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thEatricals2003.10.03
シベリア少女鉄道 vol.8
「二十四の瞳」

2003/09/13 @ 三鷹市芸術文化センター 星のホール
D列18番

9月13日土曜日。晴れ。
半月遅れの夏が到来といった感じの、体に刺さるような日差し。
2回目となる三鷹市芸術文化センターまでの道のりをこの陽気の中の進むのは軽いいじめのような気もしました。
芸術文化センターの近くには神社がありまして、ちょうど当日はお祭りのようでありました。
遠くから聞こえてくる太鼓の音。
神社の境内にはそこそこの数の屋台が出ていて、子供たちが楽しそうにしている姿を見ることができました。
暑い中にもちょっとした和みの風景でありました。

さて、回を追うごとに話題性が増している小劇団「シベリア少女鉄道」。
前作『笑ってもいい、と思う。2003。』のパルテノン多摩小ホールに続いての中規模会場での公演となります。私は前作の多摩での公演は見ていないので、少し規模の大きくなった会場で、どのような作品が見られるのか非常に楽しみにしていました。
そんな思いもあり、さらに今回は全席自由ながら整理番号なしという入場方法だったので、いつもとは違って開場5分前に向かうという気合の入りよう。いつも開演ギリギリになって下北沢を走っている私とは大違いです。
しかし私は甘かった。シベリアファンをなめていました。
開場5分前にして既に80人以上が並ぶ長蛇の列。
その行列に驚きながら列の最後部につくと、次々とお客さんがやってき続けます。
結果的に開場時の1時30分には、100人以上もの行列が完成していたのであります。いやぁ、すごい。
私は何とか4列目の中央右端というまずまずの席を確保。
男女比はいつもの王子と変わらず、圧倒的に若い男性が多いです。比率は7:3ぐらいでしょうか。
出演者の家族の方と思われる年配の方もちらほら。
王子の時にもいた席の誘導などをしてくれるスタッフはしっかりとしていて、こういう細かい気遣いも嬉しかったり。
あと、会場内のBGMはやはりいつも通りのJ-POPでした。いや、別に悪いわけではないんですけども。

●パンフレット
物販はありませんでした。

●セット
青で統一されたかなり広めのリビング。
右手には台所へとつながる設定のアーチ。
中央奥には白い両開きの扉。その左隣には暖炉。さらにその左隣には1脚の椅子。
左手には階段が見えるアーチ。その先は玄関へとつながっている設定です。
中央にはテーブルが置かれていて、その周りに2人がけのソファがひとつと椅子が3脚。
ソファの横には小さな台が置かれていています。
壁にはたくさんの額縁がかけられています。
そんな額縁の中や、舞台上に置かれた柱にはカメラが仕込まれています。その数11台。
最後にセットの図上に2枚のスクリーンが並べられています。
カメラの数からして、大掛かりな仕掛けがイメージできますが、セットとしては少々殺風景で大味な印象もありました。

●ストーリー
菱沼家の当主であった菱沼孝文(横溝茂雄)が亡くなった。
その事を知った孝文の子供たちは、孝文が生前住んでいた洋館へと遺産相続の話し合いをするために集まった。
集まったのは長男で市会議員を務めている孝平(藤原幹雄)、次男で弁護士をしている和孝(吉田友則)、その妻の真理子(秋澤弥里)、長女で会社を経営している睦美(水澤瑞恵)、そして妾の子供である野村孝司(前畑陽平)。
孝文は生前から陰険な性格の持ち主であったらしく、子供たちは揃って孝文のことを憎んでいた。
それを知っていた孝文は、妾の子供である孝司に死ぬ直前になって自分の子であると認知し、遺産相続争いに加わらせた。なぜなら、子供たちに簡単に遺産を分け与えないためだ。
しかも孝文の策略はこれだけではなかった。遺産相続に関して更なる遺言を残していたのである。
それは、遺産相続の分配を館の使用人である浅田朝子(染谷景子)に一任するというもの。ただしそれには但し書きがあり、遺産を相続する人間の数が4人を超えた場合は、朝子に遺産分配の権限はなくなり、法律に基づいた分配を行う。この一文によって朝子自身は遺産を受け取ることはできないという制約ができた。
今まで妾の子供として、母親の女手ひとつで育てられた孝司は、菱沼家の人間に並々ならぬ憎悪を持っていた。孝司の望みは1つ。菱沼家の子供の誰よりも多く遺産をもらうこと。
睦美は自分の会社の経営が思い通りに動いておらず、今回の遺産で会社を立て直す予定だった。そこへ突然顔を出した孝司が邪魔で仕方がない。相続人が1人増えるということは、自分が本来もらえるはずの遺産が減ってしまうからだ。その思いは選挙資金で困っている孝平も同じこと。
和孝はさほど金には困っていなかったが、突然相続争いに加わり、無茶を通そうとする孝司にいらだっている。
4者4様の思惑が入り混じり、4人はありとあらゆる手を使って朝子に自分に有利になるような遺産分配をするように策略する。本来ならば禁止されるべき行為ではあったが、先ほどの遺言にはこういうことも書かれていた。朝子に対して遺産分配を求める方法は、買収、恐喝など手段は選ばなくていい、と。
こうして孝文の思惑通り、遺産相続争いは醜く展開していく。
それを見つめていた真理子は徐々にこの争いに耐え切れなくなってきていた。
先ほどの遺言に書かれていた但し書きには、真理子にとって別の深い意味が隠されている。
今、真理子は妊娠をしている。しかしそれは和孝の子供ではない。孝文の子供なのだ。もちろん孝文はその子供も認知済みである。
このことを告白してしまえば、遺産の相続人は5人となる。和孝との結婚生活には大問題となるが、少なくとも今の争いを止めることができるのだ。
しかし、真理子の子供について事前に知っていた朝子はそのことを口にされてしまわれては困る。大金に目がくらみ、正常な意識を失っていた朝子は、いきなりナイフを掴むと真理子の喉元にその刃を突きつける。告白をするんじゃない、と。
これで館にいた全員の何かが壊れてしまった。
血みどろの遺産争いは、本物の血を流し始める。

●感想
上演時間は約75分。内訳はネタ振り55分、オチ15分、おまけ5分。
久しぶりに大笑いをさせてもらいました。
いや、本当にくだらない。馬鹿馬鹿しいにもほどがある、という感じです。
ただ、ネタ振り部分とオチの部分では見ているものが全く異なってしまうため、観劇後は芝居を見たという気がしないというおかしな感覚が生まれます。ていうか、オチ部分のストーリーが全然分かんないのね。オチの部分に集中してしまうから。なので、上で一生懸命あらすじを書いてもまったく意味をなさないというこのなんともいえないジレンマ。まあ、それもこれもみんなひっくるめてシベリア少女鉄道という劇団なのでしょう。
とりあえず、この劇団にはこのまま突っ走っていってもらいたいです。ネタがなくなるまで。
芝居の部分について言えば、間違いなく役者さんの演技力は向上していると思います。
ただ、箱が大きくなった途端、声が聞こえづらくなってしまうのはちょっと問題。発声練習をしっかりすべきだと思いました。

●役者
染谷景子さん。典型的なドジキャラクターでメガネっ子という、その筋の人(?)にはたまらない役柄。いや、嫌いじゃないです、私も。後半部分の冷徹なキャラとのギャップの大きさが気にはなりましたが、まあこの台本では仕方がないのかなという気も。ロビンマスクの声はいい線いっていたと思いました。もう少し練習すれば、ドズル・ザビやサタンや江田島平八やなんでも鑑定団のナレーションもできるようになると思います。
横溝茂雄さん。初見だったのですが、何よりも声が出ていなかったのがきつかったです。何とも言えない陰険な雰囲気は出ていたので、佇まいに問題はなかっただけに残念です。
藤原幹雄さん。藤原さんはどんな役をやっても藤原さんなんですよね。今回は割と印象の薄い役どころだったんですが、おいしいところはしっかりチェックしているあたりはいやらしいというか。
吉田友則さん。今回は弁護士ということで難しい台詞回しが多かったのですが、何とかこなしたという印象。でも何よりも印象に残っているのは死に顔です。それだけで今作のMVPを差し上げたい!
秋澤弥里さん。土屋さんはどうも秋澤さんには、明朗で快活なんだけど裏には闇が隠されている女性像を演じさせるのが好きみたいです。それがイマイチだとは言わないんですが、もう少し役柄にも幅を与えて欲しいなという気も。あとスクリーンにアップで映った瞳はヤバいです。吸い込まれます。
水澤瑞恵さん。気性の激しい、ちょっと嫌な女を一生懸命演じているという印象。気持ちはわかるのですが、台詞をちょっと噛みすぎ。もう少し落ち着いてもいいと思いました。
前畑陽平さん。「笑ってもいい〜」よりも格段にうまくなったと感じました。ただ、色々な映画やドラマで見られる嫌なやつどまりだったのが残念。前畑さんなりの個性も打ち出して欲しい。
土屋亮一さん。今回土屋さんは役者としては登場していないのですが、一言だけ。役者のおいしい部分を演出家がかっさらうやり方はあまり好きになれません。裏方に徹するならば、とことん徹するべきです。


いやぁ笑った笑った ★★★★★


− 公演データ −

シベリア少女鉄道 vol.8
「二十四の瞳」

2003/09/12〜2003/09/15@三鷹市芸術文化センター 星のホール
全席指定 前売・当日9000円

- STAFF -
作・演出:土屋亮一
演出補:染谷景子 舞台監督:谷澤拓巳 音響:中村嘉宏(atSound)
照明:伊藤孝 映像:富田中理(selfimage produkts)
舞台美術:齋田創+突貫屋 宣伝美術:土屋亮一
小道具:辻本直樹 制作:渡辺大ほか 制作協力:TWIN-BEAT

- CAST -
染谷景子
横溝茂雄/藤原幹雄/吉田友則
秋澤弥里/水澤瑞恵/前畑陽平
土屋亮一
 

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