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thEatricals2003.08.08
三鷹市芸術文化センター+シリーウォークプロデュース
KERA・MAP#002

「青十字」

2003/08/02 @ 三鷹市芸術文化センター 星のホール
K列21番

8月2日土曜日。くもり。
梅雨明けしないまま8月に突入しました。
7月は本当に冷夏という言葉がピッタリはまる毎日で、実に過ごしやすかったのですが、月が変わった途端に、夏らしい陽気がやってきました。
前日夜更かしをした私はその暑さに耐えながらも、昼過ぎまで惰眠をむさぼっておりました。
耐えなければいけないぐらいなら起きろというご意見もありましょうが、余計なお世話です。

今回の舞台は三鷹市芸術文化センター。
またまた初めて行く場所であります。
ちなみに三鷹市も初めて。
以前の本多劇場のように迷子にならないよう、念入りに地図を頭に入れておきます。
劇場は三鷹駅から歩いて15分ほどかかるということなので、少々早めに家を出ました。
電車を2本ほど乗り継いで、目的の三鷹駅へ。
時計を見ると開演時間の30分前。予想以上に早く着いてしまいました。
仕方がないので駅前のビルにあった書店で文庫本を2冊ほど買ってから、ゆっくりと会場に向かって歩き始めました。
で、頭に叩き込んだ地図を元に歩き始めたのですが、いきなり最初の分岐点で、どちらに行けばいいのか分からなくなってしまいました。頭の中の地図にはない方向に道が登場したのです。
ああ、こんな関係ない話で文章を稼ぐような真似はやめやめ。
迷うも何も、ちゃんと案内板あったし。だから全く迷わずに行けたし。案内どおり15分ほどでついたし。ちなみに距離で1.2kmほどです。
芸術文化センターというだけあって、作りは非常にきれいですね。
ホールも開放感があって、ちょっと環境音楽が流れていたりして。

客層の年齢層はバラバラ。客の入りも8割ぐらい。
私は最後列の左ブロックだったのですが、最後列の中央ブロックには1人も座っていませんでした。何かもったいない気がするぐらいです。
今回の作品は去年エンブゼミの卒業公演の為に書き下ろされた作品。
その出来があまりによかったので、今回再演することとなったそうです。

●パンフレット(B5版 38ページ 1200円)
表紙にはタイトルにあわせた青い十字架がデザイン。内容はウニタモミイチ氏、森達也氏の解説、脚本家、各出演者のインタビュー、見開きページでの役者紹介、舞台設定資料、稽古場リポート、KERAと行定勲氏の対談など。

●セット
舞台中央若干左よりにメインセットとなる喫茶店「エデン」。
店内の左手にはミラーボールもセットされたカラオケセット。右手はピンク電話などが乗せられたカウンターになっていて、備えつきの椅子が4つ。カウンターの後ろには酒瓶が並べられた棚。サントリーオールドが多く並べられている辺りがいかにもな感じ。前方左右にテーブルセット。ちょっと低めの机に赤いボックス状の椅子が3つずつ。
喫茶店の左側が入り口になっていて、2段ほどの階段。その上部に看板があり、入り口そばには立て看板。喫茶店のセットの前方はそのまま道という設定。右手には掠れて名前の読めないバスの停留所。その横に白いベンチ。その後ろには白い柵がめぐらされていて、1箇所だけ頭を下げれば通れる抜け道。
いかにも田舎といった風情がにじみ出るセットです。

●ストーリー
携帯電話の電波もほとんど届かないとある山の中。昼は喫茶店、夜はスナックとして営業している「エデン」の店内では、常連たちの笑い声が響いていた。その話題の中心にいたのは夢破れて東京から戻ってきたヨシヲ(伊達暁)だ。ヨシヲの話す話題を常連のメザキ(小村裕次郎)やエデンの従業員トキコ(町田カナ)は楽しそうに聞いている。一見、ごくごく普通の喫茶店に見えるこの店だが、実はこの店のマスターであるカネコ(林和義)は革命組織のリーダーであり、常連のほとんどもその組織の一員なのだ。組織内の仲間を「同志」と呼び合う彼らは、総括と称して仲間を殺害。村のはずれにある十字館と呼ばれる館の裏庭へその死体を埋めていた。
タイゾウ(市川しんぺー)とサキエ(依田朋子)は心中しようと死に場所を探していた。ひとまず一休みと腰を下ろしたベンチでタイゾウは自動販売機で買った奇妙なジュースを飲んで気分が悪くしてしまう。とりあえずそばにあった「エデン」へと入り休ませてもらうことに。しばらくするとタイゾウは眠り始める。心中する気をなくしたサキエはタイゾウが寝ている隙に店から逃げ出してしまう。やがて目を覚ましたタイゾウはサキエの行方をトキコたちに訪ねるが、良かれと思ってついたウソがばれタイゾウは逆上して大暴れ。そこへ現れたメザキが組織の秘密を知られたと勘違いし、タイゾウをナイフで刺し殺してしまう。
それから数時間後。「エデン」に映画のロケハンのために村に訪れた撮影隊スタッフであるクロサワ(村上大樹)、ウエハラ(野間口徹)、キミジマ(旗島伸子)の3人がやってきた。カネコは死体の処理のため急遽、店を閉店にしたのだが、彼らは電話を貸してほしいと引き下がらない。彼らはロケハンに同行してきた大物俳優コガ(湯澤幸一郎)の横暴に耐えられず、すぐにでも上司に訴えたかったのである。それでも駄目だと断りつづけるカネコであったが、昔、カネコの妹であるアケミ(林聖子)を助けてくれた人物がいることに気づき、嫌々ながら店の電話を貸すことにした。
ようやく店から撮影隊が出て行ったのと入れ替わるように、組織の一員であるレイナ(皆戸麻衣)がやってくる。彼女は撮影隊が死体を埋めた十字館の裏庭を掘り起こすという話を偶然立ち聞きしたのだ。なんとか阻止しようとメンバーは奔走する。そこに東京にいるはずの組織の幹部ムラタ(本間剛)が「エデン」に現れた。ムラタの話では、組織のメンバーのひとりが警察に捕まったという。このままでは組織の秘密が明るみになってしまう。何とか対策を練ろうとするが、偶然仲間の裏切りを知る。それがきっかけとなり組織は加速度的に破滅の道を転落していくことになるのだ。

●感想
上演時間は約2時間半。
ちょっと長いかなという気もしますが、まあ妥当な感じも。
もともと卒業公演用の脚本ということもあって出演者が実に多くて、しかも1人1役。実に贅沢です。
そのせいか本編とは関係ない登場人物が多いんですが、それぞれの関係なさそうなエピソードも含めてしっかりとした世界観が作られていると思いました。
初見の方も多いのではっきりとはいえないのですが、基本的に皆さん濃い演者さんだと思うんです。でも、これだけ集まるとその濃さも中和されてしまうのでしょうか、割とすんなり見ることができた感じがします。
この舞台はKERAさんの作品をまだ数作しか見ていない身分でこんなことを言うのもなんですが、実にKERAさんらしい舞台だったのではないかと思います。
最近の作品のような分かりやすいギャグはほとんどないんですが、真面目に動いている人物の心理描写や行動が妙に面白いんです。舞台背景は暗いですし、何人も人が殺されていきます。後半には台詞だけながら非常に生々しい描写の惨劇もありました。それでも妙におかしいんです。
声を出して笑ってしまうようなものではないんですが、ちょっとクスリとさせられてしまうような。
コメディとシリアスのバランス絶妙な演出がたまらなかったですね。
あとラストシーンは意外でした。その意外さでは間違いなく今年のベスト3に入ります。
そのラストシーンのおかげで観劇後の清涼感がたまらなくよかったです。いい舞台でした。

●役者
役者さんが多かったので印象に残った方だけ。
小村裕次郎さん。「弁償する時〜」に続いての観劇だったのですが、力ありますよね。強さを見せながらも弱く脆い心理描写が見事でした。ハイテンションな演技の方がしっくりくるって珍しい感じがします。今回の男性のMVPです。
林和義さん。こちらは「孤独なパイロット」に続いての拝見です。革命軍のリーダーという結構重厚な役どころながら、妙に弱々しい愛らしいキャラクターを演じられていました。動きが可愛らしかったです。
町田カナさん。天然なのか計算なのか分からないという女性特有の怖い部分が前面に出ていて印象的でした。もう少し独特の間があればよかったかもと思います。
伊達暁さん。一番普通なキャラクターだったので、この面子の中だと逆に演じるのが大変だったんじゃないかなと思います。でも後半はちょっと気張りすぎだった感じがしました。
玉置孝匡さん。この人のキャラクターが一番不気味でした。実世界の殺人犯も意外とこんな感じなのかもといったリアル感が凄かったですね。
千葉雅子さん。一番感情の波が激しい難しい役どころでしたが、見事に演じきっていたと思います。何気ない表情の演技がよかったです。女性のMVPです。
今奈良孝行さん。この作品の登場人物の男性は基本的にかっこ悪いんですが、この人はそのかっこ悪さをうまく消化しているなと感じました。でも、ラストシーン前の慟哭シーンはちょっとやりすぎな気も。
本間剛さん。胡散くささ大爆発。もう怪しい風貌に関西弁。でもやたらといい声。いかにもなキャラクターでインパクトは1番。おいしいです。
村上大樹さん。口ばかり達者なADを見たまんま演じられていました。最後の展開といい、見ている人の期待を裏切らない演技には素直に好感が持てます。
旗島伸子さん。カラッとしたタイプの女性って個人的に好みなものでお気に入りです。
湯澤幸一郎さん。どこかで見たことあるようなキャラクターでしたけど、その雰囲気は決して悪くなかったと思います。まあ、もう一癖あってもよかったとは思いますが。
弘中麻紀さん。村上さんと同様に、見たまんまのキャラクターでしたね。この人もおいしい役どころでした。嫌いじゃないです。
山崎和如。短い登場時間でしっかりとキャラクターを見せつけたのは凄いと思います。個人的に一番嫌いなタイプのキャラクターでしたから、そのインパクトも一入でした。


絶妙な平衡感覚に酔う ★★★★☆


− 公演データ −

三鷹市芸術文化センター+シリーウォークプロデュース KERA・MAP#002
「青十字」

2003/08/01〜2003/08/22@三鷹市芸術文化センター・星のホール
全席指定 前売 会員3600円 一般4000円 当日 会員4000円 一般4400円

- STAFF -
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
舞台監督:福澤諭志+至福団 舞台監督助手:宇野圭一(至福団)、望月有希
舞台美術:長田佳代子 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 照明操作:瀬戸あずさ
音響:水越佳一(モックサウンド) 音響助手:茶木陽子(モックサウンド)
衣裳:ミシンロックス 衣装協力:伊東梨恵(コブラ会)
振付:長田奈麻【NYLON100℃】 歌唱指導:遠藤良太 コーラスアレンジ:安澤千草【NYLON100℃】
宣伝美術:坂村健次(C2design) 宣伝写真:引地信彦(quatre) 宣伝イラスト:古屋あきさ
演出助手:保坂曜、相田剛志 製作協力:細川展裕(ヴィレッジ)
制作:花澤理恵、森元隆樹(三鷹芸術文化振興財団)
製作:(財)三鷹芸術文化振興財団、(株)シリーウォーク

- CAST -
市川しんぺー【猫のホテル】/今奈良孝行/植木夏十【NYLON100℃】/河西健司
川田希/小村裕次郎/佐藤竜之慎【NYLON100℃】/伊達暁【阿佐ケ谷スパイダース】
玉置孝匡/千葉雅子【猫のホテル】/野間口徹【親族代表】/旗島伸子
林和義/原金太郎/弘中麻紀【ラッパ屋】/本間剛/町田カナ【reset-N】
皆戸麻衣【NYLON100℃】/村上大樹【拙者ムニエル】/廻飛雄【NYLON100℃】
山崎和如【ベターポーヅ】/湯澤幸一郎【天然ロボット】/依田朋子
鈴木芳/林聖子/深澤千有紀/山田真歩歩
 

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