ予備実験などで決めておく必要がある。所要時間が比較的短く容易に実施できるメリットもあるが、慣れの誤差や期待誤差の影響を受けるという問題点がある。
 
  c)恒常法(constant method)
 実験者が、刺激の次元を一定の間隔に変化させてあらかじめ刺激を決めておき、それをランダムに呈示して測定を進める方法。極限法と異なるのは、刺激値の増減が一定方向ではないという点である。よって被験者の慣れや期待による誤差を取り除くことができるが、測定に時間がかかる。閾値を測定するには、あらかじめ決めておいた数個の刺激をランダムに呈示した後、それぞれの刺激に対して出現確率を求め、閾値としたい出現確率となる刺激値を推定値とする。推定値が直接求められない場合は、psychometric function(刺激強度と判断出現確率の関係)から、直線補間法(method of linear interpolation)、正規補完法(normal interpolation procedure)、正規グラフ法(normal graphic procedure)や、それよりも正確な最小二乗法(method of least squares)による推定を用いる。
(参考)
 直線補完法とは、閾値としたい出現確率の前後の測定値を利用して単にその間を直線で結び算出する方法である。正規補完法とは、閾値としたい出現確率の前後の値をz-値に変換してから、刺激強度とz-値の関係を表すグラフを使って直線補完する方法である。さらに正規グラフ法は、閾値としたい出現確率の前後の値以外の測定値も考慮して行う補完法である。最小二乗法は、正規グラフ法を更に正確にするために、理論値と測定値の差の二乗和を最小にする直線上で推定する方法である。
 
  d)単純上下法(simple up-and-down method)   
 段階法(staircase method)とも呼ばれる。刺激操作は実験者の側にあり、極限法と同様に、刺激強度の変化する方向は上昇系列と下降系列があり、その変化の幅は一定である。測定では、反応変換点を境に、上昇系列と下降系列を交互に繰り返される。上昇系列と下降系列の繰り返しは既定の回数や基準に達するまで行う。閾やPSE近くの刺激が被験者に常に提示されるので、被験者にとっては緊張が続く方法である。閾は、反応の変換点にはさまれた範囲にあるため、上下の変換点の平均値を推定値とする。
   
  e)変形上下法(transformed up-and-down method)
 UDTR法(up-down transformed respnose)とも呼ばれる。単純上下法を発展させた方法で、一度の反応に対して上昇系列や下降系列を繰り返すのではなく、数試行前の反応を考慮して上昇系列や下降系列を繰り返す方法。決めた反応パターンの出現を待ってから上昇系列か下降系列かを決めるため、単純上下法よりも測定回数が増える。

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