m a k e s h i F t
thEatricals2003.05.02
入江雅人W1劇場
「爆走CLASH17 −吠えよストラマー−」

2003/04/11 @ 紀伊国屋ホール
2003/04/13 @ 紀伊国屋ホール



4月13日日曜日。
シベリア少女鉄道を観劇し終えた私は再び南北線に乗り、丸の内線に乗り換え、新宿駅に戻ってきた。
まだ、何も口にしていなかった私は駅のそばの立ち食い蕎麦屋に入り、おもむろに蕎麦をすすった。ものすごく腹が減っていた。時計の針は5時半を指していた。

1日に2本の演劇を見るのは今回が初めての経験でしたけど、同じライブを2回見に行くというのも初めての経験。初めてづくしの日曜日だったわけです。
入江雅人さんといえば、僕にとってはやっぱり「SHA.LA.LA.」の印象が強いですね。あの出川哲郎さんが主催をしていた劇団です。ウッちゃんナンちゃんも在籍していて、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」と一緒に深夜番組でやっていた時はよく見ていました。それが彼とのはじめての出会いであります。
当時から一人芝居をやっていたんですけど、そのときの印象ははっきり言って面白くも何ともなかったです。まあ、私が子供だったせいかもしれませんが。
それからしばらくはドラマなんかのちょい役で見かけるぐらいで、大きな活動をしている姿と出会うことはありませんでした。
で、久しぶりに出会ったのが今年見た舞台「人間風車」。
この時の印象は、妙に懐かしさを感じながらも、昔と変わってないなぁというものでした。
そのときに今回のライブのチラシを見つけ、なんとなくチケットを第2希望まで申し込んでみたところ、見事にW当選。そんな経緯で今回のライブを見ることになったわけです。

以下はライブ内容の完全なネタバレです。
内容は、言葉回しやニュアンスなどはオリジナルとは違うとことが多々あります。また完全に再現したものではないので、雰囲気を掴み取っていただければ、程度に考えてください。
ちなみにライブ内容は11日のものを元にしていますが、特に内容が千秋楽で変わっていたものは青い文で表しています。
また「ダイアリーDAYS」の中で文が赤いのは、当日のゲストだった大倉孝二さんのセリフを表しています。

1.ダイアリーDAYS
時間というものは不思議なものだ。実に捕らえようがない。中でも「今」という時間を捕らえるのは非常に難しい。なぜなら、「今」と言った瞬間には、その「今」はもう過去のものとなってしまっているからだ。私はそんな「今」を捕らえるために日記をつけることにした。
3月20日。俺は今起きている。俺は今顔を洗っている。俺は今コーヒーを飲んでいる。今俺はぼーっとしている。やっぱり現在を捕まえるのは難しい。ていうか面白みにかける。
3月24日。俺は今日記を書いている。もうすぐ10時になりかけている。日記を書いている。11時を過ぎている。日記を書いてい……それしか書けない。という内容に変更
そこで、普通の日記の形式にすることにした。
3月21日。夜の帳がおりるころ、演劇心をどこかに忘れてきたことに気づいた。大変だ。演劇心がないと演劇ができない。多分、人間風車の時だ。
3月25日。今日は人間風車の脚本を破る日だ。火曜日は毎週そうだ。まだ半分も破り終えていない。ふと大事なものを忘れていることに気づいた。大変だ! 演劇心がない。どこで落としたんだろう。そういえば昔「こどもの一生」の時に一度落とした。人間風車だ。という内容に変更
慌ててパルコ劇場に向かった。パルコの人に聞いた。
「すいません、僕の演劇心はないですか?」
演劇心というのは演劇を愛する心のことだ。
パルコの人はロッカールームから紙袋を取り出した。
「これじゃないですかね」
「それです!」と僕。よかった、あって。(無感動でつぶやく)

3月28日。
今日は「爆笑!オンエアバトル」のネタ見せの日だ。
僕も何回かネタ見せに来ている。だが、オンエアどころか、スタジオにも入れない。今日も一生懸命やってみた。
「ハイ、やめやめ!」と、ディレクター。
「古いんですかね?」と、ディレクター。
「古いです!」と、僕。
「ラーメンズとかあまり見ないんですかねぇ?」と、ディレクター。
「よく見てます。好きです」と答えた。
正直ショックだった。やっぱり無理か、スタジオに入るのは。
僕はとぼとぼと家路につこうとした。そして、ふと見ると大倉さんがいた。
(舞台袖から大倉登場)
できればこのまま大倉さんに見つからずに帰りたかったが、もう既に俺を発見してしまった。はじまるぞ」
(おもむろに卓球の素振りをはじめる大倉)
あれを言わなきゃいけない。
「ああ、ピンポンの人だ」
(照れる素振りを見せながら大倉舞台中央へ)
「お、雅人じゃねぇか」
大倉さんは僕のことを雅人と呼ぶ。
「雅人、今日は?」
「ネタ見せにきました」
「ネタ見せ?」
「オンエアバトルの……ダメでした」
「俺もだよ!」
大倉さんも来ていたのか。
「お前さぁ、お前ごときが受かるわけねぇだろ」
「大倉さんがダメじゃあ、僕も……」
「だいたい俺、18回受けてるもん」
大倉さんが今のお笑い界について語り始めた。
「俺さぁ、思うんだけど、やっぱざこばだと思うんだよね。だいたいざこば」
「分かりました。じゃあ、あれですか、今日これからガツーンと。そうそう、昨日ピンポン見ました」
「いやぁ」
「いやぁ、よかったですよ。アラタ」
(入江を殴る大倉)
「いやいや、アクマです」
「やめろよ」
「ピンポンはアクマです」
「やめろって」
「あの、順番待ってるんですか」
「うん、待ってる」
タバコある?と大倉さん。
「タバコある?」
「ありますよ」
火貸してと大倉さん。
「火貸して(火をつけてそのままポケットに)」
盗まれる。
「あのー、今日どんなネタするんですか?」
「そういうのは、なぁ? お前何やったんだ」
「僕は全然ダメですよ」
「若いうちは恥かけぇ!」
「じゃあ、起死回生ショーってのを」
「やってみろ」
「起死回生をかけた、あのぉ、美容院でカットに失敗した美容師が、起死回生をかけて一言」
「うんうん」
「こんな感じで失敗してみました」
大倉さんが怒った。
(ポケットからメモを取り出しメモを取る大倉)
メモってる!
「お前、なめてんのか、こっちの世界なめてんのか!?」
お笑いの人だったのか。
(見せびらかすかのようにネタ帳を見出す大倉)
大倉さんが見えやすいようにネタ帳をチラチラチラチラ見た。
しょうがない。
「あ、それ何すか?」
「え? お前、めざといなぁ。これネタ帳。だけど、これは見せられねぇよ(といってネタ帳を差し出す)」
色々なことが書いてある。
「これ何すか? ワールドカップ2020。これ面白そうじゃないすか」
「これすごいよ。見とけ、若いうちは何でも盗んどけ。そういうところが俺は好きだ。ピー(ボールを手に持ち投げる)2020年だから、もう投げちゃう」
「すごい。何すか、ダンス物真似って」
「お、それか(軽く踊り、あいまにビートたけしの物真似をする大倉)」
「それはたけしがメインなんですか、ダンスがメインなんですか」
「ダンスだよ」
「ああ、だからダンス物真似なんですね」
適当に話をあわす僕。
「あ、携帯鳴ってますよ」
「おっ、(携帯に出る)ハイ、もしもし」
誰と話してるんだろう。
「あ、ハイ、スイマセン」
今まで見たことのない大倉さんだ。
「いや、今日は休むって、シフトも……」
バイトしてた。
「いや、まだちょっと……」
なんだか弱々しい。
「あ、じゃあ、できる限り行く方向で……」
(携帯を切り、照れくさそうに振舞う大倉)
「何かさっき大倉さんって呼んでましたよ」
「あ、ほんと? あ、じゃあ行ってくるわ」
2分後、大倉さんが帰ってきた。
(肩をおとして戻ってくる大倉)
多分、いつもの言い訳だ。
「肋骨が……」
「ああ」
「六本木で……」
「ああ、六本木」
「アーミーと……」
「ああ、アーミーとね。アーミー?!」
「やめてやった」
「そうですか」
「あ、ところで、お金持ってる?」
「え、どれぐらい?」
「3000円ぐらい」
だいたい3000円を目安に借りに来る。
「じゃあ、僕はこれで……」
「あ! あ! あ! ちょっと帰っちゃうの? なんだよぉー、おい、久々じゃねぇかよぉ。行こうよぉ」
「行きますか?」
「行く?」
僕のお金だ。
「お前んち行こう」
僕のうちに着いた。
「なんだおい、しみったれた部屋だなぁ」
「何か飲みますか?」
「酒、酒」
ビールを差し出した。
「お、お前、待ておい! これプリン体カットのやつじゃねぇじゃねぇかよ。おい、俺すっごい多いんだよ、プリン体が」
プリン体のことよく分かってないのに、プリン体、プリン体言う。
「すいません、じゃあやめときますか」
「いいよいいよ、飲むよ」
「じゃあ、乾杯」
(乾杯をして1口飲むが、すぐに吐いてしまう大倉)
「ビールやめときますか」
「あ、焼酎の方が」
「じゃあ、ハイ」
(また1口飲んですぐ吐いてしまう)
「割りますか?」
「割ってよ! お前、気がきかねぇな。雅人、おい。おい、ちょっと待て待て、お前水道水使うんじゃねぇだろうな。殺す気かよ! すごいよぉ、塩素が。ミネラルウォーターで割って」
「あ、これすごいんすよ。海洋深層水。ものすごい体に」
「あ、そう」
(1口飲む)
「違うね!」
分かっているんだろうか?
大倉さんは飲み終わるとペットボトルを忍ばせた。
「これ、あのさ、デザインがさ」
「ああ、デザイン」
(再び乾杯をして1口飲むが、やっぱりすぐに吐いてしまう大倉)
「あ、あの俺返してきますよ、ピンポン」
「ピンポン! ちょいちょいちょいちょい、お前見たいんだろ?」
「あ、じゃあ見ますか」
「俺はいいよ」
「あ、アクマがいる。アクマがいる!」
(照れくさそうにする大倉)
「うわぁ、かっこいいアラタ」
(入江を殴る大倉)
「アクマいいっすよ」
「そうだよ」
「俺はこん中でアクマが一番好きです……マンガじゃ」
(再び入江を殴る大倉)
「コラー!」
「はい、ごめんなさい」
「わざとやってるだろ。早く見ろよ」
いや、見たんだよ昨日。
(泣き出す大倉)
泣いちゃってる。
「一生懸命やったのに、そんなこと言うなよ」
「大倉さんって面白いですよね。面白そうなことしようとはしてますよね」
「ダメ出ししてない?」
「いやいやいや」
2時間経ってる。
「ま、そこで俺が気づいたことは、さようならを繰り返し、俺は大人になった」
普通だ。
「そろそろ、ちょっと僕、明日早いんで」
「おうおう、そう?」
「そろそろ」
「あ、悪いな」
「今日は……」
「ゴメンゴメン、風呂沸かして」
「じゃあ、僕お湯入れますよ」
僕がお湯を入れてると大倉さんが覗きにやってきた。
「多めに入れて。入ったときお湯わーって」
「ああ、もう大分たまりましたよ。入んないんすか?」
「アルバム?」
大倉さんは僕のアルバムを見たがる。
「アルバムぐらい出せよ」
「すいません、ハイ」
「クスッ、貧乏くせぇなお前。家族が貧乏くせぇ」
「あ、電話です、電話。携帯鳴ってます」
(電話を取る)
「ん? あ、ああ、うん、ああ、いや、しょうがないんだって、そういう役柄もやっていかなきゃいけないんだって。な? 分かってよ……分かってよ、あ、ああ、それは送っといて、うん、郵便局止めで。うん、はい、気をつけて」
お母さんだった。
「じゃあ、あの、お風呂入るか、寝るかとか。僕はもう風呂入らないで寝るし……」
「うん、ああ」
「ピンポンは?」
「え、ピンポン?」
「読みます、ピンポン?」
「読みます? ピンポン? マンガで? ……いいよ」
「読んでなかったんですか!? あ、じゃあ、CDかけましょか、CD」
「CD? かけようよ」
「何がいい? どんなの好きですか大倉さん」
「何か俺そういうのなぁ、ないんだけど、なんでもいい、竹内まりあ」
「あ、これ大倉さんが忘れていったやつですよ。じゃあ、かけますよ」
「ああ! いいね! ♪冷蔵庫〜冷蔵庫〜」
竹内まりあを聞きながら大倉さんが僕に何かいいことを言い出した。
「あのなぁ、雅人」
「ハイ」
「刀っていうのはよ、体しか切れねぇ。ただ言葉ってのはよぉ、心を切るんだよ」
(得意げな表情を浮かべる大倉)
「(胸を叩きながら)ここ持っとけ」
「(同じように胸を叩きながら)ここに?」
「(胸を叩きながら)ここに持っとけ」
「(同じように胸を叩きながら)ここに?」
(大倉舞台袖に消える)
僕は大倉さんが家から帰った後、その言葉を思い出してみた。
刀っていうのものは……あまり普通の言葉だったんでそこは印象に残ってない。
だけどいつも大倉さんが僕に言っていた言葉、それを思い出す。
(胸を叩きながら)ここに、ここに、ここに。
そうだ、これだ。
僕は大倉さんに感謝を述べた。
ありがとう、大倉さん!

千秋楽はゲストが出演しなかったので、全く違う内容に。
「爆笑!オンエアバトル」を見ていた。ムズムズしてきた。なんだ小粒が! どいつもこいつも華がない。その突っ込みはあってるけど、違う。パワーがない。みんな似たり寄ったりだ。
俺は決心した。そうだ! あいつに頼もう。あいつがオンエアされれば、俺はこんなにイライラしない。俺は電話をかけた。そして、あいつを呼んだ。
お笑い用の入江雅人がうちに来た。
「1回引退したんだよ。何だよいまさら、何? オンエアバトルを見たの? あーでも、引退したんだもん。俳優用のあんたはいいよ。ちょこちょこっと仕事すりゃいいんだもん。お笑いって大変なんだよ! もう錆びてるって。あーあー、分かったよ。だからそんなに頭を下げるなよ。行ってくるよ」
ネタを決める2人。そしてお笑い用の入江雅人がNHKに向かった。
ここで「目覚ましかたつむり」「郷ひろみの物真似をする自分」「ダースベイダーの物真似をする田中邦衛」「地面マッサージ」「おぼれているのに気がつかない人」と小ネタを披露。
ここでディレクターが言った。
「古いんですかね?」
「古い!」と俺は言って帰った。
「起死回生ショー 貧乏学生が1円も持たずに食堂に行って言った起死回生の一言」という小ネタを俳優用の入江雅人に見せて、俺はダメなんだというお笑い用入江雅人。
彼は家を出る時にこう言った。
「最後にこれだけは言っておくよ。もう2度と会わない。生きて生きて生きまくれ!」
なんて真っ直ぐな言葉だ。「生きて生きて生きまくれ」石橋凌の言葉だ。その通りだ。生きまくってやる!

(タイトルコール)


久しぶりに、入江雅人のネタを見ました。淡々とこなす様がおかしい。
大倉さんとのやり取りは新鮮で、大倉さんの嫌な先輩ぶりが可愛らしい。
実世界とシンクロしているからこその微妙な笑いがたまりません。


2.悪童マイケル
今日はたけのこ幼稚園松組の待ちに待った親子参観日です。さぁみんな、後ろを向いてお父さんお母さんに言いましょう。「産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう」
私は保育士の佐野といいます。子供たちからは「サノチン」と呼ばれています。なめられてるんでしょうかね。
えー、じゃあ早速親子参観日を始めたいと思いますが、その前に……うるさい。もう子供って本当にうざい。今日の松組のみんなのうざさ120%。うざさぶっちぎり状態です。
えー、ご自分のお子さんのところにパパさんママさん来てください。
はい、そしたらスリッパにガムテープが貼ってありますね。それをペロッとはがして、お子さんの口にペタッっと。大丈夫です、死にません。子供たちがうるさいと始められません。
というより本日は子供たちよりも、パパとママにとっても大事な授業をしていきたいと思っています。
まずは人形劇です。タイトルは「悪童マイケル」。舞台はロンドンです。(右手に狼の人形をはめる)
「ガオー! 俺はマイケル、小学校1年生だ。みんなからは悪童と呼ばれている。あー、イライラする。イライラする。チョコが食いたい。チョコを食わせろ」
お母さんがやってきます。(お母さんはクッキーモンスターの人形)
「マイケル、一体全体どうしたっていうの? 今日も先生に怒られてしまったわよ。あのやさしいマイケルはどこにいっちゃったの?」
「うるさいよ、ババァ!」
困ったお母さんはマイケルのかかりつけの医者であるリチャード・マッカーネス先生のもとを訪ねます。(マッカーネスの人形はど忘れしてしまいました)
「なるほど、それはよくない。ところでお母さん、マイケル君にはどのような食べ物を与えているのですか?」
「実は私はパートに行ってまして、おこづかいを渡して好きなものを食べなさいと」
「チョコとかアイスとかケーキとか白パンとか……マイケル君が危ない。早速マイケル君の元に向かいましょう」
2人はマイケル君の元に向かいました。しかしマイケルはマッカーネス先生にも「うるせぇ!」とかみつきます。
「マイケル、いいか、これを食べるんだ。たくさんの野菜と黒パンだ」
「ケッ、こんなものが食えるか。チョコ持ってるんだろ? チョコくれよ」
先生はマイケル君を部屋に閉じ込めてしまいました。
マイケルはチョコが食べたいと騒ぎましたが、仕方なく野菜を食べる事にしました。
お母さんは「マイケルは大丈夫なのかしら?」と心配で心配でたまりません。
そして1週間後、マッカーネス先生とお母さんはマイケルの部屋に向かいました。
そこにいたのはなんと以前の良い子のマイケルだったのです。(人形がビッグバードになっている)
マッカーネス先生はロンドンの学会でこう発表しました。
「以上、このマイケル君がなぜイライラして喧嘩をして落ちつきがなかったのか。それは食べ物にあったのです。精製された砂糖というのはそれを人間が摂取している歴史が短い。つまり人間の体が砂糖の消費についてきていないということなのです。以上で発表にかえさせていただきます」
(人形を投げ捨てながら)以上の話が何を意味するのか。それはおいおい分かっていきます。
次は折り紙です。しかし、折り紙が今ないのでレシートでやります。
この際だからね、ママさんに言っておきます。えー、この中のママさんね、ろくなママさんがいません。弁当見れば分かります。冷凍食品のオンパレードです。あとあれだ、パパさんもだいたい禿げてる。あとむくれてる。禿げてなくてもね、禿げてるようなもんだ。いい車に乗ればいいと思ってる。ステータスがあがると思っている。
ハイ、できました。(やたらと小さく折りたたまれたレシートを掲げる)マイケル・ダグラスです。
おや、と思った方いらっしゃると思います。先ほどの人形劇の「悪童マイケル」、実はマイケル・ダグラスの子供時代のお話なんです。実話なんです。マイケル・ダグラスをご存じない方もいらっしゃると思います。マイケル・ダグラスこんな顔してます。
(ステージの上からマイケル・ダグラスの顔写真が下りてくる)
ここでクイズです。このマイケル・ダグラスの写真はどの映画のときのマイケル・ダグラスでしょうか。
1「ブラックレイン」の時のマイケル・ダグラス、2「氷の微笑」の時のマイケル・ダグラス、3「危険な情事」の時のマイケル・ダグラス、4とにかく心身ベストな状態のマイケル・ダグラス。
これ、正解4番なんですね。とにかく心身ベストな状態でこれです。なぜか、分かりますよね? さっきの人形劇を見たら。マッカーネス先生のいうことを聞かなかったからこんなになっちゃったんですよ。もう、ブクブク太って。
この人が出てくると、大体の映画がつまんなくなります。「ブラックレイン」が分かりやすいですね。松田優作があんなに盛り上げたのに、この男がぶち壊しです。
雑誌のインタビューで好きなものは何ですかと聞かれて、彼はキャサリン・ゼタ・ジョーンズと答えました。彼の奥さんです。でも、彼女よりも好きなものがあるんです。それはドーナツです。(ドーナツと書かれたボードを掲げる)
大の大人がドーナツですよ。ドーナツといえば、あのエルビス・プレスリーが50個食べて死んじゃった食べ物ですよ。(エルビスの声真似で歌を歌いだす)
千秋楽では観客席まで降りてくるサービスあり
あのエルビスでさえ食べるのを止められなかったドーナツ、実はこれお砂糖なんです。(先ほどのドーナツと書かれたボードの裏にお砂糖と書かれている)
お砂糖がたっぷり入ってる。もう、ある意味ドーナツはお砂糖そのものなんです。こうやればわかりますね。(先ほどのボードをくるくると回しだす)
ドーナツだけじゃないんですよ、お砂糖が入っているのは。いろいろな食品に入ってます。これを体内に入れるとどうなるのか、簡単に説明します。
ドーナツを1個食べると、血糖値が上がります。この状態を高血糖状態といいます。すると、人間の体内のすい臓という臓器から、インシュリンというホルモンが分泌されます。血糖値を下げろとインシュリンががんばるのですが、高血糖なのでインシュリンも余分にがんばっちゃう。そして低血糖という状態になってしまうんです。で、低血糖という状態になると人間はどうなるか。また糖分が欲しくなってしまうんですねぇ。で、ドーナツをもう1個食べちゃう。すると血糖値が上がっちゃう。そしたらまたインシュリンががんばっちゃう。またドーナツ食べちゃう。もうミスタードーナツのポイント10ポイント簡単にたまります。
これ、ドーナツだけじゃありません。缶コーヒーも一緒です。あとビール、タバコ。タバコは微量ですが砂糖入ってます。
あと寿司。私たち日本人お寿司大好きです。このお寿司の中にも砂糖が入っています。
まあこの中にもお寿司が分からないという方もいらっしゃると思いますので簡単に説明しますと、寿司というのは男が素手でぎゅうぎゅう握った米の上に死んだ魚の切れ端を乗せたものです。
回転寿司だとそれを皿に乗っけてまわしちゃいます。意味分かりません。それに素手で握ったのに箸で食べちゃう。繋がりがない! そんなお寿司、酢と一緒に大量のお砂糖が入っているんです。だからお子様がお寿司食べたいと言っても食べさせちゃダメですよ。
そして、低血糖状態で乱れた食生活を送っていると、ホルモンバランスが崩れて、低血糖症という恐ろしい病にかかってしまいます。ゆかりちゃんのように。ゆかりちゃん低血糖症です。他の子も低血糖症予備軍です。
さらに、低血糖症が更に進むと糖尿病というインシュリンが出ない恐ろしい病になってしまう。つまりこの子らは低血糖症予備軍であり、糖尿病予備軍でもあるわけです。信じられないですよね。でもこれが事実なんです。
で、その低血糖症という病気になるとどうなるのかご説明しましょう。(ステージの上から低血糖症について書かれた用紙が降りてくる)
これ皆さんの中にも思い当たる人がたくさんいると思います。よく聞いておいてください。
まず、1日中落ち着きがない。すぐ眠くなる。すぐイライラする。脱力感に襲われる。攻撃的になる。キレる。こういう症状があらわれます。
低血糖症だと、まるで目の前にレースのカーテンが掛かっているような状態になります。世の中見えません。もう判断力なんてないようなものです。
その点私は砂糖を取っていないので、非常にクリアに世の中の物事が見えます。じゃあ、どのようなことが見えたか、簡単に説明しましょう。
まず『市川新之助でいいのか?』
これ、良くないです。
この間「武蔵」を見ていて、武蔵がボロボロと泣いているシーンを見ました。男泣きです。このシーンを見て私がどう思ったか。
汚い!
普通、男がボロボロと泣けば、その奥に感動というものが見えるはずなんです。なのになぜその感動が私に伝わらなかったのか?
それは市川新之助だからです。
市川新之助というのは団十郎の息子ですね。
この間「たけしの誰ピカ(テレビ東京で放送している「たけしの誰でもピカソ」)春のスペシャル前夜祭」というのを見ていたら、プライベート風景が映っていました。
ビックリしました。
ゴールデンレトリバー3匹を連れて散歩していました。ミンクのコート着て、カチューシャつけて。
そんなボンボンに、宮本武蔵が演じられるわけがない! 絶対無理だ!
そこで私は思いました。
変えちゃえ、と。小次郎と。それも自然な形で。
下手に言い訳はしない。次の週、チャンネルをつけるともう変わってる。それなら納得します。
じゃあなぜ、誰がキャストを決めたのか。
NHKのプロデューサーが決めたんです。
おかしいですね、市川新之助をキャスティングするとは。「お〜い!お茶」のCMを見たらそのとき気づいたはずです。ありえないと。
ではなぜか? それはNHKのプロデューサーが低血糖症だからです。
落ち着きがなく、決めようと思ってもすぐ眠くなっちゃう。すぐイライラして、ガクッと脱力感に襲われた時に市川新之助かなとやけになっちゃって、みんながそれはやめましょうと止めたんですけど、攻撃的になってキレちゃった。
低血糖症は世の中に色々な害を及ぼしているわけです。
では、次行きましょう。
『ハイジはろくでなし』
これね、意外です。
私もハイジは可愛いなと思ってたんですけど、この間見直してみると「ん? おかしいぞ」ということが見えてきました。
ハイジはクララの家で白パンを食べておいしいと感動しました。
そこでペーターのおばあさんに食べさせたいわと勝手に思い込んで、暴走ですよ暴走。
ペーターのおばあさんはそれまで黒パンを食べて、非常に正しい食生活を送っていたんです。
でも、おばあさんはハイジが好きですから断れない。
ハイジがおばあさんのために持ってきたのと言われれば食べちゃいます。
そしたら、もう貧血ですよ、途端に。
なぜか? それは白パンというのは精製された小麦粉で出来ています。栄養がこれっぽっちもありません。あんなご老人に栄養のないものを食べさせてはいけない。
でもハイジはそんなこと知りませんから暴走しっぱなし。
おばあさん、また持ってきたわ。もう、おばあさん食べるのが辛い。
最終回でクララが立ち上がって感動のフィナーレという横でおばあさんがどうなっていたか?
もう寝込んじゃってます。
ペーターが言います。「おばあちゃん、大丈夫かい?」
おばあちゃんが言います。「ハ、ハイジが! ハイジが来る!」
「おばあちゃん、ハイジはもう来ないよ」
「ハイジが白パン持ってやってくる!」
「大丈夫だよ」
「やだやだ、ハイジはろくでなし!」
これはハイジが悪いわけじゃないんです。これ、誰が悪いのか?
悪の元凶、宮崎駿です。
とんでもないです、あの眼鏡は。
だまされちゃいけません。もう一度、おうちに帰ってジブリのDVD作品を見直してください。ひどいもの食べさせてます。
しかも、食べるシーンにはこだわっているのに、食べ物に一切こだわっていない。食わせりゃいいと思ってる。そこが許せない。
だから、この間「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞を取りました。あれ何で取れたか? あれね、最初のシーンでパパとママが食べ物食べて豚になっちゃうシーンがあったでしょ。あれで取れたんです。ですから、DVDなんてダメです。家に帰ったら焼き捨ててくださいね。
『コンビニ全店爆破』
全店ですよ、全店。地球上にあるコンビニ全店。
これ大変ですよ。祖師ヶ谷大蔵だけでも何軒あると思いますか。でも私やりますよ。
24時間体制で毒を垂れ流しているコンビニといつか決着をつけなければいけない。
だからもう、地道にやっていきますよ。で、あなたがたが気づいたときには全店爆破してます。
そして、次これです。
『コンビニ全店放火』
爆破と放火は同じじゃないかという声が上がりました。今ね、ようこちゃんのパパから。
全然違います。
爆破はいいですか? 爆破するんです。で、放火は放火ですからね。
『ローラースニーカーってどうなってるの?』
これね、低血糖症の方は多分、子供たちが低空飛行で飛んでいると思っているんです。
全然違います。あのですね、靴の裏の部分に何かあるんですよ。ただね、何があるのかは私もまだ分からないです。
『売れ残ったペットはどうなっちゃうの?』
ペットはいまや空前のブームです。チワワとかね。
ペットショップなんか行くと色々なペットがいます。
でも売れ残るペットがいるはずなんです。
この間、京王デパートの屋上にあるペットショップで店員に聞きました。
「すいませんけど、売れ残ったペットというのはどうなっているのでしょうか?」
すると突然、店員が僕の胸倉をつかんで「売れ残りません!」
びっくりしました。彼ね、低血糖症なんです。もう、キレてました。
多分ね、食べてますよ。
だから、逃がさなきゃいけない。可哀想だ。
だからペットショップに行ったら檻を開けましょう。どんどん逃がしていきましょう。
『コラボしてる?』
誰だ! こんなの書いた奴は! 何だよ、コラボしてる? って。訳わかんないよ!
みなさんはあまりコラボしてないと思います。砂糖を取らないようにするとコラボできます。に内容が変更
といったわけで、授業を進めていきます。
みなさん疑問が1つ沸いたと思うんですよ。
砂糖というのは、なぜそんなに色々な食べ物に入っているのか? おかしいぞ、と。
実は砂糖というのは中毒性があるんですね。麻薬と同じなんです。
じゃあなぜそんな麻薬と同じ中毒性のあるものを色んな食べ物に混ぜていくか?
これは中毒を起こさせれば商品が売れるからなんです。
企業は分かっていてやっているんです。
思わずこうすけ君のパパ、資本主義だってつぶやきましたけど、その通りです!
やつらはそういうことをやっているわけです。
ブッシュもフセインも北朝鮮の将軍様も低血糖症ですよ。
そしてアメリカという国は砂糖まみれです。
この間アメリカに行って、実際にこの目で見てきました。
アメリカ人は一体どれぐらい1日砂糖を取っているのか。
驚きました。
1人あたり1日平均スプーン50杯分の砂糖を取っているんですよ。50杯分ですよ!
マイケル・ムーアという人がいます。「ボウリング・フォー・コロンバイン」という映画の監督でもあり、「アホで間抜けなアメリカ白人」という本の著者であるマイケル・ムーアは非常に正しいことを言っている。でも、そのマイケル・ムーアでさえ砂糖中毒です。デブです。
内山君なんてね、2、3日中に死んじゃいますよ。
戦争が起こると難民と呼ばれる人たちが必ず生まれます。そして難民たちの中には子供らと変わらない、同じ年ぐらいの幼い子供たちがたくさんいるんです。
毎日食事も取れない。常に栄養失調です。低血糖状態です。その低血糖状態の子供たちに対して、無知で間抜けな人間どもはよかれと思って何をしているか。砂糖水をあげているんですよ! カブトムシじゃない。そんなものを与えたらね、急に砂糖水なんか与えたらね、痙攣を起こして、下手したら数時間後に死んでしまうんですよ。
だからね、このままじゃいけないんです。誰かが戦わなきゃいけないんです。このままじゃ地球という星は砂糖に征服されてしまいます。The Planets Of Sugerです。砂糖の惑星になっちゃう。だから誰かが戦わなけきゃいけないんです。
No More Suger! Stop The Suger! To Be Or Not To Suger! 生きるべきか砂糖べきか。
これを声高らかに私と一緒に叫んでいきましょう。
No More Suger! Stop The Suger! To Be Or Not To Suger!
この地球という美しい星から、砂糖という名の白い悪魔を消し去りましょう!
……以上のことを、坂本龍一が雑誌のインタビューで答えていました。
今日みなさんに集まっていただいた本当の目的は、この佐野という保育士は坂本龍一の受け売りだと。彼の言った事は全部正しいと信じています。それをすぐにしゃべります。
でも間違えてほしくないのは、私は坂本龍一であるけれど、坂本龍一は私ではない。
では、今日はそんな坂本龍一のナンバーから、僕の一番好きな曲を。
作詞、作曲、坂本龍一…………モニカ!
(吉川晃司のモニカが流れ、1コーラス歌う)
今日は本当にありがとうございます。また秋に、秋にお会いしましょう。サノチンでした!
(舞台袖に消え、暗転)


どこまでが本当なのか非常に怪しい話の数々。毒を吐いている姿が妙に生き生きして見えたのは気のせいかしら?
ちなみに「モニカ」の本当の作詞は三浦徳子さん、作曲はNOBODYです。ていうか、嘘だらけなのね。


3.タクシードライバー
マスター、マスター、こちらネモトさん。今日、高校の同窓会だったんだよね。あの、僕とネモトさんね、映研「シネクレイジー」というので一緒の仲間だったの。流れてきたの。プチ同窓会だよ。
(テーブルについて)ここすごいでしょ? 映画のポスターだらけで。ここのマスターすごいんだよ。映画全部見てるんだよ。全部だよ、公開されたやつ全部。1本も見逃してないの。
カクテル、これ全部映画のタイトルがついてるんだ。色々あるよ。お、それを選ぶんだ。
スイマセン、「アラビアのロレンス」と「燃える昆虫軍団」
再会を祝して乾杯。いやぁ、でもネモトさん変わってないよね。
ネモトさんてさぁ、ジャン・マイケル・ビンセントの大ファンだったじゃない。「ビッグウェンズデイ」何回も見に行ったりさ。
あのさ、ちなみに今は? デ・ニーロ? へぇ、落ち着いちゃうんだデ・ニーロに。
俺は駄目だ。あの人やりすぎだ。太ったり、やせたり、あざといっていうか。だから、あまり見てないんだ。
「タクシードライバー」も見てないよ。だって、スコセッシも、何かさぁ、ちっちゃくて髭生えてるでしょ。え? そんなにいいの? 当時言わなかったじゃない。見てないよ、俺。あの時のデ・ニーロがベストなんだ。
あ、じゃあ何、タクシードライバーの時のデ・ニーロみたいな男が目の前にいたら、やっぱり意識しちゃうんだ。フーン。あ、もう時間なくなっちゃう? じゃあさ、タクシードライバーを見て語り合おう、ここで。じゃあね、気をつけてね。
違うよ、マスター。でも彼女、ミッシェル・ファイファーに似てるでしょ?
(ビデオを借りてくる)
監督、マーティン・スコセッシ。脚本、ポール・シュレイダー。ポール・シュレイダーって他に何書いてたっけ。あ、「ローリング・サンダー」とかか。まあいいや、見てみるか。
(椅子に腰掛け、ビデオを見始める)
ん? 俺の知ってるスコセッシじゃないぞ。
(ビデオに魅せられたかのように椅子から降り、徐々にテレビに近づき、ブラウン管に顔を近づけて目を閉じる)
はっ、もう終わってる。見終わってもこのままボーっとしてた。何で俺見てなかったんだ、この「タクシードライバー」
あー、何か人生を棒に振ったような感じで……これ俺の映画だよ!
よく分かるよ、トラヴィスの言ってることが。あー、「タクシードライバー」最高だよ。
(車を運転するマイムをしながら)あー、あのね。トラヴィスが鏡に向かって言うんですよね。
"You talk to me?"
俺に言ってるのかい? かっこいいですよね。いや、俺ね実は最近見たんですよ、タクシードライバー。見逃してたんですね。これじゃいかんと思ってね、タクシードライバーになっちゃいました。いやぁ、良かった。今日はお客さんみたいなお客さんで。それじゃあ、どうも。
充実した毎日だな。俺もこの都会に雨降らせてやる。さてと、今日は火曜日だ。今日もタクシードライバーを借りて帰ろう。買っちゃだめなんだ。借りて見ることに意義があるんだ。
TSUTAYA、なんだよ。また棚変えやがって。ジャンル分けすぎ。ほら、ない! この間までカンヌグランプリのところにあったのに、ないもん。あれ? スコセッシのところにもないし、デ・ニーロのところにもない。あれ? 
(ショックで崩れ落ちる)
タクシードライバーが、車もので置かれてる。どんな分け方だよ。「激突!」と「ドライビングミスデイジー」の間に置かれてる。なんでこんなところに。
(店員に声をかける)おい! おい! これ買う。何? レンタル用だから買えない? セルDVD? いやだ、これを買う。出来ないって何だよ、おい、TSUTAYA! お前トレーナーだろ? 偉いんだろ? 何で買えないんだよ! お前らだって勝手なことやってんじゃないかよ。棚ころころと変えて。この間ジム・キャリーの「エースにおまかせ2」を借りようと思って、1時間かかったんだぞ。しかも「人間ドラマ」に何で置いてあるんだよ。あれ、コメディだろ! だいたい何だこれ? 「雨の日のこの1本」って薦め方は。何で「雨あがる」が入ってるんだよ。あがってるじゃねぇか!
どうしよう、タクシードライバーがかわいそう過ぎる。そうか、だからデ・ニーロはあのジョディ・フォスターを助けたのか、分かる、すごくよく分かるよ。タクシードライバーを助けなきゃ。そうだ俺決めてたんだ、許せないことがあったらトラヴィスになるって。よかった、トラヴィスセット持ってきといて。
(懐からモヒカンのかつらとサングラスを取り出し身に付ける)
俺に言ってるのか? チンドン屋さんじゃないぞ。
(タクシードライバーを懐に隠す)
今だ!
(店の外に向かって走り出す)
(再び、舞台はバーに)
マスター、万引きやってつかまっちゃったよ。
あー、ネモトさん。ここ。タクシードライバー見たよ。どうどう、実際にその何タクシードライバーみたいな男が目の前に、一応俺、タクシードライバーやってるよ。え? あ、モヒカンになる前のデ・ニーロね。
あのね、この間ちょっと思ったの。あの「恋人たちの予感」みたいに思ったの。1日が終わって、最後に寝る時に一緒にいたいのは誰かなって、いやいや映画の話だけどね、ってことは思わない? 結婚とか考えない? え、考える! じゃあさ、結婚するとしたら、どんな人としたい。ジュリー? え、ジュリーって沢田研二でしょ。太ってるよ? あ、昔のね。「魔界転生」とかの頃の? え、違うの、映画で言うと何? 「太陽を盗んだ男」? あ、見てない。そんなにいいの? あ、じゃあ見てみようかな。じゃあ、また。いつも慌しく帰るなぁ。
(TSUTAYAへ)
何だよ、取らないよ!
どこにあるんだ? 「太陽を盗んだ男」 えーと、ないなぁ。
あ、原爆ものって。「はだしのゲン」と一緒になってるぞ。
(ビデオを借りてくる)
ん、脚本レナード・シュナイダーって、タクシードライバーのポール・シュレイダーの弟なんだ。これは多分期待できるぞ。
(ビデオに魅せられたかのように椅子から降り、徐々にテレビに近づき、ブラウン管に顔を近づけて目を閉じる。要はタクシードライバーのときと同じリアクション)
はっ、もう終わってる。「太陽を盗んだ男」、分かるよ。俺の映画だよ。でも、いくらなんでもプルトニウムは盗めないな。それぐらいは分かる。だいたい万引きで捕まったぐらいなのに。
あ、太陽を盗んだ男を盗む。そしたらジュリー超えてないか。
決めた。俺は太陽を盗んだ男を盗んだ男になる。
(暗転)


TSUTAYAでビデオの棚がころころ変わるあたりの話は、元レンタルビデオ店員としては耳が痛いです。ていうか、ビデオの陳列って、店側でも物凄い頭痛めてるんですよ。全部のビデオ見てるわけじゃないから、ジャンル分けだって大変なんです。誰に向かって言い訳してるんでしょう?
ちなみに「タクシードライバー」は本当に名作です。見てない人は見ましょう。「太陽を盗んだ男」は見たことないからわかんない。もうひとつちなみに、「太陽を盗んだ男」の脚本は監督の長谷川和彦で、レナード・シュレイダーは原作者です。


4.センター街のタケシ
いや驚いたぞ、タカシ。まさかあんなところでお前に会うとはな。
いやだけどこの渋谷っていう街は、人が多いから誰に会ってもおかしくないといえばおかしくない。
おじさんこの間な、余貴美子に会ったぞ。おじさんの大の余貴美子ファンだから、声をかけようとしたんだ。
でも「余(よ)だぁ!」って言いそうになってやめた。だから見たとも言うな。
おいタカシ、お前何年生になった?
ん? 小3か。大きくなったなぁ。てことは何年生だ? 3年生か!
おねえちゃん元気か?
ゆかりちゃんももう中学か。おじさん、ゆかりちゃんモロタイプだ。狙ってる。
嘘だよ、タカシ。そんな鮫のような目でおじさんを見るなよ。おじさん怖いぞ。
ん? おじさんか。おじさん今日は日曜日だから渋谷の場外馬券場に行ってきた。WINS、WINSだな。おじさん、心はいつでも英国紳士だから、英国紳士な格好なんだ。
(渋い声で)「すいません、馬券をください」って買ってな、WINSのテレビでオペラグラスで見て(片手に持つタイプのオペラグラスを使うふり)、今日も負けた。おじさんどうしような。
タカシ。おじさんな、センター街を歩いていて、暗い蛍が一匹いるなぁと思うと、お前じゃないか。暗い光を放っている蛍かなと思ったらタカシ、お前だよ。お前なんかこう、どぅわーとした嫌な空気を垂れ流していたぞ。だから、周りに人がいなかっただろ。おじさんも正直声をかけづらかった。
タカシ、お前悩みかなんか持ってるんじゃないか?
やっぱりな。ヨシ、じゃあおじさんに話しなさい。
いいんだよ、話してごらん。おじさんお前のアンクルだから。な? 話してごらん。
誰だって悩みの1つや2つ持ってるんだ、若いうちは。
それにしてもタカシ。今の若者は若いなぁ。おじさんの若いときでもあそこまでは若くなかった。若すぎる! あの子なんか見てみろ! 度を過ぎた若さだ。
笑えよ、タカシ。ジョークだよ、2歳ぐらいだろ。
ユーモアもってなきゃダメだよ、な。
おじさん、ビックリしちゃった。タカシ見てみろ、ルーズソックスだ。まだいるんだな、履いてるやつがな。(オペラグラスヲ取り出し)あれでも東京の子じゃないな、熊谷あたりだな。
しかし、タカシ、ルーズソックスっていうのは、ルーズだなぁ。ルーズすぎる! あれはルーズを通り過ぎてスムーズだな!(指をさしてポーズを決める)
タカシ、見逃すな。おじさんの決めのポーズを。
話してごらん、タカシ。
あのな、悩み事を持ってるっていうのは悪いことじゃないんだよ。
悩み事っていうのはないろんなことを教えてくれる。いわば、私たち人間の教師だ、先生だ。な? その先生からいろんなことを教わって、私たち生徒は学び舎を巣立っていくんです。
ね? 話しなさい。
恥ずかしいって何だよ。分かった、お前が恥ずかしいならこうしよう。おじさん、こうやって耳をふさぐ。絶対に聞こえないようにする。その間にお前、悩みを話せ。だから、実際には悩みが聞こえないわけだから、おじさんひょっとするとトンチンカンなことを言うかもしれない。
お前が学校で動物の飼育係でウサギなんか死んじゃって、それで落ち込んでいるのに、おじさんひょっとすると、「タカシ、日焼けしろ!」とか「タカシ、ビワを食べろ!」とか「タカシ、カトマンズへ飛べ!」答えというより、変な指令を出しかねない。だから、やめとくか。
じゃあ、こうしよう。ちょっと休憩だ。
(腕時計を見る)今、4時だから4時2分まで休憩。好きなようにしなさい。おじさん、本を読む。(本を取り出す)
タカシもあれだろ? 小3ということは本ぐらい読むんだろ? あれ、読んだか。「エミリー・ザ・ストレンジ」
何で読んでないんだ。あんなに売れてるのに。山積みだぞ、本屋さんで。宇多田ヒカル翻訳って。
だがしかし、タカシは不幸中の幸いかもしれない。
いいか、タカシよく聞きなさい。売れている本っていうのはな、つまんないんだ。
「エミリー・ザ・ストレンジ」なんかな、絵本だぞ。おじさん、思わず買いそうになってビックリした。おじさんだって訳せるよって思った。
だがな、あれだけ内容が薄いと逆に売れるんだ。だから売れてる本っていうのはほとんど中身がない!
おじさんなんかそこいくと違うよ。本屋さんに行くと店員にこう尋ねる。スイマセン、今一番売れていない本はありませんか? と。これがその本。
タカシ、売れてない本もつまんないぞ。だから売れないんだ。売れてる本も売れてない本もつまんない。おじさん、何を読めばいいんだ。(腕時計を見る)あ、ハイ、休憩終わり。
さぁ、話しなさい。
話せよ、タカシ。ほら、あのウェイトレスのお姉さんだって一所懸命働いてるだろ。でも悩みの1つや2つ持ってんだぞ。
それにしてもミニスカートだな。短すぎる。ミニミニスカートだな。女性差別だ、あれはな。
ああそうだ、タカシ。喫茶店の世界も階級があるって知っていたか。
タカシは小学校3年生だから、インドのカースト制度は習ったか? まだか。
インドっていうのはカースト制度といって、ピラミッドのように階級で固められていたんだ。上に行くほど偉い。その人だけが支配する。
全く同じなんだ。喫茶店の世界も。4つの階級に分かれてる。
一番下、何か分かるか。店長だ。意外だな。この上にくるのがウェイター。だから店長はウェイターには絶対に頭が上がらない。で、その上に来るのがウェイトレス。一番上に来るの何かわかるか? ウェイウォン。人の名前じゃない。ウェイウォンっていうんだ。日本にはまだ残念ながら数人しかいない。渋谷にはいないな。こんな街にはいない。ちょっとこう、緑があるところにいるんだ。ウェイウォンは。東急田園都市線の青葉台という駅がある。そこ降りるとな、つぶれかけたデパートがあるから、そこ右に行くとな「イチゴと私」というちょっとこじゃれた喫茶店がある。その中にウェイウォンはいる。あ、ウェイウォンの話になっちゃったな。
んー、話す気になんないか。ま、話しづらいよな、悩みというものは。そりゃ分かる。
だからおじさんもちょっと考え方を変えよう。
お前から悩みを聞くんじゃなくて、こう、何というか、聞き出すというか、こう、考え方というか、ベクトルを変えて、エーと、ザ・ベクトル。何か映画の題名みたいだな。
ザ・ベクトル! ダーン!
主演、ブラッド・ピット (手で文字が現れていく様を示しながら、以下同様)バンバンバン!
仲代達矢 バンバンバン!
ジェニファー・ロペス バンバンバン!
監督、大林宣彦 バンバンバン!
あなたのベクトルは何ベクトルですか? バンバンバン!
2003年夏大公開 カミングスーン!
邦画か洋画か分からない。
うーん、煮詰まっちゃったな。
(BGMが流れ出す)お、BGMが変わったぞ。これ、t.A.T.u.だ。
t.A.T.u.知らないのか、タカシ。
t.A.T.u.ってのはなロシアのポップデュオだ。可愛らしい女の子2人が歌ってるんだ。
ところがな、歌の途中でプロモーションビデオ見ててビックリした。
おもむろにディープキスをはじめるんだぞ。女の子同士で。レズだレズ。タカシ、レズって知ってるか? レズビアンだ。
おじさん、もう何かドキドキしちゃってな、慌ててt.A.T.u.ありませんかって、アルバム買いに行ったの。で、買ったの。
そしたら、プロデュース、トレバー・ホーン。
あ! あの「フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド」のトレバー・ホーンか。
おじさんな、トレバー・ホーン仕掛けてきたなと思ったの。おじさんに何か仕掛けてるな、これはって。
で、アルバム聞いたの。
仕掛けてなかったの。
暗い! 簡単に全体の感想を言うと暗い。
今かかってるこの曲が一番明るい。
飽きちゃったんだよな、コレ。
変えてもらおうか、な?
スイマセン、これ店内のBGMちょっと変えて。何か適当にCD選んで。
いや、この子がt.A.T.u.いやだ、t.A.T.u.いやだってむずがるんですよ。
(BGMが変わる)インペリアル・ドラッグだ。
これな、アルバム「man in the moon」の4曲目だ。
インペリアル・ドラッグ知らないか、タカシ。
元ジェリーフィッシュの2人組だ。
ジェリーフィッシュ知らないのか!?
お前は一体全体どんな音楽聞いてるんだよ。
TETSU69?
それは音楽じゃない!
トミー・フェブラリー?
椎名林檎は聞いてないのか?
タカシ、お前はもっとタワーレコード行って、色々なCDを買いなさい。
え? タワーレコードに行ったことがない!?
おじさん、ビックリした。
何で行かないんだ、あんな黄色いのに。普通行くだろ、あれだけ黄色けりゃ。
いいかタカシよく聞きなさい。
人間には「黄色心」というものがある。
だからあんな黄色いものを見ると黄色心がな、わぁ黄色くってたまんない! ってタワーレコードにフラフラっと入っちゃう。
タワーレコードの中に黄色いジャケットのCDがあったら確実に買う。
マツキヨも黄色いからはやってるんだぞ。
タカシだって、アレだろ。バナナとか卵の黄身とか大好物だろ?
嫌いなのか、卵の黄身。
分かった。タカシの悩みはそれだ。
卵の黄身を見ても、黄色心がざわめかない、違うか。
(外をちらっと見て)あーあーあー、雨降ってきちゃった。
おじさん今日に限ってアンブレラ忘れちゃった。こりゃ、ずぶ濡れだな。
タカシ、お前の心の中にも雨が降っているんじゃないのか?(指をさしてポーズを決める)
また、見逃した!
タカシ、お前の心の中にも雨が降っている。それも土砂降りの雨だ。
そういうときどうすればいいか、おじさんこう思うね。
そういう時は雨宿りをすればいい。
よく意味が分からない?
だから、お前の心の中に雨が降ってるだろ。傘がなかったら、雨宿りしようと思うだろ? そういうことだ。
雨宿りの意味が分からない?
意味を求めるのか? 雨宿りは雨宿りだよ。
わー、雨が降ってきた、宿りでもするか。
そうだろ?
おかしいな。つまり、雨と宿りは切り離せない。
雨がいて宿りがいる。宿りがいて雨がいる。な?
雨の夜。雨はストリートでギターをかき鳴らしていた。
その歌を聞いて、思わず宿りはつぶやいた。
「ロックしてる」
その声が雨に届いた。
2人の目が合った。
その瞬間、2人は恋に落ちた。2人の恋の炎は一気に燃え上がった。
2人は手に手を取って登戸の街を駆け巡った。
そして今は赤羽で家賃3万円のアパートで同棲生活を送っているのである。
何の事やら分からないって? おじさんも分からないよ。
雨は雨だけで成立する? 固有名詞だから? ふーん。
「傘を差しても刺されるな」ってことわざ知ってるか。
これな、おじさんの実体験から来てる。
ちょうどお前ぐらいの時だった。
おじさんな、傘差して歩いてたんだ。
そしたら、プシュッって刺された。傘の先でプシュッって。あ、プシュッは口で言ってるの。
後ろ振り向いたら誰もいない。ほんで、また歩いたらプシュッ、で、誰もいない。
おじさん家に帰るまで刺され続けた。プシュップシュッって。
嘘じゃないよ。痕がある。最初な、かさぶたになって……だから、かさぶたっていうのか!
「酒は飲んでも飲まれるな」も同意語だな。
あー、もう時間になっちゃった。ほら、お前が話さないから。おじさん、もう行かないと。
おじさんはな、16時24分渋谷駅発、各駅停車吉祥寺行きに乗らないとな、おじさんはおじさんでなくなってしまう。
じゃあ、こうしよう。今度会う時までに、何を話すか考えておきなさい。
じゃあ、そろそろ2人のトークもエンディングだ。
今日のタカシとおじさんの出会いを1本の映画に見立てるんだ。ね?
クライマックス? クライマックスはウェイウォンだ。
タカシかおじさんがな、言葉を何かポツリと言うと(エンディングロールをイメージさせるように左手を上に上げながら)パッパッパパッパッパ……ジ・エンド……パッパッパパッパッパ……主演、タカシ(子役)……パッパッパパッパッパ……おじさん(新人)……パッパッパパッパッパ。
な? だから考えなさい。時間がないんだから。
うーん。
タカシ、お父さんによろしく。パッパッパパ……(違うなと首を振る)
タカシ、傘貸して。パッパッパパ……
ん? 思いついた? 言ってごらん。
おじさん、煌く時間をありがとう?
繊細だ! タカシ、根底な部分でおじさんを馬鹿にしていないか? おじさんの考えすぎ?
あー、何かそんなんじゃダメ。煌く時間をありがとうじゃ終われない。何かきれい過ぎる。
おじさんもっとフランス映画みたいな感じでな、アンニュイでモンパリな感じがいい。
ああ、水はもういいです。
水はもういいです! パッパッパパッパッパ。決まったな。
よし、じゃあそれでいこう。
あ、すいませんお勘定を。あ、あとお水。
(コップに手をかざしながら)水はもういいですから。
(エンディングテーマのような音楽が鳴り響き、暗転)


小ネタがちりばめられた絶妙な作品。こんなおじさんがいたら面白いだろうなぁ。
余貴美子さんって、本当に「よきみこ」さんなんですね。てっきり「あまりきみこ」さんだと思ってたので、違う意味で笑っていたのか。ちょっと恥ずかしい。


5.実録 生きていたジョー
なんだ、あのモヒカンの男。万引きでつかまってる。馬鹿だなぁ。
スイマセン、えーとレッチリのアルバム、レッドホットチリペッパーズの「バイザウェイ」、全員がいいって言うんだ、俺の友達全員がレッチリいいぞ、レッチリいいぞって、これ? 視聴できんの?
(ヘッドホンを耳に当ててみると尾藤イサオの「あしたのジョー」が流れる)
これ違うよ。これ尾藤イサオのだよ。確認して。
え? 流れてる? あーじゃあいいや。ゴメンゴメン。おかしいなぁ。
(再びヘッドホンを当てると丹下段平の声が聞こえてくる)
「ジョー、元気か? わしじゃ。会いたかったぞ、ジョー。おージョーよ、全くお前ってやつぁ、お前ってやつぁ。ジョー、あしたのジョーはどうなった? どうなったんだ、ジョー。わしは、お前は、ウルフ金串は?」
何か人の声がする。これレッチリじゃないと思う。
あー、じゃあいいや。とにかく買う。ここに入ってる奴じゃないやつね。
(家に戻ってくる)
なんだったんだろなぁ? まあいいや、これでやっとレッチリが聞ける。
(CDをセットすると再び丹下段平の声が聞こえてくる)
「ジョー、先生は亡くなられたぞ」
なんで続いてるの?
「マンガはどうだ?」
知らない。
「活気はあるか?」
俺に言ってんの?
「ジョー、鴨川つばめ先生は元気か?」
マカロニほうれん荘の?
「ジョー、わたせせいぞう先生はハートカクテルを書いとるか? なぁ、ジョー、マンガの黄金時代は続いとるのか?」
分かんないよ。
「ジョー、ジョー」
俺の声聞こえてるのか?
「ジョー、昨日の試合はどうだった?」
やってません。
「立てぇ! 立つんだジョー! ジョー! ジョー! ジョジョジョジョジョジョジョー! ジョー! オダギリジョー!」
おい!
「オダギリジョーは10年、いや20年に1人の役者だ」
何でオダギリジョーの話してるんだ。
「必ずサインをもらっておいた方がいい」
もらえないよ。
「そうすれば、オダギリジョーみたくかっこよくなれるんだ、ジョー。カタカナにすればいいのかジョー。ひらがなにすれないいのか、ジョー。わたせせいぞうみたく、たんげだんぺいとひらがなにすればいいのか、ジョー!」
丹下段平か。
「力石は……力石は……わしか?」
ボケちゃってるよ。違うよ。
「力石はもう死んじまった」
そうだよ。
「人殺し! お前が殺したんだ! ジョー! お前のパンチで」
いや、あれは力石が……
「今日はそんな人殺しジョーにこんなはがきが届いています」
ラジオかよ!
「実は高校2年の16歳の息子がバイクの無免許運転で警察に捕まりました」
真面目な内容だな。
「もう少し前にもマウンテンバイクを盗んで捕っており、鑑別所送りになるのではと本人は心配しています。一体、息子はどうなるんでしょか?」
どうなるんだ。
「(声色を変えて)家庭裁判所が」
何声変えてんだよ! 誰が誰だか分かんないよ!
「事件内容を確認する……ジョー! 人の話を聞いてくれぇ。ボーカルを務める人間が作詞と作曲の両方を書かないと、カリスマ性のあるバンドにはならないんだぞ、ジョー。作詞と作曲、両方ともジョー、バンド名も考えてある。ジョーを取って、ジョー山中バンドだ」
古いよ!
「Tシャツも作ろう。バンドのTシャツだ」
何、戦略も考えてるんだよ。
「Tシャツは裏原宿辺りですごく売れるという情報をSMARTで読んだ」
いつ読んだんだよ!
「ジョー、裏原宿という言葉を使ってもいいが、裏日本という言葉は使っちゃいけねぇ。ジョー」
ジョーじゃないよ。
「ジョー、わしゃなぁ、色々と考え過ぎるあまり、最近薄ぼんやりとした不安に襲われている」
芥川龍之介か!
「ジョー、カラスはやたら、あんなに一杯空を飛んでいるのに、カラスの死骸を一度も見たことがない」
ないな、言われてみたらないな。
「ジョー、ボールを投げる時は肘を曲げろ!」
野球だよ!
「ジョー、わしゃ黙るぞ、わしゃ黙るぞ」
黙れよ。
「黙ってるぞ、ジョー。どうだ、ジョー? わしゃ黙っとるか、ジョー?」
全然黙ってないよ。
「あーもう限界じゃ、ジョー。もう一度だけわしにしゃべらせてくれ。ジョー、ジョー」
関係ないよ。マンガだもん、あしたのジョーなんて。
「なんだって?」
通じた?
「まったくそんな帽子かぶっとるから、わしゃぁてっきりお前のことを」
お前どっかにいるのか?
「話し掛けようとしたのに。CDとして、レッチリに化けたのに」
化けてたのかよ!
「丹下段平、一世一代の不覚じゃぁ。……何をする気じゃ? やめろ!」
何もしてないよ。
「それは、それはやめてくれ! そんなことをされたらわしゃぁ、わしゃぁ、中古ショップに持っていかないでくれ。100円で売られちゃう!」
買ってくれないよ!
あー、もういいや。おっさん、ジョーだよ。
「やっぱりジョーだったのか、お前ってやつぁ、お前ってやつぁ」
そうだよ、ジョーだよ。おっさん。
「よかった、西にも会えて」
いないよ!
「これで安心して消えられる」
消えてくの?
「さぁ、ジョー。思いっきり聞くんじゃ! レッチリを! レッドホットチリペッパーズを!」
ああ、こういう始まりね。すごいな、レッチリ!
「バイザウェイ、歌いまするは、ボーカルのアンソニーさん」
すげぇ……
「1曲目はこれだ。バイザウェイ!」
(前奏と共に丹下段平が一緒に歌いだす)
もういいよ!
(椅子に崩れおち、うなだれる入江。ちょうどあしたのジョーの最終回のジョーのように)
「立てぇ! 立つんだジョー!」
(暗転)


ネタとしては陣内智則のような、用意されている素材につっこみをいれるというシンプルなもの。
入江さんのつっこみは何か新鮮。にしても丹下の声、似てたなぁ。誰が声やったんだろ?


6.太陽を盗んだ男を盗んだ男
この間はこの防犯ブザーの音にビックリして止まっちゃったもんな。これ切っとこ。
ない! この間まで原爆のところにあったのに。
あ、防犯カメラだ!
(覆面をかぶり、口にくわえるタイプの小さい酸素ボンベをくわえる)
どこにあるんだ?
あった。
(あたりを見回して、一気に店の外に出ると、慌てて車に乗り込み、覆面とボンベをはずす)
息苦しかった! 穴開けてなかった。
やったぞ。
「太陽を盗んだ男」を盗んだ男になったぞ。
(自宅に戻る)
さてと見るか。
「太陽を盗んだ男」を「太陽を盗んだ男」を盗んだ男が見る。
これ、盗まれないようにしないと。
(ビデオに魅せられたかのように椅子から降り、徐々にテレビに近づき、ブラウン管を呆然と見つめる)
アラン・ドロンじゃん。
「太陽がいっぱい」だ。
ああ、太陽ものに置かれたんだ。
あー、あの時、あー、あぁ。
TSUTAYAに負けた。
(暗転)


タクシードライバーの続編ですね。
タイトルが映し出されただけで笑いが起こっていました。タイトルが全てを語っていますね。


千秋楽はここで軽いトークとゲストのピアニカ前田さんと村上ゆきさんによる、ピアニカの演奏がありました。以下、その内容です
どうも。
今日は千秋楽ということで、えー、非常に最初の方からね、「ダイアリーDAYS」の辺りとか本当に僕、空回りしてました。
みんな、ありがとうございます。
なかなか話に入りづらかったと思います。
そして、作品に入っても、あまりに映画とCDの話ばかりで分からなかった方もいると思います。
現に「太陽を盗んだ男」をまだいていない方は見てください。ね? 見てみてください。
そして「タクシードライバー」も見てない方は見てください。
今回の公演はそのための公演です。
見なきゃダメだ!
レッチリとか聞いてない人なんてね、もう考えられませんよ、僕からしたら。
聞いてください。絶対に。
今回はそのための公演です。
僕の薦めるものを、そのために全部考えたんです。
笑わすとか、もうそういうことじゃないんです。
本当大変なんです。立ち直れなくてどうしようかと思った。
もう今日は千秋楽ですから、思ったこと全部言いますよ。
まあ、千秋楽ね、ゲストどうしようかと思って、えー、色々考えたんですけど。
あのー、ま僕が何かふざけたことをやって、面白いとか笑えないとかね、そういうゲストによって色々あると思います。
でも、千秋楽で一番ベストなのは何だろうって考えましたよ僕、一生懸命。
あ、やっぱ音楽だと。
皆さん多分、ライブハウスとかあんまり行ったことありますか? 行ってるならいいんです。でも、ライブハウスでも今日は滅多に聞けない演奏を皆さんに楽しんでいただきたい。
えー、今日のゲストを紹介させていただきます。
ピアニカ前田さん、村上ゆきさんです。
(2人登場)
えー、じゃあ今日はどういう曲を演奏されるんですか?
「えー、となりのトトロを」
(入江無言で固まり、場内爆笑)
えー、今日は何曲か演奏してもらって、となりのトトロと何でしょう?
「えー、千と千尋」
ハイ、じゃあですね、ま、まあ、僕はこの場から一旦ひいて、僕も袖で演奏聞いてますんで、集中していただいて。
よろしいでしょうか?
お2人の演奏をお聞きください。
(入江が舞台袖に消えて、2人によって「となりのトトロ」と「カントリーロード」が演奏される。演奏終了後、再び入江登場)
「となりのトトロ」、そして耳をすませばのテーマソング「カントリーロード」をお聞きいただきました。
ちょっと前田さんには休んでいただいて。
今回色々アンケートいただきました。
中で印象に残ったアンケートはあれですね、普通に男子中学生が考えたようなことをよくやっているなぁという。
まあ、その通りなんです。だいたいずっとこういうことやってきました。
そしてまあジブリのこととか、悪口と大体、ねぇそういうことばっかりですけど、ねぇ……次の曲は?
次の曲はまたジブリのまた中からね。
皆さんに分かっていただきたいのは、「耳をすませば」は宮崎駿ではない。監督してませんから。何でもジブリは全部を宮崎駿が監督していると思っている方がいますが、それは間違いです。ね、ハイ。
それでは「もののけ姫」、つまんない映画は、でも音楽は素晴らしい、最後の曲は「千と千尋」それではよろしくお願いします。
(入江が舞台袖に消えて、2人によって「もののけ姫」と「千と千尋の神隠し」が演奏される。演奏終了後、2人も舞台袖へ)



7.メカカ
ああ、今日も残業だもんな。すごい働かされてるよ。
この時間、弁当買えないんだよコンビニでも、ないんだよ。また、おにぎりだよ。食いたくねぇ、おにぎり。まずい。まず。8個も買っちゃったんだよなぁ。何でも多めにないと安心できないんだよなぁ。だって、2個じゃ足んないかもしれないし、3個じゃ足んないかもしんない。
(プーンと蚊の飛ぶ音が聞こえ出す)
あ、蚊だ。こいつ、ずーっといるんだよなぁ。昨日も寝れなくて。
(手で叩き潰そうとあちこちで手を叩く)
あーもう! イライラすんなぁ!
(電話を取る)
もしもし。おー、おー、おー、おー? おー! おー、おー。
(電話を切る)
あ、今刺された、もう! ちくしょう!
ペットボトルじゃだめだな。お、キンチョール。
(蚊の飛ぶ音が止まる)
止まった。
(シューっとキンチョールをかける)
かかってるよ。かかってるって! きかないんだよ、キンチョールが。
あ、また刺された。なんで!?
あーもう! くそ、どうしたらいいんだ。かえって寝れない。
よし、バルサン! バルサン! バルサン! バルサンたいてやる。煙攻めだ。バルサンだって大目にあるんだからな。水をね。
(煙が出てくる)
ほら、煙が出てきた。もうプーンってな、ゲホッゲホッ、ゴホッゴホッ……死ぬぞ、俺が。
あ! 室内にいちゃいけませんって書いてある。
(慌てて窓を開け、バルサンを外に投げ捨てる)
火事じゃないぞ!
あー、気持ち悪い。
なんでだよ、こんなに煙たいてるのに。
とんでもない蚊だ。どうすりゃいいんだ。こいつただもんじゃないぞ。
罠だ! 罠を仕掛けておいて、止まったところを一撃だ。
こいつの好物は血だから、カッターナイフで俺の血をこうやって……あ! 切っちゃいけないとこ切った。痛い! あ、こんなにも出すつもりなかったのに。あ、止血、止血しないと。
お、吸ってる吸ってる俺の血を。罠とも知らずに。
あ、罠忘れた。血をあげただけだ。くそ、ズキズキする。
(再び蚊を叩き潰そうとする)
くそっ! くそっ! あー、かゆい、かゆい。ああ、ムヒ切れてるんだ。ムヒ買っておけばよかった。だから多めに。
(椅子を舞台中央に置き、椅子のそばにひざまずく)
あー、頼むよ。あ、ここ座って。あのさ、あのね、朝早いんだよ。寝とかなきゃダメなの。今ね、この時代ね、リストラされんの、へますると、それを理由に。だから、へまできないの。寝坊したりしちゃだめなの。分かる? 分かんない? じゃあじゃあね、吸いなさい。そこに用意したもの。吸っていいから、飛ばないで、音立てないで、この辺飛ばないで。
(土下座する)お願いします!
蚊に土下座……しかもここにいないもん! ずっと飛んでるもん。
見てろよ! 目には目を、蚊には蚊を。目には目を、蚊には蚊を?
そうだ、ゴジラにメカゴジラをぶつけたように、蚊には…………メカ蚊だ!
(サンダーバードのような警備隊っぽい音楽が流れ出す)
(ここからは入江が1人で何役もの役を担当するので、キャラクターごとにセリフの頭にキャラクター名をつけていきます)
博士「(ホワイトボードを指し示しながら)メ・カ・蚊とは? メカニックな蚊のことです。このメカ蚊に乗り込んで、敵の本拠地奥深くにいる女王を倒すんです。女王を倒さない限り、やつらはどんどんどんどん繁殖し続けます。やつらは、蟻や蜂の色々な虫の長所を取り込んで進化している。今倒さないと、我々人類は負けます。メカ蚊です! これしかありません!」
政府高官「メカ蚊ですって? 冷静な博士がどうしたんですか。そのメカ蚊? メカ蚊に誰かが乗り込んで? 蚊の本拠地って、どうやって飛ぶ? そんなね、メカ蚊なんてものがこの世にあったら、我々は苦労しませんよ!」
空軍隊長「その通りだ! 我々空軍でも歯が立たないやつらに、メカ蚊だと? あるもんならここに持ってきなさい!」
博士「持ってきています。これが(アタッシュケースを開けると中にアタッシュケースが。これを数回繰り返し、手のひらに小さなものを載せる)メカ蚊です」
政府高官「ん? ただの蚊じゃないか。 違う! キラーンとしてる。光に当たるとキラーンって」
空軍隊長「本当だ。キラーンとしてる。博士、これがメカ蚊ですか」
政府高官「これならやつの本拠地奥深くに潜入できる。やつらも気づかない。しかし、この小ささじゃとても人間は乗り込めません」
博士「逆転の発想ですよ。ちっちゃくしちゃえばいい。ギュッギュッて。では人間が小さくなるためにはどうしたらいい? いくつかの条件があります。(ホワイトボードに記入するふりをしながら)まずは身長、体重、性格、血液型、星座、エトセトラ、エトセトラ…………これらは関係ありません! 大事なのは3つ。自分は小さくなれると信じられる心。ど根性。薬。以上です!」
政府高官「なるほど。この条件に当てはまる人間、隊長の部隊の中にいませんか?」
空軍隊長「1人だけいます。あいつだ、山本だ」
(メカ蚊がドッグで点検を受けている)
ヤッさん「オーライオーライ、オーライオーライ、気ぃつけてな! ダウン、ダウン、慎重に! ゆっくり……ストップ! よーし」
(機会音を鳴らしながらメンテナンスをする)
ヤッさん「S2機関を搭載したぞ。これでこのメカ蚊は永久に飛ぶことが出来る。だが、S2機関はとても、とても危険だ。ものすごいエネルギーを秘めておるからな。扱いには注意せんとな。お、あそこにおるのはヒデキか? おいみんな! ひと休みだ! おいヒデキ! あがってこい!」
ヒデキ「(はしごを登り)ヤッさんどうだい? メカ蚊は」
ヤッさん「ああ、S2機関を搭載したぞ。これでやつらより速く飛ぶことが出来るぞ。見てみろ、ヒデキ。……ところでヒデキ、メカ蚊はいよいよ出撃するらしいが、メカ蚊のパイロットには誰が決まったんだ?」
ヒデキ「あぁ、ヤッさん、実は……実は、俺なんだ」
ヤッさん「お前さんが……メカ蚊はまだテスト飛行も済んどらん。いきなり出撃じゃ。よりによってお前さんが……わしはな、お前の親父さんから頼まれておるんだ、ヒデキをくれぐれも頼むってなぁ。ああ、わしが隊長に掛け合ってくる」
ヒデキ「待ってくれ、ヤッさん。誰かがやらないと、この戦いは終わらないんだ」
ヤッさん「(涙ぐむ)いつの間にそんなに大きくなりおった。お前の親父さんの若い頃を見てるようじゃな。うん! 分かった。お前が安心して乗り込めるように、このメカ蚊を仕上げておく。じゃあな! ……山本、安心しろ。お前の息子はもう一人前じゃ」
ヒデキ「(はしごを降りる)」
マリア「ヒデキさん! ヒデキさん!」
ヒデキ「ああ、マリア」
マリア「(ヘルメットを脱ぐとロングヘアが現れる)探したぞ、ヒデキ。チーフが呼んでるわ。一体あなたに何のようかしら?」
ヒデキ「ああ……マリア、あ、あのさ」
マリア「何? あ、そうそう、メカ蚊のパイロット一体誰になったのかしら? すぐ出撃らしいわよ」
ヒデキ「そのことなんだマリア。実は、あ、メカ蚊に乗り込むのは……俺なんだ」
マリア「(ヘルメットを落とし、ヘルメットが転がっていく)あなたが!? え、だって生きて帰れる保証はないんでしょ? ……何でそうやっていつも危険なこと、危険なこと。小っちゃいときからそうだ。危ないとこ、危ないとこ行って……私心配してるのに、知らんぷり。ヒデキ! じゃあ、1つだけ私と約束して。できる?」
ヒデキ「あ、ああ、できるよ。何だよマリア」
マリア「あなたは……必ず生きて帰ってくるの。約束できる?」
ヒデキ「できる。俺は必ず生きて帰ってくる」
マリア「それからもう1つ。帰ってきたら、2人で子供の頃遊んでいた公園に行きましょ。あそこであたしとボートに乗るの。いい?」
ヒデキ「何だよ、お前とかよ。まあ、いいだろ」
マリア「(ペンダントをはずす)これ……このペンダントあげる」
ヒデキ「だってこれお前がずっと大事にしてたペンダントだろ?」
マリア「お守り代わりにして」
ヒデキ「しょうがねえな、もらってやらぁ」
マリア「じゃあ、私行くわ」
ヒデキ「待って! マリア! 俺さ、あの……子供の時からずっと1つだけ決めてることがあるんだ。それはな、マリア……俺は……俺は大きくなったら……マリア、お前を」
マリア「私を?」
ヒデキ「お前を!」
マリア「私を?」
ヒデキ「お前を!!」
マリア「私を?」
ヒデキ「お前を!!! ……いい、なんでもないよ」
マリア「(小さい声で)いくじなし。じゃあ、私行くわ」
ヒデキ「マリア! 待って! マリア、俺は……」
(2人抱き合う)
チーフ「よし! いよいよメカ蚊作戦発動だ。メカ蚊のパイロットは山本ヒデキ隊員だ。我々は全力をあげて山本をバックアップする。いいな! 山本……俺は今日までお前のことを厳しくしごいてきたな。だがな、山本、ダメだと思ったら無理するな。帰って来い。いいな! 山本、俺はな、△#※$……(涙が混じって何を言ってるのかさっぱり分からない)」
ヤッさん「すいません」
ヒデキ「あ、ああ、ヤッさん」
ヤッさん「あのな、お前の親父さんからずっと預かっていたものじゃ。お前さんが一人前になったときに渡してくれってな。お前さんはもう一人前じゃ。きっと何か困ったことがあったら助けてくれるだろう。持ってけ!」
ヒデキ「ありがとう、ヤッさん。壷のようなものを。(マリアを見て)マリア……(ペンダントを握り締め)ありがとう」
マリア「約束忘れないでね」
ヒデキ「当たり前だろ! (向きを直して)それでは山本ヒデキ、出撃します!」
チーフ「全員配置につけ! 山本、ミクロ!」
ヒデキ「ミクロ!(何かを飲み、体が小さくなっていく)」
チーフ「(メカ蚊を手に持つ)山本がメカ蚊に乗り込んだ。頼むぞ、お前たちで山本を敵の本拠地まで連れていくんだ」
パイロット「ハイ!(息でメカ蚊を吹き飛ばす)」
チーフ「大事に扱え!」
パイロット「アイアンイーグル出撃! …………こちらアイアンイーグル、敵の本拠地上空に到達しました。これよりメカ蚊をあの中にそこはかとなくばら撒きます。(小声で)山本隊員、お気をつけて」
ヒデキ「メカ蚊、発進!」
(ステージ後方に6台のスポットライトが下りてきて、一斉に光を放つ)
ヒデキ「綺麗な夕日だ。博士の言った通り、やつらはこの時間になると巣に帰っていく。このまま一気に女王の所へ! あ! 夕日がキラーンとして、メカ蚊が光ってる。あ、やつらが気づいてる。ホォォォォって何かささやいてる。こうなったら強行突破だ! どけどけどけ!(銃を連発する)このメカ蚊のスピードにはついてこれまい! ……あれが隊長の言っていた女王の護衛部隊ソルジャーか。面白い、相手になってやるぜ。……なんてスピードだ。やばい! 急速反転! 後ろにつけたぞ。攻撃目標ロックオン! だめだ! ロックオンできない! くそぉ、どうすればいいんだ。このままじゃ女王を倒すどころか、俺が……ハッ、何だこれ? あ、これはヤッさんがくれた壷のようなもの。開けてみるか。カシッ、シュー。何かが映っている。何だこれは? 古い映画か?」
ヒデキの父親「ヒデキ、多分お前がこれを見ているとき、父さんはいない。いいか、ヒデキ、男ってやつはなぁ、何だって心の目で見るんだ。いいか、ヒデキ、男ってやつはこォウコォウ……(テープが伸びたような音声に変わる)」
ヒデキ「親父! ありがとう……ありがとう……心の目か! (目を閉じる)見える。見えるそ。くらえ!(銃を撃つ)よーし、ソルジャーを倒したぞ。あとは女王だ。…………でかい! あれが女王か。あ、こっちに向かって来る。よし、それならこっちも突っ込んで、振り向いざまにミサイルをお見舞いしてやる! くらえ!(ミサイル発射) まだまだ!(ミサイル発射)」
電子音「右翼破損、右翼破損」
ヒデキ「くそっ、衝撃波で右翼が……」
電子音「エネルギーレベルダウン、エネルギーレベルダウン」
ヒデキ「もうちょっとだ……だめだ! ミサイルがなくなった。どうすればいいんだ。こんなチャンスは2度と来ないぞ。もうすぐでとどめをさせるのに。……1つだけ方法がある。S2機関を搭載したメカ蚊なら……本部! 聞こえますか? そこにマリアはいますか?」
マリア「いるわ。ヒデキ。何?」
ヒデキ「マリア、俺はこれからやつに突っ込む」
マリア「何言ってるの、ヒデキ!」
ヒデキ「ミサイルが、ミサイルがなくなったんだ。S2機関を搭載したメカ蚊ごと突っ込めば、いくらやつでも木っ端微塵だ!」
マリア「あなたは……あなたはどうなるの?」
ヒデキ「ごめんな、マリア」
マリア「約束したじゃない! あなた、私と約束したじゃない! 必ず生きて帰るって約束したじゃない! ヒデキ! ねぇ! 聞こえてる? ヒデキ! ヒデキ!」
ヒデキ「(通信を切る)ごめんな、マリア。ペンダント、ありがとう。メカ蚊、最後までもってくれよ。補助エンジン起動。行くぞぉ! マリアァーーーーーーーー!」
(ひときわライトが明るく光り消える。衝撃音と共に前方に投げ出され、うつむきになったまま動かない。静寂が辺りをつつみ、しばらくしてゆっくりと起き上がる)
……ふざけてる間にすごい刺されてる。
(暗転)

これぞまさしく男子中学生が思いついたことをそのままやっていると言えるようなやつです。
上の文章では括弧で書かれているものは、音や光を除いて、ほとんど入江さんがマイムでやっていました。特にマリアとのやり取りは、あまりにベタ過ぎて笑いがこみ上げてきました。
こういう作品こそ、入江さんの真骨頂なのかもしれません。


カーテンコール
ありがとうございました。
えー、あのぉ、まあ、あのW1(ワンダーワン)劇場というのは今回でひとまず区切りをつけて、次回から何か新しいことができていけるといいなぁと今考えてます。
まあ、時間が経っていくと考えも変わりますけど。もしよかったら僕が何かやってる時に遊びに来てください。
(ゲスト紹介とBGMでかかっているザ・スランプのボーカル、ジョー・ストラマーを紹介)
今回はどうもありがとうございました。

分かりやすくてくだらなくて ★★★☆☆


− 公演データ −

入江雅人W1劇場
「爆走CLASH17 −吠えよストラマー−」

2003/04/10〜2003/04/13@紀伊国屋ホール
全席指定 前売4000円 当日4500円

- STAFF -
作・演出:入江雅人、白崎和彦
舞台監督:江端ありか 照明:松村光子 音響:眞澤則子
演出助手:村西恵 舞台監督助手:田中里美、倉本徹
照明操作:佐藤公穂、岡森万希 音響操作:別所ちふゆ
メイク:立野貴子 衣装:大塚勇造 スライド製作:坂本陽子
宣伝美術:釆澤聰 宣伝写真:桜井隆幸 宣伝:米田律子
製作:矢田部美由紀、中村真由美
デスク:菊池里江、市川理恵 プロデューサー:北牧裕幸、高橋典子
公演:TBSラジオ 企画制作:(株)キューブ

- CAST -
入江雅人

- GUEST -
04/10 古田新太
04/11 大倉孝二【NYLON 1OO℃】
04/12昼 峯村リエ【NYLON 1OO℃】/ピアニカ前田
04/12夜 生瀬勝久
04/13昼 清水宏
04/13夜 ピアニカ前田/村上ゆり
 

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