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thEatricals2003.07.24
PARCOプロデュース公演
「ふたたびの恋」

2003/07/19 @ PARCO劇場
I列27番

7月19日土曜日。晴れ。
空は実にいい天気なのに、私は心は少々曇り空。
というのも、前々日に原因不明の痛みが左手首を襲ってきて、満足に動かせないのです。
包帯を巻いたのなんて一体何年ぶりのことか。
電車の中でも、人に当たると痛いので、ずっと左手は胸の辺りに上げておきます。
まるで、国歌を聞いているサッカー日本代表の気分です。
いや、そんなに晴れやかなもんじゃない。

今年3回目のPARCO劇場です。
ふと思ってログを見ると、今年はPARCO劇場と本多劇場と青山劇場しか行ってないような気がしてきた。何か偏っている気がする。今後はもっと色んな劇場に足を運ぼうと思います。宣言してどうなるものでもないけど。
客層の年齢層は若干高め。30代中心ですね。
題材のせいもあるでしょうけど、カップル率は非常に高かったです。
ただ私の両隣はどちらも1人での観劇でした。妙な仲間意識をもったりして。
今回の作品はテレビの脚本家としても有名な野沢尚さんの脚本作品。演劇の脚本を書き下ろしたのは10年ぶりだとか。また、主演の役所広司さんも7年ぶりの舞台だそうで。何か貴重な舞台を拝見させていただく感じです。

●パンフレット(B5版 71ページ 1500円)
淡い青でデザインされてさわやかな印象。カバーもついていてしっかりとした仕上がり。内容は脚本家、演出家、各出演者へのインタビュー、作×演出家対談、劇中にも登場するカクテルの紹介など。

●セット
後方の壁は半円状のドームのようになっていて、十字の入ったたくさんの磨りガラスで一面覆われています。ここに、色々な照明を当てることで24時間と天候が伝わるようになっています。
舞台中央にコの字型の木製バーカウンター。カウンターの後ろにはたくさんの酒瓶が置かれた鉄製の棚。カウンターには背もたれの部分が三角形の固定された椅子。舞台左右前方にはテーブルセット。右手には1人がけの黒い椅子が2つ。左手は茶色の椅子が3つ。その内の1つは2人がけです。
舞台右手の壁にはドアが2つ。手前側はホテルのフロントへと続き、奥側は海岸に出られる設定。そばにはいかにも南国といった風情の観葉植物。舞台左手には洗面所へと続く表面が鏡になっているドア。
舞台の上部には、左右からベランダが張り出していて、1脚ずつデッキチェアが置かれています。これはそれぞれのホテルの部屋のバルコニーを表しています。
全体的に開放的で明るい空間になっています。

●ストーリー
2月。観光名所の沖縄と言えどもオフシーズンに変わりはなく、スペイン風リゾートホテル「ヴィラ読谷」の客足も減少気味。そのホテルの1階にある「サンセットバー」で、バーテンダーの澤田(國村隼)はオーナーからのオフシーズン中の営業休止という電話に静かな怒りを湛えて答えていた。
そこへ慌てて飛び込んできた男。彼は知るひとぞ知る有名脚本家の室生晃一(役所広司)。しかし、昔ながらのスタイルを変えない姿勢のせいか時代の波に乗れず、最近は落ち目。
やがて現れた女。彼女は今や誰もが知る売れっ子シナリオライターの逢木新子(永作博美)。ちなみに逢木はペンネームで、本名は大木だ。
過去に2人は師弟関係にあった。そして不倫関係にも。ちょっとしたことがきっかけで別れてからは、2年の歳月が流れている。
そんなかつての教え子である新子から、室生はある手助けを頼まれる。それはチャンネル1から依頼を受けた芸術祭参加のテレビドラマの脚本作り。テーマは映画「恋におちて」のような、決して肌を触れ合うことのない大人の純愛をテーマにした物語。室生は最初その申し出を断るが、昔と変わらない新子の姿を見て、共同執筆をすることを決意する。
執筆の期限は室生がホテルに滞在する3日間。2人は澤田が暖かく見守る中、早速お互いの意見をぶつけ合い脚本作りを始めた。やがて2人が作り出すストーリーはお互いの恋愛感から、2人で過ごした実際の恋愛へと重なり合っていく。しかし虚構の話作りのプロである2人も、現実の話となると素人とさほど変わりはない。今の台詞は作った台詞なのか、それともかつての恋愛感情が産んだ自分の台詞なのか。
お互いの正直な気持ちと見つめ合わないまま、やがて期限はやってきた。何とか脚本のプロットもまとまった。これで2人は再び別々の生活に戻ることになる。しかし、新子は帰りの飛行機を1本ずらして欲しいと言ってきた。
実は偶然だと思われてきたいくつもの出来事は、全て必然であり……。

●感想
上演時間は休憩時間15分をはさんで約3時間。
出演者が3人だけともなれば、必然的に台詞は多くなります。そこにあわせての3時間という長丁場。1つ間違えば退屈一直線ともなりえるのですが、その心配は全くなし。
ただ正直脚本に関しては割とありふれた話と感じました。
いくつか貼られた伏線も大したものではないですし、劇中で作られる脚本も出来としては非常に陳腐。おまけに最後の辺りは強引とも言える展開で、終わり良ければ全て良しみたいな流れ。
それでも一気に見ることが出来たのは、もちろん各役者さんの力量あってのことなのですが、演出が光っていたように思います。
例えば、脚本では悪く言えばだらだらと流れる現実の空気を、細かい場面転換や、役者の何気ない動きや台詞(ここで國村さんの演技が光っています)などでメリハリをつけて展開させていました。
でも、もう少し短く出来なかったかなという疑問点も残ります。
まあ、素敵な役者さんの演技を長く見ることが出来たという風に解釈しておきます。

●役者
役所広司さん。あまりこの人の芝居をじっくりと見た記憶があまりなかったのですが、(三谷幸喜さん脚本のドラマ「合い言葉は勇気」や映画「Shall we ダンス?」ぐらいしか思い出せない)やっぱり年季が違いますね。いわゆる2枚目半なキャラクターなのですが、軽快な台詞の間に変なところで意地を張る男の可愛らしさなんかが垣間見えて、懐の深さを感じました。
永作博美さん。相変わらず可愛らしくて、ただボーっとその姿を追いかけてました。ただそのキャラクターのせいでしょうか、後半以降のシーンで明るい時と暗い時のトーンのギャップに違和感を感じるところもチラホラ。それでも頭の中で描いた新子のイメージにはピッタリだったと思います。
國村隼さん。実に渋い。トーンを押さえた演技ながら、ついつい細かい仕草まで目がいってしまう存在感はさすがです。カクテルを作る際の手さばきなど、バーテンダーの一連の動きはプロと見紛うほどでした。帰り際にとある男性客がバーテンダーになりたいと言っていたのを聞いて、心の中で頷いた私でした。


こんな登場人物みたいな大人になりたい ★★★★★


− 公演データ −

PARCOプロデュース公演
「ふたたびの恋」

2003/07/01〜2003/07/27@PARCO劇場
2003/08/01〜2003/08/04@名古屋市民会館・中ホール
2003/08/06〜2003/08/10@シアター・ドラマシティ(大阪)
全席指定 前売8000円 当日8000円

- STAFF -
原作・脚本:野沢尚 演出:宮田慶子
音楽:岩代太郎 美術:松井るみ 照明:中川隆一
音響:高橋 巌 衣裳:前田文子 ヘアメイク:河村陽子
演出助手:豊田めぐみ 舞台監督:三上 司
製作:伊東勇 プロデューサー:佐藤玄
企画・製作:(株)パルコ


- CAST -
役所広司/永作博美/國村隼
(声の出演)川平慈英
 

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