m a k e s h i F t
thEatricals2003.05.30
世田谷パブリックシアター+英国コンプリシテ共同制作
「エレファント・バニッシュ」
村上春樹短編集「象の消滅」(英語版)より

2003/05/25 @ 世田谷パブリックシアター
1階ベンチシートB列11番



5月25日日曜日。
東急田園都市線の三軒茶屋駅の改札を出て、地図を探しました。
日頃通勤に使っている田園都市線ですが、三軒茶屋駅で降りるのは初めてのことです。
地図の前には数人の高校生がたむろしていて、全く地図が見えません。
仕方がないので、勘で進みます。まあ、そんなこと言っても案内の目印はいたるところにあるので、全く迷うことなく、今回の会場である世田谷パブリックシアターに到着です。
にしても、ここはキレイな劇場ですね。今回は追加席として発売されたベンチシートだったので、2列目といういい席だったのですが、あの作りであれば2階席なんかでも、問題なく見れるんじゃないですかな。

演劇を見初めてまだ日も浅いので、今作の演出を手がけているサイモン・マクバーニーという方も存じ上げておりません。ついでにいえば、今作の原作は村上春樹さんの小説な訳ですが、それすらも読んだことがありません。そもそも、村上春樹作品自体を読んだことがないのです。
この作品を見るに当たって、せめて表題作の「象の消滅」ぐらい読んでおこうかと思いました。でも、せっかくならば、初めて見るサイモンさんの演出と共に、まっさらな状態で観劇してやれという気持ちになりまして、あえて細かい情報を得ずに見ることにしてみました。
にしても、今回の客層は今までのとは違って年配の方や、外国人の方が多く見られました。おかげで雰囲気は否が応でも高尚な感じに。そんな言葉とは対極にいる私には少々居心地悪く感じたりもしつつ。
舞台の上には1台の冷蔵庫があるだけ。ステージの上を見上げると無数の蛍光灯が見えます。
このシンプルな舞台でどのような舞台を見せてもらえるのでしょうか。

「象の消滅」
電機メーカーに勤める男が、バーで女に新聞で見つけた記事の話をする。それはある日突然、町のシンボルであった象がいなくなったというニュースだ。現場の状況などから見て、消えたとしか思えないらしい。しかし、男には警察にも言っていない秘密を持っていた。それは、男がその消えた象の最後の目撃者だということ。男は、自分が見た不思議な話を女に話し出す。
「パン屋再襲撃」
ものすごい空腹感に襲われる夫婦。しかし冷蔵庫の中にあるのは玉ねぎ1個とドレッシング、そして脱臭剤だけ。何とか妻をなだめて寝ようとする夫だが、妻は言うことを聞いてくれない。夫はふと思い出す。若い頃、今と同じようなものすごい空腹感に襲われたことがあったことを。そして、その空腹感を満たすために、相棒と共にパン屋を襲撃したのだ。その話を聞いた妻は、あろうことかもう1度パン屋を襲撃すると言い始めた。時間は深夜。パン屋など開いているはずもないが、妻の行動を夫は押さえることが出来なかった。
「眠り」
夫や子供も寝静まった深夜。女は自分の姿をビデオカメラで写し、ビデオ日記をつけていた。今日で16日も寝ていない。かといって不眠症というわけではない。どうして眠れなくなったのだろう。過去を思い返す女。それは1冊の本との出会いからだった。そして眠らなくなるうちに、体が活性化していることに気づく。昼は平凡な妻を演じ、夜は己の世界で思考に明け暮れる日々。私は本当に夫を愛しているのだろうか。私の生き方は正しかったのだろうか。答えの出ない思考の果てに。


今まで見たことのないタイプの演劇だったので、少々面食らいましたが、表現に関する辺りは非常に面白かったですし、興味深かったです。
人物を背景の一部や、時間の一部や、登場人物の一部など、色々な見せ方に使っているのが非常に印象的でした。最低条件必要な小道具と演じる役者だけで十分その世界を伝えることは出来るのです。しかし、そこにあえてあってもなくてもいい情報を追加することで、芝居に奥行きを与えていたように感じました。
だからこそ、映像過多とも言える演出には疑問を覚えました。
この舞台、とにかく至るところに映像が使用されています。まあ視覚に訴えるという手段は非常に便利で、明確で、最適な手段なのでしょう。ですが、上記にも書いた人物を使った表現だけでも十分通じる舞台なんです。例えるなら、試験問題と一緒にカンニングペーパーを手渡されるような違和感。でもそのカンニングペーパーは本物なのかどうかはわからない。自分が産みだした答えとカンニングペーパーに書かれた答えに踊らされるような感覚。錯乱状態の中での観劇でありました。
あ、そうそう。ステージ上から客席に向かってスポットライトを照らす個所があるんです。あれ前列の方は眩しすぎます。自分が逃亡者になったかのような。あまり気分のいいものじゃないですね。
観劇後、軽くではありますが原作を読んでみました。
すると驚くほど原作と内容が同じだということに気づきました。
実に原作に忠実に作られています。
それであの舞台を作り出したことに感嘆しました。
センスだけとは言い切れないあの不思議な空間。
サイモン・マクバーニーという演出家の腕を観劇後にゆっくりと思い知らされたのです。

吹越満さん。全体的にピシッと1本筋の通った男を好演されていました。「パン屋再襲撃」でコメディアンとしての顔もチラリと見せつつ、すっきりとした印象。来年あるソロライブは是非見に行きたいですね。
高泉淳子さん。「眠り」での女としての人生の葛藤をリアルに演じておられました。何気ない日常に顔を出す狂気のような、刃を少し見せられたような感じです。
宮本裕子さん。「パン屋再襲撃」と「象の消滅」で全く違うタイプの女性を演じられ、女って怖いって思いました。素敵な脚線美に目を奪われつつ。


不可解でシンプルな世界 ★★★☆☆


− 公演データ −

G世田谷パブリックシアター+英国コンプリシテ共同制作
「エレファント・バニッシュ」
村上春樹短編集「象の消滅」(英語版)より

2003/05/23〜2003/06/08@世田谷パブリックシアター(05/23,24はプレビュー公演)
全席指定 前売・当日 A席6500円 B席4500円 ベンチシート6000円
プレビュー公演のみ A席5500円 B席3500円 ベンチシート5000円
2003/06/13〜2003/06/15@シアター・ドラマシティ(大阪)
全席指定 前売・当日 7500円
2003/06/26〜2003/07/06@Barbican Theatre(ロンドン)

- STAFF -
原作:村上春樹 演出:サイモン・マクバーニー
美術:マイケル・レバイン 照明:ポール・アンダーソン
音響:クリス・シャット 映像:ルパート・ボール、アン・オコーナー
衣装:クリスティーナ・カニングハム、戸田京子
演出助手:キャサリン・アレクサンダー、ティム・マクマラン
技術監督:眞野純 技術監督助手:福田純平
舞台監督:キャス・ビンクス、山本園子
宣伝美術:有山達也 宣伝写真:戎康友
スタイリスト:岡尾美代子 ヘアメイク:大橋覚
製作:穂坂知恵子、ジュディス・デイマン
企画制作:世田谷パブリックシアター、コンプリシテ

- CAST -
吹越満
堺雅人/宮本裕子
高田恵篤/立石凉子/望月康代
高泉淳子
 

loG  toP