「8mm」のルール違反(ネタバレ)

亡くなった大富豪の隠し金庫から出てきた8mmのスナッフ・ポルノ(本物の殺人を写したポルノ映画)の真偽の調査を、富豪の未亡人が私立探偵(ニコラス・ケイジ)に依頼する。老いた妻には愛していた夫が“そんな物”を所有していたなんてとても信じられないからだ。だが、真相はやはりスナッフ・ポルノは本物で、それは“快楽のために行われた殺人”を記録したもので、富豪自身が資金を提供して製作されたものだった。富豪は自らの快楽のために16才の家出娘を殺させたのである。探偵はためらわずに真相を未亡人に伝え、未亡人はそれを苦に自殺する。 ● 捜査の過程で私立探偵は殺された娘の母親に会う。探偵は6年間 娘の帰りを待ちつづけている母親に向かって苦渋に満ちた表情で「娘の居所がわからぬまま何処かで幸せに暮らしていることを祈っているのがいいか、それとも例え娘が不幸な結末を迎えていたとしても真実を知りたいか」と決断を迫る。母親は震える声で真実を知りたいと答える。やがて真相が明らかになると、探偵はポルノ映画の製作者を殺人現場に縛りつけておいて、ベッドで寝ていた母親を電話でたたき起こして「あんたの娘は犯されて殺されて埋められた。おれに復讐する許可をくれ」と強要する。取り乱した母親がイエスと答えると、探偵は製作者を拳銃で何度も何度も殴りつけて殺す。次に探偵は主演俳優(直接の殺人犯)を捜し当てて、こいつも殺す。探偵は自分の魂が汚れてしまった気がするが、最後に殺された娘の母親から感謝の手紙を貰い救われる(これがラストシーン) ● これらは(少なくともメジャー・スタジオの娯楽映画では)やってはいけない事である。さすが「セブン」で連続殺人犯に、ブラッド・ピットの妊娠している妻の首をはねさせた脚本家だけのことはある極悪非道ぶりだ。無節操な「8mm」と比べると、「セブン」のデビッド・フィンチャー監督には何を描かないかに厳格な抑制があったことがよく判る。 ● また、“NYを根城にSM映画でカルトなファンを持つ芸術家気取り”の監督は、おそらくジェラルド・ダミアーノあたりがモデルだと思われるが、この映画ではそういったパッケージ・ソフトを作っているポルノ映画製作者(いわば「8mm」の製作者とは同業者)と、非合法な鬼畜映画をビジネスとしている犯罪者とを同一視して描いている。これぞ、まさに問わず語りではないか。「ええ、私たちは金のためにはどんな汚いマネでもするんですよ」と自白してるようなものだ。

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