デビルマン」が如何に酷いか

※本稿はナメた商売をしてる東映の「デビルマン」を観に行かせないために記すものでネタバレへの配慮なんか知っちゃいない。てゆーか、永井豪の「デビルマン」を読んだことない人には、おれが何を言ってんだかまったく判んないと思うけど。 ● まず最初にいえるのは圧倒的に画が足りないということ。今回、カメラマンがロマンポルノ以来の那須の盟友=森勝じゃないせいもあって、画面がどうしようもなく貧弱で安っぽいのだ。SF映画は画だ。「デビルマン」が2時間を費やして描きだしたイメージは、ハリウッド版デビルマンこと「ヘルボーイ」の、ハルマゲドンを幻視するわずか数秒のシーンの素晴らしさに及ばない。だいたいこの映画、「不動明の部屋」と「家の前」と「学校」と「教会」と「アメリカのショッピング・モールを猿真似したチンケな商店街」が全世界で、ロケ&美術費用の節約だかなんだか知らないがそれ以外の場所はほとんど描かれないのだ。ご近所SFかい! 藤子不二雄じゃねーんだぞ。 ● いちおう本作にもフルCGによるハルマゲドンのシーンはあるのだが、そこに至るまでの人間社会の崩壊の描写が(「世界中で戦争が起こった」という台詞ひとつで)すべてすっ飛ばされてしまうのだ。申しわけ程度に描かれる原爆が街を焼き尽くす描写は「ターミネーター2」の有名なカットの劣化コピー。言っとくけど「ターミネーター2」は13年前の作品だぜ? そうして(原作漫画の有名な人体竜巻のイメージを借用しているものの、そこに有るべきグロテスクで異様な迫力のカケラもない)ハルマゲドンの戦いがちょろっと描かれて、次にやはり原作の有名なラスト「岩場に横たわる飛鳥了=サタンと、下半身のない不動明=アモンとの会話」のシーンが、神々とデーモンの戦いについての言及をまったくせず、ただ絵ヅラだけで再現されて、したがって神の軍団は降臨せずにフェイドアウト。しかもそれがラストシーンではなく、なぜか生き延びた半獣の女子高生と小学生が「滅びた世界」で力強く生きていくことを宣言してカメラがぐんぐん引くと──なんだよなんだよ、まだ周辺に人体竜巻がいくつも立ってんじゃんかよ。てゆーことはまだ最終戦争終わってないじゃんかよ! ● しかも「神との対決」の主題から逃げてるくせに、日本政府の組織した「デーモン撲滅部隊」のマークがなんと「ダビデの星の中央に十字架を配した」ものであるという無神経さ。劇中ではこのシンボルマークが「悪魔が発生して封鎖された家屋」に(第二次大戦下のナチスドイツにおけるユダヤ人商店のように)デカデカと記されるのだ。おまーら世界中にケンカ売ってんのか!? 撮影中にだれか1人くらい「このマークってヤバくないスか?」と言うやつはいなかったのかよ。こんなもの40ヶ国に輸出して国際問題になっても知らんぞ。 ● この「デビルマン」では、南極の氷に閉じ込められていたデーモン(=巨大な精子のようなゼリー状のおたまじゃくし)が、新エネルギーを研究開発していた飛鳥博士(=飛鳥了の父)によって誤って解き放たれてしまい、デーモンは寄生生物のように人体を宿主として復活するという設定になっている。そこまではいい。おれだって原作を一言一句いじっちゃイカンなどとは思っておらん。だが、その飛鳥博士に本田博太郎を配するというキャスティングはどうなのよ? これに限らず牧村夫妻を(芝居のド下手な)宇崎竜童&阿木燿子夫妻に演じさせたり、意味も必然性もなく ただニギヤカシのためだけにボブ・サップ小林幸子小錦が出てきたりすんのは、観客が物語に没頭するのを阻む不要な雑音をもたらすだけだと思うんだが。てゆーか、せっかくボブ・サップを出すんならジンメンでも演じさせればよかろうに。本田博太郎をキャスティングするんなら「牧村家を襲う自警団の団長」にこそ(きたろうなんかじゃなくて)こういうアクの強い人を配するべきだろうし「牧村美樹を殺すタクシー運転手」こそ遠藤憲一あたりに悪鬼のような形相で演じさせるべきではないのか。 ● 話を戻すと、父がデーモンに合体されてしまった了が、不動明を連れて来てそこで明も一体のデーモンに合体されてしまう「(かぎりなく棒読みで)ああおれデーモンになっちゃったよ」「違うよデビルマンだよ」「デビルマン?」「体はデーモンだけど心は人間だ。ハッピーバースデー、デビルマン!」 おれがプロデューサーだったらこんな台詞を書いてきた脚本家は階段から蹴落とすね。 てゆーか、なんで明だけはデーモンに心身ともに支配されず自分自身を保つことが出来たのか(=どうしてデビルマンになったのか)を説明しろよ! ● でまた明と了に扮した(女子高生みたいな華奢な太腿の)この双子アイドル──おれの目には「ちょっとハンサムな時任三郎」にしか見えないん──だが、なるほど、明と了を双子にするって手はアリかなと思っていたら、なんと劇中で2人は双子じゃなくて「顔のそっくりな赤の他人」という設定なのだった。なんだそれ!? 予告篇を観て、演技の酷さは覚悟してたけど、それでもとくに明を演じたほうの「あああああああああ!」という棒読みの絶叫にはマジで背筋に悪寒が走ったぜ。明がTVアニメ版の「胸に(明のイニシャルの)Aのワンポイントのある黄色い半袖Tシャツ」を着てるのも謎。なに?あれで原作リスペクトのつもりなの? 「牧村の叔父さん」こと宇崎竜童はふとした拍子に、明の袖の下に隠されたデーモンの鱗に覆われた腕を見てしまう。だがかれは慌てることなく「おれは変わらんよ。(君がデーモンだと知っても)明日も今日と同じだ。……美樹もそう育てたつもりだ」と言う。そしたら明がいきなり「お父さん!」……ってギャグかよ! しかもその後のシーンでまた明はへーきで例の黄色い半袖Tシャツとか着てるし。鱗はどーしたんだよ鱗は! この現場にはスクリプター(記録係)は居ないのか!? ● 「人類を守る」という不動明に対して、人間たちがデーモンを情け容赦なく惨殺していくさまを見た飛鳥了は「人類への報復」を宣言するんだけど、この報復ってのがいきなり両手にマシンガン持って機動隊に突っ込んでいくのだ。あんたサタンなんだから本来の姿に変身して悪魔の力で人間どもを蹴散らしなさいよ! しまいにゃ(何の説明もなく)警備員コスプレして物陰から警官を狙撃したりしてるし。ずいぶんスケールの小っさいサタンやなあ。あとそもそも、その「機動隊がアジトを急襲してデーモンを虐殺する」シーンでは、人間の姿をしたデーモンたちが撃ち殺されると一瞬だけ変形してから死んだりするんじゃなくて、ここははっきりとデーモンの姿をした(=異形の)者たちを「それが異形の姿をしてるから」という理由で大量虐殺する地獄のようなさまを見せなくては意味がないではないか。小錦に「デーモン万歳!」と叫ばせて蜂の巣にしてる場合じゃないよ。「デビルマン」におけるデーモンというのは過激派や反政府テロリストの暗喩じゃないんだからさ。あんたらの学生運動の思い出かなんか知らんけど、変に物語を卑小化すんのはやめてくれないか。あと関係ないけど、そのシーンで女子アナにじゃれついてた山海塾デーモンは何かの冗談ですか? ● 同様の問題は、どうやら那須夫妻が最も思い入れしてるらしい「川本」という苛められっ子の女子高校生──「ミーコ」という役名らしいが劇中ではそうは呼ばれない──にもある。彼女はデーモンに合体されながらも(明と同様に)人間の心を失わずにいる(なぜ彼女だけが特別なのかは、やはり説明されない) 最初に教室で苛めっ子のクラスメイトから服の片袖をちぎり取られて、デーモンの寄生した醜い片腕を見られてしまうのだが、あそこは片腕とか生ぬるいこと言ってないで上半身ハダカに剥くべきだろうよ。乳が見たいって言ってんじゃねえぞ(どうせ特殊メイクで隠れちゃうんだから) デーモンが異形であるゆえに迫害されるさまを描くためには、若くて可愛い娘さんの白い裸身にデーモンがのたくった醜い姿を見せるべきではないのか、と言ってるのだ。 ● このあと「川本」はデーモンと間違えられた小学生(ススム君!)を保護して、デーモン撲滅隊と戦って「わたしたちじゃない。悪魔はおまえら人間だ!」という非常に重要な台詞を吐くのだが──この台詞を明ではなく彼女に振っていることからも、那須夫妻のこのキャラへの思い入れは明らか──その決定的な台詞を言うときの彼女は人間の姿のままなのだ。しかも(なぜか)ユマ・サーマンばりに日本刀を振り回してるし。ダメじゃん。何もわかってないじゃん>那須夫妻。この娘、冒頭に述べたみたいにラストシーンまで生き残って、しかも(なぜか)腕もキレイになって人間に戻ってるみたいだし。説明しろよ説明を! ● 那須夫妻がほんとうに何ひとつ「デビルマン」を理解していないのだということは、すべてフルCGで描かれるジンメンの挿話で明らかになる。デビルマン=不動明に殺されたジンメンは信じられないというように「デーモン同士は殺しあわないはずじゃないのか?」とホザくのだ。えーと、マジでバカですか?>那須夫妻。するってーとアレですかい。あなたがたの「デビルマン」史観では、デーモン族ってのは仲良く平和に暮らしてたところを不慮の事故で南極の氷に閉じ込められた不幸で善良な種族ってことになってんですかい? おまーら今から漫画喫茶行って、原作あと百回読んでこい! ● かように酷いことづくめの「デビルマン」であるが、ヒロイン=牧村美樹を演じた酒井彩名にだけは及第点をあげてもいいかなと思う。出たよ。まただよ。あ、いや、もちろん御存知の修羅場を演じきるには演技力不足なんだけど、悲劇のヒロインの可憐さは出てたんじゃないかと……。彼女を襲う悲劇のなかで最たるものは「酷い脚本」である。家に暴徒が押しかけて、親が階下で酷い目に遭って殺されようとしてんのに、娘は二階のベッドに寝転んで「明クン……」とかうっとり呟いてるのだ。可哀想になあ。頑張っても報われない現場だよなあ。 ● なにかと話題のシレーヌ=冨永愛だが、パリコレの一流モデルをキャスティングできたという嬉しさからか知らんけど、悪魔の役なのに顔は特殊メイクなしの冨永愛のまんまで、髪は黒髪のままなのだ! せめて悪魔メイクとか髪を染めるぐらいしろよ! あと悪魔なんだからカラテ/柔道の構えはやめて。それと不動明はデビルマンだから(人間50%:悪魔50%の)着ぐるみ時と(悪魔100%の)CGの2段階変身でもいいけど、シレーヌは最初っから悪魔100%なんだからコスチュームがコロコロ変わる──着ぐるみ時は「白鳥の湖」みたいな白い羽毛のコスチュームで、CGになると胸と下腹部に長い毛の生えた半裸になる──のは変だろ。てゆーか胸毛ってなんなんだ胸毛って! どーせCGの贋巨乳なんだから見せりゃいいじゃねーか。このシレーヌってキャラは原作ではかなり大きな役なんだが、本作では序盤にちょろっと出てきてちょろっと(CGで)戦って、その結果がどうなったか描かれぬまま最後まで二度と登場しない……。 ● 「着ぐるみとCGの2段階変身でもいい」とは書いたが、着ぐるみは着ぐるみ、CGはCGとはっきり分かれてしまってるのはいかにもマズい。たとえば不動明の「着ぐるみデビルマン」は、首のところに着ぐるみスーツとの分かれ目がハッキリと写ってしまっていて興醒めもいいところ。当初の公開予定を4ヶ月も延期したんだから、CGでスーツの線を消すとかヌルヌルを描き足すとかしろよ。新聞の批評などではほかに褒めるところがないせいか「CGは健闘」などと書かれているようだがトンでもない。騙されてはいけない。本作のCGパートの出来は実写パートに劣らずとも勝らぬ酷さである。そもそもデビルマン(アモン)とサタンの顔が双子アイドルとまったく似てないんだけど、いいわけそれで? 双子アイドルって誰よりも先にキャスティングされてたんじゃなかったの? ● もうね。ともかく酷いよ。とてもじゃないが笑って許せる範囲じゃないので、間違っても観に行かないほうがいいぞ。