m a k e s h i F t
thEatricals2003.08.20
PARCOプロデュース
「WEE THOMAS」

2003/08/16 @ PARCO劇場
D列17番

8月16日日曜日。雨。
今年4回目となるパルコ劇場。いい加減、公園通りの人の多さにも慣れたと思っていましたが、夏休みは雨とはいえ人手が違いますね。ていうか、ディズニーストア前に人がたまりすぎです。邪魔です。私は背が高いので、みんなが差している傘が普通に頭に刺さったりするんですよ。おかげで傘差してるのになぜか濡れているという嫌な状態に。

いつものようにエレベーターに乗って、チケットを渡して、パンフレットを購入してと毎回トレースしているかのように同じ動きをしていて、ふといつもとは違う違和感を感じます。どうも今日の劇場内はいつもよりも人が少ない感じがします。
実際に劇場内に入って確認。お客さん入ってません。特に後ろ5列は完全な空席。入りは7割弱といったところでしょうか。
いくらお盆とはいえ、土曜日にこの入りでは興行的にはどうなのでしょう。
客層は若い女性の友達連れがメインといったところでしょうか。
私は7列目のど真ん中という最高の座席。
この作品はイギリスでロングランを果たし、オリヴィエ賞のベストコメディ賞を受賞したという作品を阿佐ヶ谷スパイダースを率いる演出家、長塚圭史が演出をしたという話題作です。ただ、公演パンフレットには血しぶきが飛び交い、R−15指定と書かれるなど、ちょっと内容が不気味な気もしましたが、その予感は見事に当たってしまったわけでして……

●パンフレット(A4版 32ページ 1300円)
クリーム地に朱色に印刷された十字架がデザインされています。内容は演出家長塚の挨拶、各キャストへのインタビュー、行定勲氏と長塚の対談、出演者全員による対談、稽古場風景など。各キャストのインタビューページの欄外には三神弘子さんの寄稿、話の舞台となっているアイルランドの歴史などの簡単なコラムがついています。

●セット
海岸沿いに建てられた年代を感じさせる石造りの家がメインセット。
家は舞台中央に配置されています。室内は板張りで、気持ち手前に傾斜しています。左手にはロッキングチェアとオレンジ色の電話機が置かれた台。その横に外へと繋がるドアがあり、そのドアをはさむように2枚の窓が配置されています。部屋の中央には木で出来たテーブルと3脚の椅子。その内の1脚は丸椅子です。ちょうど部屋の角となる奥の部分には、本や缶などが雑多に置かれた棚があり、その横に大きな暖炉があります。さらにその隣には1人がけのソファが置かれています。さらにその右手は1段下がった一回り小さなフロアになっていて、そこにあるドアから風呂場へ行くことが出来ます。
家の玄関から外へと出た部分は岸壁になっていて、左手に階段があります。どれも石で組み上げられていて、年月を感じさせる汚れがデコレーション。
その前のスペースが外の通りという設定です。

●ストーリー
舞台は1993年のアイルランドにあるイニシュモア島。
ダニー(板尾創路)は机の上に置かれた、頭を半分吹き飛ばされた黒猫の死体を多少呆然とした表情で見つめていた。この黒猫は近所に住むデイヴィー(中山祐一朗)が道端に転がっていたのを拾ってきたものだ。この黒猫の名前はウィー・トーマス。そしてこの猫の飼い主はダニーの息子で過激派反政府グループ・INLAの中尉を名乗るパドレイク(北村有起哉)。パドレイクは父親であるダニーすら脅える狂暴な男だ。もし、唯一無二の親友として可愛がっていたウィー・トーマスが、こんな風に死んだことを知れば、どんな目に合わされることか。ダニーとデイヴィーは、ウィー・トーマスは体調が少し悪いようだと、パドレイクに嘘の連絡をすることを思いつく。ただし決して家に戻って様子を見るほどのものではないということを強調し、何回かに連絡を分けて、最後には眠るように死んでいったと伝えるという筋書きだ。
その頃パドレイクは北アイルランドで1人の男を拷問していた。その男、ジェイムス(保村大和)は子供たちにドラッグを売りつけていた。それが拷問の理由。そこへダニーからの電話が入る。パドレイクは電話でウィー・トーマスの調子が良くないということを聞いて慌てふためく。そして、ダニーの言葉を最後まで聞く前に島に戻ると告げて携帯電話を床に叩きつけた。事情を知ったジェイムスは自分も猫を飼っていると嘘をつき、でっちあげで猫の治療法をパドレイクに教える。こうしてジェイムスはようやく開放され、パドレイクは急ぎ故郷イニシュモアへと向かったのであった。
一方、デイヴィーはパドレイクが戻ってくるということで、慌ててウィー・トーマスに似た黒猫を探す羽目になる。そこへ妹のマレード(佐藤康恵)が空気銃を携えてやってきた。彼女はパドレイクに憧れの念を持っており、噂でウィー・トーマスをデイヴィーが殺したと聞きつけ、60ヤード離れた牛の目を打ち抜くという腕前でもって、デイヴィーを襲いに来たのだ。なんとかマレードの攻撃をかわして、デイヴィーは1匹の猫をダニーの家に連れてくる。しかしその猫はウィー・トーマスとは似ても似つかない。何せ毛の色が茶色なのだ。町中を探して黒猫を見つけられなかったデイヴィーは、苦肉の策でマレードが大事にしている飼い猫サー・ロジャーを連れてきたのである。ダニーとデイヴィーは、サー・ロジャーをウィー・トーマスに仕立て上げるべく、靴墨でサー・ロジャーの体を黒く塗りたくる。
同じ頃、INLAのメンバーであるクリスティ(三宅弘城)、ブレンダン(加藤啓)、ジョーイ(六角慎司)の3人は翌日の予定を再確認していた。彼ら3人はINLAのサポートをしてくれている麻薬密売人までも拷問にかけるパドレイクに反感を持っていた。そして遂にパドレイクの暗殺計画を企てる。実はウィー・トーマスを殺害したのは彼ら。パドレイクをイニシュモアに呼び出すために行った綿密な計画だったのだ。
そんな複数の人々の思惑など知る由もなく、パドレイクは遂にイニシュモアへと戻ってきた。

●感想
上演は約2時間。
開演前に少しパンフレットを見たんですね。
で、演出をした長塚さんの挨拶文を読んでいたんです。
内容は長塚さんのご実家にいる猫のお話なんですよ。で、最後のこういう文があるんです。
『イギリス上演時、抱腹絶倒を巻き起こしたコメディ『ウィー・トーマス』(現代は『イニシュモアの中尉』)。歴史も文化も宗教観も違う日本では「コメディ」という範疇とは別のところに辿り着いたかと思います。何でしょうね。B級スプラッタ劇場なんですかね』
え? B級スプラッタ劇場?
わたしゃ、そういった類のものが苦手なのであります。何でこういうときに限って良席なのかと少々頭を抱えつつも、チケット代が勿体ないので、肝を据えて観劇したわけです。
いや、凄かった。演出家の言葉に嘘はなかったですね。
次々と人は死ぬし、頭は転がる、内臓出る出ると大盤振る舞い。
弾着も非常にリアルで、六角さんの死に様は見事というしかありませんでした。そういえば、帰りのエレベーターの中で「六角の死に様はあまりにひどくて悲しかった」という言っていた女性がいました。それぐらいリアルな死に様でありました。ただ三宅さんの弾着が、シャツの隙間から少し見えていたのは興醒めという感じ。
そんな血みどろな内容でしたので、最前列で見せられるのは非常に辛かったと思います。事実、途中で1人の女性が席を立っていらっしゃいましたし。
私は大丈夫だったかというと、割と平気でした。さすがに凝視するといったところまでは出来ませんでしたが、スプラッタシーンも冷めた目で見ていられました。強くなったのでしょうか?
まあ、そういうやたらと目にいく部分はこれぐらいにして、話自体は非常に面白かったと思います。
ただ、この演出が正解だったのかと言われると疑問符を出さないわけにはいかないです。
別に死体を転がさなくても、1993年という時代に自ら中尉と名乗り、殺しや拷問で政治を動かしてやろうとするパドレイクの生き様だけでも十分コメディとして成立している気がするんです。まあ、パドレイクの性格が極端ですから、死人が出るのは仕方ないとしても、その殺人をリアルな描写で描くことによって、個人の思惑や背景なんかがぼやかされてしまっては、本末転倒な気がします。
これはこれで1つの作品としては完成しているのでしょう。
でも、まったく違う視点で描かれた作品を是非見たいと思わせる出来でもあったわけです。
あと実際の猫ちゃんたちは非常に可愛らしかった。でも猫好きにとってもキツい作品でもありましたということを付け加えておきます。

●役者
板尾創路さん。中山祐一朗さん。今作ではこの2人はセットだと言い切ってもいいでしょう。下手すれば血みどろの殺戮劇という印象で終わる恐れもあったこの話のストーリーの印象をすっきりとしたものへと方向転換してくれたのはこの2人のおかげです。血みどろのスプラッタ場面もこの2人の何気ない演技にどれだけ救われたことか。それでも正直最初のシーンは違和感の方が強かったんです。板尾さんはテレビで見るまんまの演技で、整っていない灰色の髪に無精ひげというワイルドな風貌とは全然マッチしない。中山さんも明らかに似合わない長髪に、翻訳劇特有のフルネームでキャラクターを呼び合うという違和感に乗せられてどうにも居心地が悪い。2人の息もとてもあっているようには感じられない。違和感ばかりが印象に残るものだったんです。ところがストーリーが進むにつれて2人のキャラクターへの違和感は消え去り、逆に2人が作り出す空間が居心地よく感じられて来たんです。いやぁ、本当に素晴らしかった。間違いなく、今作のMVPであります。
北村有起哉さん。傲慢で狂暴な性格の時と、ウィー・トーマスの話になった時の弱々しい時のギャップの演技は見事な落差だったと思います。ただその落差の割にはウィー・トーマスの死体を扱う様が少々雑だったのが残念です。もっと馬鹿丁寧なぐらいの方がよかったと思います。猫好きである私といたしましては。
佐藤康恵さん。最初見たとき、あまりにイメージが違って驚きました。聞けばこの役のためだけに初めてショートカットにしたのだとか。しかも17歳という年齢を表現するためにさらしまで巻いていたとのこと。どうりで、胸がぺったんこだと……ごにょごにょ。確かにこの芝居にかける熱意は感じられました。でも声が駄目ですね。全然通っていないです。途中何度も聞き取れない台詞がありました。もう少し発声練習をした方がよろしいのではないかと。
三宅弘城さん。三宅さんの緩急ある芝居は見ていてとても安心できます。今作でも適度な笑いを間にはさんで、単調な展開にリズムをうまくつけてくれていたと思います。死体のシーンはお疲れ様でした。
六角慎司さん。ジョビジョバでもどちらかといえばいじられキャラという印象が強いので、今回の役はピッタリだった気がします。でも出番が少なくて、唯一の見せ場が死ぬシーンだったのは残念です。
加藤啓さん。六角さんと同様に、見せ場が少なかったのが残念です。三宅さんとの息は合っていたと思います。
保村大和さん。少ない出番ながら、逆さ吊りという厳しい体勢での演技は拍手ものでした。ただ一番最後の台詞が聞き取りづらかったのが残念。


ああいうものを見られたのもまた良し ★★★☆☆


− 公演データ −

PARCOプロデュース
「WEE THOMAS」

2003/08/04〜2003/08/21@PARCO劇場
全席指定 前売・当日 6300円

2003/08/30@水戸芸術館ACM劇場(茨城)
全席指定 前売・当日 A席4000円 B席2000円

2003/09/02〜2003/09/03@シアター・ドラマシティ(大阪)
全席指定 前売・当日 4800円

- STAFF -
作:マーティン・マクドナー 訳:目黒条
演出:長塚圭史【阿佐ヶ谷スパイダース】
美術:横田あつみ  照明:佐藤啓
音響:堀江潤 音楽選曲:加藤温
衣装:藤井享子 ヘアメイク:高橋功亘
ファイティング・コーディネーター:渥美博
演出助手:渡邊千穂 舞台監督:高橋大輔
演出部:久保浩一、福澤諭志
照明オペレーター:石井宏之 音響オペレーター:鹿野英之
衣装助手:大川恵美子、長岡えりな
ヘアー&メイク助手:川田俊一
ファイティング助手:亀山ゆうみ 稽古場助手:前本のりこ
制作:田中希世子、毛利美咲 製作:伊藤 勇
企画・製作:(株)パルコ

- CAST -
北村有起哉/佐藤康恵/中山祐一朗【阿佐ヶ谷スパイダース】
六角慎司【ジョビジョバ】/加藤啓【拙者ムニエル】/保村大和
三宅弘城【NYLON100℃】
板尾創路
 

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