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thEatricals2003.07.18
演劇企画集団 THE・ガジラ 2003年7月公演
「アンコントロール」

2003/07/12 @ ザ・スズナリ
D列3番

7月12日土曜日。
前回、前々回の教訓を生かして、本日は少し早めに家を出ました。
だから今回は息を切らせることなく劇場へ。
今回の劇場はザ・スズナリ。
いい加減、下北沢も慣れてきたので迷うことはありません。
ただ、この劇場は非常に狭いということを前々から知り合いに聞いていたので、図体のでかい私は覚悟して行ったのです。
ただ幸いなのかどうかは分かりませんが、王子小劇場に行った経験から狭いところへの耐性は出来ていたようで、さほど狭さは気になりませんでした。
いや、狭かったのは狭かったんです。ただ、王子よりも気持ち隣との距離に余裕があったので(椅子が気持ち大きかったんです)まだ楽でしたといった感じ。
ただ、前後のスペースはかなり厳しいので、前の人に膝とかが当たらない様にと、気を使うことにはなりましたが。
今回は割と男性客も多いです。男女比は半々といったところでしょうか。年配の方もちらほら。私の両隣はカップルでした。けっ。

タイトルになっている「アンコントロール」とはそのままコントロールできない、つまり操縦不能という意味であります。
1985年8月12日。夕刻。
航空交通管制部からの問いかけに、JAL123便のパイロットはこう答えました。
『But now uncontrol』
そしてそれから約30分後。群馬県御巣鷹山へその飛行機は墜落します。
20代後半以上の方なら記憶に残っている方も多いことでしょう。
世に言う『日航機墜落事件』です。
乗員乗客520名が亡くなるという、戦後最大級の事故は当時の社会に大きな波紋を起こしました。
あまり昔のことを覚えていない鳥頭の私ですが、この事件のことは妙に鮮明に覚えています。
当時、中学生だった私は父親に連れられて焼肉屋へと行っていました。
そして、そこに流れていたテレビに日航機墜落というニュース速報がテロップで流れました。
楽しく賑やかだった店内がざわめきだって、回りの大人たちの様子が一変しました。
私はその時はまだその事故の大きさを理解できていませんでした。
事故の様子が一般の視聴者の元へと送られはじめたのは夜半以降のことです。
そして、日が明けて明るくなった現場から悲惨な現実を目の当たりにすることになります。
そんな地獄絵図の中で、かすかに放たれた奇跡の光。
それは、全員生存絶望と思われていた中での生存者の発見。
その内の1人がヘリコプターで救助される姿は連日のように報道されました。
その時のテレビの映像は、今でも鮮明に思い出すことが出来ます。
もうあの事故から18年という月日が流れていたんですね。

舞台はマンションの一室。
わざと奥行きを出すように両サイドの壁が奥に行くほどに低くなっています。
右側の壁には奥と手前に2つ。左側の壁には手前側に1つのドア。奥の壁には窓。
舞台中央にはテーブルが置かれ、そのまわりに4脚の椅子。
テーブルの上にはゆっくりと回る扇風機の羽根。
そして客席に向けてテレビが1台。
そのテレビには御巣鷹山の赤い紅葉の映像がエンドレスで流れています。

都心から離れた新興住宅地に建つ地上3階地下7階という一風変わったマンション。このおかしな構造は法律の目をかいくぐって山の斜面に建てられたからだ。
都会の喧騒からは離れた静かな土地だというのに、なぜかこのマンションの回りでは騒ぎが絶えなかった。近くにある米軍基地は演習を控えて飛行機を飛ばす。法律すれすれで建てられたマンションに不満を持つ近隣住民の訴え。近隣で起きている幼児連続誘拐事件。そしてもう3人目になるマンションからの飛び降り自殺。
そんなマンションの最上階に住む芹澤夫婦。夫である明生(久保酎吉)はテレビの放送作家。昔はそれなりにヒット作も書いたが、昔ながらの作風を変えないせいか、最近はほとんどお呼びもかからない。友人でもあるテレビ局の青砥(大鷹明良)が何とか仕事を持ってきてくれるおかげで生活できているような状態だ。妻の真奈美(七瀬なつみ)は成長が止まってしまった子供の育児と、マンション住民との付き合いで心身とも疲れきっていた。
そんな冷え切った生活の中でも明生が毎年欠かさないことがある。慰霊登山だ。
それは5年前のある夏の日に起きた航空機墜落事故。芹澤夫婦はその便に乗るはずだった。だが、妊娠をしていた真奈美が体調を崩し、急遽搭乗をキャンセルしたため奇跡的に事故を免れる。しかし、助かった自分たちの代わりに亡くなった人間がいる……明生は自分が死ぬべきだったのではないか、といつも思い悩むのだった。
そんな明生がある日、自宅に高村泰子(南果歩)という女性を招いた。彼女の夫は夫婦がキャンセルした便に乗り、事故にあって亡くなったという。つまり彼女の夫は、芹澤夫婦の代わりに亡くなったのだ。明生はせめてもの罪滅ぼしとばかりに泰子に好意的に接する。それが芹澤夫婦の歯車を狂わせるきっかけだった。

ストーリーの構造が展開されるたびに、色を変えて見せる舞台に、ただただ引き込まれた2時間でありました。
にしても、演劇を見ているのが辛くなったのは初めてです。
それは決して見るに堪えない話だとかいうのではなく、全てをさらけ出した人間同士の醜いぶつかり合いに心が痛んだのです。
でもその醜いぶつかり合いを重ねることにより、苦しく辛い過去を癒すことが出来るのも事実。
分かってはいるけども、辛いことに変わりはないです。
そして日航機墜落事件に関する描写も痛かった。
特にフライトレコーダーの音声が流れてきたところはたまらなかったです。
昔の色々なことを思い出したりもして、胸が締め付けられるような。
題材が題材だけに、演出家や演者と共に、観客もそれなりの覚悟を要する内容でした。
本当にどうしたらいいんだろう……

南果歩さん。狂気に満ちた演技はホント鳥肌ものでした。
七瀬なつみさん。最近は明るいイメージの役柄が多かったので、こういう七瀬さんを見るのは久しぶりな感じでした。演技とはいえ、キレた女性は怖いです。
大鷹明良さん。全体像よりも一歩引いた立ち位置での演技はさりげないんだけど、変に印象深く残ったりして、不思議な感じでした。
久保酎吉さん。緩急をつけた演技はこの作品のテーマにあっていたのかは少々疑問。でも、クライマックス前の汗を涙のほとばしった演技には心が揺さぶられました。


耐えられない痛みも耐えなければいけない ★★★★☆


− 公演データ −

演劇企画集団 THE・ガジラ 2003年7月公演
「アンコントロール」

2003/07/06〜2003/07/27@ザ・スズナリ
全席指定 前売4200円 当日4500円
シードチケット(学生用桟敷席)前売2800円 当日2800円

- STAFF -
作・演出:鐘下辰男
美術:島次郎 照明:中川隆一 音響:井上正弘 舞台監督:村田明
衣裳:伊藤早苗 演出部:村田祐二、棟形剛圭、宮下誠
美術助手:木下絵美子 演出助手:長町たず子
照明操作:次田満夫 音響操作:鹿野英之 スチール:青木司
宣伝美術:西山昭彦 製作デスク:木寺美由紀
製作アシスタント:飯干若奈 プロデューサー:綿貫凛
主催:有限会社ガジラ


- CAST -
南果歩/七瀬なつみ
大鷹明良/久保酎吉
 

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